分子栄養学の栄養素「ビタミンCと免疫」
感染症予防とビタミンCの関係は、世界中で研究されているトピックです。
さまざまな感染症が心配される冬。
今回は、
・免疫とは何か
・身体の中の免疫の主役として働く白血球とビタミンCの関係
の全体像について一緒に学びましょう。
免疫とは
私たちの身体には「免疫システム」という、病気から身体を守る仕組みがあります。
免疫とは、
・外から侵入してくる病原体などの異物、体内で発生する人にとって有害なもの(非自己)
と
・そうでないもの(自己)
を判別して有害なものを排除し、自分を守る身体の防御システムのことです。
免疫システムはさまざまな細胞が役割分担して、自分を守ること(生体防御)に向かってお互いに協力しながら働いています。
免疫は3段階で身体を守る
免疫は3段階のシステムで身体を守ります。
・第1のバリア(身体の表面を覆う粘膜・皮ふ)
・第2のバリア(マクロファージ、樹状細胞、好中球、NK細胞など)
・第3のバリア(B細胞、T細胞など)
このうち、第1・第2のバリアを「自然免疫」といいます。自然免疫は、私たちに生まれながらにもっている免疫です。
冬の感染症予防を考える場合、第1のバリアは粘膜が物理的な壁となり、その上を覆う粘液や抗菌ペプチド、常在菌などが敵の侵入を防ぎます。
次に活躍するのが第2のバリアです。第1のバリアを破って侵入する病原体などに素早く反応し、無差別に攻撃して排除します。
最後に活躍するのが第3のバリアです。第3のバリアを獲得免疫(適応免疫)といいます。担当するのはB細胞やT細胞という白血球などです。(※免疫を司る白血球「白血球の仲間たちの基礎」)
獲得免疫は特定の異物に対してピンポイントで戦う強い免疫です。ただし、獲得免疫は準備期間が必要で働くまでに数日かかります。そのため、それまでは自然免疫ががんばる必要があります。
この3つのバリアのうち、第2と第3のバリアは白血球が主役となる仕組みです。
分子栄養学では、風邪を引かない、感染症にかからないために、
・第1のバリア(粘膜)が強い
・白血球による免疫システムが整っている
この2点が大切だと考えています。(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」) 今回は感染症予防の観点から、免疫を担当する白血球とビタミンCの関係について見ていきましょう。
ビタミンCは第2・第3のバリアをサポート
冬の感染症予防では、ビタミンCは免疫システムのどこに関わるでしょうか。
実はビタミンCは、第2と第3のバリア両方で白血球をサポートすることが示されています※1。
第2のバリアにおいて、侵入する敵が細菌や真菌(カビの仲間)の場合、好中球が主役となって戦います。好中球は活性酸素を出したり細菌などをばくばく食べて殺します。ビタミンCは、好中球の活性酸素産生、ばくばく食べる力をサポートすることが示されています※1。
好中球は活性酸素を武器として戦うため、余剰な活性酸素が周りの健康な組織に害を及ぼさないように、戦い終えた最後は潔く自殺するようにプログラムされています。戦い終わった好中球を食べて片付けてくれるのがマクロファージです。ビタミンCはこの過程がスムーズにいくのを助けると考えられています※1。
侵入する敵が「ウイルス」の場合、主役となるのはNK細胞です※2。NK細胞は、ウイルスに感染した細胞を無差別に攻撃して宿主を守ります。このNK細胞の働きと増殖を、ビタミンCがサポートすることが示されています※3、※4、※5、※6。
ビタミンCは、第3のバリアで活躍する獲得免疫(T細胞)の成熟をサポートすることも示されています※3、※7。
ヒトはビタミンCを作れない
ビタミンCは、人間の体内では作ることができない栄養素、水溶性ビタミンです。そのため、毎日の食事から摂取する必要があります。
ビタミンCの血中濃度は経口摂取後2時間でピークを迎え、緩やかに低下します※8。このことから、分子栄養学では医師のモニタリングのもと自分にとっての至適量をみつけ、なるべく頻回にビタミンCを摂取して血中濃度を保つことをお勧めしています。
今回のまとめ
免疫は、有害なものを排除して自分を守るシステムです。免疫は3段階のシステムで身体を守ります。
第2・第3のバリアで免疫の主役として働く好中球、マクロファージ、NK細胞、T細胞を、ビタミンCがサポートすることが示されています。
ビタミンCは自分で作れない水溶性ビタミンです。
冬のような感染症が心配な季節に、ビタミンCは免疫システムを応援する大切な栄養素です。腸内環境を整え、バランスの取れた食事、良い睡眠、適度な運動とともに適切なビタミンC摂取で免疫アップを目指しましょう。
分子栄養学実践医師のモニタリングのもと自分にとっての至適量をみつけ、感染症予防対策のひとつとしてビタミンCを活用していきましょう。
※1 Carr, AC., et al. (2017). Vitamin C and immune function. Nutrients, 9, 11.
※2 Björkström, NK.,et al. (2021). Natural killer cells in antiviral immunity. Nature Reviews Immunology, 22(2), 112–123.
※3 Iddir, M.,et al. (2020). Strengthening the Immune System and Reducing Inflammation and Oxidative Stress through Diet and Nutrition: Considerations during the COVID-19 Crisis. Nutrients, 12(6), 1562.
※4 Huijskens, MJA.,et al. (2015). Ascorbic acid promotes proliferation of natural killer cell populations in culture systems applicable for natural killer cell therapy. Cytotherapy, 17(5), 613–620.
※5 Market, M.,et al. (2020). Flattening the COVID-19 Curve With Natural Killer Cell Based Immunotherapies. Frontiers in Immunology, 11, 1512.
※6 Kim, H.,et al. (2016). Red ginseng and vitamin C increase immune cell activity and decrease lung inflammation induced by influenza A virus/H1N1 infection. Journal of Pharmacy and Pharmacology, 68(3), 406–420.
※7 Huijskens, M.J., et al.(2014). Technical advance: Ascorbic acid induces development of double-positive T cells from human hematopoietic stem cells in the absence of stromal cells. Journal of Leukocyte Biology, 96, 1165–1175.
※8 Padayatty, SJ.,et al. (2004). Vitamin C pharmacokinetics: implications for oral and intravenous use. Annals of Internal Medicine, 140(7), 533–537.