血液・尿検査の意義②「 基本検査K-01 Ⓑ酵素」
分子栄養学(※分子栄養学とは①)の基本ツールとして利用されるのが血液と尿の検査セットです(※血液検査の意義①)。69項目の詳細な血液・尿検査項目を、関連する項目ごとに簡単に記述しています(※血液・尿検査の意義①)。
今回は第2回、Ⓑ 酵素の関連項目についてです。
Ⓑ 酵素
酵素(※分子栄養学とは⑦-1、分子栄養学とは⑦-2、分子栄養学とは⑦-3)は生体内の代謝(※分子栄養学とは⑤)を進める必要不可欠な分子(※分子栄養学②、分子栄養学とは③)です。
血液中にはさまざまな酵素が存在しています。その多くはもともと細胞の中で働いていた酵素が、何らかの理由で血液中に流出したものです。生体内の細胞は常に少しずつ壊され、新しい細胞に生まれ変わっているため(※分子栄養学とは① 分子栄養学とは⑤)、酵素はいつも少しずつ血中に存在します。酵素の種類は細胞の種類によって違うことから、その値によりどこの部位がどのくらい損傷を受けているかなど、ある程度推測することができます。
一般に炎症で臓器が壊れる、つまりそれを構成する組織や細胞が壊れると、その中にあった酵素がたくさん血液の中に出て数値が上昇します。こういった酵素を逸脱酵素と呼びます。また、臓器の萎縮や栄養欠損状態では数値は低下します。
AST(GOT)は肝臓・心臓・筋肉・赤血球に多く、ALT(GPT)は肝臓に特に多いため、これらの酵素を測定することで、それぞれの障害の程度などを推測することができます。ALT(GPT)は脂肪肝でも上昇します(※年末年始に向けた正しい身体づくり「脂肪肝対策①」、※年末年始に向けた正しい身体づくり「脂肪肝対策②」)。 LDHは、エネルギー代謝に関わる酵素で、ナイアシンを補酵素として必要とします(※分子栄養学とは⑦-3)。全身の細胞(※分子栄養学とは①)に存在しますが、特に肝臓・心臓・筋肉・赤血球に多く存在します。ChEは脂質代謝に関わる酵素です。ChEは肥満、脂肪肝などで上昇します。また、ChEは肝臓で合成されるため、肝機能低下や低栄養で低下します。
ALPは胆管、骨などに存在し、胆管の炎症、成長期や骨折などで上昇します。CKはエネルギー代謝に関わる酵素で、骨格筋に多く含まれます。激しい運動や筋炎、心筋梗塞で上昇し、横紋筋融解症で著明高値となります。
胆管、膵管、唾液線管の閉塞※1では、消化管に分泌されるべき酵素(ALP、γ-GTP、AMY)が血中に逆流して上昇します。炎症や服薬などで産生が増加する酵素もあり、そのようなものを誘導酵素と呼びます。誘導酵素の例としては、ALP、γ-GTPがあります。
AST(GOT)、ALT(GPT)はタンパク質代謝に深く関わる酵素です。食事から得たタンパク質(※5大栄養素(概論)、※食事の基本)は、消化・吸収されて、身体の中でいったんアミノ酸プールとして(アミノ酸とは、タンパク質を構成する単位分子のことです(※分子栄養学とは② 分子栄養学とは③ ))蓄えられます。そしてそのアミノ酸を使って、身体にとって必要な体タンパク質(髪の毛、皮膚、爪など)、生理活性物質(酵素やホルモン、神経伝達物質など)など、生体内で働いているさまざまな物質を合成していきます。その過程でアミノ酸は材料として必要とされる別のアミノ酸に変換されることもあります。その時に活躍する酵素の代表がAST(GOT)、ALT(GPT)です。AST(GOT)とALT(GPT)は、ビタミンB6(ピリドキサールリン酸)を補酵素として必要とし、ビタミンB6欠乏が低値を示す一因と考えられています※3、※4。分子栄養学では、タンパク質の代謝改善は体調改善のための重要な基礎であると考えます。
<酵素に関する検査項目>
GOT(AST、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、GPT(ALT、アラニンアミノトランスフェラーゼ)、LDH(LD)(乳酸脱水素酵素、※アイソザイムはLDH1~5※2)、ALP(アルカリフォスファターゼ、※アイソザイムはALP1~5※2)、ChE(コリンエステラーゼ)、γ-GTP(γ-GT)(γ-グルタミルトランスペプチダーゼ)、AMY(アミラーゼ、※アイソザイムはP型とS型※2)、CK(CPK)(クレアチンキナーゼ)
※1 閉塞とは
閉塞とは、閉じて塞(ふさ)がってしまう、という意味です。
※2 アイソザイムとは
酵素はタンパク質でできていますが(※分子栄養学とは⑦-2)、アイソザイムとは、同じ機能をもっていて、タンパク質の構造が少し違う酵素のことです。それぞれの器官(臓器)で臓器特異性(特定の臓器にだけ認められるような性質)があります。例えばLDHはLDH1~LDH5まであり、LDH1は心臓や赤血球に多く、LDH5は肝臓や骨格筋に多く局在しています。(注意:アイソザイム検査は、基本検査セットK-01には含まれません。)
※3 加藤 範久.「高齢者のビタミン B6 栄養:フレイル,及びサルコペニアとの関連性」 .『ビタミン』, 96 (7):325-328.(2022)
※4 Ono, K.,et al. The pathogenesis of decreased aspartate aminotransferase and alanine aminotransferase activity in
the plasma of hemodialysis patients: the role of vitamin B6 defciency. Clinical Nephrology, 4:405-408. (1995)