The Orthomolecular Times

2024.12.23 分子栄養学と免疫の栄養素「ビタミン・ミネラル補給と冬の感染症・免疫対策」

KYB × FUTURE

皮膚科医 羽尾貴子先生「アトピー性皮膚炎の患者さまに栄養療法をお勧めすることが多いです。」

栄養は、現代社会の影を照らす光になる。KYBグループは、国内外の多数のドクターと協力して分子整合栄養学のチカラを社会に届けてきました。今回は、皮膚科医の羽尾貴子先生に、皮膚科医療における分子整合栄養学の重要性についてお話を伺います。

アトピー性皮膚炎の治療には食生活の見直しを中心とした栄養改善を

金子
まずは分子整合栄養学を知ったきっかけから教えてください。
羽尾
今から10年ほど前、ある美容の研究会の席で、KYBグループの設立者である金子雅俊先生に師事されていた溝口徹先生の講演を拝聴したときに知りました。「こんな医療があるんだ」と新鮮な驚きを覚えて、「分子整合栄養学と標準医療を組み合わせたら患者さまをもっと良くできるかもしれない」と興味を持ち始めたのがきっかけですね。
金子
具体的には、どのような患者さまに栄養療法をお勧めされることが多いですか?
羽尾
アトピー性皮膚炎の患者さまに栄養療法をお勧めすることが多いですね。アトピー性皮膚炎のお子さんで、お腹がぽっちゃりしていて、全身の皮膚がカサカサとしている場合に食生活について伺うと、野菜が嫌いなお子さんが多く、パンやおにぎり、お菓子等の糖質でお腹をいっぱいにさせているご家庭が多いので、まずは食生活を見直すように指導しています。
また、生まれたばかりの赤ちゃんで重度の皮膚炎が見られる場合は、妊娠中に貧血を指摘されていなかったか確認をして、お母さまの栄養状態を血液検査で確認するようにしています。赤ちゃんのこととなるとお母さまも一生懸命栄養療法に取り組んでくださるので、ヘム鉄や亜鉛、タンパク質の積極的な補給が必要なことをお伝えして、サプリメントの利用もお勧めしています。
成人のアトピー性皮膚炎の患者さまでは、T-C(総コレステロール)が低く、GOT(AST:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)とGPT(ALT:アラニンアミノトランスフェラーゼ)の値が解離しているケースが多いです。T-C低値ではタンパク不足が、GPT高値では脂肪肝が疑われますので、タンパク質を積極的に摂取して、脂肪肝や中性脂肪増加の原因となる糖質の過剰摂取を控えるように指導しています。
いずれの場合も、まずは食生活を中心に指導して、必要に応じてサプリメントを勧めるよう心掛けていますね。
金子
なるほど。アトピー性皮膚炎には、ビタミンA・B群・C・D等、様々な栄養素の不足が関与することもわかっていますし、やはりアトピー性皮膚炎は食生活に起因する部分が大きいようですね。また、成人でいうと「リーキーガット(Leaky Gut:腸漏れ)症候群」や「SIBO(Small Intestinal Bacterial Overgrowth:小腸内細菌異常増殖)」といった腸管の問題も食物アレルギーやアトピー性皮膚炎の大きな原因の一つになっていますから、重症の場合は腸内環境をいかに良くするかということも、アトピー性皮膚炎の治療の大きなポイントになると思います。
羽尾
「お腹の中が汚くて肌が綺麗な人はいない」とよく言われますもんね。
金子
はい。それと、アトピー性皮膚炎といえば亜鉛欠乏の関与が知られていますよね。
羽尾
そうですね。アトピー性皮膚炎の治療では、亜鉛の血中濃度や、亜鉛欠乏により低値になるALP(アルカリフォスファターゼ)を血液検査でチェックしています。アトピー性皮膚炎では、摩擦によって肘や脇、乳頭部等にジクジクした発疹が出やすいのですが、これも亜鉛欠乏が原因ではないかと思っています。そこにステロイド薬を使うことによって、亜鉛欠乏をさらに助長させてしまうんですね。
金子
最近はマラソンがブームになっていますが、摩擦によって乳頭部に炎症を起こしているランナーの方がいらっしゃるようです。ミネラルは発汗に伴い体外に排出されますから、そういった方も亜鉛欠乏を疑っても良いのかもしれませんね。

栄養状態によって治療の効果や再発率が変わってくる

金子
アトピー性皮膚炎の治療について、ステロイド薬を使いたくないという患者さんが多くいらっしゃると思うのですが、羽尾先生はステロイド薬の塗布についてどのように考えていらっしゃいますか?
羽尾
何より患者さまの治療に対する意欲が大切ですので、ステロイド薬を使いたくない方には、モクタール(松の木を原料とし、炎症やかゆみを抑える作用や殺菌作用をもつ薬)と亜鉛をミックスしたモクタール軟膏等を処方しています。ステロイド薬を使う場合は、ステロイド薬はあくまで消火剤ですので、火が燃え盛っているところにお水をちょろちょろと掛けてもあまり効果が得られないことや、「ステロイド薬でいったん炎症を鎮めてから、皮膚の再生を促すために食生活の改善や栄養療法を中心とした治療を行っていきましょう」というお話をしています。
金子
確かにそうですよね。皮膚の炎症と治癒を繰り返すことによって、ますます治りにくくなってしまいますから、基本的な方針としてはステロイド薬はなるべく使わず、必要なときはしっかり使うことが大切ですね。羽尾先生のクリニックは美容皮膚科も併設されていますが、美容領域には栄養療法をどのように応用されていらっしゃいますか?
羽尾
シミの除去等をご希望の方にレーザー治療を行っているのですが、施術前に必ず血液検査で栄養状態を確認するようにしています。レーザーというのはすごい量の光を照射するので、そこに一回炎症が起こるんですね。照射による炎症を抑えるための抵抗力をつけて、炎症が起こった肌を治癒させるには、タンパク質や鉄等の栄養素が必要となります。これまでの経験からも、栄養状態が悪いとせっかくレーザー治療を受けてもあまり効果が見られなかったり、再発してしまったりする傾向がありますので、レーザー治療を希望する患者さまには必ず血液検査を受けていただき、施術できるか判断するようにしています。特に鉄は、光ストレスにより発生する活性酸素を除去する抗酸化酵素の構成成分として重要なので、血液検査で鉄が不足している患者さまにはヘム鉄をお使いいただくように指導しています。
金子
なるほど。美容領域では、強力な抗酸化物質(活性酸素を除去する物質)であるビタミンCや、皮膚のターンオーバー(新陳代謝)を促すビタミンAをお勧めしがちですが、やはり鉄が非常に重要なんですね。鉄といえば、タンパク質やビタミンC、亜鉛と共にコラーゲンの合成にも必要ですから、肌の弾力を保つためにも意識していただきたいです。それと、先程血液検査のお話がありましたが、[K01]初診スクリーニングはどのようにご活用いただいていますか?
羽尾
アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患でご来院され、ご自身の状態を確認したいという患者さまや、サプリメントを使った栄養療法の経過を確認したいという方にお勧めしています。また、ホームページに血液検査や栄養療法について載せていますので、「夜眠れない」「疲れやすい」「昼食後に眠くなってしまう」といった、皮膚科領域以外のいわゆる不定愁訴にお悩みの方がご来院されることがありまして、血液検査を勧めて栄養指導をすることもあります。
金子
患者さまの栄養状態にまで手が回らない内科医の先生が多くいらっしゃる中で、地域に根ざしたクリニックとして、皮膚科領域だけでなく全身の様々なお悩みをご相談できるのは、患者さまにとって心強いと思います。
羽尾
そのような立場の医師でいられるよう、これからも努力し続けたいです。

栄養療法は症状が落ち着いた状態を維持する土台になる

金子
羽尾先生は標準治療に分子整合栄養学を取り入れていらっしゃいますが、皮膚科の標準治療について何か問題を感じている点はございますか?
羽尾
昨今、分子標的薬(疾患の原因となっている特定の分子だけに作用する薬)といった高額な治療薬が出てきていますよね。アトピー性皮膚炎や乾癬等でも高い治療効果を上げていますが、「治療薬さえあれば大丈夫」ということではないので、薬に頼る前にやるべきことがあると感じています。
金子
私は膠原病が専門なので免疫については専門家を自負していますが、分子標的薬は免疫を無理矢理抑えることになるので、使わずに済むのならそれに越したことはないですよね。先程のステロイド薬と同様に、いったん炎症を乗り越えるには有効な手段だと思いますが、副作用や費用の問題を考えるとずっと使い続けることはできませんので、症状が落ち着いた状態を維持するアプローチを考える必要があります。
羽尾
患者さまとお話ししていると思うのが、サプリメントに2万円は躊躇するのに、お薬に4万円は出せるんですよね。薬で症状を抑えるだけでなく、元気な状態を維持するために栄養療法を取り入れてほしいです。
金子
私も膠原病やリウマチの患者さまの診察をする中で、栄養療法を導入している方とそうでない方とでは、症状が落ち着いた後の再発率が明らかに違うと感じています。栄養療法をしている方はスムーズに減薬できますし、なかには薬を卒業できる方もいらっしゃいますので、症状が落ち着いた状態を維持するには栄養療法が土台になると思っています。
羽尾
そうですね。栄養療法に基づいた指導ができる皮膚科の先生を増やしていきたいです。分子整合栄養学を知っているだけで、患者さまに対するアプローチの仕方や診療の幅が広がると思うんです。ただステロイド薬をお渡しするのではなく、血液検査データに基づいて「こういう食生活がこういう事態を招いている」ということをきちんと解析し、指導できる皮膚科医になっていきたいと思いますし、そういう仲間が増えることを願っています。
金子
分子整合栄養学の輪がもっと広まるよう、これからも頑張っていきましょう。本日は貴重なお話をありがとうございました。
今回は皮膚科専門医の羽尾貴子先生をお迎えして、皮膚科医療に分子整合栄養学をどのように取り入れているかお伺いしました。膠原病にも皮膚に症状が現れるものがありますが、自己免疫が悪さをしているのではなく、食生活や腸内環境が要因となっているケースが多く見受けられ、皮膚科領域は栄養療法との関係性が特に深いと感じています。今後も羽尾先生にご協力を仰ぎながら、分子整合栄養学のチカラで1人でも多くの患者さま、特にアトピー性皮膚炎のお子さんとその親御さんのお力になれれば幸いです。

羽尾 貴子
はお たかこ/日本大学医学部を卒業後、同大学皮膚科学教室に入局。その後、社会保険横浜中央病院の皮膚科医長、地域医療機能推進機構 横浜中央病院の総合診療科部長を経て、2016年に羽尾皮フ科クリニックを開院。皮膚が示すサインの翻訳者として、漢方療法や栄養療法を併用し、美容皮膚科も取り入れながら、患者一人一人の快適で健康な生活をサポート。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。日本プライマリ・ケア連合学会認定医。

金子 俊之
かねこ としゆき/金沢医科大学医学部を卒業後、順天堂大学医学部附属順天堂医院のリウマチ膠原病内科に在籍。その後、大学院に進み博士号を取得。内科領域の診療に加え、専門性を活かし関節リウマチ・膠原病の診療を行う。現在、KYB グループの代表取締役医師として、分子整合栄養医学を用いたヘルスケア、医療、研究、教育の4 つの領域を中心に事業展開を行っている。

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