The Orthomolecular Times

2024.11.18 分子栄養学と運動「骨格筋が血糖値を下げる⁉ 運動効果と「GLUT4」の仕組みをわかりやすく解説」

栄養素のお話(応用編)

栄養素による炎症・酸化ストレス対策で免疫強化【タンパク質, オメガ3:6脂肪酸, ビタミン(A,B,C,D,E)、亜鉛,鉄,銅,セレン】

適切な免疫反応の基礎は、食事と栄養素がつくり上げるとする論文

「外出などの行動が制限される場合にも、感染を防ぐためには最適な免疫システムが最も重要。そしてその適切な免疫反応の基礎は、食事と栄養素がつくり上げる」とする新型コロナ感染症に関する論文(過去に行われた研究結果を評価してまとめたもの。レビュー)が2020年に発表されています。

「免疫反応には必ず炎症と酸化ストレスが伴う。ある栄養素は、その炎症と酸化ストレスを適切にする役割を担い、過剰な酸化ストレスによる健康被害を効果的に減らす可能性がある。この栄養素による適切な炎症と酸化ストレスコントロールによって、免疫システムを強化していきましょう」という内容です。

今回は、分子栄養学的免疫対策にも通ずる考え方が多く書かれ、多くの医師の参考にされている論文の内容をご紹介します。(※分子栄養学的に重要と考えられる箇所を中心に簡単にまとめてあります点、ご承知おきください。)

感染とは何か、免疫、炎症などの基本的な言葉やメカニズムについては、※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」、白血球の仲間については※免疫を司る白血球「白血球の仲間たちの基礎」をご覧ください。

論文紹介【食事と栄養素を通じて炎症と酸化ストレスを軽減し、免疫システムを強化する

免疫反応は炎症と酸化ストレスを伴います。免疫の主役、白血球は、悪者(病原体など)が入ってきたら、いち早くそれを感知して、そこに集まっていって闘ってくれます。このとき、白血球(特にマクロファージ)(※免疫を司る白血球「白血球の仲間たちの基礎」)はサイトカインなどで免疫反応を強化し、炎症を起こします。このとき、活性酸素やフリーラジカル(以下、フリーラジカル)がたくさん発生します。

大量に発生するフリーラジカルをその場で速やかに抑えられれば問題にはなりませんが、自分がもともともっている抗酸化能力(カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)などの抗酸化酵素、グルタチオン)や、自分で摂った抗酸化栄養素(ビタミンC、ビタミンEなど)による “抑える力” を超えてフリーラジカルが発生してしまった場合、酸化ストレスが生じます。酸化ストレスは敵だけでなく、周りの健康な細胞まで次々と傷つけてしまいます。余剰な酸化ストレスが健康な細胞、細胞を構成するタンパク質や脂質、DNAまでをも傷つけ、それがさらなる炎症を引き起こす可能性があります※1

感染したときの酸化ストレスの役割は完全に解明されているわけではありませんが、フリーラジカルはウイルスなどをやっつけ、その侵入を防ぐ手段となると考えられています(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)。しかし、炎症と酸化ストレスを適切に抑えられなかった場合、健康な自分を傷つけてしまう可能性が新たに生まれます。

多様な栄養素による炎症と酸化ストレスのコントロールが適切な免疫へのカギとなる

適切な炎症と酸化ストレスのコントロールが、適切な免疫へのカギとなります。その栄養素とは、タンパク質、適切なオメガ3:オメガ6脂肪酸比、トランス脂肪酸を減らすこと、適切な糖質の量と質による血糖値コントロール、食物繊維、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、亜鉛、鉄、セレン、カロテノイドなどです。この論文は、食事と栄養素を通じて炎症と酸化ストレスを軽減し、免疫システムを強化することに重点を置いています。

肥満、糖尿病、がん、関節炎、炎症性腸疾患、心血管疾患などをすでにおもちの方は、すでに全身に軽度な炎症が起きている状態で、自然免疫の調節が難しい状態にあり、感染症にかかりやすい状態にあります。

栄養失調は免疫反応を損ない、細胞の再生と働きを損なう可能性につながり、感染リスクを高めます。

免疫には栄養素だけでなく、ホルモンや概日リズムも関わります。早寝早起きを基本として、適切な食習慣、生活習慣を整えることが、感染予防のための免疫システムの強化につながり、全体の健康促進にも役立ちます。

タンパク質が足りないと、抗体産生低下で感染のリスクが高まる

タンパク質の栄養状態が悪いと、敵をやっつけるための抗体が減り、また腸管関連リンパ組織(GALT)が少なくなってしまい、感染症にかかるリスクが高まる可能性が知られています。0.8g/㎏未満のタンパク質摂取量では、感染症にかかりやすくなることが知られています。タンパク質は生命活動の基本です。(※必ず摂る必要がある必須栄養素「タンパク質」

また、良質なタンパク質は、胃の中で時間をかけてしっかり消化する必要があるため、胃内に長くとどまります。それが食後の血糖値をゆっくり上げることにつながり、血糖値コントロールを安定化し、血糖値の乱れによる炎症を抑えることにつながります。

グルタミンは免疫細胞(マクロファージ、好中球、リンパ球)のエネルギー源となる免疫に欠かせないアミノ酸です。(※免疫を司る白血球「白血球の仲間たちの基礎」

適切なオメガ3:オメガ6比が炎症を適切に抑え、トランス脂肪酸は炎症を促進

オメガ3:オメガ6脂肪酸のバランスを1:1~1:4にして摂取し続けることが、適切な炎症、抗炎症反応にプラスの効果が期待されています。しかしポテトチップスやフライドポテトのトランス脂肪酸は、炎症を促進してしまう(TNF-α、IL-6、高感度C反応性タンパク質(CRP)の増加と関連)と考えられています。

適切な糖質の質と量による血糖値コントロールが、炎症性サイトカインを減らす

GI値の高い糖質(白砂糖や精製された白い糖質)の摂取は、急激な血糖値の上昇とそれに伴ったインスリンによる反応を引き起こします。たくさんのブドウ糖(グルコース)が入ってくることにより、それを処理するミトコンドリアが過剰に動く必要があり、それによって生じるフリーラジカルの増加をもたらします。野菜、ナッツ、全粒穀物など、加工されていない低GI食品を、量を加減して食べること(=低GL食品)は、食後の炎症を減らします。

食物繊維で病原体が胃腸の炎症、腸内細菌叢を荒らすのを減らす

食物繊維はビフィズス菌などの有用菌のエサとなり、短鎖脂肪酸をつくり出すことで抗炎症作用をもたらすため、感染前後で腸を守り、それが炎症を抑えることにつながる可能性が指摘されています。また、食物繊維はビフィズス菌などの有用菌のエサとなり、病原微生物が腸に定着するのを防ぐことで、腸での感染・下痢を防ぐなどの効果も期待されています。(※食物繊維って何?感染症に打ち勝つ分子栄養学的免疫対策の秘策

免疫に重要なビタミンA・ビタミンD

ビタミンAは、ムチンの分泌に関わってねばねばの粘液層をつくり、しっかりした粘膜バリアをつくる栄養素です。また、ビタミンAは、免疫細胞(自然免疫、獲得免疫(適応免疫)ともに)を調整します。自然免疫と獲得免疫を調整する役割が期待されるビタミンDも摂りましょう。(※UV-Bの減る日本の冬、免疫のための分子栄養学的ビタミンD摂取のススメ

ビタミンC・ビタミンEは抗酸化栄養素コンビ

ビタミンEは、ビタミンCとコンビを組むことで抗酸化栄養素として効果的に働き、さらに免疫細胞(樹状細胞)などの働きを調整し、免疫機能を改善することも示されています。

ビタミンCは、体内の水溶性の部分のフリーラジカルを消去し、さらに免疫を調節する効果がいわれています。また、好中球が感染した場所に向かって移動すること(遊走)を助け、働き終わった好中球やマクロファージをしっかり除去して健全な細胞を守るという役割への関わりも示されています。(※免疫を司る白血球「白血球の仲間たちの基礎」

ビタミンB群はエネルギー代謝に必須

ビタミンB群は、細胞が活動するためのエネルギー産生に関わっています。(※エネルギーをつくるための必須栄養素「マグネシウム、ビタミンB群、CoQ10、鉄」

マグネシウム・亜鉛・銅・セレン・鉄は、抗酸化反応・免疫に関わるミネラル

ミネラルでは、マグネシウムはエネルギー代謝や多くの酵素反応に関わり(※エネルギーをつくるための必須栄養素「マグネシウム、ビタミンB群、CoQ10、鉄」、※エネルギーのための分子栄養学的必須栄養素「解糖系と乳酸とナイアシン・マグネシウム」)、亜鉛、銅、セレンなどは抗酸化反応に関係するさまざまな酵素の補因子として、免疫強化に関わると考えられています。亜鉛欠乏は世界的に問題となっていて、感染リスクと関係しています。鉄欠乏は細胞性免疫、自然免疫の障害に関連している可能性があるといわれています。(※ミネラルって何?

免疫・酸化ストレスに関わるカロテノイド:α-カロテン・β-カロテン・ルテイン/ゼアキサンチン

α-カロテン、β-カロテン、ルテイン/ゼアキサンチン、総カロテノイドの低下が、炎症と酸化ストレスの軽減に関わることが示され、またα-カロテン、β-カロテンは、ビタミンAの前駆体として必要に応じてビタミンAに変換され、免疫に関わる栄養素です。

<この論文のまとめ>

この論文では、感染に影響を与える免疫機能を保つための栄養状態の重要性を強調しています。栄養素が炎症と酸化ストレスを軽減することで、新型コロナウイルス感染症対策としての免疫システムを強化する可能性です。健康的な食習慣を続けることで、炎症と酸化ストレスを減らすのに有効な栄養素摂取をお勧めします。

文献情報:元論文はこちら

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32471251/
Iddir, M.,et al. Strengthening the Immune System and Reducing Inflammation and Oxidative Stress through Diet and Nutrition: Considerations during the COVID-19 Crisis. Nutrients, 12(6): 1562.(2020)

この記事のまとめ

今回ご紹介した論文では、ここに書かれている以上に、栄養素がいかに身体の免疫システムと密接に関わっているか、さまざまな論文とともに示され、免疫と栄養素についての研究が世界的に進められている重要な事項であることがわかります。この論文中には、分子栄養学的免疫対策でご紹介した栄養素がたくさん紹介されています。ご興味のある方は、ぜひ全文をお読みください。

分子栄養学は血液検査で個体差に沿った至適量の栄養素供給を目指す

分子栄養学では、栄養素の効果的な摂取を目指し、個体差に寄り添った、より深いレベルでの至適量の栄養素の摂取、腸内環境対策を医師とともに進めています。ぜひ、自分にとって大切な時間をさらに充実させていくために、分子栄養学の理論を用いた健康自主管理を一緒に進めていきましょう。(※分子栄養学は個体差栄養学:成功のカギは自分の “個体差” へのアプローチ※分子栄養学における免疫と栄養素の基本対策①免疫と栄養素の基本対策②

※1 体内で産生される活性酸素やフリーラジカルが、自分がもつそれらを消去する能力を超えて過剰となり、酸化が進む状態(身体の中で酸化と還元のバランスが崩れた状態)を酸化ストレスと呼びます。フリーラジカル、酸化ストレスの正しい説明は、※エンジオール基が世界を救う「ビタミンCの底力」 をご参照ください。分子栄養学では、免疫対策として活性酸素・フリーラジカル対策も重要視しています。

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