分子栄養学と運動「骨格筋が血糖値を下げる⁉ 運動効果と「GLUT4」の仕組みをわかりやすく解説」
骨格筋が血糖値を下げる役割をしていることをご存じですか?
そしてその際、分子レベルでは「GLUT4」というタンパク質が活躍しています。
定期的な運動はGLUT4を増やし、分子栄養学のお勧めする適正な血糖値コントロールに役立ちます。骨格筋が血糖を使う仕組みを分子レベルで知り、分子栄養学の健康自主管理に役立てましょう。
骨格筋が血糖値を下げる!? 知って得する身体の仕組み
皆さんは、骨格筋が血糖値コントロールに役立つことをご存じですか?骨格筋とは、骨に沿ってくっついている身体を動かす筋肉のことです。(※習慣的な運動がキレイな姿勢、骨格筋をつくる!)
ヒトの身体でいちばん大きな器官である骨格筋。骨格筋は、糖質を含む食品を食べた後、血糖(血液中に存在するグルコース(ブドウ糖))を消費してくれる代表的な器官です※1。
適正な血糖値コントロールは、健康な血管や正しいダイエットの味方、分子栄養学が提唱する健康増進の秘訣のひとつです。(※分子栄養学で血管を守る!「血糖値コントロール編」)(※食後高血糖は分子栄養学的ダイエットの敵!)
今回は骨格筋が血糖をとり込む仕組みについて、カギとなる「GLUT4」というタンパク質分子の役割を分かりやすく解説いたします。
食欲の秋は運動の秋。定期的な運動で骨格筋の糖代謝に関するシステムを強化し、良好な血糖値コントロールのカギを手に入れましょう。
骨格筋の「糖の出入り口」GLUTってなに?
私たちの身体は、血糖が出入り口を通って細胞にとり込まれることでエネルギーが作られます。そしてそのエネルギーを使って細胞が活動し、細胞の集合体である私たちが生きることができています。
この糖の出入り口の役目を果たすのが「GLUT(グルット)」と呼ばれるタンパク質です※2。
GLUTは「グルコーストランスポーター(glucose transporter)」の略で、いくつかの種類があります。GLUTは種類によって血液中の糖を細胞の中に運び入れたり、細胞の中の糖を外に運び出す「運び屋さん」のような働きをしています。
骨格筋に存在するGLUT4の役割
いくつか種類があるGLUTの中で、運動による骨格筋の血糖値コントロールに関わるのがGLUT4 です。
GLUT4の特徴は以下のようになります※2。
- 主に骨格筋や脂肪細胞で働く糖の特別な運び屋さん※2、※3
- インスリンというホルモンの指令で活性化します※4
- 運動すると、インスリンがなくても活性化できます
(※血糖値コントロールに必要なインスリン合成に関与する亜鉛のお話)
GLUT4の特徴的な仕組み
GLUT4は、普段は細胞の中にしまわれていて、必要な時だけ細胞の表面に出てきます※2、※5。これを分かりやすく例えると、以下のようになります。
- GLUT4は「ドア」のようなもの
- 普段はドアが建物の中に収納されている状態
- インスリンや運動は「ドアを外に設置するスイッチ」のような役割
- ドアが設置されると、糖が細胞の中に入れるようになる
運動とGLUT4の関係
運動には、GLUT4を活性化させる2つの効果(急性効果、慢性効果)が考えられます※2。運動後すぐにあらわれる急性効果と、運動を続けることであらわれる慢性効果です。
① 急性効果
運動を始めるとすぐにGLUT4が細胞表面に出てきます。これにより、インスリンがなくても血糖値を下げることができます※2。
② 慢性効果
定期的な運動がGLUT4の数を増やすことが報告されています※2。GLUT4の数が増えることで、より効率的に糖をとり込むことができます。また、インスリンへの反応(インスリン感受性)が良くなることも報告されています※2。
GLUT4を活性化する効果的な運動方法
GLUT4を効率よく活性化させるには、骨格筋を収縮させる運動が必要だとされています※2。
ただしその効果は一時的であり、恒久的なものではないことが示されています。例えば持久力アスリートがトレーニングをやめたり※6、健康な若い男性であっても横たわる生活になると※7骨格筋のGLUT4量が減ることが示されています。
運動が苦手な方も、例えば家事をしながらつま先立ちをしたり、スクワットをしても骨格筋が収縮します。正しい姿勢で無理なく行いましょう。
継続は力なり。ぜひ日常生活に骨格筋を収縮させる運動を取り入れ、血糖値コントロールを効果的なものにしていきましょう。
分子栄養学がお勧めする健康な骨格筋のための栄養素
骨格筋量はタンパク質の分解と合成によって維持されています※1。まず腸内環境を整え※1、筋肉の材料である良質で適量のタンパク質を摂りましょう。(※必須栄養素「タンパク質」)
またタンパク質代謝に必須のビタミンB6とナイアシン、エネルギー量確保のための適切な糖質・脂質もしっかり摂ることが勧められます。
筋肉のタンパク質合成を進めるためにはエネルギーがたくさん必要であることから、ミトコンドリアからのエネルギー供給が欠かせないとする文献があります※1。分子栄養学では、ミトコンドリアでエネルギー産生をスムーズに進める栄養素(マグネシウム、ビタミンB群、CoQ10、鉄など)の至適量の補給もお勧めいたします。(※エネルギーをつくるための必須栄養素「マグネシウム、ビタミンB群、CoQ10、鉄」)
運動を始める際は、糖尿病や高血圧など持病のある方は必ず医師にご相談ください。急で無理な運動は避け、まずは軽い運動から始めましょう。適度な水分補給も忘れずに。
今回のまとめ
GLUT4は、私たちの身体の血糖値コントロールに関わる重要なタンパク質です。
自分に合った定期的な運動を続けることでGLUT4を増やし、より効果的な血糖値コントロールを目指しましょう。
健康な骨格筋維持のため、腸を整え、タンパク質、タンパク質代謝に必須のビタミンB6とナイアシン、エネルギー産生を進める栄養素(マグネシウム、ビタミンB群、CoQ10、鉄など)も一緒に摂りましょう。適切な糖質・脂質でしっかりエネルギー量を確保することも重要です。
分子栄養学が重要視する最も重要な栄養素のひとつ、タンパク質。タンパク質は生命の根底をつくります。
私たちの目に見えない分子レベルで働くタンパク質の働きを、分子栄養学で一緒に学んでいきましょう。
※1 Sartori, R.,et al. (2021). Mechanisms of muscle atrophy and hypertrophy: implications in health and disease. Nature Communications, 12, 330.
※2 Richter, EA.,et al. (2013). Exercise, GLUT4, and skeletal muscle glucose uptake. Physiological reviews, 93(3), 993–1017.
※3 GLUT4は心筋※2、脳※8などでも発現していることが報告されています。
※4 インスリンとは、血糖値を下げる唯一のホルモンです。筋肉などに働きかけて血糖値を下げる役割を担います。
※5 Flores-Opazo, M.,et al. (2020). Exercise and GLUT4. Exercise and Sport Sciences Reviews, 48(3), 110–118.
※6 Vukovich, MD.,et al. (1996). Changes in insulin action and GLUT-4 with 6 days of inactivity in endurance runners. Journal of Applied Physiology, 80, 240–244.
※7 Biensø, RS.,et al. (2012). GLUT4 and glycogen synthase are key players in bed rest–induced insulin resistance. Diabetes, 61, 1090–1099.
※8 McNay, EC.,et al. (2019). GluT4: a central player in hippocampal memory and brain insulin resistance. Experimental Neurology, 323, 113076.