The Orthomolecular Times

【新着記事】2024.5.7 分子栄養学の基礎用語「血糖値」、「糖質」、「GI値」、「GL値」って何ですか?

妊娠前・妊娠中・産後

分子栄養学の得意分野における尿失禁対策①(骨盤底筋、コラーゲン編)

世代性別関係なく、多くの方が経験しているとの報告がある尿失禁(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁①)。一般的な治療では、尿失禁のタイプ別(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁②)や症状にあわせて、理学療法(骨盤底筋体操(骨盤底筋訓練、Kegel 体操とも呼ばれます。以下、骨盤底筋体操)、バイオフィードバック訓練など)、生活指導(禁煙、過体重の場合は減量、便秘の改善、炭酸飲料・アルコール・カフェイン・水分摂取量などの水分管理など)、薬の処方などが単独または組み合わせて提案されます。腹圧性尿失禁(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁②)では骨盤底筋体操が効かない場合、最終的に手術が選択肢として医師から提案されることがあります。切迫性尿失禁(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁②)では、水分管理や膀胱訓練が有効であるとされています※1

尿失禁と栄養素との関連性についてはあまり注目されることはありませんが、分子栄養学(※分子栄養学とは①)では、至適量の栄養素(※分子栄養学の歴史①)が生体内での適切な代謝を促し(※分子栄養学とは⑤)、尿失禁対策にプラスにサポートできる可能性を考えています。

今回から3回にわたり、骨盤底筋体操を含め、尿失禁に対して分子栄養学の得意分野(※分子栄養学とは⑧)において考えられる対策についてお届けいたします。第1回目の今回は、尿失禁の要のひとつである骨盤底筋対策、そして骨盤臓器や神経(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁①)を支えるコラーゲンについてです。

蓄尿・排尿に関わるしなやかな筋肉を保つ:骨盤底筋群

①骨盤と骨盤底筋群

骨盤とは、身体の中心、お尻や腰を支えている骨のことです。骨盤底とは、文字通りに男性・女性ともに骨盤の底にあって、大切な骨盤臓器(骨盤の中に収まっている臓器。膀胱と尿道、子宮と膣(女性のみ)、直腸と肛門)を下から支える構造を指します。

骨盤底筋群(以下、骨盤底筋)はいくつもの筋肉が重なり合って文字通り「骨盤の底」となって骨盤臓器を支えます※2。完全に筋肉が底を覆っていると尿などが排出されないため、複数の筋肉の重なりの中にいくつかのすき間が空いていて、そこを尿道、膣(女性)、肛門が通っています。普段生活している時はその筋肉群がぎゅっと収縮して、尿がもれないようになっています。

骨盤底筋のひとつである外尿道括約筋の筋力低下は、手術や出産などによる損傷、神経の病気、加齢、全身の筋肉が萎縮する病気などによって起こる可能性が示されています※3。溢流性尿失禁の原因のひとつに骨盤臓器脱が挙げられていますが、その原因として妊娠・出産による骨盤組織の筋肉が傷つくこと、女性ホルモンの低下によって骨盤底筋が緩んでしまうことなどがいわれています(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁②)。しかし、経腟分娩による骨盤臓器脱はすべての女性にみられるわけでなく、また妊娠・出産の経験のない女性にもみられるため、遺伝素因や分子生物学的・生化学的な個体差が原因として考えられるのではないか、とする意見もあります※4。その分子生物学的、生化学的な個体差(※分子栄養学とは⑥※分子栄養学の歴史①)を詳細な血液検査などによって考えるのが、分子栄養学の得意分野です(※分子栄養学とは⑧)。

尿道括約筋の筋力が低下すると、尿道を圧迫して締める力が弱くなり、腹圧性尿失禁につながることが報告されています※3。また、骨盤底筋の衰えが切迫性尿失禁の原因といわれる過活動膀胱の要因のひとつと考えられています(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁②)。尿を最後までしっかりとコントロールするために、健康な骨盤底筋が必要です。

②強い骨盤底筋をつくる:骨盤底筋体操

腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁②)の両方にお勧めされているのが、毎日の骨盤底筋体操(pelvic floor muscle training:PFMT)です。腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁、骨盤臓器脱(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁②)に有効であるとの報告があります※1、※2、※3、※5

男性の尿失禁のうち、切迫性尿失禁について、トイレに着いて排尿の準備が整うまでに使う筋肉を鍛えることができるといわれています。前立腺肥大などの疾患が関わる場合には骨盤底筋体操が効くとは言い難い場合がありますが、前立腺肥大症の手術後に起こりやすい腹圧性尿失禁、排尿後の尿道に残った尿の漏出量の減少に対して効果が期待されています。

立ったとき、座ったとき、思い出したときに骨盤底筋体操を1日10分行いましょう。毎日の積み重ねが力になります。痛みや違和感などを感じる場合は、炎症などを起こしている可能性がありますので、医療機関を受診してください。

③健やかな筋肉のための分子栄養学でお勧めの栄養素

筋肉量の維持、筋肉を動かすためのエネルギー代謝経路のために、タンパク質(※5大栄養素(概論))、亜鉛、鉄、ビタミンB群、CoQ10、マグネシウム、筋肉収縮のためのカルシウム・マグネシウムがお勧めの栄養素です。ビタミンCが足りないと、骨格筋が萎縮するという報告があります(※エンジオール基が世界を救う「ビタミンCの底力」)。外尿道括約筋は骨格筋(随意筋)であることから、至適量のビタミンC(※ビタミン(総論))もお勧めです。

④豊富な血流が骨盤底筋を支える

骨盤底筋の活動は、豊富な血流によって支えられています※2。タバコや慢性的なストレスなどは血流を悪くします。栄養素を運ぶ血流が十分に保たれるように、分子栄養学では健やかな血管を保護する十分な栄養素について考えます。

血管の内皮細胞の材料とともに、血管を守るため、酸化ストレスを取り除くビタミンCなどの抗酸化栄養素(※エンジオール基が世界を救う「ビタミンCの底力」)、赤血球の栄養素、炎症を抑える脂質(オメガ3脂肪酸)(※食事の基本)、適度な水分補給、適度な運動もお勧めです。貧血の方は、まず貧血を治しましょう。

丈夫な結合組織を保つ:健康なコラーゲン代謝の必要性

骨盤底の構成要素である靭帯、内骨盤筋膜などの結合組織は、骨盤底筋や臓器をしっかりと支えています※2、※4。正常な蓄尿・排尿は、神経と膀胱粘膜・筋肉との連携プレーによって成り立ちますが(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁①)、膀胱粘膜や末梢神経などを健康に保つための基底膜、神経細胞や筋肉を包むファシアも結合組織です※6、※7。健康な排尿に関わる組織や臓器を結合組織が支えています。結合組織を構成するのは、コラーゲンなどです。しっかりした丈夫なコラーゲン代謝に、至適量のタンパク質(※5大栄養素(概論))、鉄、ビタミンCが重要です(※エンジオール基が世界を救う「ビタミンCの底力」)。

骨盤底筋と骨盤臓器を固定し支える靭帯、内骨盤筋膜

靭帯、内骨盤筋膜などの結合組織は、骨盤底筋や骨盤臓器を固定する役割を担います※2、※4。また、この内骨盤筋膜などが下からハンモックのように女性の尿道と膀胱頸部を支えています(ハンモック構造)。このハンモック構造が衰えて緩み、支える力が低下することが腹圧性尿失禁の原因のひとつと考えられています※3。靭帯、内骨盤筋膜などの結合組織は、コラーゲン、エラスチンなどから構成されています。エラスチンは結合組織に弾力性を与えるタンパク質の線維です※7

骨盤臓器脱(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁①)では、骨盤底を支える尿道靭帯のコラーゲンの量が少ないとの報告があり※8、コラーゲンの弱体化が骨盤臓器脱の原因となり※9、骨盤底を構成するコラーゲンやエラスチンなどの結合組織をしっかりと維持することが骨盤臓器脱の予防手段として有効なのではないか、とする報告があります※10

骨盤臓器脱の原因として経腟分娩によって骨盤底を支える結合組織が傷ついたり、女性ホルモンの低下によって結合組織が緩んでしまうことなどがいわれています(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁)。しかし、経腟分娩による骨盤臓器脱はすべての女性にみられるわけでなく、また妊娠・出産の経験のない女性にもみられるため、この他に、遺伝素因や分子生物学的・生化学的な個体差が原因として考えられるのではないか、とする意見があります※4。その分子生物学的、生化学的な個体差(※分子栄養学とは⑥※分子栄養学の歴史①)を詳細な血液検査などによって考えるのが、分子栄養学の得意分野です(※分子栄養学とは⑧)。

②しなやかな膀胱粘膜と神経を維持するための基底膜

尿をためる袋、膀胱は粘膜と筋肉でできています(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁①)。粘膜を構成する上皮細胞は、基底膜という足場のようなシートの上に立って成り立っています※3、※11、※12。基底膜は弾力性のもととなり、栄養素や代謝物などを通すフィルター、細胞の分化を促すなど、とても大切な役割を担うと考えられています※11、※12。基底膜は組織の境界線となり、機械的な損傷から組織を守る役目を果たします※13

末梢神経(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁①)に栄養素を運ぶシュワン細胞が健やかに保たれるためにも、基底膜は必須の構造です※14基底膜が破壊されることで、さまざまな疾患のリスクがあることが報告されています※15。脳に余計なものを入れないように働く血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)が健やかに保たれるためにも正常な基底膜は必須です※13。基底膜は結合組織で、コラーゲンなどで構成されています※13

※1 Lukacz ES.,et al. Urinary incontinence in women: a review.JAMA, 318(16):1592-1604.(2017)

※2 Grimes WR.,et al. Pelvic Floor Dysfunction. StatPearls Publishing; 2023 Jan-. Available at: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK559246/ . Accessed June 30, 2023.

※3 Aoki Y.,et al. Urinary incontinence in women. Nature Reviews Disease Primers, 3:17097.(2017)

※4 古山 将康. 「 1)骨盤底臓器脱の発症メカニズム」. 日本産科婦人科学会雑誌, 60(9):329-335.(2008)

※5 Brækken IH.,et al. Can pelvic floor muscle training reverse pelvic organ prolapse and reduce prolapse symptoms? An assessor-blinded, randomized controlled trial. American Journal of Obstetrics and Gynecology, 203:170.e1-170.e7. (2010)

※6 木村裕明, 他.(編集). 『解剖・動作・エコーで導く Fasciaリリースの基本と臨床 ハイドロリリースのすべて 第2版』.文光堂.(2021)

※7 David Lesondak.『ファシア その存在と知られざる役割』.医道の日本社.(2020)

※8 Soderberg MW.,et al. Young women with genital prolapse have a low collagen concentration. Acta Obstetricia et Gynecologica Scandinavica, 83:1193-1198.(2004)

※9 Weintraub A.Y .,et al. Narrative review of the epidemiology, diagnosis and pathophysiology of pelvic organ prolapse. International Brazilian Journal of Urology, 46:5-14.(2020)

※10 Klutke J.et al. Decreased endopelvic fascia elastin content in uterine prolapse. Acta Obstetricia et Gynecologica Scandinavica, 87(1):111-115.(2008)

※11 Pozzi  A.,et al. The nature and biology of basement membranes. Matrix Biology, 57-58:1-11.(2017)

※12 Yurchenco PD.,et al. Developmental and Pathogenic Mechanisms of Basement Membrane Assembly. Current Pharmaceutical Design, 15(12): 1277–1294.(2009)

※13 Sekiguchi R.,et al. Basement membranes in development and disease. Current Topics in Developmental Biology,130: 143-191.(2018)

※14 Hohenester E.,et al. Laminins in basement membrane assembly. Cell Adhesion and Migration, 7(1): 56–63.(2013)

※15 Randles MJ.,et al. Proteomic definitions of basement membrane composition in health and disease. Matrix Biology,57-58:12-28.(2017)

RELATED

PAGE TOP