The Orthomolecular Times

2024.11.05 分子栄養学の食事「亜鉛を多く含む食品」

ヘルシーエイジング

全身の分子栄養学的抗炎症のカギを握るオメガ3(n-3系)脂肪酸

さまざまな疾病に有効ではないかと世界中で研究されているオメガ3(n-3系)脂肪酸(以下、オメガ3脂肪酸)。適度なオメガ6(n-6系)脂肪酸(以下、オメガ6脂肪酸)は健康維持にとって必須ですが、オメガ6脂肪酸摂取量の増加、オメガ3脂肪酸摂取量の低下によるオメガ3:オメガ6のバランスの崩れが生体内で余分な炎症(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)を引き起こし、心血管疾患、脂肪肝、炎症性腸疾患、アレルギーなどさまざまな疾患に関わっているのではないかと世界中で研究が進められています※2

オメガ3脂肪酸の重要性が注目されるきっかけ:1970年代のグリーンランド・イヌイットの研究

オメガ3脂肪酸の重要性が注目されるきっかけとなったのが、1970年代のグリーンランド・イヌイットの研究です。その後の研究と合わせて、アザラシや魚などを基本としたオメガ3脂肪酸を多く含むイヌイットの伝統的な食事は、虚血性心疾患のリスクが低いことが明らかにされています※8、※9、※10、※11。このことから、オメガ3脂肪酸が注目され、世界中で研究されることとなりました※12

オメガ3(n-3系)脂肪酸で注目される疾病とは?

オメガ3脂肪酸は必須脂肪酸のひとつで、炎症を抑えるキーワードとなる栄養素です。オメガ3脂肪酸は冠状動脈性心疾患※13、血栓症、糖尿病※13、脂肪肝、慢性炎症性疾患※14、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)※15、神経変性疾患※1(アルツハイマー型認知症※16、パーキンソン病など)、精神・神経系疾患(うつ病※17、統合失調症、ADHD※18など)、アレルギー、喘息、皮ふ※22、がんなど、さまざまな疾患にとって有益であると研究が進められています。新型コロナウイルス感染症の重症化予防対策としても注目されています19、※20

なぜ良い脂質を摂ることが炎症を抑えることにつながるか

では、なぜ良い脂質(※5大栄養素(概論)※食事の基本)を摂ることが炎症(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)を抑えることにつながるのでしょう。

その理由は、ヒトの全身をつくる37兆個の細胞を区切っている細胞膜が食べるあぶらによってその構成成分が変わる、ということです。

細胞膜はタンパク質(※必ず摂る必要がある必須栄養素「タンパク質」)と脂質でできていて、その細胞膜の脂質はリン脂質とコレステロールなどでできています。食事から摂取したり、体内で代謝されてできたEPA(オメガ3脂肪酸)やアラキドン酸(オメガ6脂肪酸)などの多くが細胞膜のリン脂質を構成します。細胞膜のリン脂質は、見た目は変わらずとも、その中身が食べたあぶらと少しずつ入れ替わる動的平衡の状態にあります。細胞を1つのみかんと例えると、細胞膜のイメージは、中身の外側、みかんの皮の部分です。

リン脂質の構成成分となったEPA(オメガ3脂肪酸)やアラキドン酸(オメガ6脂肪酸)などは必要に応じて切り出され、炎症初期に関係すると考えられる物質(各種エイコサノイド)に変わっていきます。EPA(オメガ3脂肪酸)は主に炎症を抑える物質、アラキドン酸(オメガ6脂肪酸)は主に炎症を誘発する物質に変わります。EPAやDHA(オメガ3脂肪酸)はまた、積極的に炎症を収束へと導くことが示唆されているレゾルビン、プロテクチンなど(抗炎症に積極的に働く代謝物)に変わっていきます※21

細胞膜の個々のリン脂質の脂肪酸の種類と量は、私たちの日々の摂取量と、体内で起こるその代謝(※分子栄養学とは⑤)によって変わります。つまり、私たちがどんなあぶら(オメガ3脂肪酸やオメガ6脂肪酸)を食べるかによって、全身の37兆個の細胞膜がどんなあぶらで構成されるかが変わります。その結果、必要に応じて切り出されていくのが炎症を起こすのが得意な物質が多いのか、炎症を抑えるのが得意な物質が多いのかが変わり、炎症が起こりやすかったり、炎症を適度に抑えるのが得意だったり、ということにダイレクトにつながります。これが、食べるオメガ3:オメガ6の比が栄養学で重要とされ、良い脂質(抗炎症生理活性物質の前駆体となるオメガ3脂肪酸)を摂ることが炎症を抑えることになる理由のひとつです。

分子栄養学は食べる脂質の質を重要視する

「炎症の調節」は健康を維持する際の大きなキーワードとなります。炎症を抑える、その1つひとつの細胞を区切る役目をする細胞膜の脂質の部分が人生100年時代の健康にとって重要であると考えられるため、分子栄養学(※分子栄養学の歴史①)では、「食べる脂質の質」を健康な身体づくりの基礎としてとても大切にしています。

血液検査でみる血清EPA/AA比【脂肪酸4分画】

今現在自分の食べている食事はどのくらいの血清EPA/AA比になるのかな?と思う方、病気の一次予防に興味のある方、分子栄養学における血液検査(※血液検査の意義①血液検査の意義②血液検査の意義③血液検査の意義④)で調べる項目として、脂肪酸4分画という検査があります。EPA/AA比、DHA/AA比などが調べられます。ぜひ、医師と行う健康自主管理(※自分自身の身体を知ろう:Know Your Bodyがなぜ大切か)を進めていきましょう。

食べる良質なあぶらで、より良い私たちに生まれ変わり、病気を予防する

私たちの心と身体を構成する脂質は、絶えず新しい分子と入れ替わりながらここに存在しています。ここから考えられる希望は、私たちが選ぶ、日々食べるものによって、新しくより良い私たちに生まれ変わることができるということです。これが、分子栄養学で毎日毎食の食事で積極的に良いあぶらをお勧めする理由です。良いあぶらを食べることが、身体の中のあぶらを良いあぶらに変えることにつながります。継続は力なり、ぜひ、食べるあぶらの質を選んで、毎日続けていきましょう。

※1 Janssen CIF.,et al. Long-chain polyunsaturated fatty acids (LCPUFA) from genesis to senescence: The influence of LCPUFA on neural development, aging, and neurodegeneration. Progress in Lipid Research, 53:1-17.(2014)

※2 Patterson E.,et al. Health Implications of High Dietary Omega-6 Polyunsaturated Fatty Acids. Journal of Nutrition and Metabolism, 2012: 539426.(2012)

※7 マグロ、クジラ、キンメダイ、メカジキなどについては水銀が含まれるため、妊婦さんは食べ方に適切な量とバランスへの注意が必要です。

※8 Bang HO.,et al. Plasma lipids and lipoproteins in Greenlandic West coast Eskimos. Acta Medica Scandinavica, 192(1-2):85-94.(1972)

※9 Bang HO.,et al.  Plasma lipid and lipoprotein pattern in Greenlandic West-coast Eskimos. Lancet, 1(7710):1143-1145.(1971) 

※10 Bang HO.,et al. The composition of the Eskimo food in north western Greenland. The American Journal of Clinical Nutrition, 33(12): 2657-2661.(1980) 

※11 Burr ML.,et al. Effects of changes in fat, fish, and fibre intakes on death and myocardial reinfarction: diet and reinfarction trial (DART). Lancet, 2(8666):757-761.(1989)

※12 Leaf A. Historical overview of n−3 fatty acids and coronary heart disease. The American Journal of Clinical Nutrition, 87(6):1978S-1980S.(2008)

※13 Raygan F.,et al. A comparison between the effects of flaxseed oil and fish oil supplementation on cardiovascular health in type 2 diabetic patients with coronary heart disease: A randomized, double-blinded, placebo-controlled trial. Phytotherapy Research, 33(7):1943-1951.(2019)

※14 Yates CM.,et al. Pharmacology and therapeutics of omega-3 polyunsaturated fatty acids in chronic inflammatory disease. Pharmacology and Therapeutics, 141(3):272-282.(2014)

※15 Schwanke RC.,et al. EPA- and DHA-derived resolvins' actions in inflammatory bowel disease. European Journal of Pharmacology, 785: 156-164.(2016)

※16 Chew H.,et al. Involvement of Lipids in Alzheimer’s Disease Pathology and Potential Therapies. Frontiers in Physiology, 11:598.(2020)

※17 Mocking RJT.,et al. Meta-analysis and meta-regression of omega-3 polyunsaturated fatty acid supplementation for major depressive disorder. Translational Psychiatry, 6:e756-e756.(2016)

※18 Elizabeth Hawkey E.,et al. Omega - 3 fatty acid and ADHD: Blood level analysis and meta-analytic extension of supplementation trials. Clinical Psychology Review, 34(6):496-505.(2014)

※19 Doaei S.,et al. The effect of omega-3 fatty acid supplementation on clinical and biochemical parameters of critically ill patients with COVID-19: a randomized clinical trial. Journal of Translational Medicine, 19(1):128.(2021)

※20 Oliver L.,et al. Producing Omega-3 Polyunsaturated Fatty Acids: A Review of Sustainable Sources and Future Trends for the EPA and DHA Market. Resources, 9(12):148.(2020)

※21 Hong S.,et al. Novel docosatrienes and 17S-resolvins generated from docosahexaenoic acid in murine brain, human blood, and glial cells. Autacoids in anti-inflammation, 278(17):14677-14687.(2003)

※22 Sawada Y.,et al. Omega 3 Fatty Acid and Skin Diseases. Frontiers in Immunology, 11: 623052.(2020)

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