ビタミン(総論)
ビタミンは人の命を健やかに保つ
ビタミンは、人の命を健やかに保つのに必須の5大栄養素(※5大栄養素(概論) )のひとつです。補酵素(※分子栄養学とは⑦-3)として働いたり、微量で生体機能を整えたりする有機化合物(※分子栄養学とは④)の総称をビタミンと呼びます。
最初に発見されたのはビタミンB1です。ビタミンは、1910年代に「生命にとって非常に価値が高いアミン※1(vital+amine=vitamine)」という意味で命名されました。その後、発見されたすべてのビタミンがアミンではなかったため、いちばん最後の“e”を削り、Vitaminとなりました。
ビタミンは必ず摂る必要のある栄養素
ビタミンは、生体内で全く合成できない、もしくは必要な量を合成することができない微量栄養素※2で、自分で作れないので必ず食品として摂る必要があります。ビタミンは、欠乏すると重篤な病気を引き起こします。例えば、ビタミンB1が足りないだけで脚気※3となり(※分子栄養学とは⑦-3)、ビタミンCが足りなければ壊血病※4となり、どちらも最悪の場合、命に関わる病気です。ビタミンは、現在、13種類が知られています。
水溶性ビタミン・脂溶性ビタミン
ビタミンは、その性質によって、水溶性ビタミン(water-soluble vitamin)と脂溶性ビタミン(fat-soluble vitamin)に分けて考えられています。
水溶性ビタミンの種類と代表的な働き、欠乏症および欠乏状態、多く含む食品は以下になります。
脂溶性ビタミンの種類と代表的な働き、欠乏症および欠乏状態、多く含む食品は以下になります。
ビタミン様物質
ビタミンのように、微量で生体にとって重要な役割をするが、ビタミンの定義に沿わない有機化合物を、ビタミン様物質と呼んでいます。ヒトにとってのビタミン様物質としては、CoQ10、リポ酸、イノシトール、ビタミンPなどがあります。
プロビタミン
生体内に入ったあとの反応や、紫外線照射などでビタミンに変化する物質を、プロビタミンといいます。プロビタミンとしては、プロビタミンA(α-カロテン、β-カロテン)、プロビタミンD(皮膚に多く存在する7‐デヒドロコレステロール)などが知られています。
腸内細菌によるビタミン産生
大腸には、ビタミンを産生する腸内細菌が存在することが示されています。それらの腸内細菌は、ビタミンB群(B1、B2、ナイアシン、B6、B12、パントテン酸、葉酸、ビオチン)、ビタミンKを産生すると考えられています。
潜在性ビタミン欠乏はありませんか?
たくさんの美味しいものがあふれている現代社会。食事形態の変化(個食、外食、加工品など)、やせ願望、超高齢社会、多すぎるストレスなどといった要因により、実は非常に多くの潜在性ビタミン欠乏が存在することが懸念されます。
外食や中食が増え、コンビニなどの加工品、インスタント食品を食べる機会が増えたり、ダイエットで食べる量を減らしたりするだけでまずビタミンの摂取量自体が減ります。また、例えばジュースやお菓子、菓子パンなどの精製された糖質(※5大栄養素(概論) 、※食事の基本)の摂取割合が多くなれば、それを代謝(※分子栄養学とは⑤、分子栄養学とは⑦-1)するためのビタミンが相対的に不足する可能性があります。
分子栄養学では、ビタミンの最適な量(至適量)が自然治癒力へと導くツールである
分子栄養学(※分子栄養学とは①)は、分子レベルのさまざまな代謝のどこにビタミンが関わっているかを丁寧にみる学問です。ビタミンを必要とする代謝は、ヒトを構成する何十兆個もの細胞内のあらゆるところで営まれています。生きるということそれ自体が、代謝という化学反応でできています。ビタミンの潜在的な不足は補酵素の不足につながり、それがさまざまな不調の原因となる可能性を考えます。
ビタミンは必要とされるところで優先的に働く
すべてのビタミンがいつもすべての細胞に均等に配られるのではなく、必要とされる箇所に優先的に行って使われていきます。例えば、ケガをしたり、ストレスが多い時には、普段の量にプラスして、その分のビタミンCを多めに補給するなどの対策が望まれます。その組織にある種のビタミンがたくさん存在しているということは、その組織がそのビタミンをたくさん必要としている組織である、ということが推測できます。
ビタミンにも個体差
分子栄養学の創始者の一人であるライナス・ポーリング博士は、生命を支える代謝に欠かせない酵素と基質の親和性(※分子栄養学とは⑦-2)の個体差から、ビタミンの必要量にも大きな個体差(※分子栄養学とは⑥)があることを提唱しています。そして現在、酵素の反応に遺伝的素因によって個体差が存在することが明らかになってきています。遺伝子解析の進展により、酵素作用の低い人が存在し、疾患の罹りやすさに個体差があり、栄養素摂取量についても個体差があることが理解されるようになっています。
ビタミンのドーズ・レスポンス(栄養素の量と作用)
ビタミンの至適量を考える場合、分子栄養学では、ドーズ・レスポンスという考え方を用います。どれくらいの量(ドーズ)を摂れば、生体への反応(レスポンス)が現れてくるか、という意味です。分子栄養学では、その栄養素の効果を考える場合、目的に合った “至適量(生体にとっての必要十分量)” を目指すことを第一に考えます。いわゆるメガドーズとは一線を画したオプティマム・ドーズ(至適量)が、1つひとつの細胞の能力、そして全体としての自然治癒力の可能性を最大限に引き出す量であると考えるからです。そしてその投与量は、画一的なものでなく、それぞれのライフステージ、ストレス状態や胃腸の状態、全身の健康状態などを含めた個体差を考慮する必要があります。そして、その至適量を長期間投与しても大丈夫である、良質なダイエタリーサプリメントを選ぶということが大切です。植木鉢の土がカラカラに渇き、しおれている植物にスポイトでお水をあげても効果はありません。しかし、そこにたっぷりとジョウロで適量の水をあげれば、土が潤い植物自体も元気になります。
ビタミンの至適量(optimum dose)
ビタミンの至適量について最もわかりやすい一例としては、壊血病予防のためのビタミンCの量と、がんに対する高用量ビタミンC点滴療法で補給する量があります。壊血病を防ぐためのビタミンCの量は、厚生労働省食事摂取基準2020では「ビタミンCを 1日当たり10 mg 程度摂取していれば欠乏症(壊血病)は発症しない。」との記述があります。それに対し、がんに対する高用量のビタミンC点滴で用いる量は、プロトコルにより数十g~100gなどです。これを静脈から直接投与します。壊血病予防のためのビタミンCは経口摂取で10㎎と、比べものにならない量です。
高用量ビタミンC投与による薬理学的アスコルビン酸濃度による効果
この点滴による高用量のビタミンCの補給方法では、欠乏症を防ぐための経口摂取によるビタミンCでは到達できない血中における薬理学的アスコルビン酸濃度を目指します。この方法により、低用量のビタミンCでは期待できなかった効果が多数報告されるようになっています。ビタミンCは壊血病の予防という枠を超え、その目的とする至適量によって、感染症、火傷、敗血症など、安全な方法として国内外問わず、実にさまざまな薬理学的、生理学的な報告がされています。
分子栄養学では、血液検査などを駆使しながらビタミンの至適量を模索する
分子栄養学の目指すオプティマムヘルス(病気でないだけでなく、心身ともに最高・最善の健康状態)は、当てずっぽうで栄養素の量を補給していくのではありません。血液検査などさまざまな検査を駆使し、その反応をしっかりとモニタリングしながら、栄養素の使う量と種類をマネージメントするという方法により、自然治癒力を高めることを提唱しています。
国をあげて自分で自分自身の健康を管理する能力が個人の大きな課題となっています(※自分自身の身体を知ろう:Know Your Bodyがなぜ大切か)。私たちは幸いにも、ビタミンの新しい時代を生きています。科学的な方法により、医師とともに自分に合ったビタミンの至適量を探していきましょう。
※1 アミン(amine) アンモニアNH3の水素原子を、アルキル基もしくはアリル基というもので置換した化合物の総称です。 ※2 微量栄養素 5大栄養素(タンパク質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル)のうち、エネルギー産生栄養素(タンパク質、脂質、糖質)は摂取する量が多く、その量はグラム(g)単位で表され、3大栄養素と呼ばれます。それに対し、ビタミンやミネラルは摂取量が少なく、ミリグラム(mg)単位以下で示されることから、微量栄養素(micronutrient)と呼ばれます。 ※3 脚気 脚気とは、ビタミンB1が欠乏することで起こる病気です。B1が足りないために、糖質をエネルギーに変換できない結果、症状として全身のだるさ、手足のしびれ、心不全によるむくみなどが起こり、ひどいときには命に関わります。 ※4 壊血病 ビタミンCの欠乏によって起こる病気です。疲労感、出血、歯が抜けたりなどが起こります。何もせずに放置すると、命に関わります。