分子栄養学の栄養素「ビタミンEが細胞膜を守る仕組み」


ビタミンEは、身体を構成する細胞の脂質の部分を守ると考えられている栄養素です。
分子栄養学では、目や肌(皮ふ)を紫外線から守る栄養素としてもビタミンEを重要視しています。
・ビタミンEがどのようにして細胞を守るか
について、細胞の構造からわかりやすく解説します。一緒に見ていきましょう。
人の老化についての学説:フリーラジカル学説

なぜ人は老化するのか?
その老化についての仮説のひとつに、フリーラジカル学説があります※1。
フリーラジカル学説は、過剰な活性酸素やフリーラジカル(以下、活性酸素)が身体を酸化させることが老化の原因となるとする説です※2。
分子栄養学によく登場する抗酸化栄養素ビタミンC・Eは、この学説に対するツールとして考えます。
(※ビタミンCの底力)
ビタミンC・Eは、それぞれ
・ビタミンC:生体内の水溶性の部分
・ビタミンE:生体内の脂質の部分
において抗酸化物質として過剰な活性酸素を消去するのに役立つと考えられています。
それでは生体内の「脂質の部分」とは具体的にどこを指すでしょう。ビタミンEはどこでどのように働いているでしょうか。
今回はビタミンEの基礎的な役割について、基本となる細胞の構造から一緒に見ていきましょう。
細胞膜とは

ひとりの人を構成する “生きた最小単位” である細胞。
その細胞を「細胞」としてくれるのが、細胞膜の存在です。
細胞膜は、人が人として生きるための細胞を形づくる、細胞のいちばん外側を包む膜のことです。
細胞膜の働き
ひとりの人は、数十兆個の細胞でできています。
その数十兆個の細胞の細胞膜は、
・細胞と細胞を区切る境界線
・必要な物質のやり取りを行い、細胞の中の状態を保つ
・細胞の情報伝達を担う※3
などの役割を果たしています。
1つひとつの細胞がそれぞれの役割を担い連絡を取り合うことで、全体としての人間が生きることが可能になります。
そのため細胞膜がいつも健康であるということが、細胞にとって、そして人の健康にとってとても重要です。
そしてその細胞膜を変化させてしまうと考えられているのが、過剰な活性酸素です。
それではどのように活性酸素が細胞膜に影響するか、それを知るためにまずは細胞膜の構造を見ていきましょう。
細胞膜の構造:細胞膜は、あぶらとタンパク質でできている

細胞膜は何でできているか、ご存じですか?
その答えは「あぶら」です。細胞膜は、あぶら(脂質)でできています。
細胞膜を形づくるのは
・リン脂質二重層
です。リン脂質二重層は言葉通り、リン脂質という脂質が二重の層になってできています。リン脂質は、リン酸という物質を含んだ脂質のことです。
そしてそのリン脂質二重層の中にタンパク質がところどころ埋まっている、これが細胞膜の基本構造です。
この細胞膜に埋まったタンパク質のことを、特に膜タンパク質と呼んでいます。細胞膜と膜タンパク質はガッチリ固まっているわけではなく、柔らかな流動性をもっています。
柔らかい脂質の海の中を、膜タンパク質がぷかぷかと浮き流動的に動きながら、細胞内外の物質のやり取りを行っています。
細胞膜は活性酸素の攻撃を受けやすい
細胞膜がいつも健康な状態であるということが、細胞の機能にとってとても重要です。なぜなら先ほど見たように、細胞膜が健全に働いてくれることが、細胞自体が健全に働く基盤となるからです。
そしてその細胞膜に悪影響を及ぼし異常を引き起こすと考えられているひとつの要因が、過剰な活性酸素です※1。
細胞膜を構成する脂質は活性酸素の影響を受けやすく、過剰に酸化されることで「過酸化脂質」という物質に変化します。
過酸化脂質は、細胞膜(リン脂質二重層)の足(棒)の部分を構成する
・不飽和脂肪酸(リノール酸、アラキドン酸、EPA、DHAなど)
が優先的に酸化されて作られると考えられています※4。
過酸化脂質と病気の関係

過酸化脂質は、それ自体が
・さらに多くの活性酸素を生み出す原因になる
・タンパク質やDNAを損傷させる
ことが示されています※4。
そのため過酸化脂質は
・がん
・炎症
・神経変性疾患
・目や腎臓の病気
などに関わるのではないかと世界中で研究されています※4。
ビタミンEは、この細胞膜を構成する脂質過酸化の連鎖反応を途中で食い止める働きが期待されている抗酸化栄養素です※4、※5、※6。
ビタミンEは、細胞膜の脂質過酸化反応に対する「第一の防御線」と考えられています※4、※5、※6。
ビタミンEは、細胞膜に入り込んで細胞を守る

有害な細胞膜の脂質過酸化が起こらないように、細胞膜の健康を守る栄養素のひとつとして考えられているビタミンE。
具体的に、どこの場所で細胞膜を守っているでしょう。
その答えは「細胞膜の中」です。
ビタミンEは、身体中の細胞膜で普通に見られる栄養素です※1。そしてその形状から、細胞膜の中に直接組み込まれ、活性酸素の害から守ると考えられています※7。
ビタミンEとビタミンCの相乗効果
細胞膜の脂質の部分で自分自身が酸化されることによって、脂質過酸化の連鎖反応を止めるビタミンE。
しかし酸化されて疲れたビタミンEは、ビタミンCによってまた元の元気なビタミンEに戻り、酸化を防ぐ物質として働くことができます※4。
そこで分子栄養学では、ビタミンEとビタミンCを一緒に摂ることをお勧めしています。2つのビタミンを一緒に摂ることで、ビタミンCとビタミンEの乗効果が生まれるからです。
脂質抗酸化におけるビタミンEとセレン
細胞膜の脂質を守る「第一防御線」といわれるビタミンE。
このほか、ミネラルの1つであるセレンも脂質を過酸化から守る栄養素として活躍します。
セレンを補因子とする抗酸化酵素GPX4は、過酸化脂質を還元する能力をもち、細胞膜の脂質の健康を守ると考えられています※4、※8。
(※分子栄養学の皮ふ(肌)の抗酸化栄養素①)
今回のまとめ
細胞の外側を包む細胞膜は、細胞の働きを左右する大事な役目を果たしています。
そのため細胞膜を健康に保つことは、人の健康にとって非常に大切です。
ビタミンEは細胞膜に直接組み込まれ、あぶらでできている細胞膜を過剰な活性酸素の害から守ると考えられています。
あぶらを守るために働いたビタミンEを、ビタミンCが元の元気なビタミンEに戻してくれます。ビタミンC・Eは、一緒に摂ることで相乗効果が期待されます。
分子栄養学の紫外線対策の基本として、ビタミンC・Eをお勧めしています。
(※春の紫外線から目と皮ふ(肌)を守る栄養素)
抗酸化酵素GPX4の補因子セレンなどの至適量の栄養素摂取も一緒に行うことで、細胞膜と身体の健康を守っていきましょう。
※1 Miyazawa, T.,et al. (2019). Vitamin E: Regulatory Redox Interactions. IUBMB Life, 71(4), 430–441.
※2 酸化とは何かを説明する際、よく使われるのが「サビ(錆び)」という言葉です。例えばリンゴを切って空気にさらしておくと茶色くなります。あれが「サビ」つまり「酸化」の一例です。
※3 シグナル伝達経路のセカンドメッセンジャーとして、細胞の働きを保っています。
※4 Gaschler, MM.,et al. (2017). Lipid peroxidation in cell death. Biochemical and Biophysical Research Communications, 482(3), 419–425.
※5 Jena, AB.,et al. (2023). Cellular Red-Ox system in health and disease: The latest update. Biomedicine & Pharmacotherapy, 162, 114606.
※6 Rizvi, S.,et al. (2014). The role of vitamin e in human health and some diseases. Sultan Qaboos University Medical Journal, 14(2), e157–e165.
※7 Szewczyk, K.,et al. (2021). Tocopherols and tocotrienols—bioactive dietary compounds; what is certain, what is doubt? International Journal of Molecular Sciences, 22(12), 6222.
※8 Hirata, Y.,et al. (2023). Lipid peroxidation increases membrane tension, Piezo1 gating, and cation permeability to execute ferroptosis. Current Biology, 33(7), 1282–1294.e5.