The Orthomolecular Times

2024.11.18 分子栄養学と運動「骨格筋が血糖値を下げる⁉ 運動効果と「GLUT4」の仕組みをわかりやすく解説」

分子栄養学とは

分子栄養学の歴史③「日本の分子栄養学の夜明け」

2023年、「分子整合栄養学(Orthomolecular Nutrition)」(※このウェブマガジンの中では、分子栄養学という言葉を用いています。※分子栄養学とは①)という言葉が生まれて55年目の春。この55年という節目に際し、新しい医学のパラダイム、分子栄養学とは何か、その概念を、歴史シリーズ第1回  ※分子栄養学の歴史① の中で改めてしっかりと捉え直しました。それとシリーズで、順を追って分子栄養学の歴史について5回にわたりお送りしています。

第2回 ※分子栄養学の歴史②では、分子栄養学の生みの親ライナス・ポーリング博士、エイブラム・ホッファー博士が、どのようにしてこの新しい概念、新しい医療のパラダイム※1にたどり着いたのか、ポーリング博士が、どのようにしてそれまでにない革新的な考え方に基づいて人間の健康や医療を捉え直そうと「orthomolecular(分子整合)」という言葉を提案したのかを振り返りました。

今回は第3回、日本においてどのような考えに基づき分子栄養学が導入され、どのようにして分子栄養学が広まり、どのようにして血液検査データを用いた日本独自の分子栄養学の方法として発展していったのか、その歴史をお送りします。

日本の医療体制

国民皆保険制度のある日本では、保険診療の範囲内で比較的安価に治療を受けることができ、病院にかかることへの敷居が低いがゆえか、予防医療が広く浸透しているとはまだまだ言い難いところがあります。また、一般の皆さんの間で身体の仕組みに関する理解が十分であるとは言えず、病気に罹った際に医師から提案された治療法が、副作用も考慮した上で自分にとって本当に望ましいものなのか判断することが困難となっています。一般的に、日本の現代医療では発症に至った根本的な原因の解決までは考慮されないことが多く、薬で症状を抑える対症療法が中心です。この背景には、多くの患者が来院し多忙を極める日本の医療現場では、病気の根本原因を探ることができるほど多くの時間を一人ひとりの患者に割くことが難しいという理由などが存在しているものと考察されます。しかし、病気になってから気付くのではなく、病気になる前に予防し、健康を増進する一次予防の大切さが2000(平成12年)年から展開された「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21、厚生労働省)」において重点がおかれました。如何に国民の一人ひとりの皆さんに健康を維持増進することを実践していただくか、国全体の保健医療の分野でその方針が進められています(※自分自身の身体を知ろう:Know Your Bodyがなぜ大切か)。しかし、現実として国民医療費がうなぎ登りのままというのが現在の日本の現状です。

日本の分子栄養学の夜明け

自身の使命として人々の健康に携わっていた金子雅俊(KYBグループ創立者)は、日本の医療体制に危機感を抱いていた中、1970年代に渡米の機会を得ます。そして知人の紹介でライナス・ポーリング博士(※分子栄養学の歴史②)と出会い、ポーリング博士自身に直に師事して分子栄養学(※分子栄養学の歴史①)を学びます。そしてポーリング博士、エイブラム・ホッファー博士(※分子栄養学の歴史②)をはじめとするパイオニアたちとの交流の中で分子栄養学に対する見識を深め、「栄養欠損を改善しなければ、病気の原因を根本的に改善することは難しい。そこで、薬を多用・連用する前に、全身の栄養状態や代謝能力を十分に調べることが患者さんにとって有益であり、必要なのではないか」という考えに至りました。日本に分子栄養学を持ち帰り、この考えを広めるにはどうしたら良いか思案していたとき、金子はある金言を授かります。それは、「分子栄養学を説くなら、家庭の健康を管理しているのは主婦だから、まずは主婦に伝えなさい」というポーリング博士のお言葉でした。

分子栄養学を日本に導入するために帰国した金子は、ポーリング博士の教えを胸に「自分の健康は自分で守りましょう。そのために、自分の身体を知りましょう」とコンセプトを掲げ、健康自主管理のために共に学ぶ同志を募りました。金子はこの呼びかけに賛同する同志を集めて「金子塾」という勉強会を開講し、自身がアメリカで学んだ分子栄養学の知識のすべてを惜しみなく伝えました。当初、金子塾は寺子屋スタイルの非常に小さな勉強会でしたが、その内容は最新の科学的知見を濃縮した、他所では学ぶことのできないものでした。参加者は医師等の専門家ではない一般家庭の主婦がメインでしたが、ご自身やご家族が何かしらの疾患や不調を抱えているケースが多く、彼らが分子栄養学という新しい学問に寄せる期待は非常に大きなものでした。金子は参加者一人ひとりの質問に真摯に向き合い、彼らが身体の仕組みや病気の根本原因を理解して栄養アプローチを実践できるようサポートを惜しみませんでした。やがて、参加者が参加者を呼んでこの勉強会は全国各地で開催されることとなります。そしてこの勉強会を起点とする健康自主管理運動は、Know Your Body運動(略称 : KYB運動)の名で草の根運動的に全国に展開していきました。これがKYBグループの原点です。(※自分自身の身体を知ろう:Know Your Bodyがなぜ大切か

全身の健康状態を可視化する血液検査項目セットの考案

分子栄養学の必要性と有用性をもっと多くの人々に理解してもらうためには、全身の健康状態を可視化する客観的なシステムが必要だと金子は考えました。そこで彼が目をつけたのが血液検査です。血液には、私たちが食事から取り込んだ栄養素や、栄養素を代謝して体内で産生したさまざまな物質が溶けており、血液成分は身体の状態を反映して常に変化しています。金子は、この仕組みを利用して血液検査で健康状態を可視化することができると考えました。(※血液検査の意義①※血液検査の意義②※血液検査の意義③※血液検査の意義④

しかし、「現在病気であるかどうかの診断」を目的とした健康診断や人間ドックでは検査項目数が限られており、「単に病気でないだけでなく、不調がなく本当に健康だと言える状態かを調べる」には検査項目数が少なすぎるという問題がありました。そこで、金子は全身の健康状態を把握するために必要十分な検査項目を選定し、自費診療の詳細な血液検査項目セットを考案しました。(※血液・尿検査の意義①※血液・尿検査の意義②)これは分子栄養学発祥の地であるアメリカにもみられないKYBグループ独自の画期的な健康管理システムです。この血液検査項目セットは、全身の健康状態を数値として客観的に把握することを可能にしたことで、分子栄養学の必要性と有用性を利用者や医師に「目に見える数値」として示し、日本の分子栄養学の普及と発展に大きく貢献しました。現在も、分子栄養学を学ぶ医師、歯科医師、コメディカルなどの数は増え続け、日本で広がっている分子栄養学に基づく栄養療法を行う多くの医療機関では、この血液検査セットを原点とした血液検査の数々が行われています。そしてこの画期的な方法は、ライナス・ポーリング博士が提唱したオーソモレキュラーという概念(※分子栄養学の歴史①)をもとに、日本独自の方法として発展し続けています。

世界中の科学者たちの助力を得て

金子は帰国後も世界中の科学者たちと積極的に交流を続けており、彼の日本での粉骨砕身に、海外の分子栄養学のパイオニアたちも金子の活動に協力を惜しみませんでした。1984年のKYBグループ創立以来、KYBグループ主催イベントには総勢23名、ライナス・ポーリング博士、エイブラム・ホッファー博士をはじめ、ヒュー・リオールダン博士、マイケル・レッサー博士、バリー・マーシャル博士など著名な科学者たちが出席し、日本での分子栄養学の普及と発展を願って多数の講演を行いました。

分子栄養学の展望

ホッファー博士は「新しい価値ある発見が既存のいわゆる常識を打ち破り、概念として確立していく(パラダイム・シフトが起こる※1)のに要する時間は医学の世界が最も長く、それはおそらく40年の長きにわたるであろう」と述べています。昨今、その言葉の通り、海外の医学界でも栄養アプローチの重要性が認められつつあると言える出来事が起こりました。2020年前半から世界を脅かす新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行です。

新型コロナウイルス感染症における栄養アプローチの重要性については、血清ビタミンD濃度の低値と感染率の関連性を示す論文が多く発表されていることからうかがい知ることができます※2※3。また、基礎疾患がある方や慢性炎症を引き起こしている方が新型コロナウイルスに感染すると、体内で過剰な炎症反応が起こり、多臓器不全に陥って重症化すると考えられていますが、ビタミンDはこの過剰な免疫反応を引き起こす「サイトカインストーム」という現象を抑制する可能性が指摘されており、新型コロナウイルス感染症の重症度と血清ビタミンD濃度の間には関連性が見られるとの報告があります※4。ビタミンD以外にも、ビタミンCの血中濃度の低下※5や亜鉛の不足※6との関連を示す論文も発表されており、新型コロナウイルス感染症が蔓延する中で、普段から栄養アプローチに取り組むことの重要性に注目が集まっています。分子栄養学では、With / Postコロナ、感染症の時代を生き抜いていくために自分自身の免疫機能を高めることが重要であると考え、分子栄養学における免疫(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)と栄養素の基本対策について当ウェブマガジンでもお伝えしています。(※分子栄養学における免疫と栄養素の基本対策①※分子栄養学における免疫と栄養素の基本対策②

分子栄養学が日本に導入されて2024年で40年

金子が日本に分子栄養学の概念をもち帰って2024年で40年が経過する現在、KYBグループでは、彼の理念に賛同をいただいた、のべ38万人を超える会員の皆さんの健康サポートを行ってまいりました。日本でも分子栄養学に基づく栄養療法を看板に掲げる医療機関が確実に増えています。多くの国民の皆さんの健康のために、分子栄養学の真価が日本の医学界におけるひとつの選択肢として広く認められることを願ってやみません。

※1 パラダイム
パラダイムとは、科学の領域でよく使われる言葉で、ものごとの規範となる考え方、方法論、あるいは枠組というような意味です。

※2 E. Merzon, et al . Low plasm 25(OH) vitamin D level is associated with increased risk of COVID-19 infection: an Israeli population-based study. FEBS Journal,287(17):3698-3702.(2020) 

※3 P.C. Ilie, et al . The role of vitamin D in the prevention of coronavirus disease 2019 infection and mortality. Aging clinical and experimental research, 6: 1-4.(2020)

※4 L. Malaguarnera, et al . Vitamin D3 as Potential Treatment Adjuncts for COVID-19. Nutrients, 14: 12(11): 3512.(2020)

※5 P. Holford, et al . Vitamin C- An Adjunctive Therapy for Respiratory Infection, Sepsis and COVID-19. Nutrients,12(12): 3760.(2020)

※6 D. Jothimani, et al . COVID-19: Poor outcomes in patients with zinc deficiency. International Journal of Infectious Diseases, 100: 343-349.(2020)

RELATED

PAGE TOP