分子栄養学と免疫の栄養素「自然免疫:好中球の働きとビタミンC」
ビタミンCは、免疫をサポートすると考えられている抗酸化栄養素のひとつです。
今回は、自然免疫の最前線で戦う立役者のひとつ「好中球」という白血球について、
・好中球とは
・好中球とビタミンCの関係
を一緒に学びましょう。
好中球とは
身体の中の免疫を担当する細胞、白血球。通常の状態では、白血球の中でいちばん多い細胞が好中球です。好中球は自然免疫の一部として働いています※1。(※ビタミンCと免疫)
好中球の正確な寿命がどのくらいかは議論されている最中ですが※1、※2、血液中に存在する細胞の中で最も短く、1日に骨髄で新しく作られると推定される数は体重1kgあたり10億個といわれます※3。
好中球はいつも血管の中に存在しています。そして助けを求める合図を察知すると現場に急行し、身体を守るため病原体や異物などの侵入者を無差別に攻撃します。感染時に作られる好中球は1日に100億個と推定されています※3。
好中球が得意とする病原体
好中球は病原体のうち細菌や真菌(カビの仲間)退治を得意とする細胞です※1。
しかし、無症状または軽度の呼吸器ウイルス感染時の感染初期において、好中球が組織の修復と炎症の収束に有益に働くことを示す論文が出ています※1。
好中球が身体を守るおおまかな仕組み
好中球はおおまかに次のような仕組みで身体を守ります。
・好中球はいつも血管でパトロールをしている
↓
・病原体が入り込んでくると、「助けを求める信号」によって好中球が呼ばれる
↓
・血管の中にいる好中球は素早く血管を出て、感染部位に移動する※4
↓
・現場で病原体をばくばく食べて戦う
↓
・病原体を食べて始末すると自分自身も死んでいく
好中球は病原体を食べて体内に取り込むと、自身の中で作った活性酸素や酵素を使って病原体を破壊します※1。その後、好中球自身もプログラムされた細胞死を迎え、体内の免疫システムを支える役割を全うします。
好中球の攻撃は非常に激しいため、周りの健康な組織を不必要に傷つけないためにも、このような行程がしっかりと実行されることが重要です※1。
好中球はこのほかにも、
・より大きな病原体と戦うときには、活性酸素を外に向かって放出する※5
・あらかじめ蓄えている抗菌ペプチドなどを分泌する※6
などして敵と戦ったりもします。
また、好中球はほかの白血球(マクロファージ、樹状細胞、T 細胞など)と連絡を取り合い、自然免疫と獲得免疫の両方に作用しているのではないかとの報告も出ています※1、※6。またウイルス感染して自滅(アポトーシス)した細胞を貪食して、炎症を終わらせるように働くことも報告されています※7。
好中球を支えるビタミンCの役割
それでは、好中球のこの働きのどこにビタミンCが関わっているかを見ていきましょう。
興味深いことに、好中球は血液(血漿)中のビタミンC濃度の50~100倍もの濃度でビタミンCを蓄えることができます※8、※9、※10、※11。
ビタミンCは、好中球の働きを次のような方法で助けると考えられています※8。
- 身体のどこかに細菌やウイルスが侵入すると、その場所から「助けを求める信号」が出されます。ビタミンCは、好中球がその信号を素早く感知し、素早く現場に向かうことを手助けします。
- 好中球は細菌などの侵入者を見つけると、それを「食べる」という作業を行って戦います。これを「貪食」と呼びます。ビタミンCは、この「食べる力」を促進する働きがあります。
- 好中球は食べた侵入者を退治するためのツールのひとつとして「活性酸素」という特殊な武器を使います。これは細菌などを攻撃する強力な物質です。ビタミンCは、この活性酸素を増やして殺菌が効率よく行われるための手助けをします。
- 好中球には「最期の仕事」があります。それは、戦い終わった自分が死んでいくことです。侵入者と戦い終わった好中球は、自分の役目を終えたことを知り、「マクロファージ」という別の白血球に片付けてもらいます。ビタミンCは、この「お掃除」の過程もスムーズにします。これによって、周りの健康な組織に余計な炎症や傷害が起きるのを防ぎます。
以上のように、ビタミンCは私たちの身体を守る好中球の働きを上手にサポートしていると考えられています※8。
ヒトはビタミンCを作れない
ビタミンCは人間の体内では作ることができない栄養素、水溶性ビタミンです。そのため、毎日の食事から摂取する必要があります。
ビタミンCの血中濃度は2時間でピークを迎え、緩やかに低下します※12。このことから、分子栄養学では医師のモニタリングのもと自分にとっての至適量をみつけ、なるべく頻回に摂って血中濃度を保つことをお勧めしています。
現代社会でビタミンCが不足する理由
現代社会では、多くの人がビタミンC不足に陥る可能性が示されています。その理由としては
- 偏った食生活
- 喫煙やアルコールの習慣
- ストレスの多い生活
- 大気汚染
などが挙げられています※8。
これを機に自分のライフスタイルを見直し、自分にとっての至適量のビタミンC補給を目指しましょう。
今回のまとめ
ビタミンCは私たちの免疫システムの白血球のひとつ、好中球の適切な働きを支えると考えられる重要な栄養素です。
喫煙、過度のストレス、大気汚染でもビタミンC不足は起こりやすくなります。ライフスタイルを見直し、ビタミンCの至適量摂取で免疫細胞の働きを助け、感染症予防を目指しましょう。
ただし、ビタミンCだけで完璧な免疫が得られるわけではありません。バランスの良い食事、適度な運動、質の良い睡眠、十分な休養などの正しい生活習慣も大切です。
免疫としての結果を求めるためには、ビタミン(C、D、E)、亜鉛、セレンをサプリメントとして摂取する必要性を示す文献も存在します※13。
分子栄養学では詳細な血液検査や腸内環境検査に基づき、個体差に応じた栄養素の摂取を推奨しています。タンパク質やグルタミン、腸内環境、オメガ3:オメガ6の脂肪酸バランス、ビタミン(A、B群、C、D、E)、ミネラル(ヘム鉄、亜鉛、セレンなど)など免疫のための栄養素の至適量摂取を、医師とともに進めることを提唱しています。
(※あなたの腸は大丈夫? リーキーガット症候群(理論編②))
(※分子栄養学における免疫と栄養素の基本対策①)
分子栄養学実践医師とともに、自分に合った免疫のための栄養素摂取量を科学的な視点から模索していきましょう。(※血液検査でわかる!あなたの健康状態)
※1 Johansson, C.,et al. (2021). Neutrophils in respiratory viral infections. Mucosal Immunology, 14, 815–827.
※2 Hidalgo, A.,et al. (2019). The Neutrophil Life Cycle. Trends in Immunology, 40(7), 584–597.
※3 Ley, K.,et al. (2018). Neutrophils: new insights and open questions. Science Immunology, 3(30), eaat4579.
※4 好中球が血管外に移動することを血管外遊走といいます。
※5 Warnatsch, A.,et al. (2017). Reactive oxygen species localization programs inflammation to clear microbes of different size. Immunity, 46, 421–432.
※6 Lawrence, SM.,et al. (2018). The Ontogeny of a Neutrophil: Mechanisms of Granulopoiesis and Homeostasis. Microbiology and Molecular Biology Reviews, 82(1), e00057–17.
※7 Hashimoto, Y.,et al. (2007). Evidence for phagocytosis of influenza virus-infected, apoptotic cells by neutrophils and macrophages in mice. Journal of Immunology, 78(4), 2448–2457.
※8 Carr, AC., et al. (2017). Vitamin C and immune function. Nutrients, 9, 11.
※9 Washko, P.,et al. (1989). Ascorbic acid transport and accumulation in human neutrophils. Journal of Biological Chemistry, 264, 18996–19002.
※10 Bergsten, P.,et al. (1990). Millimolar concentrations of ascorbic acid in purified human mononuclear leukocytes. Depletion and reaccumulation. Journal of Biological Chemistry, 265, 2584–2587.
※11 Evans, RM.,et al. (1982). The distribution of ascorbic acid between various cellular components of blood, in normal individuals, and its relation to the plasma concentration. British Journal of Nutrition, 47, 473–482.
※12 Padayatty, SJ.,et al. (2004). Vitamin C pharmacokinetics: implications for oral and intravenous use. Annals of Internal Medicine, 140(7), 533–537.
※13 Calder, PC. (2020). Nutrition, immunity and COVID-19. BMJ Nutrition, Prevention and Health, 3(1), 74–92.