The Orthomolecular Times

2024.12.16 分子栄養学と免疫の栄養素「自然免疫:好中球の働きとビタミンC」

ヘルシーエイジング

分子栄養学で血管を守る!「血糖値コントロール編」

老化した内皮細胞がたまることが心血管疾患、糖尿病や老化につながる

血管の内側でシート(内膜)をつくり、全身の健康を支える血管内皮細胞(以下、内皮細胞)。内皮細胞が傷ついた結果、内皮細胞の老化が起こり、老化した内皮細胞がたまることが原因となり心血管疾患、糖尿病※1などさまざまな病気や老化につながるとする報告が増えています※2、※3、※4。(※若々しい血管のカギ!血管の内側「血管内皮細胞」のお話 ※血管内皮細胞が老化するとどうなるの?

内皮細胞を傷つける大きな要因:暴飲暴食、高血糖、高血圧、タバコ(電子タバコ含む)、酸化LDL、過剰なストレス、運動不足などに関わる酸化ストレス

内皮細胞の老化につながる、内皮細胞を傷つける要因のひとつに「酸化ストレス」※5が考えられています。私たちが生活習慣で改善できる酸化ストレスと関係する項目は、慢性的なアルコール摂取、暴飲暴食、高血糖、高血圧、タバコ(電子タバコ含む)、酸化LDL、炎症、過剰なストレス、運動不足などです※2、※3、※4

今回は血糖値コントロール、高血糖・低血糖対策ついて一緒に考えていきましょう。内皮細胞は新しく生まれ変わることができる代謝回転(ターンオーバー)を続けているため、良い生活習慣によってその機能の回復が望まれる場合があります(※若い血管を取り戻すための分子栄養学「血管内皮細胞のターンオーバー」)。ぜひ至適量の栄養素と良い生活習慣で健康な血管を取り戻しましょう。

高血糖・酸化LDL対策

食後高血糖※6はミトコンドリアで産生される活性酸素の増加につながり、酸化ストレスを引き起こします※7。酸化ストレスがどんどん進んだ状態(亢進した状態)は内皮細胞を傷つけ、動脈硬化※8を引き起こす独立した原因となることが明らかになっています※9 (※血管内皮細胞が老化するとどうなるの?)。高血糖が続く状態は酸化ストレスが亢進する状態でもあるため、同時に動脈硬化の要因、酸化LDLの亢進にもつながります。

血糖値を上げる栄養素「糖質」の質と量をコントロール

血糖値を上げる栄養素は糖質です。糖質は、お米やパン・麺などの主食、いも類、果物、お菓子やジュースなどに多く含まれます。糖質の種類としては、でんぷんやショ糖、果糖、ブドウ糖などがあり、全身のエネルギー源になります。

1食に食べる糖質の量、糖質の質(GI値)をコントロールしたり、食べる順番として野菜・肉魚などの糖質の少ないおかずを先に食べ、最後に糖質を食べることで、血糖値の急激な上昇を抑えましょう。白米を胚芽米に、白いパンを全粒粉パンに置き換えるなども良い対策です。食前の適量の食物繊維は血糖値の急激な上昇を防ぐため、お勧めです。

血糖値とは何かの説明は※血液・尿検査の意義③、分子栄養学がお勧めする糖質の量、血糖値を上げすぎない食事のコツについては※食事の基本をご覧ください。

砂糖の適量は1日小さじ6杯(25g)までに:WHO(世界保健機関)

一般的なお菓子や清涼飲料水などには、砂糖が多く使われています。砂糖はとても吸収されやすく、摂り過ぎは食後高血糖につながります。健康な場合でも砂糖は多くて1日小さじ6杯(25g)までにすることが、WHO(世界保健機関)によって勧められています。

低血糖のときに血糖値を維持するために分泌されるホルモンと一緒に増加する「活性酸素と炎症性サイトカイン」が引き起こす血管内皮機能障害

高血糖とは逆に、繰り返し低血糖が続くことでも内皮細胞のはたらき(機能)が障害される(血管内皮機能障害※10)と考えられています※11。低血糖とは血糖値が70㎎/dL以下のことをいいます※12。日本糖尿病学会の 75gOGTT に基づいた基準により、80㎎/dL未満を低血糖とするのが妥当とする報告もあります※13

低血糖に伴って血糖値を上げようと分泌されるホルモン(アドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾール、コルチコトロピン(ACTH。副腎皮質刺激ホルモン)と一緒に、活性酸素、炎症性サイトカイン(TNF-α※12、IL-1β、IL-6※12)が増加することが報告されています※14、※15。過剰な活性酸素による酸化ストレス※16、これらの炎症性サイトカインの増加は、内皮細胞を傷つける可能性につながるとの報告があります※11、※12

低血糖症は糖尿病のほか、「運動、アルコール、高齢、腎機能障害、感染症、エネルギー摂取量の減少、うつ病、精神疾患など」※12でも起こるリスクがよく知られています※12

適度な運動、食事、生活、ストレス対策が血糖値を正常に保つ

血糖値がいつでも適切に保たれるよう、普段から運動、食事など生活習慣を整え※16、適切なストレス対策をしていきましょう。適度な栄養素を摂りながらの筋力トレーニングは、血糖値のもと、ブドウ糖をたくさん消費してくれる筋肉を増やすことにつながるため、お勧めです。

内皮細胞はインスリンと無関係にブドウ糖を取り込むため、高血糖による傷を受けやすい

4種類のヒト内皮細胞でGLUT1、3、6、8、10、11、12など、さまざまなGLUTが見つかっているという報告があります※17。どの内皮細胞かによってGLUTの種類が異なるとの報告ですが※17、内皮細胞は基本的に「GLUT1(グルットワン)」という常に細胞の表面にあるトンネル(グルコーストランスポーターというタンパク質)※18を通してインスリンを介さずにブドウ糖を取り込む基礎的なシステムがあるため、他の細胞よりも高血糖による傷を受けやすいという報告があります※19

血糖値コントロールとマグネシウム

約64万人弱のアジア人とアメリカ人(糖尿病と診断された約2.6万人を含む)についての研究を解析した報告では、食事からのマグネシウム摂取量が1日100㎎増えるごとに8%~13%の2型糖尿病になるリスクが減少することが示されています※20。マグネシウムはインスリン感受性を改善し、糖尿病を予防する効果が期待され、世界中で積極的に研究されているミネラルです※20、※21

ミネラルの欠乏が糖尿病・インスリン抵抗性に関わる酸化ストレスに関連

ミネラルなどの欠乏(カルシウムとビタミンD、コバルト、クロム、ヨウ素、マグネシウム、セレン、亜鉛)が、最終的に「インスリン抵抗性や糖尿病」に関連する酸化ストレスに関わる可能性を示した論文が2020年に出ています※22

脂肪肝、歯周病、腸内環境の悪化でも血糖値は上がりやすくなる

血糖値をコントロールするホルモン(インスリン)が効きにくい状態(インスリン抵抗性)になると血糖値は上がりやすくなります。インスリン抵抗性は、脂肪肝、歯周病、腸内環境の悪化でも起こります。また過剰なストレスでも血糖値は上がります。

3~4か月に1回の歯周病ケアを歯医者さんに行ってもらいましょう。脂肪肝対策については※「脂肪肝対策①」※「脂肪肝対策②」、血糖値と腸内環境対策については※分子栄養学的リーキーガット症候群対策②をご覧ください。

分子栄養学とともに、血糖値コントロールを良好に保つ

血管は栄養素と酸素を運ぶ道、細胞の生きる要です。ぜひ適切な血糖値コントロール対策として適切な運動、食事の仕方、至適量のビタミン・ミネラル摂取を含めた生活習慣で血管を守っていきましょう※16。食前の食物繊維も血糖値コントロールに有効な場合があります(※【研究センターレポート】食物繊維と血糖値の関係)。糖尿病の高血糖の状態では、心臓の筋肉の毛細血管の密度が減少することも示されています※19、※23。適切な血糖値コントロールを通して一緒に健康寿命100年時代の血管を守っていきましょう。

※1 Barinda,AJ.,et al. Endothelial progeria induces adipose tissue senescence and impairs insulin sensitivity through senescence associated secretory phenotype. Nature Communications, 11: 481. (2020)

※2 Bloom, SI.,et al.  Mechanisms and consequences of endothelial cell senescence. Nature Reviews Cardiology, 20(1): 38-51. (2023)

※3 Hwang, HJ.,et al. Factors and Pathways Modulating Endothelial Cell Senescence in Vascular Aging. International Journal of Molecular Sciences, 23(17): 10135. (2022)

※4 Theofilis, P.,et al. Inflammatory Mechanisms Contributing to Endothelial Dysfunction. Biomedicines, 9(7): 781. (2021)

※5 体内で産生される活性酸素やフリーラジカルが、自分がもつそれらを消去する能力を超えて過剰となり、酸化が進む状態(身体の中で酸化と還元のバランスが崩れた状態)を酸化ストレスと呼びます。フリーラジカル、酸化ストレスの正しい説明は、※エンジオール基が世界を救う「ビタミンCの底力」 をご参照ください。

※6 厚生労働省eヘルスネットより引用
"https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-086.html#:~:text=%E9%A3%9F%E5%BE%8C%E3%81%AF%E8%AA%B0%E3%81%A7%E3%82%82%E4%B8%80%E6%99%82,%E8%A1%80%E7%B3%96%E3%81%A8%E5%88%A4%E6%96%AD%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82"
食後高血糖
食後は誰でも一時的に血糖値が高くなりますが、通常であればインスリンがすぐ分泌され、食後約2時間以内には正常値に戻ります。食事をしてから2時間後に測った血糖値が140mg/dl以上ある場合、食後高血糖と判断されます。これはインスリンの分泌が少なかったり、働きが不十分だったりすることから、食後に血糖値が急上昇しているためです。
食後血糖値が高い状態が続くと、糖尿病を発症したり予備群である疑いがあり動脈硬化の危険因子としても重要で、放置しておくと血管障害が進み脳卒中や心筋梗塞などを引き起こす恐れがあります。
糖尿病を診断する空腹時血糖値が正常だったり境界域にある場合でも、食後の血糖値だけ大幅に上昇する場合があります。こうした症状は「隠れ糖尿病」である疑いがあります。

※7 Kitabchi, AE.,et al. Hyperglycemic crises in adult patients with diabetes. Diabetes Care, 32:1335-1343. (2009)

※8 厚生労働省eヘルスネットより引用
"https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-082.html"
動脈は、心臓から送り出される血液を全身に運ぶ血管です。酸素や栄養素を運ぶ重要な役割を持っており、通常は弾力性がありしなやかですが、加齢による老化や様々な危険因子によって厚く硬くなってしまうのが動脈硬化です。

※9 Kang,H.,et al. High glucose–induced endothelial progenitor cell dysfunction. Diabetes and Vascular Disease Research, 14(5):381-394. (2017)

※10 血管内皮機能障害は、動脈硬化の初期段階といわれます。内皮機能障害については、※血管内皮細胞が老化するとどうなるの? をご参照ください。

※11 鳥本 桂一,他.「2型糖尿病と血管内皮機能障害」.産業医科大学雑誌,40(1): 65-75.(2018)

※12  Desouza, CV.,et al. Hypoglycemia, Diabetes, and Cardiovascular Events. Diabetes Care. 33(6): 1389-1394. (2010)

※13 永田 勝太郎,他.「Flash Glucose Monitoring(FGM)時代の血糖値の分類 ―低血糖・血糖値スパイクを中心に― 」.『全人的医療―COMPREHENSIVE MEDICINE』, 19(1):21-30.(2020)

※14 Nematollahi, LR.,et al. Proinflammatory cytokines in response to insulin-induced hypoglycemic stress in healthy subjects. Metabolism, 58: 443-448. (2009)

※15 Jin, WL.,et al. Repetitive hypoglycaemia increases serum adrenaline and induces monocyte adhesion to the endothelium in rat thoracic aorta. Diabetologia, 54: 1921-1929. (2011)

※16 Man, AWC.,et al. Impact of Lifestyles (Diet and Exercise) on Vascular Health: Oxidative Stress and Endothelial Function. Oxidative Medicine and Cellular Longevity, 2020: 1496462. (2020)

※17 Wu,WZ.,et al. Endothelial GLUTs and vascular biology. Biomedicine & Pharmacotherapy, 158:114151. (2023)

※18 Lee, HW.,et al. Endothelium‐derived lactate is required for pericyte function and blood–brain barrier maintenance. EMBO Journal, 41(9): e109890. (2022)

※19 Knapp, M.,et al. Vascular endothelial dysfunction, a major mediator in diabetic cardiomyopathy. Acta Pharmacologica Sinica, 40:1-8. (2019)

※20 Fang, X.,et al. Dose-Response Relationship between Dietary Magnesium Intake and Risk of Type 2 Diabetes Mellitus: A Systematic Review and Meta-Regression Analysis of Prospective Cohort Studies. Nutrients, 8(11):739. (2016)

※21 Barbagallo, M.,et al. Magnesium and type 2 diabetes. World Journal of Diabetes, 6(10): 1152-1157. (2015)

※22 Dubey, P.,et al. Role of Minerals and Trace Elements in Diabetes and Insulin Resistance. Nutrients, 12(6):1864. (2020)

※23 Viberti, GC. Increased capillary permeability in diabetes mellitus and its relationship to microvascular angiopathy. American Journal of Medicine, 75:81-84. (1983)

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