The Orthomolecular Times

2024.12.16 分子栄養学と免疫の栄養素「自然免疫:好中球の働きとビタミンC」

分子栄養学とは

分子栄養学とは⑥「誰一人同じ身体の人間はいない」

個体差を大切にする

分子栄養学では個体差を大切にします。もちろん、一般の栄養学(※分子栄養学とは①)においても乳児期、幼児期、成人期などのライフステージや疾病別に分け、体重や身長、年齢、性別、身体活動レベルの差を含めて考えますが、分子栄養学では、より細やかに個体差を考えます。

誰一人同じ身体の人間はいない

仕事や生活、食べ物の好み、食事はよく噛むか、お酒を飲むか、飲まないか。趣味はどうでしょう。インドアでゲーム好きの人、スポーツを好んでする人、アウトドアの山歩きが好きな人。同じ大人でも、そんなライフスタイルの差から、ストレスに感じること、生体内の代謝や胃の状態、腸内環境まで、みなさん一人ひとり違います。

そして、その同じ「ひとり」の中でも、ストレスのない笑顔の時とストレスフルな時では、栄養素の消化と吸収に差が出る場合があります。その時置かれた環境や、病気の時と健やかな時など、ストレスの状態、体調、腸内細菌叢のバランスまで、全く違ってくる可能性があります。分子栄養学では、一人ひとりの個体差だけではなく、その一歩先の、より深い要因に対して大切にアプローチしていきます。

例えば、有経女性の場合、約1か月ごとの生理周期の中でエストロゲンとプロゲステロンという2つのホルモンバランスが変化する期間があり、それだけで基礎体温の変化、子宮内膜の変化などが起こります。

また、同じ人物の同じ趣味のひとときでも、晴れた涼しい日にのんびり大好きなペットとゆっくりお散歩するのと、突然激しく雨が降ってしまった寒い中をびっしょりになりながら長い距離走って家に帰るのとでは、周りの環境と受けるストレスが全く異なります。同じ晴れた日でも、体調の良い日と、風邪を引いてしまった日では、身体の中で起こっている免疫部隊(身体をばい菌などから守ってくれている身体に備わった仕組み)の働き具合が全く違います。

このように、一人ひとりの個体差もそうですが、同じ人物がいたとしても、その生涯の中では、病気やケガ、ストレスの受け具合、置かれた環境によって身体の中の反応自体が変化します。分子栄養学では、そういった細やかな変化とともに必要とされる栄養素の種類や量を、詳細な検査とともにアプローチしていきます。

酵素にも個体差

また、「酵素」と呼ばれるあらゆる代謝(※分子栄養学とは⑤)に欠かせない物質の反応にも、遺伝的素因によって個体差が存在します。例えばアルコール代謝酵素による個体差を考えてみます。アルコールを一口飲んで真っ赤になって気分が悪くなってしまう方と、アルコールをたくさん飲んでも体調も気分も変わらずお元気な方がおられます。その差がどこから来るかというと、アルコール代謝酵素の遺伝子多型※1が大きく関与していることがわかっています。アルコール代謝に関する酵素の働きや代謝の部分が、非常に優れているか、弱いか、という違いがあるということです。

分子栄養学の創始者の一人であるライナス・ポーリング博士は、その酵素と基質※2の親和性の個体差から、ビタミンの必要量にも大きな個体差があることを提唱しています。

分子栄養学では、その方にとって十分量の栄養素を摂取することにより、一つひとつの細胞を構成する分子(栄養素)の濃度が最適な量(至適量)になることで、その細胞が生き生きと機能できる(働ける)ことを考えます。そしてそれによって生体機能を向上させ、自然治癒力を高めることを目指す学問です。そのために使うツールは、お薬ではなく、私たちの身体の中にもともと存在する分子(栄養素)と同じ構造をもったものを使用します。

しかし、たとえがんばって栄養素をしっかり摂ったとしても、それがその方にとって十分な量かどうか、摂取した栄養素がきちんと吸収されているかどうかは別問題です。その時のご自分に合った栄養素の最適量を見つけていくために、分子栄養学では、さまざまな検査をご提案します。問診や症状のみでなく、客観的な数値によって的確に個体差を見極めるためです。

60項目を超える詳細な血液検査、尿検査、口腔内環境・腸内環境検査まで、必要な検査を必要に応じて行い、それに加えて医師が丁寧に問診を行うことで、検査結果と身体の状態を総合的に評価していきます。

そのように細やかで、より適切な「個体差」を考慮した医師の処方による最適な栄養素の量(オプティマムドーズ)の補給で、健康への根本的な解決を目指します。それは分子栄養学という新しい学問に基づいた、人体のもつ自然治癒力を最大限に引き出す可能性を秘めた治療法です。

※1遺伝子多型(polymorphism)とは
親から子へと生物の特徴が受け継がれていくことを遺伝といい、その遺伝情報を伝えるもののことを遺伝子といいます。遺伝子多型とは、一般的に“100人に1人以上”と比較的よくみられる遺伝子の個体差のことです。細かくみると、遺伝子の本体であるDNA(デオキシリボ核酸という物質)の中の  塩基 と呼ばれる物質の並びの違いを指します。この並びの違いが、体質や病気の罹りやすさなどに影響する可能性が考えられています。
※2基質とは
酵素のはたらきかけで化学反応を起こす物質のことです。その酵素に対して反応を起こすものを、その酵素に対する「基質」といいます。

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