The Orthomolecular Times

2024.12.23 分子栄養学と免疫の栄養素「ビタミン・ミネラル補給と冬の感染症・免疫対策」

ヘルシーエイジング

若い血管を取り戻すための分子栄養学「血管内皮細胞のターンオーバー」

内皮細胞は、皮ふと同じように代謝回転(ターンオーバー)して新しく生まれ変わる

血管の内側、内膜をつくる血管内皮細胞(以下、内皮細胞)は、皮ふと同じように代謝回転(ターンオーバー。以下、代謝回転)※2して古いものが新しく生まれ変わり、それによって血管はいつもメンテナンスされています※1。ぜひ今から自分のステージでの血管の若さを取り戻しましょう。

内皮細胞は修復できる!

内皮細胞が傷いた結果、内皮細胞の老化が起こります※3。老化した内皮細胞は、脳血管疾患、心血管疾患や糖尿病などの病気や老化の原因となることが明らかになってきています(※血管内皮細胞が老化するとどうなるの?)。しかし、傷ついた内皮細胞がすべて老化してしまうかというと、そうではありません。

2023年に発表された論文では、「傷の種類や重症度、どのくらいの期間傷ついていたかによって、どんな分子が反応するかが決まり、老化するか、修復に向かうかが決まります。受けた傷の程度が軽ければ修復に向かいます。修復への反応が遅れてしまったり、修復できないほどの大きな傷だったり、傷つく期間が長かったりする場合に、内皮細胞は老化します。老化するストレスよりもさらに大きなストレスで傷つきすぎた細胞は自分を自ら処理する道(アポトーシス。細胞のプログラムにもともと組み込まれている自然死のひとつ※4※5を選びます。

人が若いころには、この傷ついた細胞を処理するシステムのバランスがとれています。しかし、高齢になり歳を重ねたり、病気になると、内皮細胞が過剰に傷ついたり、免疫がうまく働かなかったりして、傷ついた内皮細胞の除去のバランスが崩れ、老化した内皮細胞がたまってしまいます」と書かれています※6

軽度に傷ついた内皮細胞は、修復可能です。

内皮細胞が適切に代謝回転され続けることが、血管の修復と血管の再生にとって大切

2024年に発表された論文では、マウスの大動脈の内皮細胞の約3%が1か月の間に生体恒常性(ホメオスタシス)※7を保った状態で新しく代謝回転していることが示されたという報告があります※8。同じ論文(要約)の中では、「しっかりと体内で内皮細胞が新しく健全に生まれ変わり、内皮細胞が適切に代謝回転され続けることが、血管の修復、そして血管の再生にとって大切である」旨がまず述べられています※8

細胞の正しい代謝回転を大切にするのは、分子栄養学の得意分野です。(※動脈や血管とは何かについては ※若々しい血管のカギ!血管の内側「血管内皮細胞」のお話 、内皮細胞の寿命については ※血管内皮細胞が老化するとどうなるの? 、代謝回転の意味については ※分子栄養学とは⑤ 「代謝=異化×同化」、タンパク質の代謝回転については※必ず摂る必要がある必須栄養素「タンパク質」をご覧ください。)

適切な量のオメガ3脂肪酸(EPA・DHA)で内皮細胞の老化を防ぐ!

魚油由来のオメガ3脂肪酸(EPA・DHA)は心血管疾患との関連が注目され、適切な量の摂取がお勧めされています※9、※10。その機序として、抗炎症作用、そして炎症が減ることによる酸化ストレスの軽減が、内皮細胞の機能を改善し、内皮細胞の老化へのスピードを遅くすることが報告されています※9

内皮細胞の中にはミトコンドリア(エネルギー工場)があり、その活動とともに必ず活性酸素(ROS :Reactive oxygen species)ができてしまいます。活性酸素は、過剰なストレスやたばこ、高血糖などでも簡単にできてしまいます。

適度な活性酸素は正常な生体システムを維持するのに必要ですが、過剰な活性酸素による酸化ストレスは、内皮細胞の老化の原因のひとつとして考えられています※6、※11

内皮細胞の老化に関わる要因として、DNAの損傷、テロメアの短縮※12、がん遺伝子の活発化、酸化ストレスなどが考えられていますが※13、過剰な活性酸素による酸化ストレスは、DNAの損傷、テロメアの寿命の短縮にも関わるといわれます※6

魚油由来のオメガ3脂肪酸(EPA・DHA)が抗酸化物質を誘導して活性酸素を減らすことで※14、内皮細胞の酸化ストレスによるDNA損傷が軽減されることが示され、その効果によって内皮細胞を守る1つの方法となるのではないかと提案されています※9。EPA・DHAは、マウスの大動脈の内皮細胞において、その活性酸素を除去する細胞内の抗酸化酵素(MnSOD)※15の産生を増やすことが示されています※9。同じ論文中では、EPA・DHAは、活性酸素によるテロメアの寿命の短縮を阻害する効果も示され、それによって内皮細胞が老化するスピードを遅くする可能性も示されています※9

オメガ3脂肪酸とは何かの基礎については※分子栄養学的な抗炎症対策には毎日のEPA・DHA摂取を!、オメガ3とオメガ6脂肪酸のバランスについては ※EPA・DHAの効果を上げる:分子栄養学的に考える適切なオメガ6(n-6系)量とは?、日本人とオメガ3脂肪酸の研究は※「日本人に関する研究」オメガ3:オメガ6 をご覧ください。分子栄養学では、内皮細胞を守る栄養素対策のひとつとして、オメガ6脂肪酸摂取量を適量に戻し、毎日のオメガ3脂肪酸の適量摂取で、細胞膜の脂質をより良いものに代え、効果的な抗炎症作用をねらいます。

分子栄養学では、内皮細胞の代謝回転(ターンオーバー)のための十分な栄養素摂取をご提案

分子栄養学では、私たちの身体の中に正常にあるべき分子(※分子栄養学とは②,※分子栄養学とは③)を至適濃度に保つ十分量の栄養素を摂取・消化・吸収・代謝することによって、生体内の細胞が適切に働き、それぞれの特性に合った適切なスピードで代謝回転することを治療法の基礎として大切に考えています。

そしてその栄養素の摂取量は、詳細な血液検査による科学的・客観的な数値を、医師が行う詳細な問診とともに個体差の指標として大切にアプローチします。分子栄養学の考える個体差については ※分子栄養学とは⑥、詳細な血液検査の意義については ※血液検査の意義①②③④ をご覧ください。

生まれ変わる細胞のための基本栄養素として、タンパク質、オメガ3脂肪酸などの良質な脂質、そのタンパク質や脂質がしっかりと代謝されるためのビタミンB群、内皮細胞として正しく分化するためのビタミンAなどが挙げられます。(※細胞の分化とビタミンAの関係については、※分子栄養学の栄養素:ビタミンAを知る② をご覧ください。)

病気や加齢では内皮前駆細胞の働き(機能)や数が低下

今現在、内皮細胞の代謝回転に重要な役割を果たすと考えられている細胞には、内皮前駆細胞(endothelial progenitor cells:EPC)※16と血管内皮幹細胞 (VESC)があります※1。内皮細胞の代謝回転のシステムはまだすべてが解明されたわけではありませんが、内皮前駆細胞に関しては、その数と質が内皮細胞の生まれ変わりに重要であると考えられています※17、※29。冠動脈疾患、高血圧、心不全、糖尿病などの患者さんでは内皮前駆細胞の働き(機能)や数などが低下※29、※30、高齢者では加齢によって内皮前駆細胞の働き(機能)や数などが低下※18、マウスの研究では加齢によって血管内皮幹細胞が内皮細胞に生まれ変わる能力が低下するという報告があります※19

慢性炎症が内皮細胞の正常な生まれ変わりに悪影響を及ぼす?

高齢になると、加齢に伴う免疫システムの老化(免疫老化)、常に軽い炎症が起こり続ける慢性炎症の状態であることも知られています※18、※20。慢性炎症と過剰な炎症性サイトカインは、内皮細胞の正常な生まれ変わりに悪影響を及ぼすのではないかとする意見があります※18、※21

高血圧、喫煙、糖尿病、運動不足、加齢などによる内皮前駆細胞の働き(機能)や数の低下が指摘され、それらの原因として根底にある過剰な酸化ストレスと過剰な炎症が悪影響を及ぼしているのではないかと考える文献もあります※29

身体を守ろうと免疫反応が起こった結果、炎症が起こります。いつまでも自分を守ってくれる適切な免疫であってもらえるように、生活習慣を整え、分子栄養学の考える栄養素による免疫対策※分子栄養学における免疫と栄養素の基本対策①※免疫と栄養素の基本対策②で、身体を整えていきましょう。

内皮細胞のエネルギー作り:解糖系とミトコンドリアATP産生の栄養素

長い間、動脈と静脈の内皮細胞のエネルギー産生は、解糖系をメインに行われると考えられていましたが※22、2023年に発表された論文では、内皮細胞のミトコンドリアでのエネルギー産生を阻害すると、血管の働きの一部(血管の伸び縮みのコントロール)が阻害されてしまうとの報告が出ています※23。同じ論文の中では、ミトコンドリア機能を適切に保つことが、内皮細胞の働き(機能)の低下を防ぎ、血管内皮機能障害を改善するための効果的な手段となる可能性が指摘されています※23

内皮細胞がしっかりと働き、必要に応じていつでも代謝回転できる状態を保つために、しっかりしたエネルギー産生が必要です。エネルギー産生の代謝経路、解糖系については※エネルギーのための分子栄養学的必須栄養素「解糖系と乳酸とナイアシン・マグネシウム」、ミトコンドリアでのエネルギー産生については ※エネルギーをつくるための必須栄養素「マグネシウム、ビタミンB群、CoQ10、鉄」、エネルギー産生のための赤血球については ※貧血:赤血球・ヘモグロビン不足はATP・エネルギー不足を招く分子栄養学の重大問題をご覧ください。

分子栄養学的生活習慣を整えて内皮細胞の老化を防ぐ

内皮細胞の老化に関わる要因として、DNAの損傷(DNAとは、)、テロメアの寿命が短くなること、がん遺伝子の活発化などが考えられています※13

血管、内皮細胞を傷つける原因のひとつとしてDNAを傷つけ、テロメアの寿命を短くすると考えられている酸化ストレス。今回の記事ではオメガ3脂肪酸についてスポットを当てていますが、それ以外の酸化ストレスを減らす生活習慣のコツとして、たばこ※24、高血糖※24、※25、高血圧※24、暴飲暴食※24、過剰なストレス、感染症などによる炎症※17、※24、運動不足※25などへの対策があります。内皮細胞を傷つけるストレスが大きすぎる場合には、細胞が老化したりアポトーシスを起こしてしまうため、傷つける要因を取り除くのは血管を守る大事な対策となります。

分子栄養学的抗酸化栄養素ネットワークで酸化ストレス対策のご提案

喫煙、高血圧、高血糖などによる過剰な活性酸素を抗酸化栄養素(ビタミンC、ビタミンE※31)で消去することで、内皮細胞の機能を改善し、それによって心血管疾患を減らそうという報告※17、ビタミンC、ビタミンE、β-カロテンが内皮機能に有効との報告※25も出ています。また、細胞内の抗酸化酵素(カタラーゼ、SOD)にしっかりと働いてもらおうという考えも報告されています※17

分子栄養学では、上記の抗酸化栄養素対策として、至適量のビタミンC、ビタミンEなどの抗酸化栄養素ネットワーク、カタラーゼの補因子としての鉄、SODの補因子としての亜鉛、銅、マンガンの至適量の補給を考えます。分子栄養学の考える抗酸化栄養素ネットワークについては※エンジオール基が世界を救う「ビタミンCの底力」をご覧ください。

血管を守ることは全身の健康につながります。適度な運動も内皮細胞の働きを改善することが示されています※25、※26、※27、※28。分子栄養学的栄養素アプローチと健康な生活習慣で元気な血管を維持し、元気な100年時代を目指しましょう。禁煙をはじめ、適度な運動、適切な食事、ライフスタイルの改善が、健康な内皮細胞への最初の第一歩です※24

※1 Wakabayashi, T.,et al. CD157 Marks Tissue-Resident Endothelial Stem Cells with Homeostatic and Regenerative Properties. Cell Stem Cell, 22(3):384-397.e6.(2018)

※2 私たちの身体において、“生きていると認められるいちばん小さな単位”である細胞を構成する成分は、一見ほぼ変化がないように見えますが、実は多くの分子が合成と分解を繰り返して絶えず入れ替わるということをしています。これを代謝回転(ターンオーバー。metabolic turnover)といいます。詳しくは ※分子栄養学とは⑤ をご覧ください。

※3 Xu, J.,et al. Molecular insights and therapeutic targets for diabetic endothelial dysfunction. Circulation, 120(13):1266-1286.(2009)

※4 アポトーシスは、組織に害を及ぼしたり、要らなくなった細胞を除去することで、組織の生体恒常性(ホメオスタシス)を維持することに役立っています。

※5 北中 千史. 「Non-apoptotic プログラム細胞死: アポトーシスとは形態・制御機構を 異にするプログラム細胞死の存在と意義について」山形医学, 23(1):83-96.(2005)

※6 Bloom, SI.,et al.  Mechanisms and consequences of endothelial cell senescence. Nature Reviews Cardiology,  20(1): 38-51.(2023)。

※7 生体恒常性(ホメオスタシス)とは、身体の外や中からの変化(寒い暑いなどの環境や、ウイルスなどからの攻撃)にかかわらず、私たちの身体(体温、血液量、免疫など)を一定の状態に保とうとする働きのことです。

※8 Li,Y.,et al. Dynamics of Endothelial Cell Generation and Turnover in Arteries During Homeostasis and Diseases. Circulation, 149(2):135-154.(2024)

※9 Sakai, C.,et al. Fish oil omega-3 polyunsaturated fatty acids attenuate oxidative stress-induced DNA damage in vascular endothelial cells. PLoS One, 12(11): e0187934.(2017)

※10 Mozaffarian, D.,et al. Omega-3 fatty acids and cardiovascular disease: effects on risk factors, molecular pathways, and clinical events. Journal of the American College of Cardiology, 58(20):2047-2067.(2011)

※11 体内で産生される活性酸素やフリーラジカルが、自分がもつそれらを消去する能力を超えて過剰となり、酸化が進む状態(身体の中で酸化と還元のバランスが崩れた状態)を酸化ストレスと呼びます。酸化ストレスの正しい説明は、※エンジオール基が世界を救う「ビタミンCの底力」 をご参照ください。

※12 テロメアとは、細胞のいのちの回数券といわれるものです。

※13 Hwang, HJ.,et al. Factors and Pathways Modulating Endothelial Cell Senescence in Vascular Aging. International Journal of Molecular Sciences, 23(17): 10135.(2022)

※14 詳しくは、NRF2という細胞を活性酸素から守る因子が関わる経路を介して抗酸化物質を誘導して活性酸素を減らすと報告されています。

※15 MnSODはSOD2とも呼ばれ、補因子としてマンガンが必要な抗酸化酵素です。

※16 骨髄や他の組織由来の細胞で、必要に応じて内皮細胞に分化して血管のメンテナンスに役立っていると考えられている細胞。

※17 Daiber,A.,et al. Targeting vascular (endothelial) dysfunction. British Journal of Pharmacology, 174(12): 1591-1619.(2017)

※18 Komici, K.,et al. Role of Endothelial Progenitor Cells in Frailty. International Journal of Molecular Sciences,  24(3): 2139.(2023)

※19 Shimizu,S.,et al. Aging impairs the ability of vascular endothelial stem cells to generate endothelial cells in mice. Angiogenesis, 26(4): 567-580.(2023)

※20 Fukushima, Y.,et al. cis interaction of CD153 with TCR/CD3 is crucial for the pathogenic activation of senescence-associated T cells. Cell Reports, 40(12):111373.(2022)

※21 Buffa,S.,et al. Biomarkers for vascular ageing in aorta tissues and blood samples. Experimental Gerontology, 128:110741.(2019) 

※22 Rohlenova, K.,et al. Endothelial Cell Metabolism in Health and Disease. Trends in Cell Biology, 28(3):224-236.(2018)

※23 Wilson,C.,et al. Mitochondrial ATP Production is Required for Endothelial Cell Control of Vascular Tone. Function (Oxf), 4(2): zqac063.(2023)

※24 Theofilis, P.,et al. Inflammatory Mechanisms Contributing to Endothelial Dysfunction. Biomedicines, 9(7): 781.(2021)

※25 Man, AWC..et al. Impact of Lifestyles (Diet and Exercise) on Vascular Health: Oxidative Stress and Endothelial Function. Oxidative Medicine and Cellular Longevity, 2020: 1496462.(2020)

※26 Fuchsjäger-Mayrl, G.,et al. Exercise training improves vascular endothelial function in patients with type 1 diabetes. Diabetes Care, 25:1795-1801.(2002)

※27 Pedralli, ML.,et al. Different exercise training modalities produce similar endothelial function improvements in individuals with prehypertension or hypertension: A randomized clinical trial. Scientific Reports, 10:7628.(2020) 

※28 Pan, B.,et al. Exercise training modalities in patients with type 2 diabetes mellitus: a systematic review and network meta-analysis. International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity, 15:72.(2018)

※29 Lin,CP.,et al. Endothelial Progenitor Cell Dysfunction in Cardiovascular Diseases: Role of Reactive Oxygen Species and Inflammation. BioMed Research International, 2013: 845037.(2013)

※30 Simsek, S.,et al. Endothelial dysfunction, inflammation, and apoptosis in diabetes mellitus. Mediators of Inflammation, 2010:792393.(2010)

※31 國崎 真, 他.「ビタミンEの酸化LDLによる細胞障害性の防御効果」.『ビタミン』,63 巻 11 号:586-586.(1989)

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