The Orthomolecular Times

2024.11.18 分子栄養学と運動「骨格筋が血糖値を下げる⁉ 運動効果と「GLUT4」の仕組みをわかりやすく解説」

スポーツ栄養学

スポーツにも!エネルギーのための分子栄養学的必須栄養素「解糖系と乳酸とナイアシン・マグネシウム」

<今回のポイント>
人が激しい運動を行うときや、赤血球が働くためのエネルギー(ATP)産生は、解糖系というエネルギー代謝経路から供給されます。
解糖系を支える栄養素としてはマグネシウム、ナイアシン、ビオチンが重要です。
今回は解糖系の仕組みと栄養素について、一緒に学んでいきましょう。

涼しくなってきたらスポーツの秋!スポーツをするにも、私たちが生きる上で必須のエネルギーは、ATP(アデノシン三リン酸、adenosine triphosphate)という乾電池のような分子(※分子栄養学とは②※分子栄養学とは③)に貯められます(※エネルギーをつくるための栄養素「マグネシウム、ビタミンB群、CoQ10、鉄」)。

激しい運動で酸素によるエネルギー供給が間に合わないときや、エネルギー工場「ミトコンドリア」をもたない赤血球では、解糖系というエネルギー代謝経路を使ってATPを供給します。解糖系で必要な栄養素は、マグネシウムナイアシンです。酸素を使わない解糖系では、乳酸を作って解糖系の反応を繰り返し、ATPを作ります。そして乳酸はまた酵素ナイアシン・マグネシウム・ビオチンの働きでエネルギー源に戻ります。分子栄養学では、ビタミンB群は一緒に摂ることをお勧めしていますが、今回は、特に解糖系における乳酸ナイアシン・マグネシウム・ビオチン酵素についてお届けします。

有酸素運動:酸素があるときはミトコンドリアがフル回転:最大38個のATPを産生

酸素があるとき、効率的なATP産生がひとつひとつの細胞の中にあるエネルギー工場「ミトコンドリア」でせっせと行われています。解糖系では {マグネシウム、ナイアシン}、クエン酸回路では {ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、α-リポ酸、パントテン酸}、電子伝達系では {CoQ10、鉄} の栄養素の力を借り、この一連の3つの代謝経路で、1分子のグルコース(ブドウ糖)からたくさんのATP(合計最大38個)が効率よく産生されます(※エネルギーをつくるための栄養素「マグネシウム、ビタミンB群、CoQ10、鉄」)。有酸素運動では、このエネルギーが利用されます。

クエン酸回路は酸素がないと止まってしまう

しかし、大量のATPを産生できるクエン酸回路と電子伝達系は、酸素が十分にあるときにだけ進むことのできるエネルギー代謝経路です。もともとクエン酸回路は酸素を使いませんが、酸素がなくなると止まってしまいます※1。そんなとき、ATP産生は解糖系を使ってエネルギーを作ります。

解糖系は酸素を使わないエネルギー代謝経路

解糖系は単独で、酸素がない、もしくは酸素が足りないときのエネルギー代謝経路としてATPを供給します。1分子(※分子栄養学とは②※分子栄養学とは③)のグルコース※2から10種類の酵素の力を借り、2個のATPが作られます。この経路で活躍する栄養素が、マグネシウム(ホスホフルクトキナーゼ、ピルビン酸キナーゼの補因子(※分子栄養学とは⑦-3)など)、ナイアシン(NAD※3)です。

解糖系では、酸素があるときはピルビン酸とATP、酸素がないときは乳酸とATPが最終産物として作られます。

解糖系のフル回転に大活躍:乳酸脱水素酵素(LDH)とナイアシン(NAD)

酸素が足りないとき、ピルビン酸はクエン酸回路に進まず、乳酸に変わります。この変換に乳酸脱水素酵素LDH:Lactate Dehydrogenase、以下LDH)、その補酵素としてナイアシン(NAD※3)が必要です。

筋肉のように活発に解糖系が進んでエネルギーを得る細胞では、酸素が足りないと乳酸が溜まります。溜まった乳酸は、血液に乗って肝臓まで運ばれ、肝臓でLDHナイアシン(NAD※3)の力を借りて再びピルビン酸になり、補酵素・補因子として働くビオチン※4、マグネシウム※5、ナイアシン(NAD※3※6の力を借りながら、複数の酵素によって最終的にグルコースに戻されます(糖新生)。そしてまたエネルギー源のグルコース(血糖)として血液に乗って身体の中を運ばれていきます。このグルコースと乳酸の体内循環をコリ(Cori)回路といいます。

解糖系にフル回転し続けてもらうために、栄養素としてLDHの補酵素、ナイアシン(NAD※3)、その他にもビオチンマグネシウムが必要です。LDHは、KYBグループの勧める詳細な血液検査の項目のひとつです。全身の細胞に存在しますが、特に肝臓・心臓・筋肉・赤血球に多く存在します(※血液・尿検査の意義②)。

激しい運動時にスピーディーにATPを賄う解糖系

激しい運動などでは、酸素を使って回すクエン酸回路・電子伝達系は反応経路が長く、時間がかかり過ぎるため、ATPの供給が間に合いません。そこで、筋肉ではATP-Cp系という経路も存在しますが、そのほか、解糖系がフル回転してATPを作り、エネルギーを供給します。解糖系のエネルギー供給の限界時間は、約33秒間とみなされています。

赤血球は酸素を使わずに解糖系で自分のATPを作る

効率的なATP産生(クエン酸回路と電子伝達系)に必要な酸素を運ぶトラックの役割をしてくれる赤血球赤血球の中にはミトコンドリアは存在しないため、自分が働くためのエネルギーは、酸素を使わずに解糖系をフル回転してATPを産生し、そのエネルギーを使って仕事をしています。赤血球にとって解糖系に関わるLDHマグネシウムナイアシン(NAD※3)は必須です。

まとめ:酸素を使わないエネルギー代謝はマグネシウムとナイアシンが必須

激しい運動で酸素によるエネルギー供給が間に合わないときや、ミトコンドリアをもたない赤血球では、解糖系というエネルギー代謝経路を使ってATPを得ます。解糖系で必要な栄養素は、マグネシウムナイアシン(NAD※3)です。酸素を使わない解糖系では、乳酸を作って解糖系の反応を繰り返し、ATPを作ります。そして乳酸はまた酵素(LDH)ナイアシン(NAD※3)、さらにほかの酵素とナイアシン(NAD※3、マグネシウム、ビオチンの助けを借りてエネルギー源に戻ります。

ATP産生のためにはマグネシウム、ビタミンB群、α-リポ酸、CoQ10、鉄を一緒に

酸素を使ったミトコンドリアでのエネルギーをつくるための栄養素(マグネシウム、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、α-リポ酸、パントテン酸CoQ10、鉄)※エネルギーをつくるための栄養素「マグネシウム、ビタミンB群、CoQ10、鉄」)とともに、乳酸ナイアシン(NAD※3)、マグネシウムビオチンの力で再びエネルギー源に戻すことは、疲労を防ぐ上で重要なことです。

分子栄養学(※分子栄養学とは①※分子栄養学の歴史①)では、ビタミンB群はオーケストラのようにお互いに協力し合って働くため、ナイアシンだけでなく、ビタミンB群(※ビタミン(総論))を一緒に摂取することをお勧めしています。食べたものや乳酸から無駄なくATPを獲得し、ぜひ至適量の栄養素(※分子栄養学の歴史①)で疲れ知らずの身体作りを目指しましょう。

エネルギーをつくる栄養素を多く含む食品

※1 三上貴浩.『コアカリ準拠 Dr.ミカミの動画で学ぶ基礎医学-生命科学編』.医学書院.p217. (2021)

※2 グルコースは、食べた糖質が消化された一番小さな単位分子のことです。タンパク質の一部(糖原性アミノ酸)はビタミンB6の力を借りてグルコースになることもできます(糖新生)。

※3 補酵素型を示しています。

※4 ピルビン酸カルボキシラーゼの補酵素です。

※5 エノラーゼの補因子として反応に必要です。

※6 グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼの補酵素です。

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