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2024.12.16 分子栄養学と免疫の栄養素「自然免疫:好中球の働きとビタミンC」

ヘルシーエイジング

食後高血糖は分子栄養学的ダイエットの敵! 肥満の理論「糖質-インスリンモデル」

「カロリーの摂り過ぎ」ではなく、高糖質の食べものを繰り返し食べることによる代謝の変化が肥満の原因⁉

20世紀後半より長い間、肥満はエネルギー量(単位:カロリー(kcal))※4の摂り過ぎによると考えられてきました※3。しかし運動量を増やしてエネルギー消費量を増やし、エネルギー制限食でエネルギー摂取量を減らすことを対策とする「エネルギーバランスモデル」※1が長年提唱されているにも関わらず、世界中で肥満の問題は解消されていません※3。そこで新しい肥満理論として、2018年に高糖質の食品を繰り返し食べることで起こる体内の代謝の変化、すなわち食後高血糖と高インスリン血症が肥満の原因であるとする「糖質-インスリンモデル」が仮説として発表されています※2、※3

分子栄養学的ダイエット成功の基本と考えられる2つの仮説

病気の予防、健康的なダイエット成功を目指し、医学の分野では肥満の理論が複数提唱されています※5。今回はそのうちの2つの理論について、前半・後半に分けて紹介しています。シリーズ前半(第1回目)、※「カロリーの摂り過ぎ」だけが太る原因ではない⁉ 肥満の理論「エネルギーバランスモデル」では “エネルギー摂取量(カロリー(kcal))” に焦点が当てられた「肥満のエネルギーバランスモデル」についてお届けしています。今回はシリーズ後半(第2回目)、糖質に関わる代謝に焦点を当てた「糖質-インスリンモデル」についてのご紹介です。

糖質の代謝に焦点を当てた【肥満の糖質-インスリンモデル】

エネルギーバランスモデルに従い、エネルギー摂取量を減らして、運動などでエネルギー消費量を増やそうとしても、肥満や生活習慣病(糖尿病など)が改善できない人も存在します。そこで新しく提唱されたのが「糖質-インスリンモデル」です。血糖値を上げる栄養素、糖質の代謝に焦点を当てた新しい仮説です。

糖質-インスリンモデルは、糖質が多く血糖値を上げやすい食品(砂糖(アイス、ジュース、ケーキなども含む)、精製された穀物(白米・白いパンなど)、じゃがいも製品など)を多く繰り返し摂取することで体内の代謝システムに変化が生じ、食後高血糖、血糖値をコントロールするホルモン(インスリン)の変化(遅延過剰分泌※6)を起こして脂肪を貯めさせ、それが肥満につながるとする説です。この理論では、高インスリン血症が脂肪を貯めさせると同時に、食後高血糖の後の急激な血糖の低下が人々に飢餓感を感じさせ、それがエネルギー摂取量を増加させ、さらに肥満につながるという説が提唱されています※2、※3

この場合、肥満への対策としては、第一に血糖値上昇に影響を与える栄養素である「糖質」の質(GI値:グリセミック・インデックス。血糖値の上がりやすさを示す指数)と量をコントロールすることが挙げられます※2、※3。糖質を食べる場合は、血糖値を上げやすい食品(砂糖や精製された白米・白いパンなどの高GI食品)を避け、でんぷんの少ない野菜、全粒の穀物などを選び、その量も考慮します※7。また、2018年の論文では、糖質を減らす分、適度なタンパク質、健康的な脂質の摂取で置き換え、しっかりと必要な栄養素を摂ることが成功の秘訣として推奨されています※2

食べる量を減らすよりも、何を食べるかを選ぶことが重要であるため、長期的にコントロールしやすいとする意見、インスリン分泌量が多い、インスリン抵抗性(インスリンが効きにくい状態)が疑われる方々にとっては最適な方法である可能性として提案されています※3

糖質、GI値などの言葉の意味について、詳しくは※分子栄養学の基礎用語「血糖値」、「糖質」、「GI値」、「GL値」って何ですか? をご覧ください。

分子栄養学的ダイエット成功の基本:糖質の質と量を適量に、タンパク質はしっかり食べて筋肉量を維持

分子栄養学的ダイエット成功の基本は、基礎代謝量の多い筋肉量を維持して活動量を確保し、食べたものをしっかりと代謝できる、活動的な身体をつくることです。人生100年時代といわれる今、血糖値の変動につながる糖質の質と量を賢く選択することは、インスリンなどのホルモンと、それを分泌する器官などの機能を温存するため、理にかなった方法であると考えています。1日、1食、それぞれどのくらいの糖質量がよいかは、※食事の基本 をご覧ください。

2019年にはアメリカ糖尿病学会において、連続で血糖変動を測ることのできる持続血糖測定器 (CGMContinuous Glucose Monitoring)で血糖変動を把握することの重要性が、国際的コンセンサスとして発表されています※8。食後高血糖は、栄養素を運ぶ道である血管を傷つけ、糖尿病や心血管疾患の原因にもなる可能性が報告されています(※分子栄養学で血管を守る!「血糖コントロール編」)。

最近、食べる量は増えていないのにお腹周りや体重増加が気になる方、自分の血糖変動がどうなっているか気になる方、この機会に医師とともに持続血糖測定器を用いて血糖コントロールと食生活(※食事の基本)を含む生活習慣改善で、分子栄養学とともに健康的なダイエットを目指してみませんか。分子栄養学では、血糖値だけでなく、筋肉量を維持する適度な運動や栄養素(※分子栄養学的ダイエット成功の秘訣!筋肉と基礎代謝量と栄養素のお話)、腸内環境もあわせて、総合的なダイエット成功への道のりをご提案いたします。

※1 Hall, KD., et al. The energy balance model of obesity: beyond calories in, calories out. American Journal of Clinical Nutrition, 115(5): 1243-1254.(2022) 

※2 Ludwig,DS., et al. The Carbohydrate-Insulin Model of Obesity: Beyond ‘Calories In, Calories Out’. JAMA Internal Medicine, 178(8): 1098-1103.(2018)

※3 Ludwig, DS., et al. The carbohydrate-insulin model: A physiological perspective on the obesity pandemic. American Journal of Clinical Nutrition, 114(6): 1873-1885.(2021)

※4 時計が動くのに電池が必要なように、人が生きていく(動いたり、考えたり、寝たりする)にはエネルギーが必要です。人が必要なエネルギーの大きさを表した単位が「カロリー(kcal)」です。人体のエネルギーの多くは、最終的に熱エネルギーとなるため、人体に必要なエネルギーは熱エネルギーの単位が使われます。14.5℃の1gの水を15.5℃まで上げるために必要なエネルギーを「cal」といい、それを1,000倍すると「kcal」、つまり1,000cal(カロリー)=1kcal(キロカロリー)となります。

※5 Johnson, RJ., et al. The fructose survival hypothesis as a mechanism for unifying the various obesity hypotheses. Obesity (Silver Spring), 32(1):12-22.(2024)

※6 インスリンとは、血糖を下げる唯一のホルモンです。インスリンの遅延過剰分泌とは、食事摂取後、インスリンが分泌し始めるタイミングが遅れ、さらに過剰な分泌が続くことを指しています。

※7 数々の海外の論文ではGL値(Glycemic Load:食品に含まれる糖質の量にGI値をかけて100で割ったもの)というものも紹介されていますが、日本では、血糖コントロールの手段として、GL値よりも「糖質量」の方が一般的に用いられています。

※8 Battelino, T., et al. Clinical targets for continuous glucose monitoring date interpretation: recommendations form the international consensus on time in range. Diabetes Care, 42(8): 1593-1603.(2019)

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