The Orthomolecular Times

2025.6.2 分子栄養学の基礎知識「なぜオメガ3、n-3系と呼ばれる?オメガ3(n-3系)脂肪酸」

妊娠前・妊娠中・産後

分子栄養学の得意分野における尿失禁予防対策②(膀胱編)

世代性別を問わず、多くの方が経験している尿失禁。

尿失禁と栄養素との関連性についてはあまり注目されることはありませんが、分子栄養学では、至適量の栄養素が生体内での適切な代謝を促し、尿失禁予防、スムーズな排尿対策にプラスにサポートできる可能性を考えています。

3回にわたり、分子栄養学の得意分野において考えられる健康な尿失禁予防対策についてお届けします。第2回目の今回は、

・尿をためる袋、膀胱(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁①

の健康にまつわる説の数々についてお届けします。膀胱やその内側を守る膀胱粘膜の構造の基礎をはじめ、分子栄養学的に考えられる健康対策を一緒に模索しましょう。

(※分子栄養学の得意分野における尿失禁対策①(骨盤底筋、コラーゲン編)

尿をためる袋、膀胱は筋肉と粘膜でできている

尿をためる袋、膀胱は粘膜と筋肉でできています。

尿失禁を防ぐための項目として、

・骨盤底筋(※分子栄養学の得意分野における尿失禁対策①(骨盤底筋、コラーゲン編)

・尿道

・神経細胞の神経支配

・骨盤内筋膜などの結合組織(※分子栄養学の得意分野における尿失禁対策①(骨盤底筋、コラーゲン編)

が正常に機能することとともに、健やかに伸び縮みしていつも十分な尿量の調節ができる膀胱、そしてそれらを支える栄養素や老廃物を運ぶ豊富な血管が必要であることを示した報告があります※1

以下、いつまでも健康な膀胱を維持するための、

・膀胱の構造など

についての分子栄養学的なヒントの数々です。ぜひ一緒に学んでいきましょう。

①豊富な血管と血流でしなやかな膀胱の排尿筋を支える

健やかな膀胱は豊富な血流によって支えられています※1

閉経や老化によって性ホルモンが減ることが、血管の分布低下につながる可能性が示されています※2

残念ながら健康な蓄尿・排尿に関わる「膀胱の排尿筋」と「内尿道括約筋」は、自分の意志で鍛えることができない筋肉です。そこでそれらの筋肉が萎縮せず、いつまでもしなやかな筋肉であるために、筋肉を構成するタンパク質などの栄養素、筋肉に栄養素や老廃物を運ぶ豊富で健康な血管と血流が必要であると考えています。

㋐筋肉量の維持、筋肉を動かすためには、ミトコンドリアによるエネルギー産生が必須です。エネルギー代謝経路のための栄養素として、分子栄養学の分野では、鉄、ビタミンB群、CoQ10、マグネシウムなどをお勧めしています。

㋑筋肉が正常に収縮するためには、カルシウム・マグネシウムが必須です。

㋒栄養素を運ぶ血流が十分に保たれるように、分子栄養学の分野では健やかな血管を保護する十分な栄養素などについて考えます。血管内皮細胞は日々ターンオーバーを繰り返しています。血管を構成する内皮細胞の材料とともに、酸化ストレスを取り除くビタミンCなどの抗酸化栄養素、赤血球の栄養素、炎症を抑える脂質(オメガ3脂肪酸)、適切な血糖値コントロールなどで血管の健康維持を目指します。

健やかな血流を維持するためには適度な水分補給、適度な運動もお勧めです。筋肉を維持する血流を維持できるよう、貧血予防を意識した食生活も大切です。

タバコや慢性的なストレスなどは血流を悪くします。自分に合った適切なストレス対策を見つけ、健康的なストレス解消を行いましょう。

②健康な膀胱の粘膜は伸びたり縮んだりできる

次に、健康な膀胱の構造について見ていきましょう。

膀胱は、尿の通り道である尿路を構成する臓器です。尿路は、腎杯、腎盂(じんう)、尿管、膀胱、尿道で構成されています。

腎臓でつくられた尿は、この尿路を通って体外に排泄されます。

尿路の内側は粘膜で覆われ、その粘膜の大部分は

・尿路上皮組織(移行上皮。以下、尿路上皮)

で構成されます(尿道は一部のみ)。

尿路上皮は、通常 「3つの層(3~6層)」で構成され、3種類の細胞の層(表面からアンブレラ細胞、中間細胞、基底細胞)からなっています※3、※8

尿路上皮の特徴は、伸びたり縮んだり、細胞の形を変えることで粘膜の表面積を広げたり縮めたりできることです。特に膀胱の尿路上皮は表面積を大きく広げることで、ある程度の尿を貯留することが可能になっています。

③粘液とタイトジャンクションが丈夫な粘膜バリアをつくる

尿路上皮の一番上の表面層を構成するアンブレラ細胞(傘細胞。大きな六角形の細胞)。アンブレラ細胞は、細胞同士がタイトジャンクションでしっかりと結合し※4、その表面はグリコサミノグリカンを主成分とする粘液で覆われています※3、※5

タイトジャンクションとは、上皮細胞同士を一番上の方でぴたっとくっつけることで完全なバリアをつくる構造のことです。このタイトジャンクションと粘液からなる粘膜バリアによって尿や細菌の侵入が防がれ、膀胱の健康が保たれています※3、※5

④膀胱の粘膜は感じるセンサーとしても働く?

膀胱の尿路上皮は

・菌などの侵入を防ぐバリア

としての機能の他に、

・熱、機械的な刺激、化学的な刺激を鋭敏にキャッチして、中枢神経系(脳や脊髄)に伝えるセンサーとしての機能をもつ

という報告があります※6、※7。そしてこの機能の異常が、過活動膀胱の発症に関係する可能性が指摘されています※6。過活動膀胱は、切迫性尿失禁と診断される女性のほとんどにが診断されるという報告があります。(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁②

蓄尿と排尿には、排尿筋と尿道括約筋の神経による連動が関わっています(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁①)。尿路上皮が健全に維持されることで、蓄尿と排尿をスムーズに行うことができるとされています。

⑤尿路上皮の生まれ変わりはとてもゆっくり

尿路上皮は粘膜の中でも新陳代謝(ターンオーバー)が遅く※8、マウスの実験で約200日で生まれ変われるとの報告があります※9

しかし尿路上皮が何らかの理由で傷ついた場合には、文献にもよりますが、数日~数週間のうちに完全な形でスピーディに新しく生まれ変わることが示されています※4

ビタミンA(レチノイン酸)が、その生まれ変わりに重要な働きをするという報告があります※10。粘膜が萎縮すれば細菌に感染しやすくなり、そこで炎症が起こります。丈夫で健康な粘膜細胞を維持するための栄養素をしっかり摂り、健康なターンオーバーを目指しましょう。

⑥過活動膀胱と膀胱内常在菌・粘膜の炎症

過活動膀胱は、頻尿、尿意切迫感(急にトイレに行きたくなる)、切迫性尿失禁を主症状とする病気です。

過活動膀胱の発症には加齢や生活習慣病が関係すると考えられています。過活動膀胱を患う患者さんは、知覚過敏(少量の畜尿量で尿意を感じる)や排尿反射の亢進が起きていると考えられています(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁②)。

「過活動膀胱には、膀胱内細菌叢の異常や粘膜の炎症が関わっている可能性がある」という報告があります※7

これまで健康な人の膀胱は無菌であると考えられてきましたが、最近の研究では、全くの無菌状態ではなくわずかながら常在菌が生息していることが明らかにされています※11

過活動膀胱、切迫性尿失禁(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁②)の予防や治療の対象として、膀胱内常在菌が注目されています※12、※13、※14、※15

⑦膀胱粘膜の健康に対する分子栄養学的なアプローチ

分子栄養学の考え方では、私たちの身体をつくり機能させる分子を正常な状態に保つことが健康維持の基礎となること、そのために必要な栄養素を摂取・吸収して細胞の新陳代謝を促すことが重要であると考えています。

⑧尿路上皮とストレスケアの重要性

ストレスによる自律神経の乱れが、最終的に尿路上皮のバリアを破壊する可能性が示されています※3。良質な睡眠、自分に合ったストレス対策で自律神経を整え、ぜひ健康な膀胱粘膜の維持を目指しましょう。

⑨ビタミンDと膀胱粘膜の抗菌ペプチド

ビタミンDが、膀胱粘膜における抗菌ペプチドを誘導することが示されています※17。血液検査でモニタリングしながら、適切な血中ビタミンD3濃度を保ちましょう。

膀胱の筋肉とビタミンD

まだ研究段階ではありますが、全身の骨格筋や平滑筋、膀胱排尿筋(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁①)の筋肉にはビタミン D 受容体が存在するため、ビタミンD不足が尿失禁に関係するのではないかと研究が進められています※18

⑪尿路上皮は基底膜が支えている

尿路上皮は、基底膜にその働きを支えてもらっています※4。基底膜について詳しくは ※分子栄養学の得意分野における尿失禁対策① をご覧ください。

まとめ

以上、毎日お世話になっている膀胱にいかに健康に機能してもらうか、分子栄養学の視点から考えられる知見をお伝えしました。

骨盤底筋体操(※分子栄養学の得意分野における尿失禁対策①)とともに、筋肉と粘膜、それを支える血管のための栄養素、毎日のストレス対策などでしっかりとケアし、膀胱の健康を維持していきましょう。

※1 Herrera-Imbroda B.,et al. Stress urinary incontinence animal models as a tool to study cell-based regenerative therapies targeting the urethral sphincter. Drug Delivery Reviews,82-83:106-116.(2015)

※2 Traish AM.,et al. Role of androgens in female genitourinary tissue structure and function: implications in the genitourinary syndrome of menopause. Sexual Medicine Reviews, 6(4):558-571.(2018)

※3 Birder L.,et al. Urothelial Signaling. Physiological Reviews, 93(2):653–680.(2013)

※4 Dalghi MG.,et al. The urothelium: life in a liquid environment. Physiological Reviews,100(4):1621-1705.(2020)

※5 Parsons C.L. The role of the urinary epithelium in the pathogenesis of interstitial cystitis/prostatitis/urethritis. Urology, 69:9-16.(2007)

※6 Fry CH.,et al. The Role of the Mucosa in Normal and Abnormal Bladder Function. Basic and Clinical Pharmacology and Toxicology,119(Suppl 3): 57-62.(2016)

※7 Aoki Y.,et al.Urinary incontinence in women. Nature Reviews Disease Primers, 3:17097.(2017)

※8 Papafotiou G.,et al. KRT14 marks a subpopulation of bladder basal cells with pivotal role in regeneration and tumorigenesis. Nature Communications, 7:11914.(2016)

※9 Kreft, M.,et al. Formation and maintenance of blood-urine barrier in urothelium. Protoplasma, 246:3-14. (2010)

※10 Gandhi D.,et al. Retinoid Signaling in Progenitors Controls Specification and Regeneration of the Urothelium. Developmental Cell,26(5):469-482.(2013)

※11 Siddiqui H.,et al. Assessing diversity of the female urine microbiota by high throughput sequencing of 16S rDNA amplicons. BMC Microbiology, 11:244.(2011)

※12 Lukacz ES.,et al. Urinary incontinence in women: a review. JAMA,318(16):1592-1604.(2017)

※13 Thomas-White KJ.,et al. Incontinence medication response relates to the female urinary microbiota. International Urogynecology Journal, 27(5):723-733.(2016)

※14  Karstens L.,et al. Does the Urinary Microbiome Play a Role in Urgency Urinary Incontinence and Its Severity? Frontiers in Cellular and Infection Microbiology, 6:78.(2016)

※15  Aragón IM.,et al. The Urinary Tract Microbiome in Health and Disease. European Urology Focus, 4(1):128-138.(2018)

※16 Mohanty S.,et al. Vitamin D strengthens the bladder epithelial barrier by inducing tight junction proteins during E. coli urinary tract infection. Cell and Tissue Research, 380(3):669-673.(2020)

※17 Hertting O.,et al. Vitamin D induction of the human antimicrobial peptide cathelicidin in the urinary bladder. PLoS One, 5:e15580.(2010)

※18 Baer R.,et al. The effect of vitamin D deficiency and supplementation on urinary incontinence: scoping review. International Urogynecology, 33(5):1083-1090.(2022)

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