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2024.11.18 分子栄養学と運動「骨格筋が血糖値を下げる⁉ 運動効果と「GLUT4」の仕組みをわかりやすく解説」

ヘルシーエイジング

栄養アプローチに欠かせない!最初のステップ「消化と吸収」

私たちは日常生活の中で、熱を出して寝込んだり、胃やおなかの調子が悪いとき、「消化の良いものを食べようかな」「消化が悪かった」などと言ったりします。また、食べているはずなのに、いっこうに太らない、そんな時は「吸収が悪いかな?」と考えます。消化、吸収とはいったいどんなことを指すでしょう。

今回は、私たちが栄養素をとり込む上でいちばんの基礎となる身体の仕組み、消化・吸収についてお届けします。

良い消化と吸収は、分子栄養学のはじまり

私たちが生きるためには、食べものや水分を通して栄養素を外から獲得する必要があります(※分子栄養学とは④)。食べることは生きていくための栄養素(※分子栄養学とは①)を身体の中にとり込むことです。

摂った栄養素は主に腸(※あなたの腸は大丈夫? リーキーガット症候群(理論編①))で吸収され、血流に乗って身体のすみずみまで届けられ、そこでたくさんの任務について働きます。身体にとって必要なものが届けられなければ、身体の代謝(※分子栄養学とは⑤※分子栄養学とは⑦-1)が滞り、栄養素の欠乏やバランスの乱れによる体調不良、病気になる可能性につながります。そのため、分子栄養学では、分子栄養学の概念に基づく栄養療法(栄養アプローチ)(※分子栄養学の歴史①)を始めるにあたり、まず栄養素を消化・吸収する消化管のケアを最も重要視しています(※あなたの腸は大丈夫? リーキーガット症候群(理論編①))。

消化・吸収とは

それでは、消化・吸収とはどんなことを意味するでしょう。私たちが摂取した食べものや飲みものは、消化・吸収というステップを経た後、初めて身体の中に入り、そして細胞(※分子栄養学とは①)に利用されます。食事に含まれるタンパク質、脂質、糖質(※食事の基本※5大栄養素(概論))などの大きな分子(高分子化合物)(※分子栄養学とは②※分子栄養学とは③)は、身体(細胞)が利用できる小さな分子のかたちに分解してから身体の中にとり込まれます(※分子栄養学とは⑤)。

この「消化管において、大きな分子を細胞が利用できる小さな分子まで分解すること」を消化といいます。また、食べものが消化されてできた小さな分子(栄養素)は、消化管の各部位を通して体内にとり込まれます。このことを吸収といい、吸収された栄養素は、血管やリンパ管を通して全身に送られていきます。

いくらいいものを食べても、それが消化されなければ吸収することができません。また、栄養素を吸収する粘膜細胞に障害があれば、栄養素の吸収に障害が出る可能性が考えられます(※あなたの腸は大丈夫? リーキーガット症候群(理論編①))。消化と吸収は、分子栄養学の栄養アプローチにとって欠かせない、最も重要な最初のステップです。

消化管とは

消化・吸収の役割を担っているのが消化管です。消化管は口から始まり、食道・胃・小腸・大腸、そして最後に肛門に至る1本の長い管のことです。食べたものは必ずこの消化管を通って、最終的に便として排泄されます。消化管は、食べたものを消化・吸収するだけでなく、身体の外と内を仕切るバリアとしても働いています(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」※分子栄養学における免疫と栄養素の基本対策①※多くの日本人を悩ます花粉症と栄養素②※あなたの腸は大丈夫? リーキーガット症候群(理論編①))。

消化の種類:機械的消化、化学的消化、生物的消化

消化には大きく分けて3つ、機械的消化、化学的消化、生物的消化があります※1

①機械的消化

1つ目は機械的な消化です。例えば、肉を噛まずに丸のみすれば、その大きな肉の塊が胃の中に送られていきます。しかしそのお肉を口の中で30回以上噛んでから飲めば、こなごなに小さくされた肉の破片が唾液と混ざり、消化しやすく飲み込みやすい形になって胃に送られます。このように、噛むことによって食べものを物理的に小さくしたり、胃粘膜のヒダですり合わせてさらに物理的に小さくすることを機械的消化といいます。

②化学的消化

2つ目は化学的な消化です。化学的消化とは、食べものを酵素によって分解(加水分解)する化学反応のことです(※分子栄養学とは⑦-1※分子栄養学とは⑦-2※分子栄養学とは⑦-3)。1つ目の機械的消化と同時に行われます。化学的な消化は、消化管から分泌される消化酵素、消化管粘膜の表面に存在する消化酵素によって、食べものを構成する大きな分子を小さな分子まで分解します。消化管に分泌される消化酵素は、唾液、胃液、膵液などの消化液に含まれます。

酵素にはカギとカギ穴の関係があり(※分子栄養学とは⑦-2)、さまざまな糖質を分解する消化酵素、タンパク質を分解する消化酵素、脂質を分解する消化酵素など、栄養素に特異的※2な消化酵素が細やかに関わり、分解していきます。3大栄養素は酵素によって次のような小さな分子に分解されていきます。タンパク質はアミノ酸、脂質は脂肪酸とモノグリセリドなど、糖質はいちばん小さな糖(単糖)である分子(ブドウ糖や果糖など)に分解されます。

③生物的消化

3つ目は生物的消化といいます。これは消化酵素(化学的消化)で分解できなかったものの一部を、主に大腸にすむ常在菌(※あなたの腸は大丈夫? リーキーガット症候群(理論編①))が分解すること(発酵、腐敗)を指しています。

消化・吸収がうまくいかないと・・

消化不良(消化がうまくいかないこと)は、ただ食べものをうまく小さくできないということだけを意味するわけではありません。消化不良は、身体に取り込まれる栄養素の量が減るということを意味し、栄養素不足を招きます。また消化されなかった(未消化の)食べものがそのまま腸まで流れ着くことで、腸のトラブル(腸内フローラ(腸内細菌叢)の悪化(※分子栄養学的リーキーガット症候群対策②)、バリア機能(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)の低下、食物アレルギー、リーキーガット症候群(※あなたの腸は大丈夫? リーキーガット症候群(理論編①)※あなたの腸は大丈夫? リーキーガット症候群(理論編②) )、SIBO(小腸内細菌異常増殖症)など)の原因となり、全身に悪影響を及ぼすことが考えられます。

消化管それぞれの部位の働き

①口腔・食道:栄養アプローチへの入り口

口腔は消化管の入り口となる、とても大切な場所です。口腔は、咀嚼と嚥下(えんげ)という機能を果たしています。食べたものを噛み砕き、唾液と混ぜることで飲み込みやすい形にします。また、米などに含まれるでんぷん(ブドウ糖がたくさんつながったもの)は、唾液に含まれるアミラーゼという酵素によって少しずつ消化が始まります。

飲み込まれたものは食道を通って胃に一時ためられます。口から胃まで垂直につながっている道を食道といいます。

よく噛むということは、機械的に小さく細かくした食べものを胃に送ることにつながります。分子栄養学では、噛み砕かれた食べものが小さければ小さいほど消化酵素や胃酸に触れる面積が増えるため、より良い消化・吸収を促すいちばんの手段となると考えています。唾液には抗菌作用もあります。ぜひよく噛んで食べましょう。

②胃

胃は食べものが入っていないときは縮んでいて、その壁にはヒダがたくさんあります。食べ物が入ってくると、そのヒダが伸びて胃が広がり、たくさんの食べ物をためることができます。胃では胃酸という強い酸が出て、食べものについて入ってくる菌などを殺菌してくれます。

タンパク質は立体的な複雑な構造をしていますが、胃酸によってその構造が壊されます。さらにペプシンというタンパク質分解酵素が大きなタンパク質を小さなポリペプチドという形におおざっぱに分解して、さらに消化しやすくします。

胃とそれに続く小腸のいちばん最初の部分(十二指腸)の間には、幽門という弁状の組織があって、食べものが自由に通過しないようになっています。胃の中では胃液と混ざって食べものが混ぜられ、どろどろの粥(かゆ)状になっていきます。そして幽門が少し開いて、少しずつ食べものが十二指腸に送られていきます。

③小腸

消化酵素による消化と吸収の場所です。十二指腸に食べものが入ってくると、膵臓から膵液、胆のうから胆汁が分泌されます。膵液の中には、さまざまな消化酵素が入っていて、それによってより細かい単純な分子に分解されます。その後、小腸の粘膜細胞(吸収上皮細胞)に存在する酵素の働きでさらに小さな、吸収できる分子にまで分解され、体内に吸収されていきます。

④大腸

大腸は、30年くらい前の栄養学(※分子栄養学とは①)では、水分を吸収して便をつくる場所と考えられていましたが、近年の研究によって、大腸は私たちの健康にとって非常に重要な場所であることがわかってきています。腸全体でだいたい1000種類、100兆個の細菌が住んでいることが知られていますが※3、健康な人の場合、そのほとんどは大腸にすんでいます。大腸では、小腸で吸収されなかった食物繊維などを腸内細菌が発酵という代謝(※分子栄養学とは⑤)によってATP(エネルギーをためる乾電池のようなもの)、短鎖脂肪酸をつくっています。短鎖脂肪酸は私たちの健康を支えていることが次々と示されています(※分子栄養学的リーキーガット症候群対策①)。

消化器系とは

消化管と同じような言葉に、消化器系という言葉があります。消化器系は器官系※4のひとつです。食べものを消化するのに関わるすべての器官の総称を消化器系といいます。消化器系には、消化管、肝臓、胆のう、膵臓、唾液腺などが含まれます。

効率的な栄養素補給は、良い消化・吸収から

タンパク質、脂質、糖質(でんぷん)など(※食事の基本)、私たちが普段何気なく口にしている栄養素の多くは、そのままでは分子(※分子栄養学とは②※分子栄養学とは③)が大きすぎるため、体内で使うことができません。

食べたものの栄養素のチカラを最大限活用するためにも、まず食べものを消化・吸収することがとても大切です。まずは口にした食べものをしっかり噛むことから始めましょう。人生をより輝かせていく寿命100年時代の健康自主管理のため(※自分自身の身体を知ろう:Know Your Bodyがなぜ大切か※分子栄養学の歴史②)、消化管、消化器系の臓器にしっかりと働いてもらい、より良い消化・吸収を目指しましょう。ここから本当の栄養アプローチが始まります。

※1 河原克雄,他. 『カラー図解 人体の正常構造と機能Ⅲ 消化管 第4版』. p4-5.(2021)

※2 特異性とは
特異性とは、特定の物質にだけ特定の反応を起こす性質のことです。

※3 金井 隆典. 腸内細菌と消化器疾患. 日本内科学会雑誌, 108(9):1939-1945.(2019)

※4 器官系とは
同じような構造や働きをする細胞が特定の並びで集まってできたものを組織といいます。組織には筋組織、結合組織、上皮組織、神経組織の4つがあり、その組織がいくつか集まって特定の働きをしているものを器官(臓器)といいます。脳や心臓、胃や腸などは器官(臓器)です。そしてその器官が複数集まって特定の働きをしているものを器官系(organ system)、もしくは系といいます。それぞれの器官系は特定の働きをする身体の部分の集まりのことで、どの臓器がどの働きを担当しているかを示しています。器官系としては、消化器系のほか、呼吸器系、内分泌系、中枢神経系、泌尿器系などのグループがあります。

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