The Orthomolecular Times

2024.11.18 分子栄養学と運動「骨格筋が血糖値を下げる⁉ 運動効果と「GLUT4」の仕組みをわかりやすく解説」

身体の仕組み

若々しい血管のカギ!血管の内側「血管内皮細胞」のお話

今回は、いつまでも若々しい血管であるために、血管がどんな細胞でできているかのお話です。まずは、血管の内側がどのようになっているか、そしてその細胞がどんな働きをしているか、その構造を細胞・分子レベルで見ていきましょう。

血管の内側を構成する血管内皮細胞の健康が、全身の健康を左右する⁉

血管の内側をつくる「血管内皮細胞」(以下、内皮細胞)。この内皮細胞が健康であることが、全身の健康につながり、健康寿命を延ばすことにつながることが期待されています。加齢とともに血管に老化した内皮細胞(老化細胞)がたまることが、糖尿病、動脈硬化※2、神経変性などにつながる可能性も報告されています※3。血管内皮細胞の老化を抑えることは、脳血管・心血管疾患、肥満、糖尿病の改善をもたらすことがわかっているとの報告があります※4

血管の基礎構造:すべての血管は筒状で、いちばん内側は1層の内皮細胞でできている

血管は、手や足の先、頭のてっぺんまで、全身のすみずみまで栄養素を運ぶ重要な道です。血管を大きく分けると動脈、静脈、毛細血管の3種類があります。(※血管は栄養素を運ぶ命綱「血管の種類とはたらき」

動脈と静脈は、内側から内膜、中膜、外膜の3層でできています。毛細血管は内皮細胞1層でできていて、その外側のところどころに細長い細胞(周皮細胞※5)が取り囲むという構造になっています。

それぞれの細かい違いはありますが、3つの共通項として、すべての血管は筒状で、中は空洞になっています。そしてそのいちばん内側の内膜を被っているのが内皮細胞という細胞です。内皮細胞が、厚さ80nm※1、※6の足場(基底膜)をつくって横に並び、血液の流れ(血流)に負けない壁(内膜)をつくります。

身体中の血管内膜の総面積は、なんとオリンピック陸上100M走の「8レーン分」の3~6個分※7、3,000~6,000平方メートルといわれます※1

内皮細胞の表面は、グリコカリックス(糖衣)で覆われている

さらに内皮細胞の表面は、グリコカリックス(糖衣。うなぎのぬるぬるのようなゼリー状のもの。)で覆われています。これが内皮細胞のバリアとして働いたり、内皮細胞の働きを保つために働いている、大切な存在であると考えられています※1、※8、※9。グリコカリックスは、主にグリコサミノグルカン(ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸など)とタンパク質(糖タンパク質)でできています※1、※9

内皮細胞でできた血管内膜は、場所に応じて違う働きをする

内皮細胞でできた血管内膜は、動脈や静脈では中を流れる血液や栄養素などを通しにくいシートとして働きますが、毛細血管の内膜では、組織に合った適切な穴やすき間から、組織が欲しい栄養素を細胞に送り届けることができます※1。また、毛細血管は細胞が出した老廃物や二酸化炭素を回収するなど、物質の交換を積極的に行います※1。内皮細胞は、身体のどの部分にあるかによってその役割が変わる、不均一な細胞です※1

血管は内皮細胞が完全に健康である限り、人間は健康である⁉

内皮細胞が完全に健康である限り、血管は身体に必要な働きを続けることができます。そのため、内皮細胞が完全に健康であり続けることが、全体としての人間の健康にとって重要な要素であるとする意見があります※10。「正しく働けない老化した細胞がたまることが、組織や器官が健全に働けないことにつながる。それが加齢が関係する病気の実態であり、人ひとりの全体としての老化につながっている」とするのが、細胞老化仮説です※4

内皮細胞には、血管の壁としての働き、血流調節、白血球の誘導など、多様な働きがある

内皮細胞は、血管の壁(内膜)としての働きのほかに、さまざまな働きをコントロールする分子を分泌する「内分泌器官」として多くの働きをしています。血管の伸び縮みを調節して部分的な血流を調整したり※11、傷ついた場所の止血をコントロールしたり、白血球の活性化に関わって、白血球を修復すべき場所や異物と闘う場所へ誘導します。また、傷ついた組織などで毛細血管を新しく作ることにも、内皮細胞が関わっていると考えられています※1、※11

このように、内皮細胞は単なる血管の壁ではなく、内分泌器官として働くことがわかっています。しかし、その血管の細かな構造や働きの全貌はまだまだ研究途中です※1、※2、※3

まとめ

血管の中は24時間365日、休みなく血液や栄養素、ホルモン、白血球などが流れています。血管のいちばん内側を構成する内皮細胞は、常に血流やホルモン、病気を引き起こすような刺激(炎症性サイトカインなど)などにさらされています。そのため、内皮細胞はいつでも傷つく可能性があり、加齢とともに最初に老化しやすい細胞のひとつであることが知られています※2

内皮細胞が傷ついた結果、内皮細胞の老化が起こり、その老化した細胞が加齢とともにたまってしまうことが、さまざまな病気を引き起こすことを示す研究が増えてきています※2、※3、※12。内皮細胞を守り、血管を守ることは全身の健康につながります。元気な血管を守り、元気な健康寿命100年時代を目指しましょう。 ※血管を傷つける酸化ストレスを減らすコツ 「たばこ、高血糖、高血圧、過剰なストレス」では、内皮細胞を傷つける要因、血管の健康を守るための生活習慣、栄養素対策などについて一緒に考えます。

※1 Krüger-Genge, A.,et al. Vascular endothelial cell biology: an update. International Journal of Molecular Sciences, 20(18): 4411.(2019)

※2 Bloom, SI.,et al.  Mechanisms and consequences of endothelial cell senescence. Nature Reviews Cardiology,  20(1): 38-51.(2023)

※3 Hwang, HJ.,et al. Factors and Pathways Modulating Endothelial Cell Senescence in Vascular Aging. International Journal of Molecular Sciences, 23(17): 10135.(2022)

※4 須田将吉,他.「血管内皮細胞老化について」.日本血栓止血学会誌, 30 (3) :521-528.(2019)

※5 周皮細胞とは、「毛細血管の外側に散在する細長い細胞、収縮性をもち、毛細血管の血流を調節している※」細胞のことです。(※『からだがみえる 人体の構造と機能 第1版.医療情報科学研究所.p406.(2023)』より引用。 )

※6 1nm(ナノメートル)は、1mm(ミリメートル)の100万分の1です。

※7 オリンピックの陸上競技100メートル走では、8人がそれぞれ1レーン1.22メートル幅の中で並んで走ります。長さ100メートル×幅1.22メートル×8人分=976平方メートルなので、それがおおよそ3~6つ分ということです。

※8 Tarbell, JM.,et al. Mechanotransduction and the glycocalyx. Journal of Internal Medicine, 259:339-350.(2006) 

※9 Curry, FE.,et al.  Endothelial glycocalyx: Permeability barrier and mechanosensor. Annals of Biomedical Engineering, 40:828-839.(2012)

※10 Theofilis, P.,et al. Inflammatory Mechanisms Contributing to Endothelial Dysfunction. Biomedicines, 9(7): 781.(2021)

※11 Michiels, C. Endothelial Cell Functions. Journal of Cellular Physiology, 196:430-443.(2003)

※12 Yousefzadeh, MJ. et al. Tissue specificity of senescent cell accumulation during physiologic and accelerated aging of mice. Aging Cell, 19:e13094. (2020)

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