分子栄養学の歴史⑤「分子栄養学実践に求められるサプリメントの品質その2」
分子栄養学(※分子栄養学とは①、分子栄養学の歴史①)では、身体の中で本来、問題なく働いているはずの分子(栄養素)がバランスを崩すことによって起きる状態が病気であり、細胞機能が最高の状態で行われるような至適量の栄養素をしっかり補給することによって分子が正常なバランスに戻れば、あるいは分子のバランスが保たれていれば病態はおのずと回復するのではないか、と考えます。それが、ライナス・ポーリング博士(※分子栄養学の歴史①、分子栄養学の歴史②)の考え方です。
なぜこの新しい医学のパラダイム、分子栄養学が登場してきたのか、その歴史を5回シリーズで紐解いています(※分子栄養学の歴史①、分子栄養学の歴史②、分子栄養学の歴史③)。そして前回(※分子栄養学の歴史④)から2回にわたって、「分子栄養学実践に求められるサプリメントの品質」についてお届けしています。今回は、「分子栄養学実践に求められるサプリメントの品質」の具体的なポイントについてお送りします。
安全性に十分配慮したダイエタリーサプリメントとは
KYBグループでは、そのポーリング博士の理論を正確に理解し、あくまでも、分子栄養学の理論に則った真の病態改善のために、安全性に十分配慮したダイエタリーサプリメント(栄養補助食品。以下サプリメントと記します)とともに忠実に歴史を重ねています。そしてそこに求められるサプリメントは、ポーリング博士の提唱した分子栄養学の考え方を実践するのに使える “ツール” としてのサプリメントです。
それでは、どのようなサプリメントが求められるのでしょうか。
KYBグループでは、分子栄養学実践のためのサプリメントには、ポーリング博士の考えを基本にした以下の要点が最低限必要であると考えています。①入っている栄養素の質と量が消化・吸収を含めて生体内に確実に届くこと、②クルードであること、③プレカーサーで摂ること、④生体に悪影響を及ぼす添加物などが入っていないことの4点です。今回の歴史シリーズを締めくくる最終回として、その4点について1つずつ考えてみたいと思います。
①入っている栄養素の質と量が消化・吸収を含めて生体内に確実に届くこと
分子栄養学を実践するためには、まず摂った栄養素が確実に生体内へ取り込まれる必要があります。摂取した栄養素による病態改善につなげるためには、製造過程でどのくらいの量を配合したかではなく、少なくともそのサプリメントを摂取した時点で十分な量が生体内に取り込まれることが必須の要件です。そのためには、保管中に製品の中で成分が変化しないこと、口から摂ったものがうまく消化・吸収され、さらに生体内できちんと働けるということが重要です。
分子栄養学が追究してきたのは、摂取する栄養素は「基本的には天然物由来でなければならない」という考え方です。天然物は、体内に取り込まれて消化吸収されると、今度はレセプターやトランスポーター、酵素(※分子栄養学とは⑦-1、分子栄養学とは⑦-2、分子栄養学とは⑦-3)といったさまざまなタンパク質と生体内で結合します。サプリメントで摂取する際も、そのようなタンパク質と結合できる状態で栄養素を摂取する必要があります。そうなると、摂取する栄養素は、もともと生体内にあるのと同じ分子のかたち(分子構造)をしていなくてはならないということになります。そうだとするならば、天然物由来と同じかたちである必要があります。これが大切な第一点です。分子栄養学における栄養療法では、病態改善を目指すアプローチだからこそ、従来の栄養学とは異なった、個体差や症状の有無による違いを考慮した、至適量の栄養素を生体内に届けることがまず必要です。
②クルードであること
もう一つは、クルード(精製されていない、そのままの状態)であるという点です。クルードに相対する言葉は、ピュリファイ(精製・純粋化する)です。ある物質が良いということになると、それだけを純粋化してサプリメントを造ることがありますが、それでは不十分です。例外もありますが、生体の自然治癒力が自然と引き出されていく、生体の潜在能力が自然と最高の状態で発揮されていくことを目指し、生体内の代謝を妨げない天然物の栄養素の状態、バランスになるべく近づけたクルードの状態でサプリメントを製造することが重要であると考えています。
③プレカーサーで摂ること
さらに、もう一つ。栄養素が体内で働くときには複雑な代謝(※分子栄養学とは⑤)が行われます。そして、いわゆる活性化という状態を身体がつくって、栄養素が働きます。その生体内のもつ巧妙かつ神秘とも呼べる働きや仕組みを最大限に尊重することが、分子栄養学のサプリメントを考える上での神髄のひとつです。たとえば、ビタミンAを天然物由来で摂ると、レチノールという形で摂ることになります。これを前駆体(プレカーサー)といいます。かなり複雑なメカニズムですが、レチノールは必要に応じて生体内でレチノイン酸という最終的な代謝活性をもつ物質に変わっていき、変わった形であるレチノイン酸が遺伝子に働いて実効を上げていきます。プレカーサーの形で摂ることで、あとは生体の必要性に任せる、というのが分子栄養学の考え方です。生体に害を及ぼさず、生体の自然治癒力を最大限に引き出していくために、ある栄養素については、必ずプレカーサーという形で摂ることを大切にしています。
④人に害を与える添加物が入っていない
サプリメントとして栄養素を摂取したものが身体を構成する材料となる、ということは、それが安心・安全な原材料でできていることが必須です。自分自身の健康のために栄養素を摂取したとしても、そこに安心・安全でない物質が入っていたとしたら、生体はそれらをまず解毒しなければなりません。せっかく病態改善のために摂取したにも関わらず、解毒という本来の目的とは違うところに栄養素とエネルギーを割かなければいけなかったり、生体にとって悪影響を及ぼすという事態になってしまったら、栄養素を摂取する意味がなくなってしまいます。添加物が人体に悪影響を及ぼさないものであることは最低限の要件です。
病態改善を目指す栄養アプローチのために
長期間に渡って摂取することが生体にとって良い影響を及ぼすサプリメントの要件は、まだまだ存在します。特に栄養素の組み合わせと量の問題は複雑ですが、栄養アプローチがひとつの治療手段として確立するためにとても重要なことです。分子栄養学における栄養療法は、生体における治療効果をもたらすため、食生活、睡眠、運動、ストレスケアを含めた規則正しいライフスタイルの確立とともに、至適量の栄養素を摂取・吸収することが何よりも重要であると考えています。病態改善を目指すアプローチだからこそ、胃腸の状態を整えた上で、従来の栄養学とは異なった個体差や症状の有無による違いを考慮した至適量の栄養素の摂取が必要です。大変なことですが、そのためにポーリング博士が提案したのが、一人ひとりがよく勉強して医師とともに身体の仕組みを知り、自分自身に必要な栄養素の種類や量をしっかりと理解することです(※分子栄養学の歴史②、※自分自身の身体を知ろう:Know Your Bodyがなぜ大切か)。
まとめ
分子栄養学は、いわゆるメガビタミン、メガドーズとは一線を画した理論で構成されています。血液検査データなどの適切な検査を駆使したオプティマム・ドーズ(至適量)を目指すまったく新しい科学的な概念です。その手法、理論確立の裏には、さまざまな先駆者による知識と知恵、発想と発明、そして努力、一人ひとりの人生、物語が隠されています。「orthomolecular(オーソモレキュラー、分子整合)」という言葉が誕生して55年。日本で分子栄養学という新しいパラダイムが導入されて2024年で40年が経とうとしています(※分子栄養学の歴史③)。
創始者のひとりであるエイブラム・ホッファー博士(※分子栄養学の歴史②)は、読書中に気づいたことがあると述べています。それは、医学の分野で何か新しい発見があると、それが受け入れられるようになるまでに40年かかるのではないかということです。そして、ヒュー・リオールダン博士はさらにその言葉を受け、新しい方法論が実際に普及するまでにはさらに長い時間を要するのが常であるということを著書の中で述べています。
健康管理に対するパラダイム・シフト。分子栄養学を学び続け実践する、医師、歯科医師、医療従事者、そして医療従事者ではない一般の方々、医療機関の数もますます増え続けています。「今の自分、未来の自分」にとって何が必要か。ぜひ医師と一緒に分子栄養学を勉強し、科学的な方法による健康自主管理を実践し、自分にとっての理想の未来をともに創造していきましょう。