子供の栄養「集中できないのは、やる気の問題ではなく鉄欠乏性貧血!?」
あなたのお子さんは朝起きられていますか?集中して勉強できていますか?
貧血と言えば、「フラフラする」という印象が強いと思いますが、それ以外にも、表1のような症状・様子がみられる場合、貧血が疑われます。お子さんが朝起きられない、あるいは授業中や家で宿題をやっているときに集中できないのは、やる気の問題ではないかもしれません。お子さんがいつもイライラしていて会話にならなかったり、何を言ってもすぐキレたりするのは、反抗期が原因とは限りません。
子供は大人と違って、だるさやつらさを訴えることが少ないようです。子供が貧血状態にあると、身体、特に脳の発達に大きく影響を与えます。この貧血状態を引き起こす要因は様々です(図1)。どんなに些細なことでも、子供が発信する訴えをキャッチし、子供の可能性を無限に広げることが大切です。
鉄欠乏性貧血について理解し、子供が健康に成長できるように見守っていきましょう。子供の頃から貧血を予防することで、子供の将来が大きく変わるといっても過言ではありません。
鉄欠乏性貧血について -なりやすいけど治りやすい-
鉄って何者?
身体が健康な状態にあるためには、タンパク質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラル(五大栄養素)、どれも欠かすことができません。中でもミネラルは、体内の代謝の働きを活性化させるために必要不可欠な栄養成分です。五大栄養素と比べると必要量は微量ですが、体内で合成できず、不足すると身体のいたるところに異常をきたします。
鉄もミネラルの一種で、血液成分の1つである赤血球を構成しているヘモグロビンの中に特に多く存在します。次に多いのが、肝臓、骨髄、脾臓などに貯蔵されているフェリチンと呼ばれる貯蔵鉄で、ヘモグロビンが不足するとこの貯蔵鉄から鉄が補給されます。その他にも、筋肉に存在するミオグロビンや体内の代謝に関わる酵素などの中に存在します(図2)。
ヘモグロビンはなぜたくさん存在するの?
体内に存在する鉄の約2/3が赤血球中のヘモグロビンとして存在します。これは、ヘモグロビンが酸素と結合し、体内に酸素を運ぶ働きがあるためです(図3)。人は酸素が無いと様々な生命活動を維持できません。中でも脳は全身の約20%、次いで心臓は約10%の酸素を消費します。重要な臓器に酸素を供給するために、ヘモグロビンはとても重要な役割を果たします。
鉄欠乏性貧血になるしくみ
鉄は、汗や尿・便から日々排泄されます。また、図4などの要因によって鉄の摂取や吸収が低下したり、排泄や需要が増大することがあります。その分毎日の食事から鉄をしっかり補給しないと、体内の鉄の量が不足して、鉄欠乏性貧血を引き起こしてしまいます。鉄欠乏性貧血を予防するために、鉄をしっかりと補給することが大切です。
つまり、鉄が十分足りている状態であれば、赤血球内のヘモグロビンに酸素が結合し、体内に酸素が行き渡ります。しかし、鉄が不足した状態にあると、赤血球内のヘモグロビンが少なく、結合する酸素も不足します。
これが鉄欠乏性貧血です(図5)。
鉄欠乏性貧血は、他の病態がない限り、足りない鉄を補うことで顕著な改善が図れます。
鉄はしっかり摂れてますか? -鉄の種類で吸収が違う?!-
鉄はどれくらい必要?
表2は、厚生労働省が発表している鉄の1日当りの食事摂取基準(2020年版)です。これは、日本人の平均的な体格を基に必要量が計算されています。
下記に一般的な食事の例を挙げました。朝食と夕食は家庭で、昼食は学校の給食で食べるとします。献立1のように、3食、栄養面を配慮しながら食べた場合、単純に摂取量を合計すると10.2mgの鉄が摂れることになります(表3・献立①)。
こんなに違うヘム鉄と非ヘム鉄
食品に含まれる鉄には、ヘム鉄と非ヘム鉄があります。ヘム鉄は主に動物性食品に含まれ、ポルフィリンという物質の中に鉄が包まれた形(ヘム)で存在し、飲食物や胃の状態などによる吸収の影響は受けにくいです。一方、植物性食品に含まれる非ヘム鉄は、ヘムを持たず、お茶などに含まれるタンニンや、食物繊維などによって吸収阻害を受けます。ヘム鉄と非ヘム鉄の大きな違いはなんと言っても吸収率で、圧倒的にヘム鉄の吸収率の方が高いです(図6)。
成長期の子供にとって、毎食、吸収率の良い鉄を摂ることがとても大切です!
どうやったら鉄欠乏性貧血ってわかるの?
とっても大切なフェリチン濃度の測定
鉄欠乏性貧血は、血液検査でヘモグロビン値やフェリチン値を測定することで把握できます。ヘモグロビン値の測定が最も一般的ですが、実はこれだけでは鉄欠乏性貧血の正確な状況の把握が難しいのです。体内の鉄が不足すると、まずは貯蔵鉄を使ってヘモグロビンに充当されます。表1にある症状や様子がお子さんにみられたら、鉄欠乏性貧血を疑って下さい。ヘモグロビン値が低下している時点で、かなり鉄欠乏性貧血は進行しているので、むしろフェリチン値の測定が何よりも重要でしょう。通常、医療機関ではヘモグロビン値を測りますが、ヘモグロビン値だけではなく、フェリチン値も測ることをお勧めします。
鉄欠乏性貧血の判定にはフェリチン値の測定を!
鉄をしっかり摂って、貧血から子供の身体を守ろう!
お子さんの脳にしっかり酸素を補給してあげましょう
脳は身体の中で最も酸素を消費する臓器です。酸素を必要とする臓器にとって貧血は大敵です。
成長期の子供の脳の発達は目まぐるしく、脳が酸素不足の状態だと、脳の発達が阻害されることは言うまでもないでしょう。朝起きられない、疲れが取れない、集中できない、キレやすい…。貧血が改善されれば、これらの症状や様子も改善することが期待できます。
強い骨と皮膚には鉄が必要
近年、運動不足による運動機能の低下が目立つハードな運動をやり過ぎて怪我をよくするという、子供の運動機能の二極化がよく取り上げられます。いずれにおいても、骨を丈夫にしておくことが成長期の子供にとってとても重要です。丈夫な骨には、カルシウムなどのミネラルはもちろんのこと、実は鉄とビタミンCも不可欠です。骨を鉄筋コ
ンクリートに例えると、鉄骨はコラーゲン、鉄骨の隙間を埋めているコンクリートはカルシウムなどのミネラルとなります。このコラーゲンの材料にはタンパク質、ビタミンC、鉄が必要です。皮膚もコラーゲンから構成されるため、肌荒れなどに負けない皮膚をつくるためにもタンパク質、ビタミンC、鉄の補給はとても大切です。また、骨は成長ホルモンなどによって成長します。成長ホルモンは睡眠時に最も分泌されるため、成長期の子供は、しっかりと睡眠をとることがとても大切です(図7)。
鉄と免疫の関係 風邪・インフルエンザ・アレルギーに負けない身体を作ろう!
集団生活が多い子供にとって、インフルエンザやその他の流行病などに罹らないために免疫力を高めておくことがとても大切です。手洗い・うがいはもちろんのこと、食生活を含む生活習慣の工夫次第で、細菌・ウイルス、近年増加中の子供の花粉症にも負けない身体をつくることができます。鼻や喉の粘膜には、外から入り込んでくる細菌やウイルスなどの異物を押し出そうとする線毛運動という働きがあります。鉄が不足し、貧血状態にあると、呼吸器の粘膜が萎縮してしまい、十分な線毛運動が期待できません。
成長期の子供の身体(健康・体力)と脳(やる気・集中力・学力)は
鉄の補給次第で決まります!