The Orthomolecular Times

2024.11.05 分子栄養学の食事「亜鉛を多く含む食品」

栄養素のお話(基本編)

エンジオール基が世界を救う「ビタミンCの底力」

ビタミンCは、命を守る基本の水溶性の栄養素です(※子供の栄養「ビタミンCで、ストレスから子供を守ろう!」)。簡単な化合物のように見えますが、経口摂取による壊血病などの予防だけでなく、丈夫なコラーゲン、免疫機能の向上、がんの予防と進行抑制、生活習慣病の予防・改善などの効果が期待されています。ビタミンCの生理的な働きは、大きく分けて抗酸化と水酸化酵素の補酵素の2つが示されています。

1753年、抗壊血病因子として、J.Lindによって発見された古い歴史をもつビタミンCですが、近年益々注目を浴びる栄養素として、今回は最新を含めた基本情報をお伝えします。

エンジオール基は世界を救う:ビタミンCは人類を救う抗酸化物質

「エンジオール(enediol)基は世界を救う」
ビタミンCの作用に興味をもち、新しいビタミンCの時代を提案したライナス・ポーリング博士※1の言葉です。エンジオール基というのは、ビタミンCの構造 のひとつです。γ-ラクトン環という構造の下の方、炭素の2重結合にくっついた2つの水酸基(-OH)の部分で、ビタミンCの強い抗酸化力の秘密がここにあります。「エン en」は二重結合、「ジ di」は2つ、「オール ol」は水酸基(-OH 、ヒドロキシ基)を表します。

“Beyond Deficiency”

分子栄養学的ビタミンC療法は、欠乏症(Deficiency)の改善効果を超越(Beyond)した、ライナス・ポーリング博士が唱え続けた健康自主管理、KYB運動(※自分自身の身体を知ろう:Know Your Bodyがなぜ大切か)の原点です。

ビタミンCの強力な抗酸化作用

ビタミンCの大きな仕事の1つは、抗酸化作用です。酸化した物質をもとに戻すことを還元といい、酸化を防ぐことを抗酸化といいます。ここでは、物質についている水酸基(ヒドロキシ基、-OH)の水素が取れると「酸化」、水素を必要としている物質が水素をもらうと「還元」、という風に考えて説明します※2。ポーリング博士は、物理・化学者の立場から、生体内に障害が生じる原因の多くはフリーラジカル※3であると考え、それが細胞障害を進めてしまう、と考えました。

そこで活躍するのがビタミンCのエンジオール基です。ビタミンCのエンジオール基に2つある水酸基(-OH)は、炭素の二重結合にくっついているため、簡単に水素を離して、ラジカルに水素をあげることができます。ラジカルは、ビタミンCから水素をもらうことにより、安定した物質におさまります。そして、水素を離してしまったビタミンCはラジカルとなりますが、ヒトに悪さをしません。これが良質で強力な抗酸化物質の代表と呼ばれる理由です。ポーリング博士は、フリーラジカルスカベンジャーとしてビタミンCをはじめとする抗酸化栄養素の必要性を提唱し、ビタミンCと風邪、ビタミンCとがんなど、多くの分子栄養学的ビタミンC療法を提唱しています。

ほとんどの動物はできるが、ヒトはビタミンCを合成できない

ほとんどの動物は生体内でブドウ糖を原料にビタミンCを自分で合成できますが、残念なことに、ヒトは体内で合成できません。そのため、ヒトは常に慢性的なビタミンC不足で、ビタミンCは毎日摂ることが必須の栄養素です。分子栄養学の分野においては、獣医さんたちが研究をし、自分でビタミンCを作れる可愛いペットたちの分野でも、より健康に長生きするためにビタミンCが有効なのではないかといわれ始めています。

体内のビタミンC分布

私たちの身体のあらゆる細胞がビタミンCを必要としていますが、たくさんのビタミンCが存在している組織は、ビタミンCをそれだけ必要としている組織である、と解釈することができます。ビタミンCを多く含む組織として代表的なのが、眼のレンズである水晶体、脳、脳下垂体、副腎、白血球などです※4

ビタミンCが足りないとこんな症状に・・

シワ・しみ・そばかすができやすい、毛細血管が破れやすい、生活習慣病の合併症を招きやすい、感染症(風邪など)にかかりやすい、ストレスに弱くなる。いずれもビタミンCが不足することで起こりやすいと考えています。

皮膚や血管を美しく健康に保つ:丈夫でしなやかなコラーゲンにビタミンC

私たちの身体の構造を維持するタンパク質、コラーゲン。美肌、血管、骨、歯ぐきなど全身がコラーゲンで支えられています。ビタミンC欠乏でコラーゲンが作れなくなった結果、血管がもろくなり、出血し始めると止まらなくなります。これが壊血病の病因です。皮膚の下にはコラーゲンたっぷりの皮下組織が存在して、丈夫なクッション、弾力の役割をしてくれています。丈夫なコラーゲンができないとシワの原因ともなり得ます。同じように、毛細血管(とても細い血管)の壁、歯ぐきも、コラーゲンが丈夫でしなやかに守ってくれています。また、ビタミンCは、太陽光による紫外線によって発生した活性酸素を除去し、シミ・そばかすから守ります。

コラーゲンは、3本のタンパク質がより合わさってコラーゲン三重らせん構造という丈夫な構造をつくります。そのために、補因子、補酵素(※分子栄養学とは⑦-3)として鉄やビタミンCが必要です。

ビタミンCは命を保つ栄養素:がんの予防と進行抑制、生活習慣病の予防・改善

分子栄養学(※分子栄養学とは①)では、高用量のビタミンCを静脈から直接点滴して血管などのコラーゲンを丈夫にすることで、がんの血行性転移※5を防ぐことも考えます。高用量ビタミンC点滴は、経口摂取では到達できない血中における薬理学的アスコルビン酸濃度を目指し、敗血症や火傷、美容、がん患者さんのQOLを高めることなどにも用いられています。

血管の内側は、血管内皮細胞という一層の細胞で覆われています。その血管内皮細胞の細胞膜が酸化されてしまうことがきっかけを作り、それが動脈硬化、さまざまな生活習慣病につながることが考えられています。そのため、分子栄養学では、生活習慣病の予防・改善にビタミンCをはじめとする抗酸化物質を至適量(※ビタミン(総論))摂取することを重要なアプローチとしています。

免疫と炎症とビタミンC

免疫の主役、白血球。白血球は、血流に乗って常に全身をパトロールしています。そして悪者が入ってきたら、いち早くそれを感知して、そこに集まっていって闘ってくれます。このときに、ウイルスなどをやっつける手段として活性酸素がたくさん発生します。しかし敵をやっつけるために長くそこに留まっていたら、今度は周りの健全な細胞も次々と傷つけてしまいかねません。至適量のビタミンCを摂ることは、過剰な活性酸素の被害から身体を守る役割が考えられています※6。また、白血球はビタミンCが存在することでの免疫増強作用が示されています※7※8。風邪予防に個体差(※分子栄養学とは⑥)に沿った至適量の継続的なビタミンC補給をお勧めしています。

大学受験とビタミンCの必要量:ストレスで増加します

冬から春にかけては大学受験シーズン。大変だ、がんばっている、寒い、暑いなど精神的・身体的ストレスにより、ストレス対抗ホルモンである副腎皮質ホルモンやカテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリンなど)が作られます。その際、水酸化酵素の補酵素としてビタミンCが必要です。また、激しい精神的ストレスなどは、酸化ストレス※3のもとにもなります。大学受験、ストレス、風邪などの病気から身体を守るため、普段の分に増して、ビタミンCの必要十分な至適量を補いましょう。

一緒に摂ることで相乗効果:抗酸化ネットワーク

活性酸素を除去したビタミンCは、水素を失って抗酸化能力を失ってしまいますが、それを再生してくれるのが、αリポ酸、グルタチオンです。そして酸化されたαリポ酸、グルタチオンを還元してくれるのが、ナイアシンです。ビタミンEもビタミンCをリサイクルしてくれます。分子栄養学では、これらの栄養素を一緒に摂ることで抗酸化の相乗効果をねらいます。

骨格筋とビタミンC

健康に生活する上で欠かせない筋肉。ビタミンCが足りないことで、骨格筋が低下するが、ビタミンCを継続的に適量摂ることで回復するとの嬉しい報告があります※9

ビタミンCの血中濃度

知っているようでまだまだ知らないビタミンC。分子栄養学では、至適量のビタミンC補給によって血中濃度を保つことで、円滑な代謝、エンジオール基の力を十二分に発揮し、自分の健康を守ることを考えます。ビタミンCの血中濃度は2時間でピークを迎え、緩やかに低下します※10。このことから、分子栄養学では、医師とともに自分にとっての至適量をみつけ(※血液検査の意義① 血液検査の意義② 血液検査の意義③ 血液検査の意義④)、なるべく頻回に摂ることをお勧めしています。

※1 ライナス・ポーリング博士
分子栄養学の創始者のひとり、ライナス・C・ポーリング博士(1901~1994)は、20世紀でもっとも重要な科学者と呼ばれます。量子力学を化学に応用し、1954年ノーベル化学賞を受賞。現代化学の父と呼ばれます。

※2 酸化、還元(酸化還元反応)、酸化ストレス
酸化とは、正しくは①酸素と結合する反応、②水素が奪われる反応、③電子(e)が奪われる反応のことです。その逆を還元といいます。酸化反応は生体にとって必要ですが、起こりすぎると細胞を傷つけ、病気のもとになってしまうと考えられています(フリーラジカル説)。その対策として、身体の酸化を防ぎ、もともと還元する能力の高い抗酸化栄養素が十分にそばにあれば病気は起こらないのではないか、とポーリング博士はビタミンCをはじめとする抗酸化栄養素の必要性を考えました。酸化と還元(もとに戻すこと)のバランスが崩れ、酸化が進んでしまうことを酸化ストレスといいます。生体を酸化するものとして、フリーラジカル、活性酸素が挙げられます。

※3 フリーラジカル
物質から水素が抜き取られることを酸化といい、水素を失ってしまった側の物質をラジカル(フリーラジカル)といいます。ラジカルは、正確には不対電子をもつ分子や原子(※分子栄養学とは②)のことです。今回の記事では、電子ではなく、水素の授受にフォーカスしてお話ししています。不安定になったラジカルは、物質として非常に不安定なものになり、他の物質から水素を奪おうとしてしまいます。

※4
Hornig D. Distribution of ascorbic acid, metabolites and analogues in man and animals. Annals of the New York Academy of Sciences, 258:103-118.(1975)

※5 がんの血行性転移
がん細胞が転移する際、最初にがん細胞が発生したところ(原発巣)から血管に侵入し、血流に乗って全身に移動して、他の場所で再び増殖することをいいます。

※6
Halliwell B.,et al. Biologically significant scavenging of the myeloperoxidase-derived oxidant hypochlorous acid by ascorbic acid. Implications for antioxidant protection in the inflamed rheumatoid joint. FEBS Lett, 213(1):15-17.(1987)

※7
Carr A.C.,et al. Vitamin C and Immune Function. Nutrients, 9(11): 1211.(2017)

※8
村田晃、化学と生物、1983,21.pp145-147

※9
Takisawa S.,et al. Vitamin C Is Essential for the Maintenance of Skeletal Muscle Functions. Biology, 11(7):955.(2022)

※10
Padayatty S.J. ,et al. Vitamin C pharmacokinetics: implications for oral and intravenous use. Annals of Internal Medicine , 140(7): 533-537.(2004)

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