The Orthomolecular Times

2024.12.23 分子栄養学と免疫の栄養素「ビタミン・ミネラル補給と冬の感染症・免疫対策」

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血管内皮細胞が老化するとどうなるの?

内皮細胞が何らかの原因で傷つくことが、動脈硬化へのはじまり?

若々しい血管のカギ、血管内皮細胞(以下、内皮細胞)。

その内皮細胞のはたらき(機能)が障害される血管内皮機能障害は、動脈硬化の初期段階といわれます※1。動脈硬化とは、心臓から血液を送り出す大切な血管(動脈)が老化した状態、何らかの原因で中の空洞(内腔)が狭くなったり、血管自体が硬く変化してしまう病気です。

(※内皮細胞について詳しくは ※若々しい血管のカギ!血管の内側「血管内皮細胞」のお話 、動脈など血管について詳しくは※血管は栄養素を運ぶ!細胞の命綱「血管の種類とはたらき」をお読みください。)

血管が老化すると血液が流れにくくなる

血液が流れることを血流といいます。豊富な血流は、脳、筋肉、粘膜をはじめとする、身体中の細胞、組織、器官(臓器)の活動を支えます。血液が各細胞の必要とする栄養素と酸素を送り届け、不要となった老廃物と二酸化炭素を回収してくれるからです。血流を決める要素は2つ、「血液」と「血管」です。内皮細胞の老化の蓄積は血管の老化につながり※1、※2、血流を妨げることにつながります。

(※健康な骨盤底筋を支える血流については※尿失禁対策①(骨盤底筋、コラーゲン編)、腸粘膜を支える血流については※分子栄養学的リーキーガット症候群対策②をお読みください。)

内皮細胞が傷つくことが内皮細胞・血管の老化のはじまり

内皮細胞が、まず何らかのかたちで傷つくことが健全な内皮細胞のはたらき(機能)ができなくなるはじまりと考えられています※3、※4。内皮細胞が障害されて正常に機能できなくなる病態を「血管内皮機能障害」といい、糖尿病、動脈硬化などの初期段階でみられます※3、※5、※6。例えば2型糖尿病になる前の耐糖能異常※7のはじまり(初期段階)ですでにみられる障害です※3、※6、※8

傷ついた内皮細胞は老化し、老化した内皮細胞は病的な炎症を促進する物質を出し続け、ほかの血管の細胞(内皮細胞など)や組織、器官(臓器)を傷つけてそのはたらきを障害し、それが病気につながる原因となる可能性を示した報告が増えています※1、※2、※3

内皮細胞の老化は、心筋梗塞、脳梗塞、くも膜下出血、さまざまな病気へとつながる動脈硬化※9のはじまりです。「動脈硬化巣や肥満脂肪組織に老化細胞が蓄積していることがわかり」※10、内皮細胞の老化が問題視され、老化した細胞をターゲットに、世界中で研究されています※1、※2、※5

内皮細胞は加齢とともにいちばんはじめに老化しやすい細胞のひとつ

血管の中は24時間365日、休みなく血液や栄養素、ホルモン、白血球などが流れています。そのため、血管のいちばん内側で壁を構成する内皮細胞は、常に血流やホルモン、病気を引き起こすような刺激(炎症性サイトカインなど)などにさらされているため、血流を調整できなかったり、バリア機能がうまく働かない場合などに、いつも傷つく可能性があります。そのため、内皮細胞は加齢とともに最初に老化しやすい細胞であることが知られています※1

内皮細胞が傷ついた結果、内皮細胞の老化が起こる

そして内皮細胞が傷ついた結果、内皮細胞の老化が起こります※1。内皮細胞は生まれ変わりの周期が長いといわれますが、健康でいる間は寿命や必要に応じて生まれ変わり、代謝され、メンテナンスされています。

内皮細胞が老化した状態とは、細胞が生まれ変わる周期が完全になくなり、永遠にそのままで止まってしまう状態のことを指しています※1、※2、※11。人が若いときには、傷ついた内皮細胞が老化細胞になることによって、傷ついた細胞がそのまま無限に増殖して「がん化」することを防ぐという良いはたらきもあるといわれています※1、※2

しかし、加齢とともに老化細胞がたまることで、たまった老化細胞そのものが炎症性サイトカインや活性酸素を出し続け、さまざまな病気を引き起こす原因となることを示す研究が増えてきています。内皮細胞の老化は、脳※1、※12、目(網膜)※1、※13、大動脈※1、※14、腎臓、肝臓※1、※15などで報告されています。

内皮細胞の寿命は1年以上?

最新(2023年)の論文では、「血流が層流※16である箇所の内皮細胞は長生きすると考えられている」と書かれています※1。海外の2007年の論文では、内皮細胞の平均寿命は1年以上であるとの報告があります※17。日本語の2000年の報告では内皮細胞の寿命は1000日とする文献※18、2012年には100~1000日であるとの報告※19もあります。内皮細胞は長生きであるがゆえに、その分、長期間に渡ってたくさんのダメージを受け続けるリスクが高まるといわれます。

動脈など大きな血管では生まれ変わりがまれであるため、どのくらいの頻度や期間で生まれ変わるかを把握することは困難だったそうですが、2024年の論文では、マウスの大動脈の内皮細胞の約3%が1か月の間に生体恒常性(ホメオスタシス)※27を保った状態で新しく代謝回転(ターンオーバー)※31していることが示されたとの報告があります※28。また、ヒトの心臓を栄養する動脈(冠動脈)の内皮細胞がすべて生まれ変わるのには約6年かかるとの報告もあります※29、※30

内皮細胞が老化すると、余剰な活性酸素を出し続けるやっかいものに変身

血管内皮細胞が傷ついた結果として老化した内皮細胞は、余剰な炎症性サイトカイン(IL -1β※20、IL -6※21、※22、IL -8※21、※23など)や活性酸素など炎症を促す物質を出し続けることが報告されています※1。それらのシグナルは余計な炎症を引き起こし、さらに他の血管の細胞(内皮細胞など)や組織、器官(臓器)を傷つける合図となってしまいます※1

内皮細胞が老化すると、内皮細胞の正しい並びの邪魔をして血流を乱す

老化した内皮細胞の形は、正常な内皮細胞に比べてのっぺりと平坦に拡がり、基底膜にべったりとくっついて、血液の流れに耐えられるように整列する、他の内皮細胞の正しい並びを邪魔してしまうことが示されています※1、※24。血管内膜において内皮細胞の並びが “いびつ” になることは、正しい血流が乱れることを意味します。内皮細胞の老化の一因として、“血流の乱れ” が内皮細胞を傷つける機械的な刺激となることも指摘されています※1、※24

老化した内皮細胞が、病気や老化の原因に⁉

老化した内皮細胞は、脳血管疾患、心血管疾患や糖尿病などの病気や老化の原因となることが明らかになってきています※1、※2、※25

内皮細胞の老化には、テロメアの問題※26、血流の乱れ、細胞の中のDNAや細胞成分が傷つくことなどが関わることが示されています※1、※11。その中の主な原因のひとつとして知られているのが酸化ストレスです※1、※2、※5。過剰な酸化ストレスを起こす原因として、血流の乱れ、炎症、喫煙、暴飲暴食、高血糖、高血圧、過剰なストレスなどが考えられています※1、※2、※5。生活習慣を整えることで可能な、血管のための酸化ストレス対策などについてまたの機会に一緒に考えしょう。健康的な生活習慣で一緒に大切な血管を守り、健康自主管理に生かしていきましょう。

※1 Bloom, SI.,et al.  Mechanisms and consequences of endothelial cell senescence. Nature Reviews Cardiology,  20(1): 38-51.(2023)

※2 Hwang, HJ.,et al. Factors and Pathways Modulating Endothelial Cell Senescence in Vascular Aging. International Journal of Molecular Sciences, 23(17): 10135.(2022)

※3  Xu, J.,et al. Molecular insights and therapeutic targets for diabetic endothelial dysfunction. Circulation, 120(13):1266-1286.(2009) 

※4 内皮細胞を傷つける原因のひとつとして過剰な酸化ストレスが考えられています。過剰な酸化ストレスを引き起こす主な原因として、血流の乱れ、炎症、喫煙、暴飲暴食、高血糖、高血圧などが考えられています※1、※2、※5。

※5 Theofilis, P.,et al. Inflammatory Mechanisms Contributing to Endothelial Dysfunction. Biomedicines, 9(7): 781.(2021)

※6 鳥本 桂一,他.「2型糖尿病と血管内皮機能障害」.産業医科大学雑誌,40(1): 65-75.(2018)

※7 耐糖能異常とは、空腹時の血糖値が「正常値」と「異常値(糖尿病と診断される値)」の間にある状態のことです。境界型糖尿病、糖尿病予備軍ともいわれます。耐糖能異常は、放置すると2型糖尿病のリスクとなります。

※8  Nathan, DM.,et al. Intensive diabetes therapy and carotid intima-media thickness in type 1 diabetes mellitus. New England Journal of Medicine, 348:2294-2303.(2003)

※9 動脈硬化とは、心臓から栄養素や酸素を運ぶ血液が通る道である動脈が、何からの原因で硬くなったり狭くなったりする病気です。

※10 須田 将吉,他.「血管内皮細胞老化について」.日本血栓止血学会誌, 30 (3) :521-528.(2019)

※11 Campisi, J.,et al. Cellular senescence: when bad things happen to good cells. Nature Reviews Molecular Cell Biology, 8:729-740. (2007)

※12 Kiss, T.,et al. Single-cell RNA sequencing identifies senescent cerebromicrovascular endothelial cells in the aged mouse brain. Geroscience , 42:429-444 (2020)

※13 Shosha, E.,et al. Mechanisms of Diabetes-Induced Endothelial Cell Senescence: Role of Arginase 1. International Journal of Molecular Sciences, 19(4):1215. (2018)

※14 Yokoi, T.,et al. Apoptosis signal-regulating kinase 1 mediates cellular senescence induced by high glucose in endothelial cells. Diabetes, 55(6):1660-1665. (2006)

※15 Grosse, L.,et al. Defined p16High Senescent Cell Types Are Indispensable for Mouse Healthspan. Cell Metabolism, 32(1):87-99.e6.(2020)

※16 層流とは、例えば水道の蛇口から出る真っ直ぐの水流のように、乱流ではないところ、の意味です。

※17 Aird, WC . Phenotypic heterogeneity of the endothelium: I. Structure, function, and mechanisms. Circulation research, 100(2):158-173.(2007)

※18 須田 年生.「造血幹細胞と血管内皮細胞の相互関係」.第 117 回日本医学会シンポジウム記録集:58-66.(2000)

※19 高倉伸幸.「Tie2活性化による血管老化および血管病の予防」.第2回Tie2 (タイツー) フォーラム.(2012)

※20 Yin, Y.,et al. Vascular endothelial cells senescence is associated with NOD-like receptor family pyrin domain-containing 3 (NLRP3) inflammasome activation via reactive oxygen species (ROS)/thioredoxin-interacting protein (TXNIP) pathway. International Journal of Biochemistry and Cell Biology, 84:22-34.(2017).

※21 Khan, SY.,et al. Premature senescence of endothelial cells upon chronic exposure to TNFα can be prevented by N-acetyl cysteine and plumericin. Scientific Reports, 7:39501.(2017)

※22 Bent, EH.,et al.  A senescence secretory switch mediated by PI3K/AKT/mTOR activation controls chemoprotective endothelial secretory responses. Genes and Development, 30:1811-1821.(2016)

※23 Hampel, B.,et al. Increased expression of extracellular proteins as a hallmark of human endothelial cell in vitro senescence. Experimental Gerontology, 41: 474-481.(2006)

※24 Chala, N.,et al. Mechanical Fingerprint of Senescence in Endothelial Cells. Nano Letters, 21:4911-4920.(2021)

※25 Yousefzadeh, MJ.,et al. Tissue specificity of senescent cell accumulation during physiologic and accelerated aging of mice. Aging Cell, 19(3): e13094.(2020)

※26 テロメアとは、細胞のいのちの回数券といわれるものです。

※27 生体恒常性(ホメオスタシス)とは、身体の外や中からの変化(寒い暑いなどの環境や、ウイルスなどからの攻撃)にかかわらず、私たちの身体(体温、血液量、免疫など)を一定の状態に保とうとする働きのことです。

※28 Li,Y.,et al. Dynamics of Endothelial Cell Generation and Turnover in Arteries During Homeostasis and Diseases. Circulation, 149(2):135-154.(2024)

※29 Bergmann, O.,et al. Dynamics of cell generation and turnover in the human heart. Cell, 161(7):1566-1575.(2015)

※30 Wilson,C.,et al. Mitochondrial ATP Production is Required for Endothelial Cell Control of Vascular Tone. Function (Oxf), 4(2): zqac063.(2023)

※31 私たちの身体において、“生きていると認められるいちばん小さな単位”である細胞を構成する成分は、一見ほぼ変化がないように見えますが、実は多くの分子が合成と分解を繰り返して絶えず入れ替わるということをしています。これを代謝回転(ターンオーバー。metabolic turnover)といいます。詳しくは ※分子栄養学とは⑤ をご覧ください。

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