血液・尿検査の意義④「基本検査K-01 Ⓔ 血球」
分子栄養学(※分子栄養学とは①、分子栄養学の歴史① )の基本ツールとして利用されるのが血液と尿の検査セット「K-01」です(※分子栄養学の歴史③、血液検査の意義①、血液検査の意義②、血液検査の意義③、血液検査の意義④ )。69項目の詳細な血液・尿検査項目を、関連する項目ごとに簡単に記述しています。(※血液・尿検査の意義①、血液・尿検査の意義②、血液・尿検査の意義③ )
今回は第4回、Ⓔ 血球 に関連する項目についてです。
Ⓔ 血球
こちらの項目では、貧血、骨髄抑制※1、炎症、感染症(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)はないかを確認します。
血球とは、血液から水分(血漿)を除いた、赤血球、白血球、血小板などの、血漿の中に浮いている細胞成分のことです。全血球の容積は、血液全体の45%くらいを占めています。
赤血球は酸素を運ぶ
赤血球は、血球の中でいちばん多い細胞です。呼吸して取り込んだ酸素を身体のすみずみまで運ぶトラックの役割をしてくれています。運ばれた先では、その酸素を利用してエネルギーをつくり、そのエネルギーを使うことで細胞はさまざまな活動ができ、そのおかげで私たちは生きることができています。
血球関連の項目では、その酸素を全身に送り届けるという重大な任務を担う赤血球が、適正な大きさでしっかりした材料とともに作られているかどうかを推測することができます。健康な赤血球は約120日で寿命を終え、新しい赤血球と入れ替わります。骨髄では、1秒間に何百万個もの新しい赤血球が作られています。
酸素不足は体調不良につながります
酸素が十分に運ばれないと身体は効率的にエネルギーを作ることができず、酸素の供給が止まれば、私たちは生きていくことができません。酸素不足はさまざまな体調不良につながります。
貧血と赤血球数、ヘモグロビン
酸素が十分に運ばれない原因のひとつが貧血です。WHOの定義によれば、赤血球数が少ないか、ヘモグロビンの量が少ない状態を貧血といいます。貧血では、顔色が悪い、疲れやすい、めまい、動悸、息切れ、頭痛、集中力の低下など、さまざまな症状が現れます。酸素は赤血球が運びますが、分子レベルでみてみると、その中のヘモグロビンというタンパク質にくっついて運ばれます。適正な大きさの一つひとつの赤血球の中にヘモグロビンがしっかりあることで、酸素を十分に運べるようになります。
一般には、ヘモグロビンは赤血球数、ヘマトクリットなどとともに貧血の指標とされています。分子栄養学では、さらに赤血球産生の材料に関わる項目(タンパク質関連、ビタミンB6に関連する項目(AST(GOT)、ALT(GPT)(※血液・尿検査の意義②(酵素))、血清鉄、不飽和鉄結合能(UIBC)、血清フェリチン、血清亜鉛など)、溶血※2を推測する項目(LDH(※血液・尿検査の意義②(酵素))、間接ビリルビン(※血液・尿検査の意義⑤(ビリルビン)など )なども一緒に判断することを重要視しています。また、貧血になる前の血清フェリチン値(※血液・尿検査の意義⑤(ミネラル・VD))の低下を特に重要視しています。
反対に、赤血球数が多すぎると血栓症のリスクが高くなります。そのため、赤血球の数はいつも適量になるように身体が敏感に調節しています。
貧血の原因
貧血の原因として、ヘモグロビンの構成要素である鉄不足が有名ですが、その他にも赤血球を作るための栄養素の不足(鉄、亜鉛、ビタミンA、ビタミンB群(B6、B12、葉酸)など)、出血(出産、過多月経、外傷、胃潰瘍、がんなど)が原因として挙げられます。また、赤血球が壊れやすい病気や状態(免疫※3の異常、激しい運動など)、血液を作る機能の低下(骨髄抑制)など、他のさまざまな要因によっても起こります。
ヘマトクリット
ヘマトクリットは、血液に対する血球の割合を示す値です。100mlの血液があったら、その何%が血球で占められるか、ということです。正しくは血球全体(赤血球、白血球、血小板)の割合を指しますが、そのほとんどを赤血球で占められているため、実際には赤血球の容積比として考えられています。高すぎる、つまり血球の部分が多すぎれば脱水や多血症、低すぎれば貧血を疑います。
MCV、MCH、MCHC
MCV(平均赤血球容積)、MCH(平均赤血球ヘモグロビン量)、MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)は、赤血球のプロフィールと考えてください。これらをまとめて赤血球恒数といい、これらを組み合わせて考えることで、貧血の種類を判断する材料とします。
MCVは1つの赤血球の大きさ(容積)の平均値を表し、これによって貧血は大球性貧血、小球性貧血、正球性貧血の3つに分類されます。赤血球が大きくなりすぎれば、血液の通り道である細い血管(毛細血管)を通りにくくなり、赤血球が小さすぎれば酸素を十分にトラック(赤血球)に乗せることができず、全身にうまく酸素を運ぶことができません。
大球性貧血の原因としては、ビタミンB12・葉酸欠乏によるもの、骨髄機能抑制によるものなどがあります。小球性貧血になる原因としては主に鉄欠乏によるもの(鉄欠乏性貧血)、その他に炎症によるものなどがあり、鉄欠乏性貧血ではその病態が進むほどMCVの値は低下します。正球性貧血は溶血性貧血、再生不良性貧血、白血病などで起こります。
貧血の原因として鉄欠乏にビタミンB12・葉酸欠乏などが一緒に存在すると、赤血球が大小不揃いとなり、その平均値を示すMCVは現状を反映しません。
MCHCは、1個の赤血球に含まれるヘモグロビン濃度の平均を表します。MCHC低値は、重度の鉄欠乏性貧血でみられます。
網状赤血球
血球は骨(肋骨、胸骨、肩甲骨など)の骨髄※1で作られます。網状赤血球は、その骨髄から出たばかりの若い赤血球のことです。赤血球がたくさん壊れてしまったり(溶血亢進)、貧血の回復期などに上昇し、骨髄抑制や低栄養で低下します。
白血球は身体を守り続ける免疫細胞
白血球は、免疫(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)に関わる細胞で、好中球、好酸球、好塩基球、単球、リンパ球の5種類に分けられます(※免疫を司る白血球「白血球の仲間たちの基礎」)。免疫とは、外から入ってくる、人にとって有害なものとそうでないものを判別して、有害なものを排除し、自分を守ってくれる仕組みのことです。このとき重要な役割をしてくれるのが白血球です。身体の中に入ってしまったばい菌(病原体)やがん細胞などを排除してくれます。炎症、ストレス、感染症、アレルギー反応などで白血球の種類のバランスが変わり、私たちに免疫の状態を知らせてくれます。
血小板
血小板は、止血を仕事としています。破れた血管などにすぐにくっついて、応急処置をしてくれます。炎症や鉄欠乏性貧血で上昇します。15万/μL未満は、血小板減少症を疑います。
<血球に関する検査項目>
WBC(白血球数)、RBC(赤血球数)、Hb(ヘモグロビン)、Ht(ヘマトクリット)、MCV(平均赤血球容積)、MCH(平均赤血球ヘモグロビン量)、MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)、PLT(血小板数)、Ret(網状赤血球)、白血球像 { Eo(好酸球)、B(好塩基球)、M(単球)、Ly(リンパ球)}(※免疫を司る白血球「白血球の仲間たちの基礎」)
※1 骨髄抑制とは 骨髄は、骨の内側、中心部にある柔らかい部分のことで、血液細胞(赤血球、白血球、血小板)を新しく作って血液中に送り出す、という働きをしています。これを造血機能といいます。骨髄抑制とは、何らかの理由によって骨髄での造血機能が低下する、つまり血液細胞がうまく作られなくなってしまう状態のことです。骨髄抑制により赤血球が減ると貧血、白血球が減ると免疫の低下、血小板が減ると出血傾向など、さまざまな問題につながります。骨髄抑制は、低栄養、造血幹細胞(血液細胞のもととなる細胞)の異常、がんの骨髄浸潤などで起こります。 ※2 溶血とは 溶血とは、赤血球が壊れて、中に入っているヘモグロビンが血液中に出てしまうことを指します。 ※3 免疫とは 免疫とは、外から入ってくる、人にとって有害なものとそうでないものを判別して、有害なものを排除しようとする、身体に備わるしくみです。自分を “非自己(自分でないもの)” から守ります。(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)