The Orthomolecular Times

2024.11.18 分子栄養学と運動「骨格筋が血糖値を下げる⁉ 運動効果と「GLUT4」の仕組みをわかりやすく解説」

ヘルシーエイジング

EPA・DHAの効果を上げる:分子栄養学的に考える適切なオメガ6(n-6系)量とは?

EPA・DHAは、主に細胞膜に取り込まれることで抗炎症作用を発揮する

オメガ3(n-3系)脂肪酸のEPA・DHA(※分子栄養学的な抗炎症対策には毎日のEPA・DHA摂取を!)の抗炎症作用は、主に細胞膜※3に取り込まれることでその力を発揮すると考えられています。抗炎症作用の多くが、細胞膜のリン脂質の中にDHA・EPA 含量が増えることから始まり、それがさまざまな代謝の変化をもたらして抗炎症・消炎作用に働くと考えられています※1

アラキドン酸とEPAはリン脂質の結合場所で競合する

しかし、EPA・DHAが細胞膜に取り込まれる比率については、相対的にオメガ6(n-6系)脂肪酸(アラキドン酸)が減ることで、EPA・DHAが増えることが知られています※4、※5、※6、※7、※8

炎症を誘発するオメガ6脂肪酸のアラキドン酸と、抗炎症に働くオメガ3脂肪酸のEPAは、細胞膜のリン脂質の同じ場所(sn-2位)に結合するため、アラキドン酸とEPAで競合が起こり、どちらかだけを多く摂取してしまうと、少ない方の脂肪酸のリン脂質中の存在量が減ってしまうということです※9、※10

そこで、日頃の食事で摂取するオメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の比がとても大切になってきます。なぜなら、体内で合成される量だけでなく、食事からの摂取量が、ヒトの細胞膜リン脂質の脂肪酸組成バランスに関係するためです※4、※5、※6

狩猟採集時代はオメガ3:オメガ6=1:1で人類が生き残ってきたとする説

それでは、どのくらいの割合でオメガ3とオメガ6を摂ればよいのでしょう。ヒトは、狩猟採集時代、長い進化の過程でオメガ3:オメガ6=1:1で生き残ってきたのではないかとする文献があります※11、※12、※13、※14。ある論文によると、どの疾病を予防したいかによって、オメガ3:オメガ6はおおよそ1:1~1:4がよいのではないかとしています※11、※15。そして、現在の欧米型の食事では、オメガ3:オメガ6=おおよそ1:15になってしまっていることが報告されています※11、※12、※14、※16、※17

オメガ6は本来、身体を守る炎症(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)を誘導するのに必須の脂肪酸です。しかし、オメガ6脂肪酸を多く含む植物油中心、オメガ3脂肪酸を含む魚介類の少ない現代の食事ではオメガ6が過剰になってしまい、抗炎症のオメガ3とのバランスが崩れ、それが余分な炎症を起こしてさまざまな病気につながるのではないかと考えられています※11、※12、※15、※16、※17

理想的なオメガ3:オメガ6比はまだ研究途中ですが、疾病によっておおよそオメガ3:オメガ6=1:1~1:4を推奨する論文※11、1:2.3を推奨する論文※15、1:1に近い方がよいのではないかとする論文※16、α-リノレン酸(オメガ3)とリノール酸(オメガ6)を1:1にしたときにEPA・DHAへの変換率が最も効率的とする論文などがあります※18。日本人を対象とした心筋梗塞などの心血管系疾患による死亡率の研究では、オメガ3(EPA):オメガ6(AA)比が1:2でリスク低下という報告もあります※19。(※食べる脂質が大切「日本人に関する研究」オメガ3:オメガ6

オメガ3の効果をねらうなら、オメガ6を適正量に

細胞膜に取り込まれるオメガ3脂肪酸の量はオメガ6脂肪酸の量と拮抗して決まるため、現在過剰になっている食事からのオメガ6脂肪酸の量を適量にまで減らす必要が指摘されています。オメガ6脂肪酸の量が過剰なままでは、せっかくがんばってオメガ3脂肪酸の摂取量が多くなったとしても、オメガ3:オメガ6の比率が低いままで、オメガ3増量による効果が減ってしまうからです※4

オメガ6脂肪酸の量を適量にし、至適量のEPA・DHAを摂り続けることが、抗炎症作用を期待できる細胞膜のEPA・DHA比を維持する唯一の方法です。継続は力なり、ぜひオメガ6脂肪酸の量を適量にし、毎日の炎症を適切に調整するだけのEPA・DHA摂取で病気を予防していきましょう。EPA・DHAはさまざまな疾患でその効果が期待されています。(※食べる脂質が大切「日本人に関する研究」オメガ3:オメガ6※全身の分子栄養学的抗炎症のカギを握るオメガ3(n-3系)脂肪酸

至適量のEPA・DHA濃度は医師とともに血液検査で確認

分子栄養学では、EPA・DHAの摂取が無駄にならないよう、そしてより効果的な抗炎症作用をねらうため、医師とともにEPA/AA比、DHA/AA比などを測ることのできる血液検査【脂肪酸4分画】を活用することをお勧めしています。定期的な血液検査を行うことで、適切なオメガ3:オメガ6の比を、具体的な数字とともに客観的に判断することが可能になります(※血液検査の意義①血液検査の意義②血液検査の意義③血液検査の意義④)。

抗炎症作用をもたらす毎日のEPA・DHA摂取で適切なオメガ3:オメガ6比を目指す

慢性炎症は万病のもとといわれます。EPA・DHAは慢性炎症性疾患対策でも有効性が示されています※14。ぜひ、抗炎症作用をもたらすだけの至適量のEPA・DHAを毎日摂取することで適切な細胞膜リン脂質オメガ3:オメガ6比を目指し、効率的な健康自主管理を進めていきましょう。(※自分自身の身体を知ろう:Know Your Bodyがなぜ大切か※分子栄養学的な抗炎症対策には毎日のEPA・DHA摂取を!

オメガ6脂肪酸を多く含む食品は適量に

オメガ6脂肪酸(リノール酸、アラキドン酸)は、肉類、鶏卵、大豆、米、野菜、多くの植物性油脂(サラダ油、大豆油、米油、コーン油、紅花油、ごま油、グレープシードオイルなど)など馴染みのある多くの食品に含まれる栄養素です。これらは一般的な食事をしていると摂取できる脂肪酸です。ぜひ血液検査を活用し、今現在の自分の食事でどの程度のオメガ6脂肪酸を摂っているか、「今の自分」を確かめることをお勧めします。

EPA・DHAを多く含む小さな青魚を積極的に補給

EPA・DHAを含む食品は魚油を多く含む魚介類に限られているため、意識的に魚介類などを食べなければ不足してしまいます。ほかのタンパク質とともに(※食事の基本)、小さな青魚などを中心とした魚介類を毎日積極的に摂りましょう※20。特にイワシ、サンマ、アジ、サバなどの青魚はEPA・DHAのとても良質な供給源です。

魚が苦手な方は、新鮮な亜麻仁油を摂るとともに、分子栄養学実践に適した良質なサプリメントで上手にEPA・DHAを補うことをお勧めします。(※分子栄養学の歴史④※分子栄養学の歴史⑤ 参照)

オメガ3はEPA・DHAだけ摂ればいい?亜麻仁油のα-リノレン酸も一緒に

亜麻仁油やえごま油(α-リノレン酸)として食事から摂ることは、変換率は少ないですがEPA・DHAの前駆体となるほか、その代謝が行われる肝臓でのオメガ3:オメガ6比のオメガ3比率を高めることによって、血清脂質のバランスを保つなどの報告があります※21、※22、※23。また、α-リノレン酸からEPA・DHAに変換される代謝経路(※分子栄養学的な抗炎症対策には毎日のEPA・DHA摂取を!)では、炎症を誘発するオメガ6脂肪酸の代謝と共通の酵素が使われるため、合成反応が拮抗することで炎症が抑制されると考えられています※24。現段階では、EPA・DHAと合わせて、亜麻仁油など植物性のオメガ3も一緒に摂る方がよいと考えられます。

EPA・DHAは一緒に摂取

EPA・DHAはそれぞれの細胞によって分布が異なり※4、DHAは脳や網膜に多量に存在※4、また精神・神経疾患ではEPAはうつ病※24、※25、DHAはアルツハイマー型認知症に有効とする報告もあります※26、※27、※9。EPA・DHAはどちらも一緒に摂ることをお勧めしています。

自然の恵み、EPA・DHAの恩恵。医師のモニタリングする血液検査とともに、その海の恵みを効果的に受け取っていきませんか。

※1 Calder PC. Omega-3 fatty acids and inflammatory processes:from molecules to man. Biochemical Society Transactions, 45:1105-1115.(2017)

※2 Brenna JT.,et al. α-Linolenic acid supplementation and conversion to n-3 long-chain polyunsaturated fatty acids in humans. Prostaglandins Leukotrienes and Essential Fatty Acids, 80:85-91.(2009)

※3 細胞膜とは、細胞の外側にあって、全身の37兆個の細胞を区切っている膜のことです。細胞膜はタンパク質と脂質でできていて、脂質はリン脂質とコレステロールなどで構成されています。食事から摂取したり、体内で代謝されてできたEPA(オメガ3脂肪酸)やアラキドン酸(オメガ6脂肪酸)などの多くが細胞膜のリン脂質を構成します。細胞膜のリン脂質は、見た目は変わらずとも、その中身が食べたあぶらと少しずつ入れ替わる動的平衡の状態にあります。細胞を1つのみかんと例えると、細胞膜のイメージは、中身の外側、みかんの皮の部分です。(※全身の分子栄養学的抗炎症のカギを握るオメガ3(n-3系)脂肪酸)

※4 Calder PC. Very long-chain n-3 fatty acids and human health: fact, fiction and the future. Proceedings of the Nutrition Society, 77(1):52-72.(2018) 

※5  Healy DA.,et al. Effect of low-to-moderate amounts of dietary fish oil on neutrophil lipid composition and function. Lipids, 35(7):763-768.(2000)

※6 Schacky Cv.,et al. Long-term effects of dietary marine omega-3 fatty acids upon plasma and cellular lipids, platelet function, and eicosanoid formation in humans.  Journal of Clinical Investigation, 76(4):1626-1631.(1985)

※7 Yaqoob P.,et al. Encapsulated fish oil enriched in α‐tocopherol alters plasma phospholipid and mononuclear cell fatty acid compositions but not mononuclear cell functions. European Journal of Clinical Investigation,30(3):260-274.(2000)

※8 Rees D.,et al. Dose-related effects of eicosapentaenoic acid on innate immune function in healthy humans: a comparison of young and older men. American Journal of Clinical Nutrition, 83(2):331-342.(2006)

※9 片倉 賢紀.「多価不飽和脂肪酸と脳機能」.Journal of Japanese Biochemical Society, 92(5): 626-631. (2020)

※10 橋本 道男.「脳・神経機能維持とn-3系脂肪酸」.日本薬理学雑誌, 151:27-33.(2018)

※11 Simopoulos AP. The importance of the ratio of omega-6/omega-3 essential fatty acids. Biomedicine and Pharmacotherapy, 56: 365-379.(2002)

※12 Oliver L.,et al. Producing Omega-3 Polyunsaturated Fatty Acids: A Review of Sustainable Sources and Future Trends for the EPA and DHA Market. Resources, 9(12):148.(2020)

※13 Molendi-Coste O.,et al. Why and How Meet n-3 PUFA Dietary Recommendations? Gastroenterology Research and Practice,2011:364040.(2011) 

※14 Sanders TA. Polyunsaturated fatty acids in the food chain in Europe.  American Journal of Clinical Nutrition, 71(1 Suppl): 176S-178S.(2000) 

※15 Kris-Etherton PM. Polyunsaturated fatty acids in the food chain in the United States. American Journal of Clinical Nutrition, 71(1 Suppl):179S-188S.(2000)

※16 Russo GL. Dietary n - 6 and n - 3 polyunsaturated fatty acids: From biochemistry to clinical implications in cardiovascular prevention. Biochemical Pharmacology, 77(6): 937-946.(2009)

※17 Patterson E.,et al.  Ross, R.P.; Stanton, C. Health implications of high dietary omega-6 polyunsaturated fatty acids. Journal of Nutrition and Metabolism, 2012:1-16.(2012)

※18 Harnack K.,et al. Quantitation of alpha-linolenic acid elongation to eicosapentaenoic and docosahexaenoic acid as affected by the ratio of n6/n3 fatty acids. Nutrition and Metabolism(Lond), 6:8.(2009)

※19 Ninomiya T.,et al. .Association between ratio of serum eicosapentaenoic acid to arachidonic acid and risk of cardiovascular disease: the Hisayama Study. Atherosclerosis,231(2):261-267.(2013)

※20 マグロ、クジラ、キンメダイ、メカジキなどについては水銀が含まれるため、妊婦さんは食べ方に適切な量とバランスへの注意が必要です。

※21 Fan H.,et al. α-Linolenic Acid Suppresses Proliferation and Invasion in Osteosarcoma Cells via Inhibiting Fatty Acid Synthase. Molecules, 27(9): 2741.(2022)

※22 Blondeau N. The nutraceutical potential of omega-3 alpha-linolenic acid in reducing the consequences of stroke. Biochimie, 120:49-55.(2016) 

※23 Naghshi S.,et al. Dietary intake and biomarkers of alpha linolenic acid and risk of all cause, cardiovascular, and cancer mortality: Systematic review and dose-response meta-analysis of cohort studies. British Medical Journal, 375:2213.(2021)

※24 橋本 道男, 他.「ω3 系脂肪酸による認知症予防―Up to Date」.オレオサイエンス,22(7):327-335. (2022)

※25 Mocking RJT.,et al.  Meta-analysis and meta-regression of omega-3 polyunsaturated fatty acid supplementation for major depressive disorder. Translational Psychiatry, 6(3): e756.(2016)

※26 Hamazaki K. Role of omega-3 polyunsaturated fatty acids in mental health—studies from Japan. Journal of Oleo Science, 68:511-515. (2019)

※27 Barberger-Gateau P.,et al. Fish, meat, and risk of dementia: cohort study. British Medical Journal, 325(7370): 932–933.(2002)

※28 Song C.,et al. The role of omega-3 polyunsaturated fatty acids eicosapentaenoic and docosahexaenoic acids in the treatment of major depression and Alzheimer’s disease: Acting separately or synergistically? Progress in Lipid Research, 62:41-54.(2016)

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