The Orthomolecular Times

【リニューアル記事】2024.6.24 分子栄養学とは① 「一般の栄養学と分子栄養学の違い」

妊娠前・妊娠中・産後

スリムな若い女性(18~29歳)に食後高血糖が多い⁉ 日本人に関する研究

日本人のスリムな若い女性(18~29歳)に食後高血糖があることが明らかに

耐糖能異常※3、糖尿病や心筋梗塞、脳梗塞など心血管疾患は生活習慣によって「加齢とともにやってくる」イメージがあるかもしれません。しかし研究対象となった日本人のスリムな若い女性(18~29歳)に、インスリン抵抗性※4による食後高血糖※5(耐糖能異常)が多いというとてもショッキングな研究が順天堂大学の研究グループによって発表されています※1。今回はその研究結果のご紹介です。

分子栄養学による食後高血糖対策の数々

分子栄養学では、食後高血糖を予防することは、栄養素を運ぶ道である血管の健康、糖尿病や肥満、心血管疾患を防ぐ方法として重要視し(※分子栄養学で血管を守る!「血糖値コントロール編」)、食後高血糖を予防する糖質や栄養素の摂り方を含めた食事方法、適度な運動、ストレス対策、口腔環境・腸内環境を整えることを含む全体的な生活習慣の改善を提案しています(※食後高血糖はダイエットの敵! 肥満の理論「糖質-インスリンモデル」)。また、インスリン感受性を改善する可能性が研究されているマグネシウム、亜鉛などミネラルの至適量摂取についても提案しています(※分子栄養学で血管を守る!「血糖値コントロール編」)。

スリムで食べ過ぎもないのに脂肪肝になり、その脂肪肝がインスリン抵抗性を招く⁉

また、とてもスリムで食べ過ぎもないのに脂肪肝、ということがあり得ます。脂肪肝はインスリン抵抗性を引き起こします。脂肪肝についてはさまざまな分子レベルでのメカニズムが解明されている最中ですが、スリムで食べ過ぎもないのに脂肪肝である原因のひとつとしてタンパク質不足が挙げられています※2。脂肪肝の仕組みについては ※「脂肪肝対策①」、脂肪肝に対する分子栄養学的対策は ※「脂肪肝対策②」をご覧ください。

若い女性の痩せは将来の健康に関わるとして問題に

コンビニに行けば24時間いつでもどこでも食品を手に入れ、食べることのできる時代。その一方で、今回の研究により、日本人の痩せ型の若い女性が食事を食べる量(総エネルギー摂取量)が減り、筋肉量が減り、その女性たちの一部に代謝異常が起こっていることが明らかとなっています※1。令和1年(2019年)国民健康・栄養調査(厚生労働省)による身体状況等に関わる調査結果によれば、20 歳代女性の20.7%が「やせ(BMI<18.5 kg/m2 )」と報告されています。若い女性の痩せは、妊娠・出産に関する問題、さらに老後の健康に必須の骨格筋量が減ってしまうサルコペニア※6などにつながる恐れがあり、将来の病気の予防の観点からも対策が必要であると報告されています※7

2019年にはアメリカ糖尿病学会において、連続で血糖変動を測ることのできる持続血糖測定器 (CGMContinuous Glucose Monitoring)で血糖変動を把握することの重要性が、国際的コンセンサスとして発表されています※8。今回紹介する研究結果※1を踏まえて、やせていてもインスリン抵抗性を引き起こす可能性についてもう一度捉え直し、年齢が若くても耐糖能異常(食後高血糖)になる可能性があることについて知り、今後の人生100年時代の健康自主管理に生かしていきましょう。

スリムな若い女性(18~29歳)に食後高血糖が多い⁉ 日本人に関する研究の紹介

順天堂大学の研究グループによって、今回対象となった日本人のスリムな若い女性(18~29歳、BMI 16.0~18.49 kg/m2)は、耐糖能異常の割合が高く、食事量・運動量がともに少なく、骨格筋量も少ない「エネルギー低回転タイプ」であるということが2021年に発表されています※1。これまで肥満者で起こると考えられていたインスリン抵抗性や脂肪組織の異常などが、スリムな女性の耐糖能異常の原因として起こっていることが明らかにされました。

研究の対象となったのは、日本人の18~29歳の若い世代の女性です。瘦せ型(BMI 16.0~18.49 kg/m2)98名と、標準体重(BMI 18.5~22.9 kg/m2)56名が参加しました。75g 経口糖負荷試験を実施し、耐糖能異常(糖負荷2時間後の血糖値が140mg/dl以上)があるかどうかを調査、同時に体組成測定(DXA法)、体力測定、アンケート(食事内容、身体活動量について)を実施しています。

その結果、標準体重群のうち1.8%が耐糖能異常を示したのに対し、瘦せ型群ではその約7倍の13.3%が耐糖能異常を示したとのことです。また、痩せ型群は標準体重群に比べ、食事量(エネルギー摂取量)が1日平均236 kcal 少ない、身体活動量が23%少ない、体重が7.2㎏軽く、特に筋肉量が4.6㎏少ないということも示されました。

次に、耐糖能異常のある痩せ型群の特徴を明らかにするため、耐糖能異常のない痩せ型群に比較して解析した結果、両群は体組成が同じにも関わらず、耐糖能異常のあった群で初期のインスリン分泌の低下、最高酸素摂取量の低下、インスリン抵抗性などが存在することが明らかとなりました。これまでインスリン抵抗性は肥満(体重)と年齢に関連し、痩せ型の耐糖能異常はインスリン分泌障害が主体だと考えられていましたが、今回の研究で瘦せ型の若い女性の耐糖能異常の原因として、インスリン抵抗性が存在することが世界で初めて明らかになりました。

痩せた女性に対する今後の取り組みとして、適正な筋肉量を維持できる身体づくり、しっかりした栄養素を摂って適度な運動をするなど、生活習慣の改善が重要であると報告しています。なぜ痩せた若い女性にインスリン抵抗性や脂肪組織の異常が生じるのかのメカニズムはまだ不明であるため、さらなる研究が必要であるとしています。

●元論文はこちら
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33512496/
Sato, M., et al. Prevalence and features of impaired glucose tolerance in young underweight Japanese women . Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism, 106(5):e2053-e2062.(2021)

美しさを求めて痩せても、中身が老化する⁉

日本では、スリムな若い女性の割合が減らず、それは痩せ願望によるものが大きいとも報告されています※7。今回の研究結果※1から学べることは、たとえ若くても、そして美しさを求めて体重を落としたとしても、実際の中身が老化まっしぐら、ということがあり得るということです。

分子栄養学では、総エネルギー摂取量とタンパク質、微量栄養素を十分に確保し、元気に動ける身体を目指す

なぜ若い痩せた女性にインスリン抵抗性が起こるのか、そのメカニズムについてはまだ明らかにされていませんが※1、分子栄養学ではその対策として、まずは詳細な血液検査データ(※血液検査の意義①②③④)などによる客観的な数値をもとに、医師が「今の状態」を読み解きます。そして栄養バランスの良い食事、全体の総エネルギー摂取量を十分に確保し、エネルギー産生のための栄養素を個体差にあった至適量摂取することで、まずは体内でしっかりエネルギーの乾電池、ATPに変換できる代謝経路を活用することを考えます。そして健康な骨格筋量を維持できるタンパク質を十分に摂取し、元気に動ける身体づくりを目指します。(※分子栄養学的ダイエット成功の秘訣!筋肉と基礎代謝量と栄養素のお話

インスリン抵抗性改善のためのマグネシウム、亜鉛などのミネラル摂取

分子栄養学ではその他の栄養素による対策として、インスリン感受性を改善し糖尿病を予防する効果が期待されているマグネシウム※9、※10、インスリンの構成要素である亜鉛、最終的に「インスリン抵抗性や糖尿病」に関連する酸化ストレスに関わる可能性のあるミネラルなどの欠乏(カルシウムとビタミンD、コバルト、クロム、ヨウ素、マグネシウム、セレン、亜鉛)※11への対策なども一緒に考えます。(※若い血管を取り戻すための分子栄養学「血管内皮細胞のターンオーバー」

分子栄養学は、脂肪肝、歯周病、腸内環境対策でインスリン抵抗性改善を目指す

インスリン抵抗性は、脂肪肝、歯周病、腸内環境の悪化でも起こり、腸内環境の悪化は過剰なストレスでも起こります。食後高血糖は、血管の内側を構成する血管内皮細胞(以下、内皮細胞)を傷つけ、その傷ついた内皮細胞が老化し、それが蓄積することで、2型糖尿病、心血管疾患のリスクが高くなることが明らかになってきています。(※血管内皮細胞が老化するとどうなるの?

ぜひ分子栄養学の勧める食事(※食事の基本)を基礎とし、適度な運動、快適な睡眠を確保して、その上で個体差に沿った栄養素をしっかり代謝することで、キレイな姿勢を保てる筋肉量を維持していきましょう。それが人生100年時代の美しい身体づくりへの第一歩であると考えます。分子栄養学の血液検査、腸内環境検査などとともに、身体の内側からの健康、美しさを考えてみませんか。生活習慣の改善とともに、全身への総合的な栄養素アプローチで元気に動ける身体づくりを目指します。

※1 Sato, M., et al. Prevalence and features of impaired glucose tolerance in young underweight Japanese women . Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism, 106(5):e2053-e2062.(2021)

※2 豊島 由香, 他.タンパク質栄養状態悪化による肝脂肪蓄積の機構. Journal of Japanese Biochemical Society ,93(1): 35-42. (2021)

※3 耐糖能異常とは、空腹時の血糖値が「正常値」と「異常値(糖尿病と診断される値)」の間にある状態のことです。境界型糖尿病、糖尿病予備軍ともいわれます。耐糖能異常は、放置すると2型糖尿病のリスクとなります。

※4 血糖を下げるホルモン(インスリン)に対して反応する性質がある細胞(標的細胞)がインスリンに反応することをインスリン感受性といいます。そしてその感受性が低下し、インスリンが効きにくい(作用しにくい)状態をインスリン抵抗性といいます。

※5 厚生労働省eヘルスネットより引用
"https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-086.html#:~:text=%E9%A3%9F%E5%BE%8C%E3%81%AF%E8%AA%B0%E3%81%A7%E3%82%82%E4%B8%80%E6%99%82,%E8%A1%80%E7%B3%96%E3%81%A8%E5%88%A4%E6%96%AD%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82"
「食後高血糖
食後は誰でも一時的に血糖値が高くなりますが、通常であればインスリンがすぐ分泌され、食後約2時間以内には正常値に戻ります。食事をしてから2時間後に測った血糖値が140mg/dl以上ある場合、食後高血糖と判断されます。これはインスリンの分泌が少なかったり、働きが不十分だったりすることから、食後に血糖値が急上昇しているためです。
食後血糖値が高い状態が続くと、糖尿病を発症したり予備群である疑いがあり動脈硬化の危険因子としても重要で、放置しておくと血管障害が進み脳卒中や心筋梗塞などを引き起こす恐れがあります。
糖尿病を診断する空腹時血糖値が正常だったり境界域にある場合でも、食後の血糖値だけ大幅に上昇する場合があります。こうした症状は「隠れ糖尿病」である疑いがあります。」

※6 厚生労働省eヘルスネットより引用
"https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-087.html#:~:text=%E9%AB%98%E9%BD%A2%E6%9C%9F%E3%81%AB%E3%81%BF%E3%82%89%E3%82%8C%E3%82%8B,%E4%B8%8D%E8%89%AF%E3%81%8C%E5%8D%B1%E9%99%BA%E5%9B%A0%E5%AD%90%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82"
「サルコぺニア(さるこぺにあ)/ sarcopenia / 筋肉減少症 /  
高齢になるに伴い、骨格筋の量が低下し、筋力や身体機能が低下した状態。
高齢期にみられる骨格筋量の低下と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下のことです。骨格筋量の低下は25~30歳頃から始まり、生涯を通して進行します。
サルコペニアの主な要因は加齢ですが、活動不足や疾患、栄養不良が危険因子です。
サルコペニアになると、抗重力筋(広背筋・腹筋・膝伸筋群・臀筋群など)の低下が起こるため、立ち上がりや歩行がだんだんと億劫になります。放置すると歩行困難にもなってしまうことから、高齢者の活動能力の低下の大きな原因となっています。
サルコペニアの予防には、適切な栄養摂取が大切です。特に1日に(適正体重)1kg当たり1.0g以上のたんぱく質摂取は、発症予防に有効な可能性があります。
運動習慣ならびに豊富な身体活動量も、サルコぺニアの発症を予防する可能性があり、特にレジスタンス運動(いわゆる筋トレ)が有用と考えられています。このような運動には、日常生活での基本的な動作能力の改善や転倒予防といった効果も示されています。
栄養摂取と運動は、それぞれ単独よりも、両者を併用で実践することがより効果的です。
(真田 樹義)」

※7 Yasuda, T. Desire for thinness among young Japanese women from the perspective of objective and subjective ideal body shape. Scientific Reports, 13(1):14129. (2023)

※8 Battelino, T., et al. Clinical targets for continuous glucose monitoring date interpretation: recommendations form the international consensus on time in range. Diabetes Care, 42(8): 1593-1603.(2019)

※9 Fang, X.,et al. Dose-Response Relationship between Dietary Magnesium Intake and Risk of Type 2 Diabetes Mellitus: A Systematic Review and Meta-Regression Analysis of Prospective Cohort Studies. Nutrients, 8(11):739. (2016)

※10 Barbagallo, M.,et al. Magnesium and type 2 diabetes. World Journal of Diabetes, 6(10): 1152-1157. (2015)

※11 Dubey, P.,et al. Role of Minerals and Trace Elements in Diabetes and Insulin Resistance. Nutrients, 12(6):1864. (2020)

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