分子栄養学の得意分野における尿失禁対策②(膀胱編)
世代性別を問わず、多くの方が経験している尿失禁(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁①、※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁②)。
尿失禁と栄養素との関連性についてはあまり注目されることはありませんが、分子栄養学(※分子栄養学とは①)では、至適量の栄養素(※分子栄養学の歴史①)が生体内での適切な代謝を促し(※分子栄養学とは⑤)、尿失禁対策にプラスにサポートできる可能性を考えています。
前回(※分子栄養学の得意分野における尿失禁対策①(骨盤底筋、コラーゲン編))から3回にわたり、分子栄養学の得意分野(※分子栄養学とは①、※分子栄養学の歴史①、※分子栄養学とは⑧)において考えられる尿失禁対策についてお届けしています。第2回目の今回は、尿をためる袋、膀胱(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁①)に対する対策についてお届けします。
尿をためる袋、膀胱は筋肉と粘膜でできている
尿をためる袋、膀胱は粘膜と筋肉でできています(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁①)。尿失禁を防ぐための項目として、骨盤底筋(※分子栄養学の得意分野における尿失禁対策①(骨盤底筋、コラーゲン編))、尿道、神経細胞の神経支配、骨盤内筋膜などの結合組織(※分子栄養学の得意分野における尿失禁対策①(骨盤底筋、コラーゲン編))が正常に機能することとともに、健やかに伸び縮みしていつも十分な尿量の調節ができる膀胱、そしてそれらを支える栄養素や老廃物を運ぶ豊富な血管が必要であることを示した報告があります※1。
以下、健康な膀胱を維持するためのヒントの数々です。ぜひ一緒に実践していきましょう。
①豊富な血管と血流でしなやかな膀胱の排尿筋を支える
健やかな膀胱は豊富な血流によって支えられています※1。閉経や老化によって性ホルモンが減ることが血管の分布低下につながる可能性が示されています※2。残念ながら、健康な蓄尿・排尿に関わる膀胱の排尿筋と内尿道括約筋は自分の意志で鍛えることができない筋肉です。それらの筋肉が萎縮せず、いつまでもしなやかな筋肉であるために、筋肉を構成するタンパク質(※5大栄養素(概論))などの栄養素、筋肉に栄養素や老廃物を運ぶ豊富な血管と血流が必要であると考えています。
筋肉量の維持、筋肉を動かすためのエネルギー代謝経路のための栄養素として、分子栄養学の分野では、至適量のタンパク質(※5大栄養素(概論))、亜鉛、鉄、ビタミンB群、CoQ10、マグネシウム、筋肉収縮のためのカルシウム・マグネシウムがお勧めです(※分子栄養学の得意分野における尿失禁対策①(骨盤底筋、コラーゲン編))。
また、栄養素を運ぶ血流が十分に保たれるように、分子栄養学の分野では、健やかな血管を保護する十分な栄養素などについて考えます。血管を構成する内皮細胞の材料とともに、酸化ストレスを取り除くビタミンCなどの抗酸化栄養素(※エンジオール基が世界を救う「ビタミンCの底力」)、赤血球の栄養素、炎症を抑える脂質(オメガ3脂肪酸)(※食事の基本)、血糖値コントロール(※食事の基本、※血液・尿検査の意義③)などを考えます。適度な水分補給、適度な運動もお勧めです。貧血の方は、まず貧血を治しましょう。タバコや慢性的なストレスなどは血流を悪くします。自分に合った適切なストレス対策を見つけておきましょう(※分子栄養学的リーキーガット症候群対策②)。
②健康な膀胱の粘膜は伸びたり縮んだりできる
膀胱は、尿の通り道である尿路(腎杯、腎盂(じんう)、尿管、膀胱、尿道からなる)を構成する臓器です。腎臓でつくられた尿(※尿検査からわかること)は、尿路を通って体外に排泄されます。尿路は粘膜(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)で覆われていて、その大部分は尿路上皮組織(移行上皮ともいいます。以下、尿路上皮)から構成されます(尿道は一部のみ)。尿路上皮は通常、3つの層(3~6層)で構成され、3種類の細胞の層(表面からアンブレラ細胞、中間細胞、基底細胞)からなっています※3、※8。その特徴は、伸びたり縮んだり、細胞の形を変えることで粘膜の表面積を広げたり縮めたりできることです。特に膀胱の尿路上皮は表面積を大きく広げることで、ある程度の尿を貯留することが可能です。
③粘液とタイトジャンクションが丈夫な粘膜バリアをつくる
尿路上皮の一番上の表面層を構成するアンブレラ細胞(傘細胞。大きな六角形の細胞)は、細胞同士がタイトジャンクション(※あなたの腸は大丈夫? リーキーガット症候群(理論編②)、※多くの日本人を悩ます花粉症と栄養素②)でしっかりと結合していて※4、その表面はグリコサミノグリカンを主成分とする粘液で覆われています※3、※5。タイトジャンクションとは、上皮細胞同士を一番上の方でぴたっとくっつけることで完全なバリアをつくる構造のことです。この、タイトジャンクションと粘液からなる粘膜バリア(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)によって、尿や細菌の侵入が防がれています※3、※5。
④膀胱の粘膜は感じるセンサーとしても働く?
膀胱の尿路上皮はバリアとしての機能の他に、「熱、機械的な刺激、化学的な刺激を鋭敏にキャッチして、中枢神経系(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁①)に伝えるセンサーとしての機能をもつ」という報告があります※6、※7。この機能の異常が、過活動膀胱(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁②)の発症に関係する可能性が指摘されています※6。蓄尿と排尿には、排尿筋と尿道括約筋の神経による連動が関わっています(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁①)。尿路上皮が健全に維持されることで、蓄尿と排尿をスムーズに行うことができるとされています。
⑤尿路上皮の生まれ変わりはとてもゆっくり
尿路上皮は粘膜の中でもターンオーバーが遅く※8、マウスの実験で約200日で生まれ変われるとの報告があります※9。しかし何らかの理由で傷ついた場合には、文献にもよりますが、数日~数週間のうちに完全な形でスピーディに新しく生まれ変わることが示されています※4。ビタミンA(レチノイン酸)が、その生まれ変わりに重要な働きをするという報告があります※10。粘膜が萎縮すれば細菌に感染しやすくなり、そこで炎症(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)が起こります。丈夫な粘膜細胞のための栄養素がお勧めです。
⑥過活動膀胱と膀胱内常在菌・粘膜の炎症
過活動膀胱は、頻尿、尿意切迫感(急にトイレに行きたくなる)、切迫性尿失禁を主症状とする疾患です。発症には加齢や生活習慣病が関係し、患者さんでは、知覚過敏(少量の畜尿量で尿意を感じる)や排尿反射の亢進が起きていると考えられています(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁②)。
「過活動膀胱には、膀胱内細菌叢の異常や粘膜の炎症が関わっている可能性がある」という報告があります※7。これまで健康な人の膀胱は無菌であると考えられてきましたが、最近の研究では、全くの無菌状態ではなくわずかながら常在菌が生息していることが明らかにされています※11。過活動膀胱、切迫性尿失禁(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁②)の予防や治療の対象として、膀胱内常在菌が注目されています※12、※13、※14、※15。
⑦膀胱粘膜に対する分子栄養学的なアプローチ
分子栄養学では、私たちの身体をつくり機能させる分子(※分子栄養学とは②、※分子栄養学とは③)を正常な状態に保つことが疾患予防につながること、そのために必要な栄養素を摂取し細胞の新陳代謝を促すこと(老化した細胞がアポトーシスを起こし、新しい細胞に生まれ変わること)が重要であると考えています。膀胱粘膜を健全に保つためには、ビタミンD※3、※16、※17、タンパク質、鉄、亜鉛、グルタミンなど(※多くの日本人を悩ます花粉症と栄養素②)が必要であると考えます。
また、組織を構成する細胞がその機能を発揮することができるよう、細胞を取り巻く環境を整えることも重要です。そのためには、酸化ストレス(※エンジオール基が世界を救う「ビタミンCの底力」)や微小な慢性炎症(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)を取り除く必要があり、至適量のビタミンCやビタミンE(※ビタミン(総論))などを用いての抗酸化対策(※エンジオール基が世界を救う「ビタミンCの底力」)も欠かせないと考えています。
⑧尿路上皮とストレスケアの重要性
ストレスによる自律神経の乱れが、最終的に尿路上皮のバリアを破壊する可能性が示されています※3。良質な睡眠、自分に合ったストレス対策で(※分子栄養学的リーキーガット症候群対策②(生活習慣・栄養素対策編))自律神経を整え、ぜひ健康な膀胱粘膜の維持を目指しましょう。
⑨ビタミンDと膀胱粘膜の抗菌ペプチド
ビタミンDが、膀胱粘膜における抗菌ペプチドを誘導することが示されています※17。血液検査(※血液検査の意義①、※血液検査の意義②、※血液検査の意義③、※血液検査の意義④)でモニタリングしながら、適切な血中ビタミンD3濃度を保つことをお勧めします。
⑩膀胱の筋肉とビタミンD
まだ研究段階ですが、全身の骨格筋や平滑筋、膀胱排尿筋(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁①)の筋肉にはビタミン D 受容体が存在するため、ビタミンD不足が尿失禁に関係するのではないかと研究が進められています※18。(※ビタミン(総論))
⑪尿路上皮は基底膜が支えている
尿路上皮は、基底膜にその働きを支えてもらっています※4。基底膜について詳しくは ※分子栄養学の得意分野における尿失禁対策① をご覧ください。
まとめ
以上、毎日お世話になっている膀胱にいかに健康に機能してもらうか、分子栄養学の視点から考えられる知見をお伝えしました。骨盤底筋体操(※分子栄養学の得意分野における尿失禁対策①)とともに、筋肉と粘膜、それを支える血管のための栄養素、酸化ストレス対策(※エンジオール基が世界を救う「ビタミンCの底力」)、毎日のストレス対策などでしっかりとケアしていきましょう。
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