The Orthomolecular Times

2025.2.3 分子栄養学と免疫の栄養素「適切な亜鉛補給が炎症を調整する?」

身体の仕組み

分子栄養学と免疫の栄養素「適切な亜鉛補給が炎症を調整する?」

免疫において、亜鉛が炎症を調整する可能性をご存じですか。

今回は、免疫における亜鉛と炎症の関係について一緒に学びましょう。

炎症は諸刃の剣

楽しい日常を送るために陰で私たちを支えてくれている免疫。炎症は身体に傷や感染があると免疫に伴って起こる、私たちの健康を守るための大切な反応です。

しかし炎症は諸刃の剣です。なぜなら、適切な炎症は身体を守りますが、過剰な炎症は逆に身体を傷つけることになるからです※1

そこで適切な免疫によって身体を守るためには、炎症が過剰にならないように、
・炎症

・酸化ストレス
を調整する重要性が指摘されています※2、※3
※感染症と免疫と炎症、抗酸化栄養素の関係

今回は、炎症反応の適切な調整に関わると考えられている亜鉛について一緒に考えましょう。

亜鉛は炎症を適切に調整する可能性を秘めた大切な栄養素

亜鉛は、炎症の調整に重要な役割を果たすと考えられている栄養素のひとつです※4

亜鉛は例えばNF-κB(エヌ・エフ・カッパー・ビー)という炎症を調整する重要な物質の働きに深く関わることで、炎症を調整する可能性が示されています※4

NF-κBは、炎症誘導反応において主たる調整因子として働くタンパク質(転写因子※5)です※6。NF-κBは私たちの健康維持に不可欠な分子ですが、その活性を適切に制御することが健康を維持するために重要だと考えられています※4

例えば多菌性敗血症モデルマウスを用いた研究※7において、

・亜鉛欠乏全身性炎症、臓器障害、死亡率が大幅に増加
・適切な亜鉛補給→死亡率が大幅に低下、炎症反応が正常化

が報告されています※3。このひとつの機序として、 亜鉛がNF-κBに影響し、炎症が調整された可能性が考察されています※3

亜鉛は抗酸化酵素SODの補因子として、酸化ストレスを軽減

自然免疫の白血球マクロファージと好中球は、病原体をばくばく食べて戦うため「食細胞」と呼ばれます。

このとき、貪食した病原体を殺傷する手段のひとつとして、

・スーパーオキシド※8

という活性酸素が産生されます※1、※9。スーパーオキシドは、自然免疫系(マクロファージ、好中球)が病原体を殺傷するための有効なツールとして使われています※1、※10、※11、※12

スーパーオキシドは身体にとって有用ですが、過剰になると酸化ストレスの原因となり、それが健康な組織を傷つけてさらなる炎症を引き起こす可能性につながります。

そこで、スーパーオキシドを消去するために身体に備わっている仕組みが

・抗酸化酵素SOD(スーパーオキシドジスムターゼ)

です※1。SODは、スーパーオキシドに対して細胞内で行われる最初の酵素による防御です※13

亜鉛は、

・酵素Cu/Zn-SOD

の補因子として働きます。Cu/Zn-SODは、スーパーオキシドをより害の少ない物質へと変換する反応に関わります。

SODは、生体内で生成されるほとんどのスーパーオキシドを除去する重要な抗酸化酵素です※1

亜鉛が不足しやすい人

重度の亜鉛欠乏が開発途上国で問題となっています。しかし先進国、つまり食品を自由に選んで食べられる国においても、

・高齢者※3
・ヴィーガン / ベジタリアン
・肝硬変※14
・炎症性腸疾患※15
・アルコール依存症※3

の方は、亜鉛が欠乏しやすいことが報告されています※16

亜鉛が欠乏する原因

亜鉛が不足する原因はたくさん考えられますが、中でも

・亜鉛を吸収する力の低下
・亜鉛含有量の少ない食品の摂取
・下痢

などが挙げられています※17。亜鉛をしっかり吸収するためにも、胃腸の状態を整えることは重要です。

人体は亜鉛を貯めることができない

人の身体は亜鉛を貯蓄するようにできていないため、不適切な食事によって欠乏症が急に起こる可能性が指摘されています※18

適切な量を含んだ食品を食べ、必要とされる量の亜鉛を毎日摂取しましょう。
※亜鉛を多く含む食品

サプリメントでの亜鉛の補給は、医師による血液検査で確認する必要性

摂取する亜鉛の量に免疫としての役割を期待する場合には、食事のほかに栄養補助食品(ダイエタリー・サプリメント)での補給を勧める論文があります※19

しかしミネラルの過剰摂取には危険性が伴うため、医学的に規定される血清亜鉛濃度を守る必要性を訴えた文献が存在します※20

分子栄養学では、血液検査で医師が血清亜鉛濃度を評価

分子栄養学では健康維持増進の手段として、医師による詳細な問診や血液検査などを用います。

重要なのは、例えばある文献ではビタミン・ミネラルの明らかな欠乏だけでなく、わずかな不足でも感染リスクが高まる可能性が指摘されていることです※21。適切な免疫には、タンパク質や良質な脂質も必須であると考えられています※2

分子栄養学実践医師による詳細な問診と血液検査・腸内環境検査の解析のもと、至適量の亜鉛を含めた微量ミネラルやタンパク質、脂質(オメガ3:オメガ6脂肪酸比)など免疫に関わる栄養素の至適量補給を目指します。

今回のまとめ

亜鉛は、炎症の調整に重要な役割を果たすと考えられている栄養素です。

亜鉛は
・転写因子NF-κBへの関与
・抗酸化酵素SODの補因子としての機能
などにより炎症調整に関わる可能性が考えられています。

人の身体は亜鉛を貯蓄するようにできていないため、不適切な食事によって欠乏症が急に起こる可能性が指摘されています。

高齢者、ヴィーガン / ベジタリアンなどの亜鉛欠乏が心配されています。腸内環境を整え、亜鉛を含んだ食品を毎日適量摂取しましょう。

さまざまな研究によって、ビタミン( A、B群、C、D、E)、亜鉛、鉄、銅、セレンなどの栄養素が複雑に絡み合い、免疫に役立つことが示されています。

※ビタミン・ミネラル補給と冬の感染症・免疫対策

分子栄養学実践医師による詳細な問診と血液検査・腸内環境検査の解析のもと、ぜひ毎日の食事で賢く良質な食品を選び、分子栄養学に基づく栄養アプローチをさらに効果的なものにしていきましょう。

※1  Andrés, CMC.,et al. (2023). Superoxide anion chemistry—Its role at the core of the innate immunity. International Journal of Molecular Sciences, 24(3), 1841.

※2 Iddir, M.,et al. (2020). Strengthening the Immune System and Reducing Inflammation and Oxidative Stress through Diet and Nutrition: Considerations during the COVID-19 Crisis. Nutrients, 12(6), 1562.

※3 Knoell, DL.,et al. (2009). Zinc deficiency increases organ damage and mortality in a murine model of polymicrobial sepsis. Critical Care Medicine, 37, 1380–1388.

※4 Gammoh, NZ.,et al. (2017). Zinc in Infection and Inflammation. Nutrients, 9, 624.

※5 転写因子とは、遺伝子の発現を制御するタンパク質のことです。

※6 Hayden, MS.,et al. (2008). Shared principles in NF-kappaB signaling. Cell, 132(3), 344–362.

※7 敗血症とは、感染症がきっかけとなってコントロールの効かない炎症反応が起こり、さまざまな臓器障害が引き起こされた重篤な状態のことです。

※8 スーパーオキシドは、スーパーオキシドラジカルアニオン、スーパーオキシドラジカルとも呼ばれます。

※9 Nauseef, WM. (2004). Assembly of the phagocyte NADPH oxidase. Histochemistry and Cell Biology, 122, 277–291.

※10 Babior, BM. (2004). NADPH oxidase. Current opinion in immunology, 16, 42–47.

※11 Babior, BM.,et al.(1977). Superoxide-forming enzyme from human neutrophils: Evidence for a flavin requirement. Blood, 50, 517–524.

※12 Nordzieke, DE.,et al. (2018). The plasma membrane: A platform for intra-and intercellular redox signaling. Antioxidants (Basel), 7(11), 168.

※13 哺乳類のSODは3種類が報告されています。細胞内と細胞外で働く2種類のCu/Zn-SODに亜鉛が補因子として関わります。この他にマンガンを補因子とするMn-SODがあります。Mn-SODはミトコンドリアに多く存在するSODです※1

※14 Himoto, T.,et al. (2018). Associations between Zinc Deficiency and Metabolic Abnormalities in Patients with Chronic Liver Disease. Nutrients, ,10(1), 88.

※15 Siva, S.,et al. (2017). Zinc Deficiency is Associated with Poor Clinical Outcomes in Patients with Inflammatory Bowel Disease. Inflammatory Bowel Diseases, 23(1), 152–157.

※16 Read, SA.,et al. (2019). The Role of Zinc in Antiviral Immunity. Advances in Nutrition, 10, 696–710.

※17 Hussain, A.,et al. (2022). Mechanistic Impact of Zinc Deficiency in Human Development. Frontiers in Nutrition, 9, 717064.

※18 Skrajnowska, D.,et al. (2019). Role of Zinc in Immune System and Anti-Cancer Defense. Nutrients, 11(10), 2273.

※19 Calder, PC. (2020). Nutrition, immunity and COVID-19. BMJ Nutrition, Prevention and Health, 3(1), 74–92.。

※20 Weyh, C.,et al. (2022). The Role of Minerals in the Optimal Functioning of the Immune System. Nutrients, 14(3), 644.

※21 Gombart, AF.,et al. (2020). A review of micronutrients and the immune system–working in harmony to reduce the risk of infection. Nutrients, 12(1), 236.

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