分子栄養学と免疫の栄養素「感染症と免疫と炎症、抗酸化栄養素の関係とは」
皆さんは、炎症とは何かご存じですか?
例えば風邪※1を引くと喉が痛かったり熱が出たりします。
それは、免疫によって炎症が起こっているサインです。
今回は、
・分子栄養学の免疫対策を学ぶ上で大切な基礎用語、炎症とは何か
・免疫と炎症、抗酸化栄養素の関係
の基礎について一緒に学びましょう。
炎症(inflammation)とは
身体の中の免疫を担当する主役の細胞、白血球。
白血球は、侵入した病原体や身体にとって有害なものを見つけて攻撃したり、ばくばく食べたり、仲間を呼んだり、抗体というタンパク質を作ったりして自分を守るために戦います。
(※免疫を司る白血球「白血球の仲間たちの基礎」)
そしてその過程では、病原体が直接組織※2を壊したり、白血球の攻撃によって周りの組織が壊れたりもします。そしてその壊れた組織の修復も行われます。
炎症とは、
・ケガをしたり(外傷)、病原体に感染する
↓
・組織障害が起こる
↓
・生体が自分を傷つけようとする因子(障害因子)を排除して、傷ついた組織を修復しようとする
以上の “一連の生体防御反応の過程” を指しています。
(※感染と免疫の仕組みを知ろう)
炎症の四徴候
多くの炎症の場は、以下の4つの特徴をもちます。
①赤くなる(発赤)
②熱をもつ(熱感)
③腫れる(腫脹)
④痛い(疼痛)
このほか、機能が障害されること(機能障害)を含めて炎症の五徴候と呼ぶこともあります。
炎症は免疫反応の一連の過程です。感染すると熱が出たり喉が痛かったりするのは、免疫が働いて炎症が起きているサインです。
免疫と炎症、酸化ストレス、抗酸化栄養素の4つの関係
私たちは生きている限り、常にウイルスや細菌、カビなどにさらされ続けます。そして免疫が24時間単位でずっと働き、身体を守ってくれています。
炎症は、人間が健康に生きていくために欠かせない生体の防御反応です。
加えて免疫を支えるのに重要と考えられているのが自分のもつ抗酸化能力や、食事から得られる抗酸化栄養素です※3、※4。
「免疫と抗酸化は関係があるの?」と思われる方もいらっしゃることでしょう。抗酸化能力や抗酸化栄養素がどのように免疫をサポートするでしょうか。
これまで述べたように、免疫は炎症を伴います。そしてそれと同時に免疫・炎症反応では酸化ストレスが発生します。この酸化ストレスを抑えるのに抗酸化能力や抗酸化栄養素が活躍します※3、※4、※5。
なぜ炎症反応に酸化ストレスが関係するかというと、例えば白血球(自然免疫系のマクロファージや好中球などの食細胞)が敵をやっつける手段として、活性酸素やフリーラジカル(以下、活性酸素)をたくさん発生するからです※3、※4。
大量に発生する活性酸素をその場で速やかに抑えられれば問題にはなりませんが、
・自分がもともともっている抗酸化能力(カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)などの抗酸化酵素、グルタチオン)
・自分で摂る抗酸化栄養素(ビタミンC、ビタミンEなど)
による “抑える力” を超えて活性酸素が発生してしまった場合、酸化ストレスが生じます※3、※4。
そしてその酸化ストレスは敵だけでなく、周りの健康な細胞まで次々と傷つけます。余剰な酸化ストレスが健康な細胞、細胞を構成するタンパク質や脂質、DNAまでをも傷つけ、それがさらなる炎症を引き起こす可能性につながります※4。
適切な免疫を陰で支える栄養素(鉄、マンガン、銅、亜鉛、抗酸化栄養素)
そこで免疫を支えるのに重要と考えられているのが自分のもつ抗酸化能力(抗酸化酵素、グルタチオンなど)や、食事から得られる抗酸化栄養素です※3、※4。
感染したときの酸化ストレスの役割は完全に解明されているわけではありませんが、活性酸素はウイルスなどをやっつけ、その侵入を防ぐ手段となると考えられています※4、※6。
しかし、炎症と酸化ストレスを適切に抑えられなかった場合、健康な自分を傷つけてしまう可能性が新たに生まれます。
そこで炎症に伴う酸化ストレス対策のひとつとして考えられているのが、
・自分に備わっている抗酸化能力を十分に発揮すること
・抗酸化栄養素(ビタミンC、ビタミンEなど)の十分な摂取
などです4、※7。
分子栄養学では、適切な免疫を陰で支える抗酸化酵素の補因子として
・カタラーゼ(鉄)
・スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)(マンガン、銅、亜鉛)
また自分で作ることのできない抗酸化栄養素ビタミン(C、E)などの至適量摂取を、免疫対策の一環、酸化ストレス対策の一部として提唱しています。
今回のまとめ
炎症(inflammation)とは、感染などによって起こる組織障害に対して、そのおおもととなる原因を取り除き、壊れた組織を修復しようとして起こる “生体防御反応の一連の過程” のことです。
炎症は、健康維持のために必須の生体防御反応です。しかし、炎症による酸化ストレスが過剰になると健康な細胞まで傷つける可能性があります。
分子栄養学では、炎症による過剰な酸化ストレスを抑え、適切な免疫を陰で支える抗酸化酵素の補因子として
・カタラーゼ(鉄)
・スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)(マンガン、銅、亜鉛)
また、身体で作ることのできない抗酸化栄養素ビタミン(C、E)などの至適量摂取を提唱しています。
(※分子栄養学の考える至適量(optimum dose)の栄養素とは)
楽しい春に向け、免疫にまつわる用語を正しく理解し、医師とともに分子レベルでの栄養素の役割を一緒に勉強していきましょう。
※1 風邪とは、正しくはかぜ(風邪)症候群のことです。急性上気道炎とも呼ばれます。ウイルスや細菌が上気道(鼻やのど)に感染して起こる急性炎症をまとめてそう呼びます。症状としては、咳、くしゃみ、鼻水、のどの痛み、発熱、全身倦怠感などがあります。
※2 私たちを小さくしていったとき、“生きていると認められるいちばん小さな単位” が細胞です。同じような働きと形態をもつ細胞が集まって、特定の機能を担うようになったものが組織です。そしていくつかの組織が集まって器官(例:脳、心臓など)となります。
※3 Andrés, CMC.,et al. (2023). Superoxide anion chemistry—Its role at the core of the innate immunity. International Journal of Molecular Sciences, 24(3), 1841.
※4 Iddir, M.,et al. (2020). Strengthening the Immune System and Reducing Inflammation and Oxidative Stress through Diet and Nutrition: Considerations during the COVID-19 Crisis. Nutrients, 12(6), 1562.
※5 Lauridsen, C. (2019). From oxidative stress to inflammation: Redox balance and immune system. Poultry Science, 98(10), 4240–4246.
※6 Pohanka, M. (2013). Role of oxidative stress in infectious diseases. A review. Folia Microbiologica, 58(6), 503–513.
※7 Bouayed, J.,et al. (2010). Exogenous antioxidants—Double-edged swords in cellular redox state: Health beneficial effects at physiologic doses versus deleterious effects at high doses. Oxidative Medicine and Cellular Longevity, 3(4), 228–237.