The Orthomolecular Times

2024.11.18 分子栄養学と運動「骨格筋が血糖値を下げる⁉ 運動効果と「GLUT4」の仕組みをわかりやすく解説」

栄養素のお話(応用編)

分子栄養学における免疫と栄養素の基本対策①

With / Postコロナの時代。感染症の時代を健康に生きていくために、基本的な生活習慣を整えることが大切です。そしてそれに加え、分子栄養学(※分子栄養学とは①)では、体内できちんと機能してくれる免疫システム(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)をしっかりもっていることが感染症の時代を生き抜いていく非常に大きなポイントになると考えています。

今回から2回シリーズ(※分子栄養学における免疫と栄養素の基本対策②)で、分子栄養学における免疫と栄養素の基本対策についてお伝えします。ぜひ一緒に学んでいきましょう。

規則正しい生活が何よりも大切

人はもともと昼間に生きる地球上の生物であり、約24時間という時間のリズムの中で生きています。その24時間の中では、さまざまなホルモンがそれぞれの役割をもって複雑にからみ合い、人の体調に影響を与えています。そのホルモンなどが整うためにも、質の良い睡眠、適正な食事、適度な運動、ストレス対策など規則正しい適切な生活習慣(※食事の基本※年末年始に向けた正しい身体づくり「脂肪肝対策①」※年末年始に向けた正しい身体づくり「脂肪肝対策②」)が重要であると考えています。最大の免疫器官である腸を整え、免疫機能が十分に発揮されるように、まずは生活習慣の見直しから始めます。

免疫強化のための分子栄養学的アプローチ

規則正しい生活習慣にした上で、免疫強化対策として、タンパク質、グルタミン、ビタミンC、プレバイオティクス・プロバイオティクス、ビタミンD、ビタミンB群(※分子栄養学における免疫と栄養素の基本対策②)などの栄養素対策をしていきます。詳細な血液検査など適切な検査(※血液検査の意義① 血液検査の意義② 血液検査の意義③ 血液検査の意義④)を通して今の自分の状態をしっかりと把握し、その上で免疫細胞の材料となるタンパク質を基本とした、ビタミン・ミネラル(※5大栄養素(概論))などの補給を医師とともに考えます。

免疫とタンパク質

分子栄養学の免疫対策を考える上で、タンパク質(※5大栄養素(概論)※食事の基本)は基本中の基本の栄養素です。血液検査項目の1つである血清タンパク質アルブミンは、栄養素や薬を運んでくれるトラックの役割をします(※血液・尿検査の意義①「基本検査K-01 Ⓐ血清タンパク」)。細胞の正常な増殖・分化※1に関わる栄養素、ビタミンAもタンパク質(レチノール結合タンパク質)にくるまれて運ばれます。

免疫の主体である白血球はタンパク質でできています。細菌感染の現場に好中球(※免疫を司る白血球「白血球の仲間たちの基礎」)が素早く集まって闘えば、それを補うために骨髄で産生が増やされます。ウイルス感染時の要となるリンパ球(※免疫を司る白血球「白血球の仲間たちの基礎」)は、刺激を受けると分裂して仲間をたくさん増やします。細胞はタンパク質でできているため、免疫細胞が増殖するときには、その分、より適切な量のタンパク質が必要になるということです。形質細胞が作り出す抗体(※免疫を司る白血球「白血球の仲間たちの基礎」)もタンパク質でできています。

ただし、身体にとっていちばん大切なのは生きていくエネルギー(カロリー)であるため、全体としての総エネルギーが不足してしまうと、身体は筋肉を削ってまでもエネルギーを作って生きようとします(※5大栄養素(概論))。摂ったタンパク質を有効利用するために、良質な脂質・適正な糖質でエネルギー量を確保し、1日3食しっかりとした食事を摂ることをお勧めしています(※食事の基本)。

グルタミン

消化管※2粘膜はバリアの働きをしています(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)。特に腸管は体内で最大の免疫器官で、その粘膜には免疫細胞が多く存在しています。アミノ酸の一種であるグルタミンは、小腸粘膜細胞や免疫細胞(※免疫を司る白血球「白血球の仲間たちの基礎」)のエネルギー源です。感染時には免疫細胞が爆発的に増えて免疫機能を増大させるため、免疫細胞のエネルギーの必要量が急増します。また、グルタミンが足りないと、腸の粘膜がエネルギー不足で萎縮してしまう恐れがあります。そしてその結果、腸の中にある細菌や毒素が腸のバリアを破って体内に侵入してしまうバクテリアルトランスロケーション(bacterial translocation)という現象を起こし、全身の炎症反応などを起こすことが懸念されます。グルタミンは、準必須アミノ酸と呼ばれ、体内で合成されますが、ストレスや病気などで足りなくなる時には必ず体外から摂る必要のあるアミノ酸です。

ビタミンC

免疫の主体である白血球にはたくさんのビタミンCが存在することが示されています(※エンジオール基は世界を救う「ビタミンCの底力」)。白血球は、病原体が入ってきたらそれをいち早く感知して、感染した部位に速やかに移動(遊走)し貪食(※免疫を司る白血球「白血球の仲間たちの基礎」)したりして闘ってくれます。その遊走能にビタミンCが関与していることが示されています※3。また、ビタミンCが存在することで白血球の免疫増強作用が示されています※3※4。 また、白血球がウイルスなどをやっつける際には活性酸素がたくさん発生します。しかし敵をやっつけるために長くそこに留まっていたら、その活性酸素で周りの健全な細胞まで次々と傷つけてしまいかねません。そこで至適量のビタミンCを摂ることは、過剰な活性酸素の被害から身体を守る役割が考えられています※5。新型コロナウイルス患者の重症者では、ビタミンC血中濃度が低下していることが示されています※6※7

さまざまな抗酸化栄養素と抗酸化ネットワーク

炎症(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)の場で活性酸素を消去するためにラジカルとなったビタミンCラジカル(※エンジオール基は世界を救う「ビタミンCの底力」)は、αリポ酸やグルタチオンによってリサイクルされ、また働ける形に戻ります(還元)。そして酸化(※エンジオール基は世界を救う「ビタミンCの底力」)されたαリポ酸、グルタチオンを還元してくれるのが、ナイアシンです。ビタミンEもビタミンCをリサイクルして、また働けるようにしてくれます。感染症の病原体を退治する現場ではたくさんの活性酸素が発生するため、分子栄養学では、感染時には至適量(※ビタミン(総論))のビタミンC、ビタミンE、αリポ酸、グルタチオン、ナイアシンなど、総合的な抗酸化ネットワークの力で酸化ストレスの被害から身体を守ることをお勧めしています。

プレバイオティクス・プロバイオティクス:腸管免疫パイエル板

腸内環境を整えることは身体の免疫をアップする効果的な手法のひとつです。腸には全体の6~7割の免疫細胞が存在しており、腸は病原体から自分を守る最大の免疫器官として私たちを守ってくれています。

外から口を通ってやってくる病原体は、まず唾液や胃の中の胃酸によって退治されます。唾液や胃酸は、食べものを消化するだけでなく、殺菌の役目もしています。しかしその中をくぐり抜け、腸まで到達してしまうものもいて、腸は口から肛門までの長い1本の管である消化管※2において最大の砦となります。胃から続く腸の部分を小腸といい、小腸には「パイエル板」という、粘膜※8の真下にある袋状の構造(リンパ組織)があります。パイエル板には、大量のT細胞、B細胞、樹状細胞など(※免疫を司る白血球「白血球の仲間たちの基礎」)が大集合していて、絶えずやってくる敵に負けないように備えています。腸管の粘膜上皮細胞の間に、パイエル板の屋根のようになっているM細胞という特殊な細胞があって、やってきた敵(抗原)をとり込み、その情報を樹状細胞などが抗原提示して(※免疫を司る白血球「白血球の仲間たちの基礎」)、T細胞やB細胞が活性化します。その結果、B細胞は形質細胞となり、大量の抗体IgA(免疫グロブリンA)を作りだして粘膜を覆う粘液の中に送りこまれます。このIgAが粘膜における重要な要となり、敵の侵入を阻止します。

このほかにも、腸内の有用菌がプレバイオティクスをぱくぱく食べることで作り出す短鎖脂肪酸(酪酸など)が腸内を酸性に保つことで、まずウェルシュ菌などの有害菌の繁殖を抑えます。短鎖脂肪酸は、腸粘膜を整え※9、炎症を抑制し※10、免疫機能の調整をして※11 全身の健康状態に関わっているといわれています(※年末年始に向けた正しい身体づくり「脂肪肝対策②)。腸の常在細菌の存在が腸の免疫組織の正常な発達に関わっていることが明らかになっており、腸を整えることは、免疫細胞を活性化し、ひいては全身そのものの免疫を正常化、活性化する可能性に繋がります。自分の腸に合ったプレバイオティクス(オリゴ糖、水溶性食物繊維など)、プロバイオティクス(乳酸菌や酪酸菌など)、グルタミンなどを摂ることをお勧めしています。よく噛んで食べることも、より良い消化につながり、腸内環境整備に役立ちます。

次回は、免疫とビタミンD、ビタミンA、鉄、亜鉛、ビタミンB群などについてお伝えします(※分子栄養学における免疫と栄養素の基本対策②)。

※1 分化
生物学では、細胞の機能や形態などが特殊化して発達していくことを分化といいます。

※2 消化管
消化管とは、食べものを消化・吸収する管の全体を指します。口からのど、食道、胃、小腸、大腸、肛門までの1本の管のことです。

※3 Carr A.C.,et al. Vitamin C and Immune Function. Nutrients, 9(11): 1211.(2017)

※4 村田晃、化学と生物、1983,21.pp145-147。

※5 Halliwell B.,et al. Biologically significant scavenging of the myeloperoxidase-derived oxidant hypochlorous acid by ascorbic acid. Implications for antioxidant protection in the inflamed rheumatoid joint. FEBS Lett, 213(1):15-17.(1987)

※6  Arvinte C.,et al. Serum Levels of Vitamin C and Vitamin D in a Cohort of Critically Ill COVID-19 Patients of a North American Community Hospital Intensive Care Unit in May 2020: A Pilot Study. Medicine in Drug Discovery, 8:100064.(2020)

※7  Chiscano-Camón L.,et al. Vitamin C levels in patients with SARS-CoV-2-associated acute respiratory distress syndrome. Critical Care,24:522.(2020)

※8 粘膜
粘膜は目、鼻、口の中、胃腸、泌尿器、生殖器など、いつも粘液などで潤っている、とても広い組織です。粘膜は、一層の粘膜上皮細胞という細胞の層と、それを覆うぬるぬるした粘液、粘膜上皮細胞層の下に続く粘膜固有層とよばれる層などで構成されています。(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)

※9  Kelly C. J.,et al. Crosstalk between Microbiota-Derived Short-Chain Fatty Acids and Intestinal Epithelial HIF Augments Tissue Barrier Function. Cell Host Microbe. 17(5) :662-671.(2015)

※10  Nastasi C., et al. The effect of short-chain fatty acids on human monocyte-derived dendritic cells. Scientific Reports,5: 16148. (2015)

※11  Kim M., et al. Gut Microbial Metabolites Fuel Host Antibody Responses. Cell Host Microbe, 20(2):202-214.(2016)

RELATED

PAGE TOP