The Orthomolecular Times

2024.10.15 秋の分子栄養学的紫外線対策のススメ②「紫外線対策はビタミンD補給も一緒に」

栄養素のお話(基本編)

分子栄養学の栄養素:ビタミンB1 ①「ビタミンB1不足で病気に⁉」

糖質の多い食事では、ビタミンB群の重要性が増していることをご存じですか。

糖質に偏った食生活、アルコール多飲、下痢ではビタミンB1(チアミン)欠乏のリスクが高まります※1。今回は分子栄養学の重要な基礎栄養素ビタミンB群のひとつ、ビタミンB1の役割とその重要性を一緒に探究していきましょう。

ビタミンB群は糖質を脳と身体のエネルギーに変換するために必要不可欠な栄養素です。8種類のビタミンB群のうち1つが欠けてもエネルギー産生が低下するといわれます※2

ビタミンB1(チアミン)はエネルギー産生に必須の水溶性ビタミン

ビタミンB1はエネルギー代謝経路に必須の栄養素、ビタミンB群のひとつです。クエン酸回路の一部で補酵素として働き、電子伝達系での効率的なエネルギー作りに役立ちます※3。ビタミンB1は化学名をチアミン(thiamine)といいます。

ビタミンB1は水溶性ビタミンなので体内にたくさん貯蔵できません。余剰分は尿中に排泄されるため※3、※4、毎日必要な量を摂取する必要があります。

ビタミンB1を摂らない、もしくは必要量が増加すると欠乏症のリスクが高まる重要なビタミンです※3、※5

ビタミンB1不足でATPを作るエネルギー代謝経路の働きが低下

「ビタミンB1を摂らない、もしくは必要量が増加すると欠乏症のリスクが高まる」とはどんな状態を指すでしょう。

先ほども出てきた通り、ビタミンB1はエネルギー代謝経路に必要なビタミンB群のひとつです※3

ビタミンB1が足りないだけでクエン酸回路の効率が落ち、エネルギー産生が低下します※3、※6。(※ビタミンB群を知る④「ビタミンB群と健康なココロには深い関係がある」 )

エネルギー産生が低下するということは、作られるATPの量が減り、必要なところで使えるATPの量が減るということです。ビタミンB1欠乏の影響は、特に多くのエネルギーを必要とする脳や心臓により敏感に症状が出ると報告されています※3、※6

ビタミンB1の重度欠乏とは?特に脳・心臓に悪影響

それではここでビタミンB1欠乏によってどのような症状が出るかを詳しく見ていきます。ビタミンB1の重度欠乏では「脚気(かっけ)」と「ウェルニッケ脳症」という病気が有名です。

まずはビタミンB1発見のもととなった欠乏症、「脚気」についてです。脚気の症状としては、

  • 食欲不振
  • 全身の倦怠感
  • 手足のしびれ
  • 足のむくみ

などが出ます※7

また、重症になると心不全で亡くなることもあります。ビタミンB1欠乏が心不全を引き起こすメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、心筋のエネルギー不足が原因と考えられています※8、※9

次に、脳への影響についてです。同じくビタミンB1欠乏症のひとつである「ウェルニッケ脳症」では、次のような障害が出ます※1、※10

  • 眼球運動障害(眼のふるえなど眼球運動の異常)
  • 意識障害
  • 運動失調(歩行時のふらつき)

さらにウェルニッケ脳症が慢性化して進むと、後遺症の残るコルサコフ症候群となり、これらは合わせて「ウェルニッケ・コルサコフ症候群」と呼ばれます※10

ビタミンB1欠乏に注意するのはこんな時! 糖質のみの偏食、下痢にも要注意

いつでもどこでも選んで食べられる時代。脚気なんて、食べものが少なかった時代のお話ではないか、そんなことを思う方もいるでしょう。

しかし脚気は現代でもこんな時に起こる可能性が報告されています。

  • 偏食(白米のみなど、ビタミンB1が少なく糖質の多い食生活)※11
  • アルコール多飲※11、※12
  • 胃切除術後※1、※11、※13、※14
  • 利尿剤の使用※15

また乳幼児ではイオン飲料水の多飲(誤った使用方法)によるビタミンB1欠乏症も報告されています※4、※16

次にウェルニッケ脳症の原因を見ていきましょう。

  • アルコール依存症※1
  • 偏食(白米のみなど、ビタミンB1が少なく糖質の多い食生活)※1
  • がん※1
  • 消化管手術後※1
  • 繰り返す嘔吐(頭痛、神経性食欲不振症など)※1
  • 妊娠悪阻(妊娠時のつわりが重症化し、治療が必要となった病状)※17
  • 血液透析※1、※18
  • 吸収不良(慢性下痢、消化性潰瘍、クローン病など)※1

などが挙げられています。

ここまででビタミンB群のうち、ビタミンB1が不足することで起こる症状や病気、ビタミンB1(チアミン)欠乏症について見てきました。8種類のビタミンB群のうち、1つの栄養素が欠乏するだけで恐ろしい病気になる可能性があります。

ビタミンB1の必要量は、妊娠期や授乳期、発熱※1、※6などでも増加します※3。また、欠乏症まで至らなくても、潜在的にビタミンB1が不足している人々が存在し、その対策が必要であるという意見もあります※4

分子栄養学では、8種類すべてのビタミンB群を一緒に摂取することを推奨しています。これは、ビタミンB群(ビタミンB1、B2、B6、B12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン)のどれか1つが欠けるとエネルギー産生が滞る可能性が示唆されているためです※2

お心当たりの方もそうでない方も、常日頃から8種類のビタミンB群全体を意識して摂取していきましょう。

ビタミンB群の名称の由来

ではここで気分を変え、ビタミンB1はなぜビタミンB1という名前なのか、その名称の由来について少し歴史を探訪しましょう。

ビタミンB群のそれぞれの名前には、B1、B2、B6のように「B」の後に数字がついています。皆さんはこの数字が何を表すのか、考えたことはありますか?

実はその数字の秘密は、それぞれが発見された歴史の中にあります。

1900年代の初め、8種類のビタミンB群は「水溶性B」という1つの物質として考えられていました。

その後、世界中でビタミンという言葉が共通の用語として用いられるようになり、水溶性BはビタミンBとなりました。

しかし、その後の研究でビタミンBには物質が混ざっていることがわかり※3、熱に不安定な抗脚気因子はビタミンB1、熱に安定な成長促進因子はビタミンB2として分けられました。そのときのビタミンB1が今日のビタミンB1(チアミン)です。

さらに研究が進むと、ビタミンB2はさらなる複合体であることがわかり、順にビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ナイアシン)、ビタミンB5(パントテン酸)、ビタミンB6(ピリドキシン)、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンB9(葉酸)、ビタミンB12(コバラミン)と名付けられています。

現在では、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB7、ビタミンB9の4つの名称はあまり使われておらず、それぞれの化学名であるナイアシン、パントテン酸、ビオチン、葉酸の名称が使われています。

いつもなにげなく使っている名前にも、そこには歴史や意味が隠れていることがあります。皆さんもいつも普通に接していることの由来などを調べてみるのも、楽しいかもしれません。

8種類のビタミンB群の至適量摂取でしっかりエネルギーを作ろう

今回のまとめです。

ビタミンB1は身体の中にたくさん貯められないため、ビタミンB1を摂らない、もしくは何らかの原因で必要量が増加すると欠乏症のリスクが高まる重要なビタミンです。

ビタミンB1(チアミン)欠乏症は、現代でも糖質だけの摂り過ぎ、アルコール多飲、下痢などでも起こる可能性があります。

分子栄養学の視点から、ビタミンB1を含む8種類のビタミンB群を至適量摂取し、エネルギーを効率よく作り、健康なココロと身体の基礎をつくりましょう。(※ビタミンB群を知る④「ビタミンB群と健康なココロには深い関係がある」 

※1 Sechi, G.,et al. Wernicke’s encephalopathy: new clinical settings and recent advances in diagnosis and management. Lancet Neurology, 6(5):442-455. (2007)

※2 Kennedy, DO. B Vitamins and the Brain: Mechanisms, Dose and Efficacy—A Review. Nutrients, 8(2): 68. (2016)

※3 Hrubša,M., et al. Biological Properties of Vitamins of the B-Complex, Part 1: Vitamins B1, B2, B3, and B5. Nutrients, 14(3): 484. (2022)

※4 日本ビタミン学会 編集.『ビタミン・バイオファクター総合事典』朝倉書店.p101.(2021)

※5 水谷 雅臣,他.ビタミンB1.JSPEN,1(2):104-107.(2019)

※6 Taryn, J.,et al. Thiamine deficiency disorders: a clinical perspective. Annals of the New York Academy, 1498(1): 9-28. (2021)

※7 出典:農林水産省Webサイト (https://www.maff.go.jp/j/meiji150/eiyo/01.html)

※8 Polegat, BF.,et al. Role of Thiamin in Health and Disease. Nutrition in Clinical Practice, 34(4):558-564. (2019)

※9 Roman-Campos, D.,et al. Current aspects of thiamine deficiency on heart function. Life Sciences, 98(1):1-5. (2014)

※10 医療情報科学研究所 編集.『病気がみえる vol.3 糖尿病・代謝・内分泌 第5版』メディックメディア.p189.(2019)

※11 小池 春樹.代謝性・栄養性・ 薬剤性ニューロパチー.日本内科学会雑誌,108(8):1530-1537.(2019)

※12 高澤 知規,他.ビタミンB1投与が著効したアルコール性脚気心の1症例.日本集中治療医学会雑誌,12:145-146. (2005)

※13 Koike, H.,et al : Postgastrectomy polyneuropathy with thiamine deficiency. Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry, 71 : 357-362.(2001)

※14 Koike, H.,et al : Postgastrectomy polyneuropathy with thiamine deficiency is identical to beriberi neuropathy. Nutrition, 20 : 961-966.(2004)

※15 葛目 大輔,他.利尿薬によって惹起された脚気ニューロパチーの1例.臨床神経学,62(8):641-643. (2022)

※16 奥村 彰久.イオン飲料水などの多飲によるビタミンB1欠乏症.ビタミン,93:283-290.(2019)

※17 Oudman, E..et al. Wernicke’s encephalopathy in hyperemesis gravidarum: A systematic review. European Journal of Obstetrics & Gynecology and Reproductive Biology, 236:84-93. (2019)

※18 中村 俊文.血液透析導入後にWernicke脳症をきたした慢性アルコール中毒の1例.透析会誌,48(4):243-248. (2015)

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