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【新着記事】2024.5.7 分子栄養学の基礎用語「血糖値」、「糖質」、「GI値」、「GL値」って何ですか?

栄養素のお話(応用編)

分子栄養学における免疫と栄養素の基本対策②

前回(※免疫と感染への分子栄養学的アプローチ①)から2回シリーズで、With / Postコロナ、感染症の時代を生き抜くための分子栄養学における免疫(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)と栄養素の基本対策についてお伝えしています。前回は、タンパク質、グルタミン、ビタミンC(※エンジオール基が世界を救う「ビタミンCの底力」※子供の栄養「ビタミンCで、ストレスから子供を守ろう!」)、プレバイオティクス・プロバイオティクス(※子供の栄養「腸は全身をコントロールする第2の脳」)について基本的なところをお伝えしました。今回は、ビタミンD、ビタミンA、鉄、亜鉛、ビタミンB群(※子供の栄養「現代っ子にとってビタミンB群はとても消耗しやすい栄養素」)などについてです。ぜひ一緒に学んでいきましょう。

ビタミンD

ビタミンDは免疫機能の調整に関わることが報告されています。状況に応じて、免疫を増強して感染を防御したり抑制したりして、免疫を調節することに関わることが報告されています※12※13。また、ビタミンDは粘膜の細胞同士を強くくっつけているタイトジャンクションに役立ち、病原体が入り込むすき間を与えない強い粘膜作りの手助けをしてくれることが示されています。

ビタミンDは、紫外線のうちUV-Bを直接肌に浴びることでも生体内で産生されますが、日本ではUV-Bは冬季に少なくなります。血液検査(※血液検査の意義①※血液検査の意義②※血液検査の意義③※血液検査の意義④)で血中ビタミンD濃度をモニタリングし、自分の適正摂取量を確認しながらサプリメントとしてビタミンDを摂取することをお勧めしています。

ビタミンA

ビタミンAには、目や皮膚、粘膜組織の構造と働き(機能)を健康に保つという役割があります。ビタミンAが欠乏すると粘膜が異常角化を起こし、分泌腺が萎縮して乾燥しやすくなるといわれます。欠乏すると、粘膜、皮膚が萎縮・乾燥し、粘膜バリア機能が低下し、感染しやすくなります。ビタミンAは免疫全般に必須の栄養素です。

免疫細胞が闘う、免疫細胞が増える、新しい粘膜に生まれ変わる、いずれの活動にもたくさんのエネルギーが必要です。エネルギーを作りだす際に酸素が必要な代謝経路(※分子栄養学とは⑤)があり、その酸素を全身に運ぶトラックの役割をするのが赤血球です。赤血球を構成するヘモグロビンに含まれる鉄に酸素がくっついて全身に運ばれていくため、鉄は免疫を考える上で重要な栄養素のひとつです。鉄欠乏性貧血の方々は、エネルギーを作る効率自体が全身で低下しますので、ぜひこの機会に貧血を改善しましょう。

長期に及ぶ鉄欠乏で、口腔内粘膜や消化管粘膜の萎縮が起こることが知られています。空気の通り道である鼻やのど(気道)の粘膜上皮細胞の中には、とても短いじゅうたんの毛のようなもの(線毛)が生えている線毛細胞がたくさんあって、それが粘液でとらえた異物をほうきのように掃き出してくれる役割をしています(線毛運動)。気道上皮細胞のすぐ下には、コラーゲンなどでできている「基底膜」という構造体があって、それが上皮細胞の足場となり、上皮組織の機能や形態をしっかりと保つ重要な役割をしています。分子栄養学では、ビタミンCと鉄の十分な摂取により丈夫なコラーゲンをつくることで(※エンジオール基が世界を救う「ビタミンCの底力」)粘膜上皮細胞にしっかりと働いてもらい、気道における活発な線毛運動もサポートできる身体作りを目指します。

また、細菌の増殖に鉄が必要であることが知られていますが、分子栄養学では鉄を摂取する際、まずはストレスケア、そして有用菌のエサである食物繊維などきちんとした食事(※食事の基本 )をよく噛んで食べ、腸内環境をしっかり整えることを考えています。

亜鉛

亜鉛は皮ふや粘膜の維持に必須のミネラルです。亜鉛は正常なT細胞(※免疫を司る白血球「白血球の仲間たちの基礎」)の成熟などを促すのに必須のホルモンであるサイムリン(thymulin、胸腺ホルモン)の活性化に必要であることが示されています。貧血は鉄不足のほか亜鉛欠乏などによっても起こり得るため、まずは詳細な血液検査(※血液検査の意義①※血液検査の意義②※血液検査の意義③※血液検査の意義④)で自分の状態を確認することを推奨しています。

乾燥していると感染しやすい

乾燥しているだけで気道の線毛運動が弱くなり、病原菌など異物を追い出す力が弱くなってしまうことが知られています。しっかり水分補給をする、口呼吸を避けて鼻呼吸にする、部屋の湿度を適度に保つなどして気道の湿度を保ちましょう。鼻で呼吸することは、吸った空気をいったん鼻毛のフィルターにかけて異物を除いたり、加湿したりしてから身体に送り込んでいくことになるため、お勧めです。

エネルギー産生のためのビタミンB群

たくさんの免疫が働く、免疫細胞が新しく生まれるということは、使われるエネルギーの量も格段に増えるということです。免疫細胞の種類によってさまざまなエネルギー代謝が示されていますが、糖質や脂質などから効率的にエネルギーを作るためにはビタミンB群(※ビタミン(総論) )が必要です。気道(鼻やのど)での線毛運動にもミトコンドリアによるエネルギーの電池ATPが必要であることが示され、そこでもビタミンB群は必須となります。腸を整えることでも有用菌によってビタミンB群は作られます。120日で寿命を終えてしまう丈夫な赤血球を継続的にしっかり作っていくためにも、ビタミンB群は重要な栄養素です。

炎症に適度に収束してもらう

身体の中で炎症を長引かせないためには、身体をつくる細胞の脂質がどんな種類の脂質で構成されているかも重要であると考えています。オメガ3脂肪酸を適量しっかりと摂ることで、細胞膜を構成する脂質を良質なものに変え、炎症をなるべく早めに終えることのできる体質にしておくこともお勧めしています。オメガ3脂肪酸であるEPAやDHAから生じるレゾルビン、プロテクチンという名前の物質などが強力な抗炎症作用をもつことが明らかにされています。

運動と免疫

適度な運動は免疫を上げるといわれます。ただし、過度の運動、自分を追い込んで疲れがたまるほどの運動をすると逆に免疫が落ち、感染症にかかりやすいといわれています※14※15。ぜひ1年に1回、医療機関でご自分に起こる変化や体調を把握しながら自分にとっての適切な運動を続けていきましょう。

良い睡眠と免疫

質の良い満足した睡眠を取ることは、健康な生活習慣の重要なポイントのひとつになります。お昼間に仕事やストレスで交感神経がバリバリに働いた方は、ストレッチや38~40℃のぬるいお風呂に浸かるなど、自分にとってのリラックス法を知り、副交感神経優位の身体にシフトチェンジして、毎日良い睡眠を確保していきましょう。

まとめ

人類は、これまでの長い歴史のなかで、さまざまな感染症と闘ってきました。またいつどんなかたちで新興感染症が流行するかは、だれにも予想できません。20代をこえると、歳を重ねるごとに免疫が下がることは残念ながら紛れもない事実です(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)。だからこそ、質の良い睡眠を確保し、日頃からしっかり栄養対策を行い、一緒に免疫機能の向上を目指しましょう。今回学んだ栄養素のほかにも、セレンやマンガンなどの微量栄養素の充足も適正な免疫機能が働くために必要であると考えています。笑いが健康や免疫に関連するとの報告もあります。ぜひ自分にとっての素敵な笑いを取り入れて、一緒に楽しく免疫対策をしていきませんか。

※12
Hewison M. Vitamin D and the immune system: new perspectives on an old theme. Endocrinology and Metabolism Clinics of North America, 39(2):365-379(2010)

※13
Liu P.T. Toll-like receptor triggering of a vitamin D-mediated human antimicrobial response. Science,311(5768):1770-1773.(2006)

※14
Pedersen B. K.,et al. Recovery of the immune system after exercise. Acta Physiologica Scandinavica, 162(3):325-332.(1998)

※15 Walsh, N.P.,et al. Position statement. Part one:Immune function and exercise. Exercise Immunology Review,17:6-63.(2011)

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