The Orthomolecular Times

【新着記事】2024.5.7 分子栄養学の基礎用語「血糖値」、「糖質」、「GI値」、「GL値」って何ですか?

オーラルケア

噛むことは分子栄養学的栄養療法のスタートライン

噛むことは栄養のスタートライン

私たちは毎日食事をし、栄養※4のために外から栄養素(※分子栄養学とは①)をとり込みます。そしてその際に必ずしていることがあります。そうです、噛むことです。噛むことは栄養アプローチの入り口、栄養のスタートラインです(※栄養アプローチに欠かせない!最初のステップ「消化と吸収」)。みなさんは、よく噛んで食べていますか?リラックスしてよく噛むことは心身の健康を維持することが次々と報告されています。

良い歯が20本以上残ることが心身の健康や幸せにつながるとする報告

噛むために必要な歯。歯の健康を保つことは、心身の健康を守ることにつながることが次々と明らかになっています。

65歳以上の日本人を対象とした研究では、残った歯が20本未満の人は、20本以上の歯が残っている人と比較して、6年後の死亡リスク・身体的な機能障害のリスクが、それぞれ10~33%、7~10%高いことがわかりました。健康な歯が残るということは、野菜の摂取(※食物繊維とは何?感染症に打ち勝つ免疫対策の秘策)などの健康的な食生活、友人と会ったり外出するなどの社会的活動、知的能力の維持など、人の生活における身体的、精神的、社会的な健康や幸福(well-being)につながることが示されています※2

噛めないことが栄養状態を悪くする

自立して生活できる69~71歳の日本人757人を対象とした研究では、噛む力(咬合力)の低下は、野菜、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンB6 、葉酸(※ビタミン(総論))、食物繊維(※食物繊維とは何?感染症に打ち勝つ免疫対策の秘策)の摂取量の低下につながることが報告されています※1

口腔の健康状態が悪化すると、何を食べるか(食べる食品の選択)や栄養素の摂取に影響が生じ、栄養失調、フレイルやサルコペニアにつながる可能性があります※5。噛むということは、分子栄養学に基づく栄養療法(※分子栄養学の歴史①)、健康寿命※6にとってとても重要なステップです。

噛む力の低下は心筋梗塞・脳卒中のリスク要因?

大阪府吹田市の市民(50~79歳の男女1,547人)を対象とした研究において、よく噛めないこと(咀嚼能力の低下)が、将来的に心筋梗塞・脳卒中のリスクとなるという報告があります※3

よく噛むことで起こるプラスの連鎖

よく噛むことは、良い消化の大きな一歩

よく噛むと、大きなかたまりだった食べものがどんどん細かく、唾液と混ぜられて柔らかいペースト状の塊になっていきます。このステップを経ることで、食べものは安全かつ簡単に飲み込まれ、食道を通ることができると考えられています。分子栄養学(※分子栄養学とは①※分子栄養学の歴史①)では、噛み砕かれた食べものが小さければ小さいほど消化酵素や胃酸に触れる面積が増えるため、より良い消化・吸収を促すいちばんの手段となると考えています(※栄養アプローチに欠かせない!最初のステップ「消化と吸収」)。

よく噛むことでスムーズに飲み込める

私たちは、噛まなければ食べものを飲み込むことができません。例えばお正月の事故として高齢者の餅の誤飲が報じられますが、あれは、餅をよく噛んで柔らかいペースト状にしてから飲み込むことで防ぐことができます。高齢の方の死因の上位に、誤嚥性肺炎※7という病気があります。とても怖い病気です。人生100年時代、健康寿命を延ばすためにも、よく噛んで食べましょう。

よく噛むことで脳の血流が増える

よく噛むことで、脳の血流量が増えることがわかっています※8、※9。脳の血流が増えるということは、エネルギーを作るための酸素や栄養素(※エネルギーをつくるための必須栄養素「マグネシウム、ビタミンB群、CoQ10、鉄」)が脳に行き渡るということです。脳のエネルギーには酸素が必要です(※貧血:赤血球・ヘモグロビン不足はATP・エネルギー産生不足を招く重大問題)。ぜひよく噛んで、脳に栄養素と酸素を送りましょう。脳の活動が、心をつくります。

よく噛むことで、副交感神経にスイッチ

より良い消化を助けてくれるのが自律神経のうちの副交感神経です。仕事などで緊張状態が続き過ぎると交感神経が働き続け、自律神経のバランスが乱れがちに。食事でよく噛むことは自然と交感神経から副交感神経にスイッチしてくれます。

よく噛むと唾液が出る:唾液の殺菌作用

よく噛むと唾液が出ます。唾液には殺菌成分(分泌型IgA、リゾチーム※10)も入っていて、ここでいくらかの菌が殺されます。消化管(※栄養アプローチに欠かせない!最初のステップ「消化と吸収」)の上流で菌を殺すことができれば、その下流(腸)でその分の敵を排除するという仕事が減るため、腸の免疫が楽をできるということです。しっかりよく噛むことは、腸を守ることにつながります。

よく噛まないと未消化のタンパク質が腸内環境を悪化させる?

よく噛まないで肉や魚などの大きなタンパク質のかたまりを飲み込むと、胃に行ったときに胃液や消化酵素はその周囲の部分にしか触れることができません。そうすると、その真ん中のタンパク質は消化されないまま、腸に流れ込んでしまいます。消化・吸収されなかった未消化のタンパク質は、悪玉菌のエサとなり、それが便の臭いのもととなる毒素をうみ出し、腸内環境を悪くしてしまいます。

悪玉菌が繁殖することはディスバイオーシス(善玉菌と悪玉菌のバランスが崩れること)につながり、リーキーガット症候群、肥満、糖尿病、炎症性腸疾患、自己免疫疾患など、さまざまな疾患につながる可能性がいわれています(※あなたの腸は大丈夫?リーキーガット症候群(理論編①)(理論編②)※分子栄養学的リーキーガット症候群対策①対策②)。

リラックスして優しく味わって噛むことがポイント

普段普通にしている「噛む」ということ。噛むことが認知症をはじめ、全身の健康に関わることが次々と研究されています。

今、噛んでいない方、もうちょっと噛んでみようかな、と思っていただけましたか?ただしあまりにも頑張って嚙み過ぎても、逆に疲れてしまいます。ぜひ食事に感謝し、プラス5回味わう回数を増やす、という気持ちで優しく食材を噛んでみてください。毎食続けることが、心と身体の大きな力となります。

※1 Inomata C.,et al. Significance of occlusal force for dietary fibre and vitamin intakes in independently living 70-year-old Japanese: from SONIC Study. Journal of dentistry, 42:556-564.(2014)

※2 Kino S.,et al. Exploring the relationship between oral health and multiple health conditions: An outcome-wide approach. Journal of Prosthodontic Research, Aug 11.(2023)

※3 Hashimoto S.,et al. A lower maximum bite force is a risk factor for developing cardiovascular disease: the Suita study. Scientific Reports, 11(1):7671. (2021)

※4 栄養(nutrition)とは、地球上の生物すべてが行っている生命現象の営みのことです。

※5  Azzolino D.,et al. Poor Oral Health as a Determinant of Malnutrition and Sarcopenia. Nutrients, 11(12), 2898.(2019)

※6 寝たきりにならず、心身ともに健康で生活を送れる期間のことを健康寿命といいます。

※7 誤嚥性肺炎とは:厚生労働省eヘルスネットより引用
 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/teeth/yh-011.html
本来気管に入ってはいけない物が気管に入り(誤嚥)、そのために生じた肺炎。老化や脳血管障害の後遺症などによって、飲み込む機能(嚥下機能)や咳をする力が弱くなると、口腔内の細菌、食べかす、逆流した胃液などが誤って気管に入りやすくなります。その結果、発症するのが誤嚥性肺炎です。

※8 Momose T.,et al. Effect of mastication on regional cerebral blood flow in humans examined by positron-emission tomography with 15O-labelled water and magnetic resonance imaging. Archives of Oral Biology, 42(1): 57-61(1997)

※9 Hasegawa Y.,et al. Influence of Human Jaw Movement on Cerebral Blood Flow. Journal of Dental Research,86(1):64-68.(2007)

※10 河原克雄,他. 『カラー図解 人体の正常構造と機能Ⅲ 消化管 第4版』. 日本医事新報社.p14.(2021)

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