The Orthomolecular Times

2024.12.9 分子栄養学の栄養素「ビタミンCと免疫」

栄養素のお話(応用編)

分子栄養学の皮ふ(肌)の抗酸化栄養素①「抗酸化酵素と鉄、亜鉛、マンガン、セレン、ビタミンB2」

皮ふ(肌)の大きな仕事のひとつは、紫外線や大気汚染など環境のダメージから身体を守ることです※1、※2、※3

皮ふにはもともと紫外線などで起こる酸化ストレスから自分を守る抗酸化能力が備わっています。

今回は皮ふのもつ抗酸化能力のうち、抗酸化酵素がはたらくための補因子(cofactor)、補酵素などの栄養素(鉄、亜鉛、銅、マンガン、セレン、ビタミンB2、ナイアシン)について一緒に学んでいきましょう。

酵素とは、抗酸化酵素とは

皮ふ(肌)が老化する主な原因と考えられている酸化ストレス※3。(※紫外線が起こす酸化ストレスって何?

皮ふにはもともと酸化ストレスで起こる「サビ(酸化)」から身体を守る酵素(抗酸化酵素)が存在しています※3、※4

酵素とは、分子栄養学の大切な基礎である「代謝」を支えるタンパク質のひとつです※18。代謝とは私たちが生きるために生体内で起こっている連続的な化学反応のことを指しています。

私たちが健やかな心と身体に保つため、代謝をスピーディかつスムーズに進める酵素は必要不可欠な存在です。(※代謝=異化×同化

抗酸化酵素とは、抗酸化(活性酸素やフリーラジカルから自分の身を守る)の役割をしている酵素のことです。

補因子(cofactor)とは

酵素がしっかり働くための重要な条件のひとつが、補因子(cofactor)の存在です。

多くの酵素が働くのに、ビタミン・ミネラルといった補因子が必要です。補因子のうち、低分子有機化合物であるものを補酵素と呼びます。補酵素の多くはビタミン由来のものです。

分子栄養学ではこの事実に深く着目しています。なぜなら、ある代謝経路に関わる補因子としてのビタミン・ミネラルが足りないことで酵素が十分に働けないのではないか。そしてその代謝経路が滞った結果として体調不良が起こっているのではないか、と考えるからです。(※酵素×ビタミン・ミネラル

皮ふ(肌)に存在する抗酸化酵素とは

皮ふに存在する抗酸化酵素は

・スーパーオキシドジスムターゼ(SOD:superoxide dismutase)
・カタラーゼ(CAT:catalase)
・グルタチオンペルオキシダーゼ( GPX: glutathione peroxidase)
・グルタチオンレダクターゼ(グルタチオン還元酵素:GR:glutathione reductase)

などが報告されています※3、※4

これらの酵素がどんな補因子によって機能を発揮できるのかを、以下に順番に見ていきましょう。

スーパーオキシドジスムターゼ(SOD:superoxide dismutase)

スーパーオキシドジスムターゼは略してSODと呼ばれます。SODには3種類あり、それぞれ働いている場所が違います。

SOD1は細胞質と核、SOD2はミトコンドリア、SOD3は主に細胞外空間で働いていることが示されています※4

それぞれのSODが抗酸化酵素として働くには、補因子としてミネラルが必要です。必要なミネラルは、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)です。

SOD1、SOD2、SOD3それぞれが必要な補因子は以下になります※3、※4

・SOD1(Cu / Zn)
・SOD2(マンガン)
・SOD3(Cu / Zn)

SODの欠損が皮ふの老化に関わっていることがマウスの研究で示されています※3、※5、※6、※7

カタラーゼ(CAT:catalase)

カタラーゼは補因子として

・鉄(Fe)

が必要な酵素です。

過度の紫外線に当たると皮ふのカタラーゼ活性が減少し、タンパク質の「サビ(酸化)」が増えることが示されています※8、※9。カタラーゼにしっかり働いてもらうためにも、外側から適切な紫外線対策(日焼け止めなどの使用)を行うことが大切です。

グルタチオンペルオキシダーゼ( GPX: glutathione peroxidase)

グルタチオンペルオキシダーゼは、グルタチオン(GSH)が抗酸化物質としてはたらく際に必要な酵素です。抗酸化をして疲れたグルタチオン(GSSG)を、もとの元気なグルタチオン(GSH)に戻す際に活躍するグルタチオンレダクターゼ(GR)と一緒にペアで働きます※10

ヒトを含む哺乳類では、現在わかっているところで8種類のグルタチオンペルオキシダーゼ(GPX1~GPX8)が存在しています※11

人のあらゆる組織の細胞(細胞質、ミトコンドリア)に存在するのがグルタチオンペルオキシダーゼ(GPX1)です※11、※12、※13

グルタチオンペルオキシダーゼ(GPX1)は補因子として

・セレン

が必要です※11

また紫外線(UVB)によって引き起こされる、ある種の脂質過酸化反応の害からケラチノサイト(皮ふの角化細胞)を守ることが報告されているのが、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPX4)です※14

グルタチオンペルオキシダーゼ(GPX4)は、補因子として

・セレン

が必要です※10、※11、※15。GPX4は主に細胞膜を「サビ(酸化)」から守る働きをしていると考えられています※10、※11、※15

マウスの研究では、セレンが欠乏するとGPX4よりも先にGPX1が減ることが報告されています※11、※16。抗酸化栄養素としてセレンも意識して摂りましょう。

グルタチオンレダクターゼ(グルタチオン還元酵素:GR:glutathione reductase)

グルタチオンレダクターゼは、働いて疲れたグルタチオン(GSSG)を元の元気なグルタチオン(GSH)に戻してくれる酵素です※10

グルタチオンはビタミンCとビタミンEを再生するのに役立ちます※10。そうして使われたグルタチオンはグルタチオン還元酵素によって再生されます※10

グルタチオンレダクターゼの補酵素として

・ビタミンB2(FAD)

が必要です※17

またグルタチオンレダクターゼが働くためには、

・ナイアシン(NAD(P)H)

が必要です※10

今回のまとめ

皮ふ(肌)には、もともと紫外線などの環境のダメージから自分を守るための抗酸化酵素が存在しています。

それぞれの抗酸化酵素が働くためには、以下の補因子、補酵素などとして

・ビタミン(ビタミンB2、ナイアシン)

・ミネラル(鉄、亜鉛、銅、マンガン、セレン)

が必要です。

具体的には

・スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)
  ・SOD1(銅 / 亜鉛)
  ・SOD2(マンガン)
  ・SOD3(銅 / 亜鉛)
・カタラーゼ(鉄)
・グルタチオンペルオキシダーゼ(セレン)
・グルタチオンレダクターゼ(ビタミンB2、ナイアシン)

です。

人生100年時代、皮ふを紫外線などの環境から守り続けるためにも、抗酸化酵素にしっかり働いてもらうことが必要です。分子栄養学実践医師のモニタリングのもと、ビタミン・ミネラルをしっかり補給し、皮ふを守っていきましょう。

※1 Pullar, JM.,et al. (2017). The Roles of Vitamin C in Skin Health. Nutrients, 9(8), 866.

※2 D'Orazio, J.,et al. (2013). UV radiation and the skin. International Journal of Molecular Sciences, 14(6), 12222–12248.

※3 Papaccio, F.,et al. (2022). Focus on the Contribution of Oxidative Stress in Skin Aging. Antioxidants , 11(6), 1121.

※4 Woodby, B.,et al. (2020). Skin Health from the Inside Out. Annual Review of Food Science and Technology, 11, 235–254.

※5 Murakami, K.,et al. (2009). Skin atrophy in cytoplasmic SOD-deficient mice and its complete recovery using a vitamin C derivative. Biochemical and Biophysical Research Communications, 382(2), 457–461.

※6 Treiber,N.,et al. (2012). The role of manganese superoxide dismutase in skin aging. Dermato-Endocrinology, 4, 232–235.

※7 Velarde, MC.,et al. (2012). Mitochondrial oxidative stress caused by Sod2 deficiency promotes cellular senescence and aging phenotypes in the skin. Aging (Albany NY), 4(1), 3–12.

※8 Sander,CS.,et al. (2002). Photoaging is associated with protein oxidation in human skin in vivo. Journal of Investigative Dermatology, 118(4), 618–625.

※9 Poljšak, B.,et al. (2012). Free radicals and extrinsic skin aging. Dermatology Research and Practice, 2012, 135206.

※10 Averill-Bates, DA. (2023). The antioxidant glutathione. Vitamins and Hormones, 121, 109–141.

※11 Pei,J.,et al. (2023). Research progress of glutathione peroxidase family (GPX) in redoxidation. Frontiers in pharmacology, 14, 1147414.

※12 Lubos,E.,et al. (2011). Glutathione Peroxidase-1 in Health and Disease: From Molecular Mechanisms to Therapeutic Opportunities. Antioxidants and Redox Signaling, 15(7), 1957–1997.

※13 Handy, DE.,et al. (2022). The Role of Glutathione Peroxidase-1 in Health and Disease. Free Radical Biology and Medicine, 188, 146–161.

※14 Feng, A.,et al. (2022). NMN recruits GSH to enhance GPX4-mediated ferroptosis defense in UV irradiation induced skin injury. Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Molecular Basis of Disease, 1868(1), 166287.

※15 Bersuker, K.,et al. (2019). The CoQ oxidoreductase FSP1 acts in parallel to GPX4 to inhibit ferroptosis. Nature, 575(7784), 688–692.

※16 Anna P. Kipp. (2017). Chapter Four - Selenium-Dependent Glutathione Peroxidases During Tumor Development. Advances in Cancer Research, 136, 109–138.

※17 McNulty, H.,et al. (2023). Causes and Clinical Sequelae of Riboflavin Deficiency. Annual Review of Nutrition, 43, 101–122.

※18 一部、RNA(核酸の一種)も酵素として働くものもあります。

RELATED

PAGE TOP