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KYBクリニック医師 吉田京子先生「正しい情報をお伝えするために、人生で一番勉強している」

今回は、分子整合栄養学の専門医として金子塾等多くのテキスト制作を手掛ける吉田京子先生にお話を伺います。

化学の知識を医療に活かせる分子整合栄養学こそ自分が進むべき道だと思った

金子
吉田先生といえば、『分子栄養学を学ぶための基礎化学』や『金子塾基礎編』をはじめ多くのテキストを執筆・編集されてきたことから、「分子整合栄養学の正しい知識の普及に努めている専門医」というイメージがありますが、分子整合栄養学と出合ったきっかけは何でしたか?
吉田
もう25年も前のことになりますが、以前同じ職場に勤めていた元同僚の医師の紹介で、金子雅俊先生の講演会に参加したことです。
当時の私は麻酔科医として大学病院に勤めていたのですが、進行した肝臓がんの患者さんの手術の麻酔を担当したとき等、「たとえがん組織は取り除かれたとしても、この年齢の方にこれだけ侵襲性の高い手術をして、術後はうまく回復することができるのだろうか」と、現代医療に対し疑問を抱くことがしばしばありました。
今と違って、当時はまだインフォームドコンセントが一般的ではない時代でしたから…。そんなときに元同僚と久しぶりに会う機会があり、医師として何かに一生懸命取り組んでいる姿に圧倒されたんです。詳しくお話を聞いてみたところ、金子先生のもとで分子整合栄養学を学ばれていることを知り、講演会へ一緒に連れて行ってもらいました。
金子
医師の立場から見て、講演会はいかがでしたか?
吉田
一般の方を対象とした講演会だったのですが、難しい内容だったのと、皆さんが真剣に聞いていらっしゃるのが印象的でした。
そして、分子整合栄養学の理論を確立したのがあの有名なライナス・ポーリング博士であることを知り、とても驚きました。私にとってポーリング博士といえば、電気陰性度の理論の提唱者として化学の授業で教わったことがまず思い浮かぶくらい偉大な化学者ですから、ポーリング博士から分子整合栄養学を直接学んだ金子先生のお話はとても興味深かったです。
金子
吉田先生が分子整合栄養学に興味をもつきっかけのひとつが、ポーリング博士と化学だったんですね。吉田先生は当時から化学にお詳しかったんですか?
吉田
もともと化学が好きで、高校卒業後は理学部化学科に進学し、有機化学(有機化合物を研究する化学)を学んでいたんです。
理学部時代は朝から晩まで実験室にこもって実験の毎日でした。ちょうどその頃、医学部に進学した友人から「生化学(生命現象を研究する化学)の授業が面白い」という話を聞いたんです。理学部でも生化学の講義はあったのですが、医学部で学ぶ生化学には臨床的な情報も多く含まれていて、より実践的な生化学を学びたいと思ったので、理学部を卒業後、医学部に入りました。
金子
吉田先生が医師を志したのは、医学部で学ぶ生化学に興味をもったのがきっかけだったんですね!実際に医学部で学んでみていかがでしたか?
吉田
代謝(生体内で起こる化学反応)の仕組みを学ぶのがとても面白かったです。私たちはタンパク質や炭水化物、脂質のような有機物を代謝して生きていますから、理学部で学んだ有機化学の知識が生化学の理解を深めるのにとても役立ちました。
医学部卒業後に麻酔科を選んだのも、化学の知識を活かせるかもしれないと思ったからなんですよ。残念ながら、実際は少し違っていましたが…。
金子
吉田先生の化学に対する想いと、医師でありながら化学にこれほど精通している理由がよくわかりました。
吉田
大学病院で勤めている間もずっと、せっかく学んだ化学の知識を医療に活かす方法はないだろうかと考えていました。なので、金子先生からポーリング博士と分子整合栄養学のお話を伺ったときは「私の進むべき道はここだ!」と思いましたね。

長年貧血に悩まされた経験があるからこそ自分の身体を知ることの大切さを広めていきたい

金子
初めて講演会に参加したときの印象として「難しい内容だった」と仰っていましたが、今の知識レベルに到達するまでに分子整合栄養学をどのように学ばれましたか?
吉田
最初は自分自身が一患者として K01 初診スクリーニングの検査を受け、栄養相談を利用しました。
KYBグループの自費検査は項目数がとても多く、検査データの読み方がとてもきめ細やかで驚いた覚えがあります。
金子
初めて検査を受けたときの結果はいかがでしたか?
吉田
ヘモグロビン値(貧血の指標となる検査項目)とフェリチン値(体内の鉄の貯蔵量を反映する検査項目)が低く、典型的な鉄欠乏性貧血という感じでしたね。「私の青春は貧血と共にあり」 と言っていいほど、昔からずっと貧血が酷かったんですよ。
金子
医師である吉田先生でも貧血をおもちだったんですね!
吉田
そうなんです。ヘモグロビン値が20代で10~11、30代で9~10と徐々に下がってきて、分子整合栄養学と出合う直前の40代になるとついに9を下回るようになったので鉄剤を処方されたのですが、胃がムカムカして続けられませんでした。分子整合栄養学を学ぶようになって初めてヘム鉄の存在を知り、「こんなに飲みやすい鉄があるのか!」と感動しました。
金子
今でこそヘム鉄を配合したサプリメントが増えてきましたが、当時は医師の間でもヘム鉄は知られていなかったですもんね。実際に栄養アプローチをしてみて、何か身体の変化は感じましたか?
吉田
ヘモグロビン値とフェリチン値が改善したことにより、長年の悩みの種だった頭痛から解放されました。脳が酸欠状態だったせいで頭痛が起きていたんですね。
それと、キメが整って肌が綺麗になったのが何より嬉しかったです。貧血改善に伴って血流が増加したことで、頬が本来ピンク色なことを知りました。
金子
吉田先生といえば、潜在性鉄欠乏性貧血に関する書籍を執筆される等、貧血対策の重要性について折に触れて皆さまにお伝えくださっている印象がありましたが、ご自身の実体験に基づいていたんですね。
吉田
そうですね。貧血は有経女性を中心にとても身近な病気ですが、細胞機能を低下させることを考えるとまず最初に取り組むべき栄養アプローチのひとつだと思いますので、貧血対策の重要性はこれからも伝え続けていきたいです。
また、栄養アプローチを正しく理解するためにも、身体の仕組みや病態について学ぶ必要がありますから、そのベースとなる生化学や有機化学の知識をわかりやすくお伝えできたらと思っています。
金子
それは化学と分子整合栄養学に精通した吉田先生にしか発信できない情報ですね。そういえば、先程のお話の中で、医学部でも生化学の講義があると仰っていましたが、実際はどの程度勉強するものなんでしょうか?
吉田
私が医学生の頃は半年~1年ほどカリキュラムに組み込まれていましたが、私が思うに医学生には生化学が好きな人は少ないように思います。有機化学に至っては学ぶ機会がほとんどないので、有機化学の重要性を理解する人は非常に少ないでしょう。
生化学の基礎は有機化学にあるので、有機化学の知識がないと生化学も面白みが少なく、単位を取るための勉強で終わってしまい、生化学の知識を臨床に活かせている医師は少ないのかもしれません。
金子
栄養療法に馴染みのない医師にとっては、栄養学も同じなのかもしれませんね。改めて、KYBグループに吉田先生をお迎えできたことを心から誇りに思います。

『金子塾応用編』のテキストリニューアルと講座開催に向けての想い

金子
今『金子塾応用編』のテキストリニューアルを進めていると伺いました。新しいテキストと、3年ぶりの応用編講座開催を楽しみにしている皆さまに向けて、一言メッセージをお願いします。
吉田
以前リニューアルした『金子塾基礎編』と、今年新たに発行した『分子栄養学を学ぶための基礎化学』に続くテキストを現在執筆中です。私自身の学びの中で「分子整合栄養学の理論を正しく理解するには生化学の知識が必要だ」と思い、細胞の機能から栄養素の働きまで網羅したテキストとして作ったのが基礎編で、基礎編を理解するために必要な有機化学等の知識を解説したのが基礎化学です。応用編は、これら2冊の内容を踏まえて病態別の栄養アプローチを学ぶための本ですので、ご自身や大切な人の健康を守るために応用編もぜひお手に取っていただけましたら幸いです。
金子
様々な病態をおもちの方々と共に、KYBグループがこれまで大切に育んできた病態別の分子整合栄養学的アプローチが、吉田先生の手によってどのようにまとめられるのか、僕も今からとても楽しみです。
吉田
皆さんに正しい情報をお伝えするために、人生で一番勉強していると言っても過言ではないくらい、私自身が勉強しているところです。金子先生のように、私も人生一学習者として頑張ります。
金子
吉田先生の勉強熱心なところ、僕もとても尊敬しています。分子整合栄養学の正しい知識を広めていくために、これからも一緒に頑張っていきましょう!
今回は分子整合栄養学の専門医である吉田京子先生をお迎えし、分子整合栄養学を学ぶために化学の知識をもつことの大切さについて伺いました。私たちは自分のもつ知識を通じて世界を認知していますから、新しい知識を取り入れるということは、すなわち世界を見る解像度が高まるということにつながります。どんなに時代が変わっても、私たちの身体を支える栄養アプローチの重要性が風化することはありません。これからも皆さまと一緒に健康に関する知識を蓄え、人生の解像度を高めていくために、科学的根拠に基づく正しい情報を共有してまいります。

吉田 京子
よしだ きょうこ/北海道大学 理学部で有機化学と生化学を学ぶ。医学にも興味をもち、横浜市立大学 医学部に入学。大学病院に勤めていたが、KYBグループ創立者の金子雅俊に出会い刺激を受け、化学と医学の知識を活かしKYB運動に関わっていきたいと思った。2007年からKYBクリニックに勤務し、婦人科を担当。2010年より株式会社 KYBメディカルサービス部長、2016年10月より分子栄養学研究所 学術開発部 部長に就任。

金子 雅希
かねこ まさき/英国でスポーツ栄養科学を専攻し、主にアミノ酸の研究を行う。2007年より株式会社ケンビファミリーに入社。2015年に株式会社ケンビファミリー・株式会社KYBメディカルサービス 代表取締役社長を経てKYBグループ 代表取締役に就任。著名なアスリートに対し、従来のスポーツ栄養科学に分子整合栄養学を組み合わせた栄養指導を多数手掛ける。2020年より国士舘大学体育学部附属体育研究所特別研究員に就任し、専門性に磨きをかけている。

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