分子栄養学の栄養素「ビタミンEの基礎『ミセル化』が吸収のカギ!」


細胞膜を活性酸素から守ると考えられている栄養素、ビタミンE。
生体内で、ビタミンEをしっかり吸収するカギのひとつに「ミセル化」があります。
・ビタミンEの吸収を促す「ミセル化」とは
・ミセル化に必要な胆汁酸とは
について解説いたします。一緒に見ていきましょう。
ビタミンEの効率的な吸収には、胆汁酸による「ミセル化」が必須!
細胞膜を活性酸素から守ると考えられている栄養素、ビタミンE。
(※ビタミンEが細胞膜を守る仕組み)
ビタミンEは小腸で脂質と一緒に吸収されます。そのときカギとなるのが
・ミセル化
です。
ミセル化とは何でしょう。吸収されるために、どんなことが身体の中で起こり、どんな栄養素が関わっているでしょうか。
以下、ビタミンEと脂質の吸収・ミセル化について基礎から一緒に見ていきましょう。
ミセル化の利点

ビタミンEは食事として摂取した後、
・食事の中の脂質の成分(コレステロールやリン脂質、中性脂肪など)
と一緒に小腸の最初の部分(十二指腸)で
・胆汁酸
と混ぜられ、ミセル化されます※1、※2。
この胆汁酸による「ミセル化」が、脂質とビタミンEの吸収にとって重要な1つのポイントです※1、※2。
食事として摂取した脂質とビタミンEは、ミセル化されることで
・リパーゼによる脂質の消化※3
・小腸からの吸収
が促進されます※1。
ミセル化とは

それではここで、ミセル化とは何かを一緒に見ていきましょう。
通常、脂質は水に溶けません。しかし食べた脂質が
・外側が水になじみやすく、内側が脂質になじみやすい小さな粒子
の中に入った状態になることで、体内の水の部分で溶けたような状態になります。この小さな水になじみやすい粒子の状態を
・ミセル(micelle)
と呼びます。そしてミセルになる過程をミセル化といいます。
水に溶けずに集まった大きな脂質のかたまりが、胆汁酸に囲まれて「小さな水になじみやすい粒子」になることで、腸の中(水の多い環境)でスムーズに分散できるようになります。
また大きな1つの脂質のかたまりがたくさんの小さな粒子に分かれることで、消化酵素リパーゼが働きかける表面積が増え、脂質が消化されやすくなります。
ビタミンEは脂溶性ビタミン、つまりあぶらに溶けやすい性質をもつビタミンです。そのため、ビタミンEは脂質の成分とともにこの小さなミセルの粒子の中心部分、あぶらになじみやすい部分に入り込みます。
この胆汁酸と脂質の成分とビタミンEなどが混ざった状態のものを、混合ミセルといいます。 胆汁酸によって混合ミセルが作られることが、ビタミンEの吸収にとってとても大切であると考えられています※4、※5。
胆汁酸(bile acid)とは

ここでミセル化に必須の胆汁酸について見てみましょう。
胆汁酸は、
・コレステロール
を材料として肝臓で作られる物質です。
胆汁酸は、肝臓で作られた後、いったん
・胆のう
という “ひょうたん” のような形をした袋に貯蔵されます。
胆汁酸は特別なかたちをしていて、水となじみやすい部分(親水基)とあぶらとなじみやすい部分(疎水基)の両方をもっています(両親媒性)。
そして食事を摂った時に十二指腸(小腸の最初の部分)に放出され、小さな粒子ミセルをつくって脂質や脂溶性ビタミンの吸収を助けます。
分子栄養学の栄養素:胆汁酸合成にはヘム鉄が関与
胆汁酸合成は、コレステロールの異化反応です。
(※分子栄養学におけるヘルシーエイジングの基礎:代謝=異化×同化)
この胆汁酸合成経路の律速酵素CYP7A1は、
・ヘム鉄
が補因子として関わっています※6、※7。
また酵素CYP7A1の調節にはビタミンCが関わることが知られています※8。しかし、その詳細についてはまだ明らかになっていないことが報告されています※8。
ビタミンEは脂質と一緒に食べることで吸収率がアップ

ビタミンEは脂溶性ビタミン、つまり脂質に溶けるビタミンです。
ビタミンEはそのまま摂るよりも、脂質と一緒に摂ることで吸収率がアップするという報告があります※5。ビタミンEは、脂質と一緒に食べることでミセル化されやすいことが示されています※5、※9。
(※食事の基本)
今回のまとめ
ビタミンEは細胞膜を酸化から守り、紫外線などの刺激から皮ふを守る際にも重要なビタミンです。
(※皮ふには抗酸化物質ビタミンC、ビタミンEが存在する)
胆汁酸がしっかり分泌され、ビタミンEと脂質が混ざってミセル化されることが、ビタミンEの効率的な吸収を支えます。
ミセル化に必要な胆汁酸合成には
・コレステロール
・ヘム鉄
などの栄養素が関わります。
ビタミンE摂取の際は、脂質と一緒に食べることでミセル化が促され、吸収率がアップします。
分子栄養学実践医師とともに栄養素と身体の仕組みを分子レベルで一緒に学び、自分自身の健康管理に生かしていきましょう。
※1 Schmolz, L.,et al. (2016). Complexity of vitamin E metabolism. World Journal of Biological Chemistry, 7, 14–43.
※2 Miyazawa, T.,et al. (2019). Vitamin E: Regulatory Redox Interactions. IUBMB Life, 71(4), 430–441.
※3 リパーゼは、膵臓から分泌される脂質を消化する酵素です。
※4 Szewczyk, K.,et al. (2021). Tocopherols and tocotrienols—bioactive dietary compounds; what is certain, what is doubt? International Journal of Molecular Sciences, 22(12), 6222.
※5 Reboul, E. (2017). Vitamin E bioavailability: Mechanisms of intestinal absorption in the spotlight. Antioxidants, 6, 95.
※6 目崎 喜弘. (2022). 胆汁酸合成の律速酵素CYP7A1の構造生物学的知見.ビタミン, 97(1), 21–23.
※7 律速酵素とは、その代謝経路全体の反応速度を決める酵素のことです。
※8 池田 彩子ほか. (2020). ビタミンCは酵素反応の補因子として多様な生理作用を発揮する.ビタミン, 94 (7), 397–400.
※9 Yang, Y.,et al. (2013). Vitamin E bioaccessibility: Influence of carrier oil type on digestion and release of emulsified α-tocopherol acetate. Food Chemistry, 141(1), 473–481.