The Orthomolecular Times

2024.12.23 分子栄養学と免疫の栄養素「ビタミン・ミネラル補給と冬の感染症・免疫対策」

妊娠前・妊娠中・産後

ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁①(20代でも尿失禁⁉)

尿失禁は快適さとQOLに関わる深刻な問題

咳やくしゃみをしたり、子どもを抱き上げたり、ジョギングやテニスやゴルフをしたり、大きな声で笑ったり。ちょっとした瞬間に「あっ」ということはありませんか?

私たちは幼い頃にトレーニングすることで、自然と排泄に関わる出来事を日常生活の中でしっかりと管理できています。尿失禁(尿もれ)は、それが自分の意志でコントロールできずに、尿(※尿検査からわかること)が不意にもれてしまう状態です※1。恥ずかしかったり、においが気になったりと、だんだんと外出を控え、人と会うのを避けるようになるなど、皆さんの快適さやQOL(クオリティ オブ ライフ:生活の質)に関わる、深刻な問題に発展する可能性のある疾患です※1

尿失禁は病気:早期発見、早期治療が改善への道

尿失禁は病気です。尿失禁を放っておくと徐々に悪化する可能性があります。早期に発見し、そのタイプごと(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁②(尿失禁の主なタイプ))にしっかり対処すれば改善の余地が見込まれています※1。まだまだわかっていないことの多い尿失禁ですが、ぜひ今理解されている病気と身体の仕組みを知って予防を目指し、改善できるものはしっかりと改善し、一緒に人生100年時代のQOLの向上を目指しましょう。

正常な蓄尿・排尿

尿失禁を知るにあたって、まず正常な蓄尿・排尿の状態について考えます。

健康な人の尿(排尿)の回数は、1日平均5~7回くらいです。正常な状態は、夜間には行かず、力を入れずとも排尿できる、尿に勢いがある、おしっこをした後(排尿後)はすっきりしてすぐには次のトイレに行く必要がない、という状態です。腎臓で血液から作られた尿(※尿検査からわかること)は、いったん膀胱という袋にためられます。尿を膀胱にためることを蓄尿といい、膀胱にたまった尿を排出することを排尿といいます。

尿をためる袋は粘膜と筋肉でできている

膀胱には大人でおおよそ300~500mLの尿がためられます※2。膀胱は粘膜と3層の筋肉(膀胱排尿筋)でできています。普段、漏らさずにしっかりと尿をためることができるのは、膀胱の粘膜(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)と筋肉が尿の量に合わせてしなやかに伸び縮みして、さらに2種類の筋肉(内尿道括約筋、外尿道括約筋)が膀胱の下の方(膀胱底)から尿を出すためについている管(尿道)を、輪ゴムのようにぎゅっとしっかり締めてくれているからです※7※分子栄養学の得意分野における尿失禁対策①(骨盤底筋、コラーゲン編))。

脳が尿意を感じる:粘膜・筋肉・神経の連携プレー

その正常な蓄尿・排尿の仕組みはこうなります。膀胱にある程度(150~200mL)尿がたまってくると、膀胱排尿筋はその量にあわせて伸び、尿をためます。そしてその膀胱が伸びることが刺激となり、刺激が正常に脳に伝わって、脳(大脳)が「尿意(尿を出したいと思う気持ち)」を感じます。そしてその気持ちが最大限に達すると、脳(脳幹、橋排尿中枢)から膀胱の筋肉を縮めるよう指令が出されて尿を出す準備が整い、トイレに行ってすべてが整ったところで排尿されます。我慢する際には、自分でコントロールできる外尿道括約筋が最後までがんばってくれます※7(※分子栄養学の得意分野における尿失禁対策①(骨盤底筋、コラーゲン編)))。

膀胱を膨らませたりしぼめたり、尿道の筋肉をぎゅっと締めたり緩めたり、尿をためる、これらはすべて、筋肉と粘膜、それぞれの神経(脳や脊髄、自律神経(交感神経、副交感神経)、体性神経など)が複雑に関係しながら情報を伝え合うことで成り立っています。

神経は身体の連絡網:中枢神経と末梢神経

私たちの身体は、大きく分けて2種類の神経が情報を伝えることで動いています。その2種類の神経のうち、脳と脊髄は中枢神経といい、さまざまな情報を処理して、全身に指令を与えるという中心的な働きをしています。そしてその指令を伝え、中枢神経と全身を結ぶ役割をするのが末梢神経です。蓄尿・排尿に関わる自律神経(交感神経、副交感神経)と体性神経は末梢神経です。末梢神経は必ず中枢神経である脳か脊髄とつながって、そこからの情報を電気信号として神経細胞同士のリレー形式で身体のすみずみまで届けてくれています。

健やかな排泄を支える神経と神経細胞(ニューロン)とそれを支える細胞

神経を構成する細胞を神経細胞(ニューロン)といいます。神経細胞は、外からの情報を受け取って伝え、筋肉などに指令を出しています。脳・脊髄(中枢神経)を構成するのは神経細胞とそれを助ける細胞(グリア細胞)などです(※分子栄養学の得意分野における尿失禁対策③(神経と栄養素、血糖値など生活習慣編))。交感神経・副交感神経などは末梢神経と呼ばれ、それを構成する神経細胞とそれを助ける細胞(シュワン細胞)などでできています。それらがお互いに協力し合って、脳や脊髄の中枢からの指令を電気信号として膀胱排尿筋や尿道括約筋などの筋肉と連絡を取り合い、私たちは快適な排泄を維持することができています。

蓄尿・排尿に関わる脳、脊髄の場所

蓄尿・排尿は、中枢神経(脳と脊髄)が関わっています。その関わっている場所は、脳の大脳皮質、脳幹にある橋排尿中枢、脊髄の胸腰髄交感神経中枢、そして仙髄にある副交感神経中枢とオヌフ核というところです※7。健常者のオヌフ核は平均661個の神経細胞の集まりで※3、その37%が維持されれば尿失禁と便失禁は現れず、13%以下になると尿失禁・便失禁が現れることが筋萎縮性側索硬化症(ALS)とShy-Drager 症候群の患者さんの研究から明らかとなっているとの報告があります※3

どんな人がなりやすい? 20代女性の約6割が経験という報告

尿失禁は年齢が連想されやすい病気で、実際、加齢とともに発症率が増加することが報告されています※1※4。世界中の55歳以上の女性の研究を解析した報告では、高齢が尿失禁の高リスクであることが示されています※5

そんな「加齢」というイメージがある尿失禁ですが、実は、女性における尿失禁に関して、20代という若い世代も経験していることが報告されています。世界では、20歳以上の女性の17%が罹患しているという報告、成人女性の2人に1人が経験する可能性を示す報告があります※4。P&Gジャパン株式会社「日本女性 20代から60代 40,000人 に聞く、UI(Urinary Incontinence:尿もれ。※尿失禁を意味します。)実態大規模調査(2019年実施)」によれば、日本人女性の20代~60代それぞれの世代において約6割の方が尿失禁を経験し、20代、30代の若い世代でも、約6割の方が尿失禁を経験しているという調査結果が出ています。

さらに妊娠・出産は尿失禁の大きなリスクのひとつとして考えられていますが※5、同調査によれば、20代の尿もれを経験しているうちの約6割強の方が出産経験のない女性であると報告されています。また、尿もれを経験している方の中でも、尿もれの事実を自分で自覚している人の割合は約50%、自覚している方々の中でも、6割弱の人が誰にも相談していない、という現状が報告されています。

尿失禁は女性が男性の約2倍なりやすい

報告によって多少違いはあるといわれますが、尿失禁は女性が男性の約2倍なりやすいということが知られています※6。その理由としては、尿道が男性の方が圧倒的に長く水道の配管のようなS字型をしていること、女性の尿道は膀胱の真下に向かっている短い直線であること、そして外尿道括約筋は男性が厚く、女性の方が薄いという構造などもその要因として考えられています※7。また、女性の尿道の筋肉は男性に比べ、妊娠・出産によって傷つきやすいこと、さらに閉経による女性ホルモン(エストロゲンなど)の減少などにより、膀胱の血流の低下や伸び縮みする機能の低下※8※分子栄養学の得意分野における尿失禁対策②(膀胱編))、骨盤底筋の萎縮やそれを支える結合組織のコラーゲンの低下など(※分子栄養学の得意分野における尿失禁対策①(骨盤底筋、コラーゲン編))、加齢の影響を受けやすい部分であるといわれています※5※8

糖尿病、高血圧、肥満、便秘、アルコール、喫煙、激しいスポーツ、ストレスも尿失禁のリスク要因

糖尿病※5、高血圧※5、肥満※4※5、便秘※4※分子栄養学の得意分野における尿失禁対策③(神経と栄養素、血糖値など生活習慣編))、アルコール、喫煙※4※5、激しいスポーツ※9※10なども尿失禁のリスク要因として考えられています。男性の尿失禁は、前立腺肥大や、前立腺がんの手術や治療の際に、どこかが損傷してしまった結果であることが多いとの報告があります※1。また、自律神経に乱れが出ることも尿失禁のなりやすさに関係しているのではないかという説もあります。

次回は、尿失禁の主な4つのタイプや、尿失禁に関わる専門用語などについて説明いたします。(※ご存じですか? 若い世代でもみられる尿失禁②(尿失禁の主なタイプ)

※1 Aoki Y.,et al. Urinary incontinence in women. Nature Reviews Disease Primers, 3:17097.(2017)

※2 Fry CS.,et al.  The Role of the Mucosa in Normal and Abnormal Bladder Function. Basic and Clinical Pharmacology and Toxicology, 119(Suppl 3): 57–62.(2016)

※3 岩田誠.「骨盤括約筋支配ニューロンの局在」. 自律神経, 59(2):172-177.(2022)

※4 Lukacz ES.,et al. Urinary Incontinence in Women. JAMA, 318(16): 1592-1604.(2017)

※5 Batmani S.,et al. Prevalence and factors related to urinary incontinence in older adults women worldwide: a comprehensive systematic review and meta-analysis of observational studies. BMC Geriatrics, 21(1):212. (2021)

※6 吉澤 剛,他.「尿失禁」.日大医学雑誌, 80 (4): 187–193. (2021)

※7 病気がみえる vol.8 腎・泌尿器 第3版.医療情報科学研究所.(2019)

※8 Traish AM.,et al. Role of androgens in female genitourinary tissue structure and function: implications in the genitourinary syndrome of menopause. Sexual Medicine Reviews, 6(4):558–571.(2018)

※9 Nygaard IE.,et al. Physical activity and the pelvic floor. American Journal of Obstetrics and Gynecology, 214(2):164–171.(2016)

※10 Kim MM.,et al. The Association of Physical Activity and Urinary Incontinence in US Women: Results from a Multi-Year National Survey. Urology,159:72-77.(2022)

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