分子栄養学による暑熱対策②「暑さで心臓が酷使される!?」
暑くなると心臓が一生懸命働かなければならないことをご存じですか?
今回は暑さで心臓に負担がかかる仕組みを学び、心臓をケアする分子栄養学の栄養素について一緒に考えていきましょう。
ヒトが余分な熱を外に逃がして体温を下げるシステムは2つのみ
人体は外の気温が暑い・寒いに関わらず、一定の深部体温 平均 約36.6℃(95%信頼区間:35.7~37.3℃)を保っています※1。
暑い時、ヒトの身体は以下の2つの方法で熱を環境に逃がして身体を適温に保とうとします。
・汗をかいてそれを蒸発させる
・皮ふにある血管を拡げて血流量を増やし、熱を逃がそうとする
これが身体の中の熱を下げるための唯一のシステムです※2。
汗をかくと皮ふに水がつきます。水には蒸発するときに周り(私たちの身体)から熱を奪っていってくれるという性質があるため、熱を下げるのに役立ちます。
また運動などで放出される身体の熱は、主に血流に乗って全身に分散されます※3。
皮ふや内臓に存在する神経細胞が温度を感知し、その情報を受け取った脳が情報を処理し、身体に溜まった熱を逃がして体温を一定に保とうとします※1、※2、※4。
熱ストレスが続くと心臓に大きな負担がかかる
しかしこのようなシステムが備わっていても、熱ストレスがかかり続けると心臓に大きな負担がかかります。(※熱ストレスって何?)
なぜなら、
①暑さで皮ふの血管が拡がる
↓
②より多くの血液を皮ふに送る必要が生じる
↓
③多くの血流を保つため、心臓はより強く、そして速く拍動するようになる
このような仕組みが生じるためです※2、※5。
心臓は筋肉でできており、心臓が拍動するためには筋肉が一生懸命に働く必要があります。筋肉が働くためにはエネルギー(ATP)が必要で、ATP生成のためのより多くの栄養素と酸素が必要になります※5。
しかし心臓自体に酸素と栄養素を届ける役割をしている冠状動脈(血管)に動脈硬化などの病変があると、酸素を届ける道(血管)の幅が狭まり、心臓の酸素需要と供給のバランスが崩れてしまいます。
心筋の酸素需要と供給のアンバランスは、心筋虚血、心筋梗塞を招きます※2、※5。暑さが続くことで最終的には心血管系が崩壊するおそれが出ます※2。
熱ストレスを受けた場合の主たる死因のひとつが心血管疾患であることが示されています※2。
脱水によって心臓・腎臓に負担がかかる
熱ストレスを受け続け、長期間に渡って汗が蒸発し続けると脱水が重なる可能性も考えられます。脱水になると血液量が減り心臓にますます負担がかかります※2。
脱水はほかにも急性腎障害や慢性腎臓病につながる可能性が示されています※2、※6、※7。暑い時期の適切な水分補給は非常に大切です。
汗にはナトリウムやカリウムといったミネラルも含まれます。
汗を大量にかいてナトリウムが足りなくなるだけで、食欲の低下、嘔吐、ひどいとけいれんや意識障害が起こります。またカリウムが慢性的に足りないだけで、脱力感、疲労感、筋力低下につながります。(※厳しい残暑・肌と目の紫外線対策:ビタミン・ミネラルで身体メンテナンス)
熱ストレスから心臓を守るための分子栄養学的【貧血+ミネラル+エネルギー代謝】対策
それでは、残暑の続く今、分子栄養学で考えられる栄養素による暑熱対策にはどんなことが考えられるでしょうか。
まず、暑さで酷使される心臓の負担を減らすため、酸素がしっかり心臓に届けられるようにする貧血対策※5は必須であると考えます。※エネルギー不足を招く分子栄養学の重大問題「貧血」について解説 を参考に、ヘム鉄、ビタミンB12、葉酸をはじめとした栄養素で健全な赤血球産生を目指しましょう※5。
また心臓が拍動するには常にたくさんのエネルギーが必要です※5。心臓にしっかりと働いてもらうため、分子栄養学では酸素を使ったミトコンドリアでのエネルギー代謝、つまりクエン酸回路、電子伝達系のための栄養素が必要不可欠であると考えます。また心臓に酸素と栄養素を送り届ける血管を守るための対策も、熱ストレス対策の一環として必要であると考えます。
酸素を使ったエネルギー代謝に必要な栄養素はマグネシウム、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、α-リポ酸、パントテン酸、CoQ10、ヘム鉄です(※エネルギーをつくるための必須栄養素「マグネシウム、ビタミンB群、CoQ10、鉄」)。血管を守る栄養素については※若い血管を取り戻すための分子栄養学「血管内皮細胞のターンオーバー」をご覧ください。
さらに心臓が正常に拍動し続けるにはカルシウム※5、マグネシウム※8、※9、ナトリウム、カリウムが重要です※10。暑熱対策としてミネラルの補給もしっかりしていきましょう。(※ミネラルって何?)
熱中症の後遺症
いったん重症の熱中症になってしまうと、その後しっかり体温を下げたとしても何年にもわたって認知機能の低下※2、※11、臓器の機能不全が続く可能性があり、数十年にわたって死亡するリスクが2~3倍高くなることが報告されています※2、※12。
熱中症までいく前にしっかりと熱を放散し、熱ストレスに対する対策を取ることが重要です。
今回のまとめ
長期間続く熱ストレスは、身体を適温に保とうとして心臓に負担がかかります。
分子栄養学では暑さで酷使される心臓の正常な拍動を支えるため、貧血対策、そして心筋の活動のためのエネルギー代謝の栄養素(マグネシウム、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、α-リポ酸、パントテン酸、CoQ10、ヘム鉄)を考えます。
心臓の正常な拍動にはミネラル(カルシウム・マグネシウム、ナトリウム・カリウム)も必要不可欠です。
残暑の続く今、適切な温度で涼みながらバランスの良い食事と心臓を守るための栄養素、適切な水分管理で熱ストレスを管理していきましょう。
※1 Periard, JD.,et al. (2021). Exercise under heat stress: thermoregulation, hydration, performance implications, and mitigation strategies. Physiological Reviews, 101, 1873–1979.
※2 Ebi, KL.,et al. (2021). Hot weather and heat extremes: health risks. The Lancet, 398(10301), 698–708.
※3 Kenny,GP.,et al. (2013). Thermometry, calorimetry, and mean body temperature during heat stress. Comprehensive Physiology, 3(4), 1689–1719.
※4 Fealey, RD. (2013). Interoception and autonomic nervous system reflexes thermoregulation.in: Aminoff MJ Boller F Swaab DF Handbook of clinical neurology. Elsevier, Amsterdam, 79–88.
※5 Boyette, LC.,et al. (2024). Physiology, myocardial oxygen demand. StatPearls Publishing, Treasure Island, FL2024. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK499897/
Date accessed: August 30, 2024.
※6 Roncal-Jimenez,C.,et al. (2015). Mechanisms by which dehydration may lead to chronic kidney disease. Annals of Nutrition and Metabolism, 66 (Suppl.3), 10–13.
※7 Glaser, J.,et al. (2016). Climate change and the emergent epidemic of CKD from heat stress in rural communities: the case for heat stress nephropathy. Clinical Journal of the American Society of Nephrology, 11(8), 1472–1483.
※8 Gröber, U.,et al. (2015). Magnesium in Prevention and Therapy. Nutrients, 7(9), 8199–8226.
※9 Stanojević , M.,et al. (2024). The Impact of Chronic Magnesium Deficiency on Excitable Tissues-Translational Aspects. Biological Trace Element Research. doi: 10.1007/s12011-024-04216-2.
※10 Shattoc, MJ.,et al. (2015). Na+/Ca2+ exchange and Na+/K+-ATPase in the heart. Journal of Physiology, 593(Pt 6), 1361–1382.
※11 Dematte, JE.,et al. (1998). Near-fatal heat stroke during the 1995 heat wave in Chicago. Annals of Internal Medicine, 129(3), 173–181.
※12 Wallace, RF.,et al. (2007). Prior heat illness hospitalization and risk of early death. Environmental Research, 104(2) , 290–295.