The Orthomolecular Times

2024.12.16 分子栄養学と免疫の栄養素「自然免疫:好中球の働きとビタミンC」

ヘルシーエイジング

必ず摂る必要がある必須栄養素「タンパク質」

今回のポイント:タンパク質は生命活動の要。身体も心もタンパク質でできています。タンパク質は毎日代謝されるため、毎日必要量を3食に分けて食べることが重要です。タンパク質代謝の必須栄養素はビタミンB6・ナイアシン

タンパク質は生命活動の要となる栄養素です。身体も心もタンパク質でできています。タンパク質は毎日生命活動のために代謝(分解されたり、新しく作り替えられたり)され、私たちの身体や心は常に新しい自分に生まれ変わっています。そのため、タンパク質は毎日必要量を摂る必要がある栄養素です。

適量のタンパク質を3食に分けてバランス良くしっかりよく噛んで食べ、腸内環境を整えましょう(※食事の基本)。分子栄養学では、1日当たり体重1kgにつき約1.0~1.5gのタンパク質をお勧めしています。タンパク質をしっかり消化・吸収・代謝することが病態改善、健康を維持するための重要な基礎となります。タンパク質代謝のキーとなる必須栄養素はビタミンB6とナイアシンです。タンパク質はポリペプチドの一種で、いちばん小さい構成単位をアミノ酸といいます。

生命の根底をつくる最も重要な栄養素、タンパク質

私たちが健康で美味しく食べられたり、歩いたり、考えたり、幸せを感じたり。こういった当たり前のことができるのはタンパク質のおかげです。すべての生命現象にタンパク質が関わっています(※5大栄養素(概論))。

身体も心もタンパク質でできている

では、どのように関わっているでしょう?
私たちの身体は頭の先からつま先まで、すべてタンパク質でできています。タンパク質は身体や心の材料となるとともに、生体内の代謝(※分子栄養学とは⑤)に関わり、栄養素を運ぶ・貯めることもしてくれる、とても重要な栄養素です。皮膚、髪の毛、爪、筋肉、骨、歯、内臓、血管、血液、ホルモン、酵素(※分子栄養学とは⑦-2)、抗体(※免疫を司る白血球「白血球の仲間たちの基礎」)、アルブミン(※血液・尿検査の意義①「基本検査K-01 Ⓐ血清タンパク質」)、神経伝達物質など。これらを構成するタンパク質は、私たち生命を司る中心的な役割を果たしています。

タンパク質は体重の約15%

アスリートなど、人によって個体差(※分子栄養学とは⑥)はありますが、成人のヒトの体重のうち、約15%はタンパク質で構成されています。

タンパク質のいちばん小さな単位、アミノ酸

タンパク質はとても大きな分子です。タンパク質を構成するいちばん小さな単位をアミノ酸といいます(※分子栄養学とは②※分子栄養学とは③)。

身体をつくるタンパク質は約20種類のアミノ酸で構成されている

身体を構成するタンパク質は約20種類のアミノ酸でできています。そのうち、ヒトの体内で合成できるアミノ酸を可欠アミノ酸(非必須アミノ酸)、合成できないものを必須アミノ酸といいます。必須アミノ酸は、体内で合成できない、もしくは合成できるが必要な量に足りないことから、食事として必ず摂ることが必要とされる栄養素です。必須アミノ酸は成人で9種類です。アミノ酸バランスの良いタンパク質を至適量摂ることが、タンパク質の代謝回転のバランスを保つ最初のカギとなります。

アミノ酸、ぺプチド、タンパク質

アミノ酸がペプチド結合という結合の仕方で鎖状につながったものをペプチドといいます。タンパク質はアミノ酸がたくさんつながった高分子化合物です(※分子栄養学とは②※分子栄養学とは③)。ペプチド結合するアミノ酸の数が少ないものをペプチドと呼んでいます。アミノ酸が2つつながったものをジペプチド、3つつながったものをトリペプチド、たくさんつながったものをポリペプチドといいます。

どこからタンパク質で、どこまでがペプチドか、明確に定義されていないようですが、一般に、アミノ酸がだいたい50個以上つながり、中に疎水性アミノ酸のかたまりをつくる立体構造をとるものをタンパク質と定義している文献があります※1。タンパク質は、ポリペプチドの一種です。

身体や心は日々新しく生まれ変わる:タンパク質の代謝回転

生命活動を司る重要な栄養素、タンパク質。生体内のすべてのタンパク質は、スピードの差はありますが、日々分解されて(異化)、新しく作り変えられ(同化)ます。このタンパク質の異化と同化の繰り返し(タンパク質の代謝回転)によって、私たちの身体や心は常に新しい自分に生まれ変わっています(※分子栄養学とは⑤)。

タンパク質の動的平衡:新しいタンパク質が古いタンパク質と入れ替わる

この「生体内のタンパク質は毎日新しく生まれ変わっている」ということ、タンパク質の分子レベル(※分子栄養学とは②※分子栄養学とは③)での代謝回転の概念が確立されたのが1960年代のSchimke によるarginazeの研究です。私たちの身体は、タンパク質が代謝回転する度に、食事などから摂取したタンパク質のアミノ酸が、体タンパク質を構成しているアミノ酸と少しずつ交代して入れ替わっていきます。見た目は全く変わらずに、中身が少しずつ変わっていく状態を「動的平衡」といいます。適切な量の、良質なタンパク質を摂取・消化・吸収・代謝(※栄養アプローチに欠かせない!最初のステップ「消化と吸収」※分子栄養学とは⑤)することで新しい自分をつくることができる。このことは、人体のシステムの素晴らしい可能性を示しています。

タンパク質の消化・吸収・代謝

体タンパク質が新しく作り変えられるためには、材料である適量のタンパク質が必要です。そのためにも、タンパク質は毎日必要量を摂ることが大切です(※食事の基本)。

食べたタンパク質は、まず口の中で細かく噛み砕かれ、胃や十二指腸で分解され、小腸粘膜でアミノペプチダーゼ、ジペプチダーゼによって小さなペプチド(ジペプチド、トリペプチド)やアミノ酸になって吸収されていきます(※栄養アプローチに欠かせない!最初のステップ「消化と吸収」)。吸収された小さなペプチドは、小腸吸収上皮細胞の中で酵素(細胞質ジアミノペプチダーゼ、細胞質トリアミノペプチダーゼ)(※栄養アプローチに欠かせない!最初のステップ「消化と吸収」)によってアミノ酸に分解されてから※7血管(門脈)を通ってまず肝臓に送られ、そこで自分のタンパク質につくりかえられます。合成されたタンパク質はそのまま肝臓で使われたり、血漿タンパク質として血液中に分泌されます(※血液・尿検査の意義①)。一部はアミノ酸として血液中に分泌され、残りは肝臓に貯えられます(アミノ酸プール)。

タンパク質の代謝にはビタミンB6、ナイアシンが必須

タンパク質のいちばん小さな単位、アミノ酸が生体内で代謝(※分子栄養学とは⑤)されていく際、必ず必要なのがビタミンB6とナイアシンです。アミノ酸の代謝のためには、ビタミンB群を一緒に摂ることが重要なカギとなります。

タンパク質の不足が正常な代謝を妨げる

分子栄養学では、摂取するタンパク質が不足することで、生体内のタンパク質の異化と同化のバランスが保たれずに正常な代謝が滞った結果、老化や病気につながる可能性を考えています。分子栄養学に基づく栄養療法(※分子栄養学の歴史①)では、健康な身体を維持するためには「異化=同化」を保つこと、そのために、個体差に沿った至適量のタンパク質を摂取してまずはそれを消化・吸収し(※栄養アプローチに欠かせない!最初のステップ「消化と吸収」)、そしてさまざまな栄養素(ビタミンB6、ナイアシンなど)の力でしっかり代謝することが、健康な身体づくりにとって最も重要な基礎のひとつであると考えています(※分子栄養学とは⑤)。

健康な身体のためにどのくらいのタンパク質が必要?

それでは、健康を維持するために、私たちはどのくらいのタンパク質を食べたらよいでしょう?

分子栄養学では、個体差を考え、大人の身体を健康に保つには、1日当たり体重1kgにつき約1.0~1.5gをお勧めしています。例えば体重60㎏の人は、毎日60~90gということです(※食事の基本)。タンパク質は身体の中で分解・合成を繰り返すほか、毎日髪の毛や爪、垢、便中など体外に失われています。この失われる分をしっかりと補充することが、タンパク質の正常な代謝を維持する秘訣です。身体が必要とするタンパク質は、体内で使われる量や日々の精神的ストレス、身体的ストレス(筋トレなど)などによって増加します。

タンパク質の必要量が増加する状態

タンパク質の必要量が増えるのは、成長期のお子さん、ストレスがかかっている時、アスリート、妊娠期・授乳期(女性)、病気の回復期などです。

3食に分けて、効率よくタンパク質を摂取する

タンパク質を1日1食でたっぷり食べるのと、1日3食適度に食べる。どちらが効率的でしょう?同じタンパク質の量であれば、回数は関係ないでしょうか。

一度にたくさん食べるよりも、適量のタンパク質を朝・昼・夕食の3回に分けて食べる方が筋肉維持につながるという報告があります※2。大切なタンパク質。ぜひ効率的に摂取して、健やかな身体と心の材料を獲得しましょう。

タンパク質をよく噛んで腸内環境を整える

タンパク質をよく噛まないと、未消化のタンパク質が大腸に届き、それが悪玉菌のエサとなって、腸内環境を悪化させてしまいます(※分子栄養学的リーキーガット症候群対策①分子栄養学的リーキーガット症候群対策②)。ぜひ食事をよく噛んで食べることも忘れずに。

高齢者はより多くのタンパク質が必要?

高齢者は特に加齢の影響を受ける年代です。若い世代に比べて、加齢による筋力と筋肉量の減少を食い止め、維持するために、よりたくさんのタンパク質が必要なのではないか、とする考え方があります。そしてその考え方に沿って、アメリカでは健康な高齢者に1日体重1kg当たり1.0~1.5gのタンパク質の摂取を勧めています※3。まだ研究途中の分野ではありますが、フレイルもしくはプレフレイル(フレイルの前段階)の高齢者を対象にした研究では、1日0.8g/㎏のタンパク質よりも、1.5g/㎏のタンパク質を摂取した高齢者の筋肉量、身体機能が改善したという報告があります※4

朝食のタンパク質が体内時計を整える

午前の朝食で適量のタンパク質を摂ることは、体内時計のリセットにつながると報告されています※5、※6※食事の基本)。ストレスは全身の健康の要のひとつ、腸内環境を乱します(※分子栄養学的リーキーガット症候群対策②)。適量のタンパク質を朝食でよく噛んで食べ、体内時計をリセットしていくことは、ストレス対策としてお勧めです。

定期的な血液検査でしっかりとしたタンパク質の代謝を確認

「自分にタンパク質は足りているのかな?」「タンパク質は食べているはず。ただ、それがしっかりと消化・吸収されているか、心配。」 自分にとってどのくらいのタンパク質が必要か。そしてそれがしっかりと消化・吸収されているか。

分子栄養学では、詳細な血液検査(※血液検査の意義①※血液検査の意義②※血液検査の意義③※血液検査の意義④)を実施し、医師がタンパク質が足りているか(※血液・尿検査の意義①)などを科学的な視点でモニタリングします。そしてタンパク質が足りなければ、消化管(※栄養アプローチに欠かせない!最初のステップ「消化と吸収」)の状態はどうか、炎症(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)はないか、食べる量は足りているかなど、定期的な検査を通して個体差(※分子栄養学とは⑥)に合った栄養素の量を探ります。この際、状態によっては、タンパク質を消化するための胃腸の検査(※あなたの腸は大丈夫? リーキーガット症候群(理論編②))もあわせてモニタリングすることをお勧めします。

タンパク質は、生命の柱。ぜひ医師と一緒に適切な検査を実施し、的確な健康自主管理(※自分自身の身体を知ろう:Know Your Bodyがなぜ大切※分子栄養学の歴史②)を進めていきましょう。

※1 木賀大介,他.RNAワールドとオリゴペプチドワールドから、翻訳系の出現へ.Viva Origino, 44(3) : 6-10. (2016)

※2 Mamerow, M.M.,et al. Dietary protein distribution positively influences 24-h muscle protein synthesis in healthy adults. The Journal of Nutrition, 144(6):876–880.(2014)

※3 Morley JE.,et al. Society for Sarcopenia, Cachexia, and Wasting Disease. Nutritional recommendations for the management of sarcopenia. Journal of the American Medical Directors Association, 11(6): 391-396.(2010)

※4 Park Y.,et al. Protein supplementation improves muscle mass and physical performance in undernourished prefrail and frail elderly subjects: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. American Journal of Clinical Nutrition, 108(5):1026-1033.(2018)

※5 Wehrens, S.M.T.,et al. Meal Timing Regulates the Human Circadian System. Current Biology, 27(12):1768-1775.e3.(2017)

※6 Ikeda, Y.,et al. Glucagon and/or IGF-1 Production Regulates Resetting of the Liver Circadian Clock in Response to a Protein or Amino Acid-only Diet. EBio Medicine, 28:210-224.(2018) 

※7 河原克雄,他. 『カラー図解 人体の正常構造と機能Ⅲ 消化管 第4版』. p53, 56-57.(2021)

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