分子栄養学の基礎知識「なぜオメガ3、n-3系と呼ばれる?オメガ3(n-3系)脂肪酸」


「オメガ3脂肪酸が身体に良いって聞くけど、そもそも『オメガ3』ってどういう意味なの?」
そんな疑問を抱いたことはありませんか?
健康や美容に関心のある方なら一度は耳にしたことがあるオメガ3(n-3系)脂肪酸。しかし、その名前の由来について、詳しく知る機会は少ないかもしれません。
なぜ「オメガ」で、なぜ「3」なのか?
「n-3系」とは何なのか?
この記事では、オメガ3脂肪酸、n-3系脂肪酸の名前の秘密をくわしく解説いたします。その謎を一緒に解き明かしていきましょう。
脂肪酸の基本:脂肪酸(fatty acid)とは

まず「オメガ3脂肪酸」という言葉を理解するために、「脂肪酸」とは何かを知ることから始めましょう。
脂肪酸とは、簡単に言うと、私たちの身体を作る上で欠かせない「あぶら」の成分の一つです。
脂肪酸は、食品に含まれる3大栄養素「脂質」の主な構成要素であり、私たちの体内で
・エネルギー源になる
・細胞膜(細胞を包む膜)を作る
・ホルモンのような生理活性物質(身体の調子を整える物質)の材料になる
など、非常に重要な役割を担っています。
脂肪酸は、炭素(C)、水素(H)、酸素(O)という原子が鎖(チェーン)のようにつながってできています。脂肪酸は、炭素と水素でできた鎖(炭化水素)の一方の末端に、カルボキシ基(-COOH)がくっついた化合物です※1。
この鎖の長さや、炭素原子同士のつながり方(単結合や二重結合)によってさまざまな種類の脂肪酸に分類され、生物学的な反応が変わります※2。
(※短鎖脂肪酸とは? 基礎をわかりやすく解説)
そしてこの
・炭素原子同士のつながり方(単結合や二重結合)
の違いが、実は「オメガ3」という名前の秘密を解く鍵となります。
脂肪酸の命名法にはIUPAC(国際純正応用化学連合)による系統的名称のほか、「慣用名」と呼ばれる「特定の学問分野ごとで用いられている化合物の名称」※3が用いられたりもします。
二重結合がない脂肪酸を飽和脂肪酸、二重結合がある脂肪酸を不飽和脂肪酸と呼びます。そして二重結合が2つ以上ある脂肪酸のことを、多価不飽和脂肪酸(PUFA:Poly Unsaturated Fatty Acid)と呼んでいます。
今回は数ある名称のうち、不飽和脂肪酸のひとつであるオメガ3(n-3系)脂肪酸の名称について、
・「ω(オメガ)」
・「n-(エヌマイナス)」※3
に焦点を当て、その意味について一緒に考えていきましょう。
脂肪酸の基本構造 – 炭素の数え方とオメガ3の名前の秘密

脂肪酸の構造を詳しく見ると、一方の端には
・カルボキシ基(-COOH)
と呼ばれる酸性の部分があり、もう一方の端には
・メチル基(-CH3)
と呼ばれる部分があります。そして脂肪酸の
・ω(オメガ)位から数えて何番目の炭素に初めて二重結合が出てくるか
によって分類されたのが、オメガ3脂肪酸やオメガ6脂肪酸です。
オメガ3脂肪酸は「ω位から数えて3番目の炭素に初めて二重結合が出てくる脂肪酸」、オメガ6脂肪酸は「ω位から数えて6番目の炭素に初めて二重結合が出てくる脂肪酸」のことを指しています。
それでは一体「ω位」とは何でしょう。
「ω(オメガ)」とは、24文字あるギリシャ語の「最後」の文字です。
脂肪酸の一方の末端についているメチル基を「メチル末端(メチル基末端)」と呼び、反対側にあるカルボキシ基側の炭素から最も離れた位置、最後にあるそのメチル末端(-CH3)の炭素原子を1番目の基準(ω1位)として数え始めます。
脂肪酸を構成するメチル基の炭素原子をω炭素原子、ω位と呼ぶ、「オメガ3脂肪酸」の名前はここに由来しています。
「ω3(オメガ3)」と「n-3」は同じ位置を示す
「ω(オメガ)」は「n-」と表記されることもあります。
・「ω3(オメガ3)」と「n-3」
・「ω6(オメガ6)」と「n-6」
はそれぞれ同じ位置を表します。
オメガ3脂肪酸とn-3系脂肪酸は同じ脂肪酸です。オメガ3(n-3系)脂肪酸の鎖のいちばん端、メチル末端から数えて3番目の炭素(ω3位:n-3位)に初めて二重結合が出てくる不飽和脂肪酸の総称を表します。
n-3系脂肪酸は一般的に「えぬさんけいしぼうさん」とも読みますが、「n-」は正式には「n-(エヌマイナス)」と読むとされています※3。
「3」が示す秘密:二重結合の位置が健康の鍵
オメガ3脂肪酸の鎖の中に存在する「二重結合」の位置。
二重結合とは、炭素原子同士が2本の手でがっちりと結びついている状態のことです(単結合は1本の手で結びついている状態)。この二重結合の有無や位置、数によって、脂肪酸の性質や身体への働きが大きく変わります※2。
例えば、オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸は全身の細胞膜に組み込まれ、以下のような基本的な仕組みで炎症に関わります。
・オメガ6脂肪酸→主に炎症を促進する
・オメガ3脂肪酸→主に炎症を抑制する
似たような構造でありながらこの二重結合の位置の違いが、それぞれの脂肪酸の生理機能に大きな影響を与えます。
(※EPA・DHAの効果を上げる:分子栄養学的に考える適切なオメガ6(n-6系)量とは?)
賢く摂ろうオメガ3:オメガ6

オメガ3脂肪酸は、私たちの体内で十分に合成することができないため、食事から摂取する必要がある「必須脂肪酸」です。代表的なオメガ3脂肪酸には、以下のようなものがあります。
- α-リノレン酸(ALA:α-linolenic acid)
- エイコサペンタエン酸(EPA:eicosapentaenoic acid)
- ドコサヘキサエン酸(DHA:docosahexaenoic acid)
これらのオメガ3脂肪酸は、心血管疾患のリスク低減、脳機能のサポート、抗炎症作用など、多岐にわたる健康効果が多くの研究で示唆されています。
同じくオメガ6脂肪酸のリノール酸も必須脂肪酸ですが、特に現代の食生活ではオメガ6脂肪酸の摂取量が多くなりがちで、オメガ3脂肪酸とのバランスが崩れやすいと言われています。
意識してオメガ6脂肪酸を適量に戻しオメガ3脂肪酸を摂取することが、健康維持のためには非常に重要であると考えられています。
(※EPA・DHAの効果を上げる:分子栄養学的に考える適切なオメガ6(n-6系)量とは?)
まとめ
「オメガ3脂肪酸」という名前は、脂肪酸の化学構造、特にメチル基側から数えた最初の二重結合の位置が「3番目」の炭素にあることに由来しています。
この小さな数字が、私たちの健康に大きな影響を与える脂肪酸の特性を示しています。
この記事を通じて、オメガ3脂肪酸の名前の秘密についてご理解いただけたでしょうか。ぜひ日々の食生活にオメガ3脂肪酸を上手に取り入れ、健康で活力あふれる毎日を過ごす分子栄養学のヒントとしていきましょう。
(※オメガ3とオメガ6のバランスが心の健康を支える?)
(※「食品中のオメガ3(n-3系)脂肪酸、オメガ6(n-6系)脂肪酸」魚介類・肉・卵・油脂類編)
※1 私たちの身体を細かく細かくみていくと分子でできています。そして、その分子のうち、炭素原子Cを中心に構成している化合物を有機化合物といいます。物質の分け方のひとつです。有機化合物はすべて分子です。化合物とは、2種類以上の原子からなる物質のことを指しています。
※2 Patterson, E.,et al. (2012). Health Implications of High Dietary Omega-6 Polyunsaturated Fatty Acids. Journal of Nutrition and Metabolism, 2012, 39426.
※3 有井 康博ほか『食と栄養を学ぶための化学』(化学同人、2020年)105ページ