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【新着記事】2024.5.7 分子栄養学の基礎用語「血糖値」、「糖質」、「GI値」、「GL値」って何ですか?

スポーツ栄養学

エネルギーをつくるための必須栄養素「マグネシウム、ビタミンB群、CoQ10、鉄」

今回のポイント:酸素があるとき、マグネシウム、ビタミンB群、α-リポ酸、CoQ10、鉄、酸素を運ぶ赤血球がエネルギー産生のキーとなる

夏かぜが流行ってしまった今年の夏。残暑で疲れている自分の身体を守るためには、適切な免疫に働き続けてもらう必要があり、(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)そのためには免疫が働くためのエネルギーが必要です。

酸素があるとき、効率的なエネルギー(ATP)産生がひとつひとつの細胞とその中にあるエネルギー工場「ミトコンドリア」でせっせと行われます。解糖系ではマグネシウム、ナイアシン、クエン酸回路ではビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、α-リポ酸、パントテン酸、電子伝達系では CoQ10、鉄の栄養素の力を借り、この3つの代謝経路で1分子のグルコースからたくさんのATP(合計最大38個)が効率よく産生されます。

今回は、生きていくために必須のエネルギーがどのように作られているか、そしてエネルギー作りのどこにどんな栄養素が関わっているかのお話です。エネルギーを作ることをエネルギー産生といいます。エネルギー産生に必要な栄養素をしっかり学び、素敵な秋の実りを楽しめる身体づくりを一緒に目指しましょう。

エネルギー産生は細胞の中で行われる

エネルギー産生は各細胞(※分子栄養学とは①)の中で行われ、そこで得られたATPによって細胞の活動が行われます。ATP作り(ATP産生)は、私たちの身体、細胞を支える最も重要な分子レベル(※分子栄養学とは②※分子栄養学とは③)の基礎となります。

エネルギーの乾電池、ATP

私たちは毎日食事をします。「何のため?」・・そうです、日々入れ替わる身体の新しい材料やエネルギーを確保するためです。エネルギーは、起きて食事をする、考える、動く、分子レベルで身体を新しく作り替える、あらゆる活動に使われています。エネルギーなくしては、私たちの生存はありえません。

このエネルギーの代表が、ATP(アデノシン三リン酸、adenosine triphosphate)と呼ばれる乾電池のような分子(※分子栄養学とは②※分子栄養学とは③)です。私たちは、この中に貯めこんだエネルギーを使って生き、活動しています。

ATPは3つのエネルギー代謝経路で作られる

私たちが生命を維持するための「エネルギー」を作り出すことをエネルギー代謝といいます(※分子栄養学とは⑤)。そのエネルギー代謝は「解糖系」「クエン酸回路」「電子伝達系」という連続する3つの代謝経路(※分子栄養学とは⑤)で構成されます。食べものの中のエネルギー産生栄養素(3大栄養素。糖質、脂質、タンパク質)(※5大栄養素(概論))は、これらの経路を通ってATPに変換されていきます。

これらの経路は、補酵素・補因子となる栄養素(※分子栄養学とは⑦-3)とともにたくさんの種類の酵素(※分子栄養学とは⑦-1※分子栄養学とは⑦-2)に支えられています。エネルギー代謝経路の全体としては、下の図のような関係になっています。



次に、それぞれの経路でどんな栄養素が関わっているのかを見ていきます。これらの経路は、補酵素・補因子となる栄養素(※分子栄養学とは⑦-3)とともにたくさんの種類の酵素(※分子栄養学とは⑦-1※分子栄養学とは⑦-2)に支えられています。

①解糖系(glycolytic pathway):マグネシウム、ナイアシン

グルコース(ブドウ糖)が代謝されて2分子のピルビン酸となり、次のクエン酸回路に入るための経路です。

グルコースは、食べた糖質が消化された一番小さな単位分子のことです(※栄養アプローチに欠かせない!最初のステップ「消化と吸収」)。タンパク質の一部(糖原性アミノ酸)はビタミンB6の力を借りてグルコースになることもできます(糖新生)。

解糖系は、酸素を使わない経路です。1分子(※分子栄養学とは②※分子栄養学とは③)のグルコースから10種類の酵素の力を借り、2つのATPが作られます。この経路で活躍するのが、マグネシウム(ホスホフルクトキナーゼ、ピルビン酸キナーゼの補因子など)、ナイアシン(NAD※1)です。激しい運動などで酸素が足りなくなった時や、ミトコンドリアをもたない赤血球では、この代謝経路がメインとなってATPを作り出します。(※スポーツの秋にも!エネルギーのための必須栄養素「解糖系と乳酸とナイアシン」)

②クエン酸回路(citric acid cycle)ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、α-リポ酸、パントテン酸

ピルビン酸が最後の経路「電子伝達系」に行くために通るのがクエン酸回路です。「ミトコンドリア」というエネルギー工場の中で行われます。クエン酸回路は、イメージ的にはぐるぐる回る観覧車のようなコースです。クエン酸回路はTCA回路(トリカルボン酸回路)、クレブス回路とも呼ばれます。クエン酸回路は、酸素があるときにのみ使われる回路です。

解糖系でできた代謝産物(ピルビン酸)はミトコンドリアに入った後、まず最初に違う物質(アセチルCoA)に代謝されます。ここで必要となるのが、3つの酵素と5つの補酵素でできた複合体(PDH complex(PDC):ピルビン酸脱水素酵素(ピルビン酸デヒドロゲナーゼ)複合体)です。この5つの補酵素として関わる栄養素が、ビタミンB1(TPP※1)、ビタミンB2(FAD※1)、ナイアシン(NAD※1)、α-リポ酸パントテン酸(CoA-SH※1)です※2。これら5つの栄養素に支えられることで、やっと次のぐるぐるコース(クエン酸回路)に入ることができます。

アセチルCoAがクエン酸回路に入るときに1種類、入った後は8種類の酵素が反応に関わり、反応が進みます。アセチルCoAは脂質(脂肪酸)(※栄養アプローチに欠かせない!最初のステップ「消化と吸収0」)、タンパク質(アミノ酸)(※必ず摂る必要がある必須栄養素「タンパク質」)からも作られます。ここでは栄養素としてビタミンB2(FAD※1)とナイアシン(NAD※1)が必要です。FADとNADは、ここで水素を受け取ります。そしてクエン酸回路では2つのATPが合成されます※5

③電子伝達系:CoQ10、鉄

 解糖系でできたNADH(NADが水素(H)を受け取ったもの)、クエン酸回路で作られたFADH2(FADが水素(H)を受け取ったもの)とNADHを使ってたくさんのATPを効率的に作ります。電子伝達系は、酸素があるときにのみ使われる経路です。

ここで活躍する栄養素が、CoQ10(チトクロームcの構成要素)です。私たちが呼吸で吸っている酸素はここで使われます。呼吸が止まると生きていけないのは、ATPを作れなくなってしまうからです。電子伝達系では、最大34個のATPが作られます※6

まとめ:エネルギーを作る栄養素:赤血球の栄養素も一緒に

エネルギーを作るには、さまざまな栄養素が関わります。ビタミンB群(B1、B2、ナイアシン、パントテン酸、B6)、マグネシウム、CoQ10、鉄。そして酵素はタンパク質でできています。この中のどの栄養素が欠けても効率的なエネルギー作りは滞ってしまいます。さらに、電子伝達系で用いる酸素を赤血球が届けるため、健全な赤血球の栄養素(鉄、亜鉛、ビタミンA、ビタミンB群(B6、B12、葉酸)など)も必要です。酸素が足りないだけでエネルギー作りが滞ることから、貧血(※血液・尿検査の意義④)、潜在性鉄欠乏症を治すことは重要な要素です(※貧血:赤血球・ヘモグロビン不足はATP・エネルギー産生不足を招く重大問題)。ビタミンB群は水溶性のため、毎日適量を摂ることが必要です。

CoQ10は加齢とともに体内で作られる量が減る

CoQ10は体内で合成されますが、加齢によってその合成量が減ってしまうことが報告されています※3、※4

分子栄養学(※分子栄養学とは①※分子栄養学の歴史①)では、分子栄養学実践のための良質なサプリメント(※分子栄養学の歴史④「分子栄養学実践に求められるサプリメントの品質その1」※分子栄養学の歴史⑤「分子栄養学実践に求められるサプリメントの品質その2」)も活用しながら、個体差(※分子栄養学とは⑥)に合った至適量の栄養素で効率的にエネルギーを作り、毎日を健康に楽しむ身体づくりを目指します。

エネルギーを作る栄養素を多く含む食品



※1 補酵素型を示しています。

※2 大塚譲,他.『新スタンダード栄養・食物シリーズ2 生化学』.東京化学同人.p95.(2014)

※3 菅野直之.「ミニレビュー コエンザイム Q10」.日歯周誌, 59(2):63-67.(2017)

※4 Kalén A.,et al. Age-related changes in the lipid compositions of rat and human tissues. Lipids ,24:579-584.(1989)

※5 最初にGTPが産生され、その後ATPに変換されます。:三上貴浩.『コアカリ準拠 Dr.ミカミの動画で学ぶ基礎医学-生命科学編』.医学書院.p221-222. (2021)

※6 三上貴浩.『コアカリ準拠 Dr.ミカミの動画で学ぶ基礎医学-生命科学編』.医学書院.p221-226. (2021)

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