The Orthomolecular Times

2024.12.23 分子栄養学と免疫の栄養素「ビタミン・ミネラル補給と冬の感染症・免疫対策」

スポーツ栄養学

貧血:赤血球・ヘモグロビン不足はATP・エネルギー不足を招く分子栄養学の重大問題

赤血球はミトコンドリアでの効率的なエネルギー(ATP)産生(※エネルギーをつくるための必須栄養素「マグネシウム、ビタミンB群、CoQ10、鉄」)のための酸素を運ぶトラックの役割をしてくれます。酸素は赤血球の中のヘモグロビンという分子にくっついて運ばれます。つまり、貧血赤血球数、ヘモグロビンが減っている状態(WHOの定義より)※1※血液・尿検査の意義④)は、細胞が生きるために必須のATP産生が減るということを意味します。

身体の中で酸素を運べなければATP不足となり、疲れやすい脱力感などパフォーマンス低下につながります。脳も身体全体の約20%のエネルギーを消費するため、ATP不足は集中力記憶力にも影響が出る可能性がある重大な問題です。

貧血に進行する前の血清フェリチン(貯蔵鉄)のチェックなど定期的な血液検査を忘れずに、腸内環境を整え、赤血球のための栄養素 {タンパク質、鉄、亜鉛、ビタミンA、ビタミンB群(B6※2、B12、葉酸)など} をしっかり摂りましょう。赤血球を守るビタミンCビタミンEなどの抗酸化栄養素も一緒に摂ることもお勧めします。

分子栄養学では、貧血は全身のATP不足をまねく万病のもとと考え、鉄欠乏性貧血、潜在性鉄欠乏状態などを予防医療、健康自主管理の主軸として重要視しています。めまい、頭痛、耳鳴り、疲労感、倦怠感のほか、貧血は心臓の負担にもなり、息切れ、動悸、頻脈などが起こります。

赤血球はエネルギー(ATP)産生のための酸素を運ぶ

赤血球は、呼吸して取り込んだ酸素を肺で受け取り、身体のすみずみまで運ぶトラックの役割をしています。酸素が運ばれた先(細胞)では、その酸素を利用して、解糖系→クエン酸回路→電子伝達系の3つのエネルギー代謝経路(※分子栄養学とは⑤)を経て、1分子のグルコース(ブドウ糖)から最大38ATPを効率的に作ります(※エネルギーをつくるための必須栄養素「マグネシウム、ビタミンB群、CoQ10、鉄」)。赤血球は組織で排出された二酸化炭素も肺まで運んでくれます。

効率的なエネルギー代謝経路は酸素がないと止まってしまう

しかし、この効率的な代謝経路は、酸素が足りないと止まってしまいます。ミトコンドリアで行われるクエン酸回路と電子伝達系は、酸素が十分にあるときにだけ進むことのできるエネルギー代謝経路です。もともとクエン酸回路は酸素を使いませんが、酸素がなくなると止まってしまいます※3。そんなとき、ATP産生は解糖系を使って乳酸を作ることでエネルギーを産生しますが、解糖系のみではATPを2個しか作れません(※スポーツの秋にも!エネルギーのための必須栄養素「解糖系と乳酸とナイアシン」)。

有酸素運動のパフォーマンスアップに赤血球は必須アイテム

健全な赤血球がきちんと存在するということは、全身の細胞でミトコンドリア(クエン酸回路と電子伝達系)をフル活用して、たくさんのATPをどんどん作れる、つまり細胞が使うエネルギーを常に十分な量供給できる、ということです。普段の生活を快適にしたり、有酸素運動での最大限のパフォーマンスを発揮するために、赤血球は必須アイテムです。

脳はエネルギーをたくさん必要とする=脳にとっても赤血球は必須アイテム

全身に指令を出す脳。脳は身体全体の約20%のエネルギーを消費します。脳にとっても、より良い思考や集中力、記憶力のために赤血球は必須アイテムです。

健康な赤血球は寿命が約120日:骨髄では1秒間に何百万個もの新しい赤血球がつくられる

健康な赤血球は約120日で寿命を終えて脾臓などで壊され、新しい赤血球と入れ替わります。骨髄では、1秒間に何百万個もの新しい赤血球がつくられています。

貧血が成立する主な要因

毎日壊され、新しくつくり続けられる赤血球。貧血は、赤血球が失われる数が新しくつくられる数を上回ったときに成立します。つまり①出血や赤血球の溶血などで失われる量が多く骨髄での産生量を上回ってしまうか、②失われる量は普通でも骨髄での産生量が減ってしまうか、この①②のどちらかによって需給バランスが崩れてしまうことによって起こります。

貧血の原因

貧血の原因として、ヘモグロビンの構成要素である不足が有名ですが、その他にも赤血球を作るための栄養素の不足(亜鉛ビタミンB群B6B12葉酸)など)、出血(出産、過多月経、外傷、胃潰瘍、がんなど)が原因として挙げられます。また、赤血球が壊れやすい病気や状態(免疫の異常、激しい運動など)、血液を作る機能の低下(骨髄抑制)など、他のさまざまな要因によっても起こります。

赤血球をつくる栄養素:亜鉛が不足するだけで亜鉛欠乏性貧血が起こる

赤血球をつくるには、赤血球のための栄養素(タンパク質、鉄、亜鉛、ビタミンA、ビタミンB群(B6、B12、葉酸)など)が必要です。そしてせっかくつくられた赤血球に長く健康に働いてもらうため、活性酸素対策としてビタミンC・ビタミンEなどの抗酸化栄養素(※エンジオール基が世界を救う「ビタミンCの底力」)も一緒にお勧めしています※4。鉄を十分摂ったとしても、亜鉛が不足するだけで亜鉛欠乏性貧血が起こります。

鉄不足はエネルギー産生の敵:ヘモグロビンは鉄が必要

赤血球の中にしっかりとヘモグロビン分子が入っていることが良い赤血球のひとつの条件です。ヘモグロビンはヘム鉄を含み、そこに酸素がくっついて運ばれます。不足はヘモグロビンの低下につながり、エネルギー不足をまねきます。鉄不足による貧血を鉄欠乏性貧血といいます。

ビタミンB12と葉酸が不足すると未熟で巨大な赤血球ができる

DNA合成にビタミンB12葉酸が必要です。ビタミンB12葉酸が不足すると巨大で未熟な赤血球ができてしまいます。この巨大で成熟できなかった赤血球の多くは、赤血球として働く前に骨髄の中で壊されてしまいます。その結果、血液中に成熟した赤血球の数が不足し、貧血となります(巨赤芽球性貧血)。ビタミンB12葉酸のどちらが不足しても、丈夫な赤血球にはなれません。

貧血で酸素が足りないと、心臓に負担がかかる

酸素が全身で足りないと、足りない酸素を賄うため、心臓が足りない分の酸素をせっせと送り出そうとがんばり、心臓に負担がかかり続けます。息切れ、動悸、最終的には高拍出性心不全が起こります。心臓は1つしかありません。ぜひ適切な貧血対策で心臓を守りましょう。

詳細な血液検査項目で適正な赤血球がつくられているかを医師が推測

KYBグループのお勧めする詳細な血液検査(※血液検査の意義①※血液検査の意義②※血液検査の意義③※血液検査の意義④)に含まれる血球関連の項目では、赤血球が適正な大きさでしっかりした材料とともに作られているかどうかを医師が推測します。詳しくは※血液・尿検査の意義④をご参照ください。

貧血に進行する前の血清フェリチン値を特に重要視

分子栄養学では、貧血に進行する前の血清フェリチン値の低下を特に重要視しています。潜在性鉄欠乏状態をスクリーニングします。

脱水でヘモグロビンは多すぎに見えることがある

大量の汗をかいたりすることで脱水になると血漿中の水分が減るため、見かけ上、ヘモグロビンが多く見えることがあります※5

鉄はヘム鉄がおすすめ

食品中のは2種類に分類されています。動物性食品(肉や魚など)に含まれるヘム鉄と、植物性食品(大豆、野菜、海藻など)に含まれる非ヘム鉄です。分子栄養学では、吸収率が高いといわれるヘム鉄※6、※7、※8、※9の摂取をお勧めしています。吸収されなかった鉄は悪玉菌の繁殖のもとともなってしまうため、より良い吸収のために腸内環境をしっかり整えることも大切です(※分子栄養学的リーキーガット症候群対策①※分子栄養学的リーキーガット症候群対策②)。

まとめ:貧血はエネルギー不足を引き起こす重大な問題

分子栄養学(※分子栄養学とは①※分子栄養学の歴史①)は、ヒトを構成する “生きていると認められるいちばん小さな単位”である細胞・分子レベルからの全身の健康を目指す学問です。細胞はそれぞれの細胞の中で作られたATPを主に使って活動します。そのATPを効率よく作るために必要な酸素が全身に運ばれにくくなることは、一つひとつの細胞が必要とするエネルギーを供給できないという重大な問題を意味します。

赤血球はミトコンドリアでの効率的なエネルギー(ATP)産生のための酸素を運ぶトラックの役割をしてくれます。貧血、つまり赤血球、ヘモグロビンが減っている状態はATP不足をまねく深刻な状態です。

定期的な血液検査で医師とともに科学的な貧血対策

定期的な血液検査で貧血にならないように予防し、貧血の方は治療して健康な赤血球をつくり続け、身体と心に健やかなエネルギーを提供してあげましょう。赤血球をスムーズにつくり続けるためにも、エネルギー産生のための至適量の栄養素 {マグネシウム、ビタミンB群、α-リポ酸、CoQ10、鉄} の補給も忘れずに(※エネルギーをつくるための必須栄養素「マグネシウム、ビタミンB群、CoQ10、鉄」※スポーツの秋にも!エネルギーのための必須栄養素「解糖系と乳酸とナイアシン」)。詳細な血液検査(※血液検査の意義①※血液検査の意義②※血液検査の意義③※血液検査の意義④)と問診票を用いて定期的にモニタリングしながら、個体差(※分子栄養学とは⑥)に沿った至適量の栄養素の補給で、常にATPを供給できる身体づくりを目指しましょう。

赤血球をつくるための栄養素を多く含む食品

※1 WHO. Haemoglobin Concentrations for the Diagnosis of Anaemia and Assessment of Severity. Vitamin and Mineral Nutrition Information System. Geneva: World Health Organization (WHO/NMH/NHD/MNM/11.1).(2011)

※2 5-アミノレブリン酸合成酵素の補酵素(ピリドキサルリン酸)。ヘム(ポルフィリン環)の生合成に必要です。

※3 三上貴浩.『コアカリ準拠 Dr.ミカミの動画で学ぶ基礎医学-生命科学編』.医学書院.p220. (2021)

※4 Kuhn V.,et al. Red Blood Cell Function and Dysfunction: Redox Regulation, Nitric Oxide Metabolism, Anemia. Antioxidants and Redox Signaling, 26(13): 718-742.(2017)

※5 『病気が見えるvol.5 血液 第1版』.医療情報科学研究所.p17.(2008)

※6 糸川 嘉則 編集.『ミネラルの事典 新装版』.朝倉書店.pp229-230.(2021)

※7  Dutt, S.,et al. Molecular Mechanisms of Iron and Heme Metabolism. Annual Review of Nutrition, 42:311-335.(2022)

※8 Björn-Rasmussen, E.,et al. Food iron absorption in man. Applications of the two-pool extrinsic tag method to measure heme and nonheme iron absorption from the whole diet. Journal of Clinical Investigation, 53(1): 247–255. (1974)

※9 Layrisse, M.,et al. Model for measuring dietary absorption of heme iron: test with a complete meal. American Journal of Clinical Nutrition,25(4):401-411. (1972)

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