スポーツにも!エネルギーのための分子栄養学的必須栄養素「解糖系と乳酸とナイアシン・マグネシウム」
<今回のポイント>
人が激しい運動を行うときや、赤血球が働くためのエネルギー(ATP)産生は、解糖系というエネルギー代謝経路から供給されます。
解糖系を支える栄養素としてはマグネシウム、ナイアシン、ビオチンが重要です。
今回は解糖系の仕組みと栄養素について、一緒に学んでいきましょう。
涼しくなってきたらスポーツの秋!スポーツをするにも、私たちが生きる上で必須のエネルギーは、ATP(アデノシン三リン酸、adenosine triphosphate)という乾電池のような分子(※分子栄養学とは②、※分子栄養学とは③)に貯められます(※エネルギーをつくるための栄養素「マグネシウム、ビタミンB群、CoQ10、鉄」)。
激しい運動で酸素によるエネルギー供給が間に合わないときや、エネルギー工場「ミトコンドリア」をもたない赤血球では、解糖系というエネルギー代謝経路を使ってATPを供給します。解糖系で必要な栄養素は、マグネシウムとナイアシンです。酸素を使わない解糖系では、乳酸を作って解糖系の反応を繰り返し、ATPを作ります。そして乳酸はまた酵素とナイアシン・マグネシウム・ビオチンの働きでエネルギー源に戻ります。分子栄養学では、ビタミンB群は一緒に摂ることをお勧めしていますが、今回は、特に解糖系における乳酸とナイアシン・マグネシウム・ビオチンと酵素についてお届けします。
有酸素運動:酸素があるときはミトコンドリアがフル回転:最大38個のATPを産生
酸素があるとき、効率的なATP産生がひとつひとつの細胞の中にあるエネルギー工場「ミトコンドリア」でせっせと行われています。解糖系では {マグネシウム、ナイアシン}、クエン酸回路では {ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、α-リポ酸、パントテン酸}、電子伝達系では {CoQ10、鉄} の栄養素の力を借り、この一連の3つの代謝経路で、1分子のグルコース(ブドウ糖)からたくさんのATP(合計最大38個)が効率よく産生されます(※エネルギーをつくるための栄養素「マグネシウム、ビタミンB群、CoQ10、鉄」)。有酸素運動では、このエネルギーが利用されます。
クエン酸回路は酸素がないと止まってしまう
しかし、大量のATPを産生できるクエン酸回路と電子伝達系は、酸素が十分にあるときにだけ進むことのできるエネルギー代謝経路です。もともとクエン酸回路は酸素を使いませんが、酸素がなくなると止まってしまいます※1。そんなとき、ATP産生は解糖系を使ってエネルギーを作ります。
解糖系は酸素を使わないエネルギー代謝経路
解糖系は単独で、酸素がない、もしくは酸素が足りないときのエネルギー代謝経路としてATPを供給します。1分子(※分子栄養学とは②、※分子栄養学とは③)のグルコース※2から10種類の酵素の力を借り、2個のATPが作られます。この経路で活躍する栄養素が、マグネシウム(ホスホフルクトキナーゼ、ピルビン酸キナーゼの補因子(※分子栄養学とは⑦-3)など)、ナイアシン(NAD※3)です。
解糖系では、酸素があるときはピルビン酸とATP、酸素がないときは乳酸とATPが最終産物として作られます。
解糖系のフル回転に大活躍:乳酸脱水素酵素(LDH)とナイアシン(NAD)
酸素が足りないとき、ピルビン酸はクエン酸回路に進まず、乳酸に変わります。この変換に乳酸脱水素酵素(LDH:Lactate Dehydrogenase、以下LDH)、その補酵素としてナイアシン(NAD※3)が必要です。
筋肉のように活発に解糖系が進んでエネルギーを得る細胞では、酸素が足りないと乳酸が溜まります。溜まった乳酸は、血液に乗って肝臓まで運ばれ、肝臓でLDHとナイアシン(NAD※3)の力を借りて再びピルビン酸になり、補酵素・補因子として働くビオチン※4、マグネシウム※5、ナイアシン(NAD※3)※6の力を借りながら、複数の酵素によって最終的にグルコースに戻されます(糖新生)。そしてまたエネルギー源のグルコース(血糖)として血液に乗って身体の中を運ばれていきます。このグルコースと乳酸の体内循環をコリ(Cori)回路といいます。
解糖系にフル回転し続けてもらうために、栄養素としてLDHの補酵素、ナイアシン(NAD※3)、その他にもビオチン、マグネシウムが必要です。LDHは、KYBグループの勧める詳細な血液検査の項目のひとつです。全身の細胞に存在しますが、特に肝臓・心臓・筋肉・赤血球に多く存在します(※血液・尿検査の意義②)。
激しい運動時にスピーディーにATPを賄う解糖系
激しい運動などでは、酸素を使って回すクエン酸回路・電子伝達系は反応経路が長く、時間がかかり過ぎるため、ATPの供給が間に合いません。そこで、筋肉ではATP-Cp系という経路も存在しますが、そのほか、解糖系がフル回転してATPを作り、エネルギーを供給します。解糖系のエネルギー供給の限界時間は、約33秒間とみなされています。
赤血球は酸素を使わずに解糖系で自分のATPを作る
効率的なATP産生(クエン酸回路と電子伝達系)に必要な酸素を運ぶトラックの役割をしてくれる赤血球。赤血球の中にはミトコンドリアは存在しないため、自分が働くためのエネルギーは、酸素を使わずに解糖系をフル回転してATPを産生し、そのエネルギーを使って仕事をしています。赤血球にとって解糖系に関わるLDH、マグネシウムとナイアシン(NAD※3)は必須です。
まとめ:酸素を使わないエネルギー代謝はマグネシウムとナイアシンが必須
激しい運動で酸素によるエネルギー供給が間に合わないときや、ミトコンドリアをもたない赤血球では、解糖系というエネルギー代謝経路を使ってATPを得ます。解糖系で必要な栄養素は、マグネシウムとナイアシン(NAD※3)です。酸素を使わない解糖系では、乳酸を作って解糖系の反応を繰り返し、ATPを作ります。そして乳酸はまた酵素(LDH)とナイアシン(NAD※3)、さらにほかの酵素とナイアシン(NAD※3)、マグネシウム、ビオチンの助けを借りてエネルギー源に戻ります。
ATP産生のためにはマグネシウム、ビタミンB群、α-リポ酸、CoQ10、鉄を一緒に
酸素を使ったミトコンドリアでのエネルギーをつくるための栄養素(マグネシウム、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、α-リポ酸、パントテン酸、CoQ10、鉄)(※エネルギーをつくるための栄養素「マグネシウム、ビタミンB群、CoQ10、鉄」)とともに、乳酸をナイアシン(NAD※3)、マグネシウム、ビオチンの力で再びエネルギー源に戻すことは、疲労を防ぐ上で重要なことです。
分子栄養学(※分子栄養学とは①、※分子栄養学の歴史①)では、ビタミンB群はオーケストラのようにお互いに協力し合って働くため、ナイアシンだけでなく、ビタミンB群(※ビタミン(総論))を一緒に摂取することをお勧めしています。食べたものや乳酸から無駄なくATPを獲得し、ぜひ至適量の栄養素(※分子栄養学の歴史①)で疲れ知らずの身体作りを目指しましょう。
エネルギーをつくる栄養素を多く含む食品
※1 三上貴浩.『コアカリ準拠 Dr.ミカミの動画で学ぶ基礎医学-生命科学編』.医学書院.p217. (2021) ※2 グルコースは、食べた糖質が消化された一番小さな単位分子のことです。タンパク質の一部(糖原性アミノ酸)はビタミンB6の力を借りてグルコースになることもできます(糖新生)。 ※3 補酵素型を示しています。 ※4 ピルビン酸カルボキシラーゼの補酵素です。 ※5 エノラーゼの補因子として反応に必要です。 ※6 グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼの補酵素です。