分子栄養学の栄養素「造血幹細胞を守る⁉ ビタミンEとセレン」


ビタミンEとセレンが協力して、身体の中で新しい血液細胞をつくり出す「造血幹細胞」を保護することが示されています。
・造血幹細胞とは何か
・造血幹細胞はどこに存在している?
・造血幹細胞を守るビタミンEとセレンの協力関係
について一緒に見ていきましょう。
造血幹細胞とは?

造血幹細胞とは、身体中をめぐる血液細胞(以下、血球)をつくり出す「もと」となる特別な細胞です※1。
「造血」という言葉は「血液をつくる」という意味で、「幹細胞」は他の種類の細胞に分化する能力※2をもつ細胞のことです。
私たちの身体に流れる血液。今この瞬間も私たちの血管を血液が流れ、その血液の中で血球が働いています。
血球には、赤血球、白血球、血小板の3種類があります。赤血球は酸素を運び、白血球は病原体と戦い、血小板は出血を止めます。
造血幹細胞はどこに存在する?

血球(赤血球、白血球、血小板)は、骨の中にある
・骨髄(こつずい)
と呼ばれる場所に存在する造血幹細胞からつくられます。
骨髄は、骨(胸骨、肋骨、椎骨、肩甲骨、腸骨など)の内側、中心部にある柔らかい部分のことです。
骨髄は、血球を新しくつくって血液中に送り出す、という働きをしています。これを造血機能といいます。
造血幹細胞は、必要に応じて骨髄の中でせっせと細胞分裂をして血球を新しくつくり、血液中に送り出します。
造血幹細胞の能力

造血幹細胞にはとても特別な能力があります。それは「自己複製」する能力と「分化」する能力です※1。
・自己複製:自分自身のコピーをつくること
・分化:異なる種類の血球に変化すること
この2つの能力のおかげで、造血幹細胞は人の一生涯、絶え間なく新しい血球をつくり続けることができます。
そしてその造血幹細胞のおかげで、私たちは血球に支えられ、毎日を健やかに過ごすことができています。
(※エネルギー不足を招く分子栄養学の重大問題「貧血」について解説)
(※免疫を司る白血球「白血球の仲間たちの基礎」)
造血幹細胞の働き方
造血幹細胞は通常、骨髄の中で眠っているような状態(休眠状態)にあります※3。そして必要なときだけ目覚めて、分裂して新しい血球をつくります。
新しい血球が必要になると、造血幹細胞はまず「前駆細胞」という中間段階の細胞に変化します※1。そして前駆細胞がさらに分裂・成熟して、最終的に赤血球、白血球、血小板という完成した血球になります※1。
ビタミンEとセレンが協力して造血幹細胞を保護!?

2021年の論文では、マウスの研究で
・ビタミンE(α-トコフェロール)
・GPX4
の2つが協力して造血幹細胞と前駆細胞を保護することが報告されています※4。
GPX4とは、グルタチオンを利用して細胞膜の脂質を「サビ(酸化)」から守る働きが知られる抗酸化酵素グルタチオンペルオキシダーゼ( GPX: glutathione peroxidase)のことです※5、※6、※7、※8。
GPX4が働くには
・セレン
が補因子として必要です※5、※6、※7。
GPX4欠損マウスの研究では、食事から摂取するビタミンEの欠乏は、造血幹細胞と造血前駆細胞における脂質過酸化と細胞死の増加につながったことが報告されています※4。
そしてGPX4とビタミンEが協力して造血幹細胞の脂質の過剰な酸化を防ぎ、細胞死から守っていることが示されています※4。
今回のまとめ
造血幹細胞とは、身体中をめぐる血液細胞(以下、血球)をつくり出す「もと」となる特別な細胞です。
造血幹細胞は骨髄に存在し、それ自体が細胞分裂して毎日新しい血球(赤血球、白血球、血小板)を血液中に送り出してくれます。
GPX4(補因子:セレン)とビタミンEが協力して、造血幹細胞と前駆細胞の脂質をサビ(過酸化)から守ることが報告されています。
抗酸化のための栄養素として、セレンも意識して適量摂りましょう。
脂質過酸化から脂質を守り自分自身が酸化されたビタミンEは、ビタミンCによってリサイクルされて元の元気なビタミンEに戻ります。分子栄養学ではビタミンC・Eは一緒に摂ることをお勧めしています。
(※ビタミンEが細胞膜を守る仕組み)
分子栄養学実践医師とともに身体を守る抗酸化栄養素の働きを分子レベルで一緒に学び、健やかな毎日を送るためのヒントにしていきましょう。
※1 Laurenti, E.,et al. (2018). From haematopoietic stem cells to complex differentiation landscapes. Nature, 553, 418–426.
※2 「分化」とは、生物学において細胞の機能や形態などが特殊化して発達していくことをいいます。
※3 Jia, W.,et al. (2021). Indispensable role of Galectin-3 in promoting quiescence of hematopoietic stem cells. Nature Communications, 12, 2118.
※4 Hu, Q.,et al. (2021). GPX4 and vitamin E cooperatively protect hematopoietic stem and progenitor cells from lipid peroxidation and ferroptosis. Cell Death & Disease, 12, 706.
※5 Averill-Bates, DA. (2023). The antioxidant glutathione. Vitamins and Hormones, 121, 109–141.
※6 Pei, J.,et al. (2023). Research progress of glutathione peroxidase family (GPX) in redoxidation. Frontiers in pharmacology, 14, 1147414.
※7 Bersuker, K.,et al. (2019). The CoQ oxidoreductase FSP1 acts in parallel to GPX4 to inhibit ferroptosis. Nature, 575(7784), 688–692.
※8 ヒトを含む哺乳類では、現在わかっているところで8種類のグルタチオンペルオキシダーゼ(GPX1~GPX8)が存在しています※6。