あなたの腸は大丈夫? リーキーガット症候群(理論編②)
栄養素を消化・吸収し、身体を病原体(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)など異物から常に守ってくれている、とても賢い臓器、腸。
そんな大切な日本人の腸が危険にさらされ、国民の7割が陥っている可能性の報告があったリーキーガット症候群(以下、リーキーガットと略します)※1。リーキーガットとは、粘膜バリアにすき間があき、バリア機能が低下して異物が血管などを通し体内に漏れ出てしまう状態を指し(※あなたの腸は大丈夫? リーキーガット症候群(理論編①))、さまざまな全身の炎症、疾病と関係するのではないかと考えられています。このリーキーガットについて4回シリーズでお送りしている、今回は第2回です。
前回(※あなたの腸は大丈夫? リーキーガット症候群(理論編①))は、リーキーガットの定義、リーキーガットを考える上で大切な、正常な腸のシステムなどについて考えました。今回はその理論編の後編として、リーキーガットの簡単な分子構造、リーキーガットになりやすいリスク因子、リーキーガットに関わると考えられる疾病、そしてKYBグループの分子栄養学におけるリーキーガット関連の検査についてお届けします。
正常な腸粘膜バリアの分子構造:タイトジャンクション
リーキーガットに特に影響しているといわれているのが、腸の分子レベルでの粘膜上皮細胞の構造、タイトジャンクションです※2 (※多くの日本人を悩ます花粉症と栄養素②)。
健康な腸の内側を覆うのは粘膜(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)です。腸の粘膜は、一層の腸上皮細胞という細胞でできた層と、その層を覆うぬるぬるした粘液層、腸上皮細胞層の下に続く結合組織でできた粘膜固有層とよばれる層などで構成されています。粘膜固有層には神経や血管、リンパ管などがあり、免疫細胞(※免疫を司る白血球「白血球の仲間たちの基礎」)がたくさん存在しています※3。粘膜は、外とつながっているヒトの身体の部分をすき間なく覆い、身体を守る第一のバリア(粘膜バリア)になります(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」、※多くの日本人を悩ます花粉症と栄養素②)。
粘膜バリアの正常な状態において、腸粘膜上皮細胞(以下、腸上皮細胞)と腸上皮細胞のすき間を、必要な少しの物質以外、異物が自由に行き来できないように、お隣の細胞同士がぴったりとくっつけてバリアの役割を維持しているのが「タイトジャンクション(tight junction、密着結合)」という構造です。細胞同士を一番上の方でぴたっとくっつけ、必要に応じてぴったり閉じたり緩めたりと調節することで完全なバリアを形成しています※3。タイトジャンクションはクローディンというタンパク質などが細胞と細胞をくっつけるのりのような役割をして構成されています※3、※4。そのタイトジャンクションが何らかの理由で破壊され、腸上皮細胞と腸上皮細胞の間にすき間ができてしまうことがリーキーガットの原因のひとつと考えられています※2
そしてそのすき間から、本来なら通らないものが漏れ出して通ってしまうことによって、腸を含む全身で炎症が起こり続けることが、さまざまな疾患の発症、悪化につながっているのではないかと考えられています。
リーキーガットで通ってしまう物質と、関係があると考えられる疾病
それでは、腸のすき間を通ってしまう、本来なら通らないものとは何かというと、病原体(細菌やウイルス)、毒素、未消化のタンパク質、化学物質などです。聞いているだけで、できたら身体の中には入れたくないものばかりです。
それらはすべて本来通るべきではない身体にとって要らないものなので、それらが「腸のすき間」を通って入ってしまうことで、問題が起こります。まず、身体を守るための免疫システムが発動します。要らないものを一所懸命排除しようと免疫が反応し、炎症が起こります(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)。適度な炎症は必要なものですが、腸のすき間が常に開きっぱなし=有害物質が常に流れ込んでしまう状態は、常に炎症反応がある状態をうみ出すことになってしまいます。腸の粘膜において直接細菌が腸上皮細胞に過剰に接触したり、慢性的な免疫反応、炎症が起こり続けることなどが、腸上皮細胞の破綻につながるひとつの要因となるのではないかと考えられています※5。
それらの病原体や炎症性物質が腸のすき間を通って吸収され血流などに乗って全身をまわれば、全身で免疫反応、炎症が起こり続けます。リーキーガットが長く続くことは、生体異物が常に身体の中に流れ込み、結果的に全身で炎症を起こし続け、炎症性腸疾患※3、過敏性腸症候群、肥満や脂肪肝、2型糖尿病などの生活習慣病※3、※6、※7、1型糖尿病、セリアック病、関節リウマチなどの自己免疫疾患※2、食物アレルギー、抑うつ症状※8など多くの疾患の発症や悪化に関与しているのではないかと考えられています。
だらだら続く炎症は、起こさなくてよい疾病を招くと考えられています。長期間、場合によっては数年、数十年、だらだらと炎症が続く結果、細胞や組織、遺伝子などへの障害を起こす可能性が、慢性炎症が健康を害するといわれるいちばんの理由であると考えられています。
リーキーガットのリスク因子
「ヘルスライフビジネス(2023年5月1日発行)」によれば、リーキーガットを起こすリスク因子として、生活習慣や生活の乱れ、過剰なストレス、食品添加物、慢性的なアルコールなどが挙げられており、自覚症状を感じずにリーキーガットになっていることも多くあることが指摘されています。また、リーキーガットの発症には特に食生活の影響を強く受けるのではないかとの見解が示されています。
食生活の偏りなどによる腸内細菌叢の悪化(腸内毒素症)、薬物(PPIの濫用、鎮痛剤(非ステロイド性抗炎症薬)など)、免疫異常、炎症、感染症などがリーキーガットのリスクとして考えられています。セリアック病においては、小麦のグルテンの中のグリアジンというタンパク質についての報告があります※2、※9、※10。
リーキーガット症候群についての病態、予防対策、治療法、いずれもまだまだ研究途中ですが、タイトジャンクションのバリア機能を向上させる手段などとして※11、自己免疫疾患などを対象に腸内環境を整える手段として※12、プロバイオティクス・プレバイオティクス(※分子栄養学における免疫と栄養素の基本対策①)の有用性が研究されています。
リーキーガット関連の検査
KYBグループにおける分子栄養学では、リーキーガットに関わると考えられる、胃腸の健康状態を調べるさまざまな検査を提案しています。食事中の未消化のタンパク質がそのまま腸に到達することは腸内細菌叢の悪化を招くと考えられるため、胃の状態、そして腸の状態を知る検査もお勧めしています。また、歯周病の代表的な原因細菌(Porphyromonas gingivalis)が腸内細菌叢の乱れを起こし、タイトジャンクションの変化に関わるという報告もあり※13、定期的な歯周ケアのお勧めとともに、KYBグループでは、血液・尿の基本検査「K-01」(※血液・尿検査の意義①、血液・尿検査の意義②、血液・尿検査の意義③)として口腔内の健康状態を知るための簡易的な検査も行っています。
<KYBグループにおけるリーキーガット症候群に関わる検査>
- 口腔内の問題:唾液中LDH、唾液中ヘモグロビン(唾液検査)
- 消化の問題:抗Hp(ヘリコバクター・ピロリ菌)抗体、ペプシノーゲンI(PGⅠ)、ペプシノーゲンⅡ(PGⅡ)、PGⅠ/Ⅱ(血液検査)
- 腸内環境:SIBO(呼気検査)、腸内短鎖脂肪酸検査(便検査)、リーキーガット症候群検査(尿検査、ラクツロース/マンニトール試験※2)
リーキーガット症候群検査はこんな症状がある方におすすめです
次回から2回にわたり、分子栄養学におけるリーキーガット対策についてお伝えいたします。(※分子栄養学的リーキーガット症候群対策①、※分子栄養学的リーキーガット症候群対策②)
※1 ヘルスライフビジネス(2023年5月1日発行) ※2 Kinashi Y.,et al. Partners in Leaky Gut Syndrome: Intestinal Dysbiosis and Autoimmunity.Frontiers in Immunology, 12:673708.(2021) ※3 Chelakkot C.,et al. Mechanisms regulating intestinal barrier integrity and its pathological implications. Experimental & Molecular Medicine,50:1–9. (2018) ※4 Buckley A.,et al. Cell Biology of Tight Junction Barrier Regulation and Mucosal Disease. Cold Spring Harbor Perspectives in biology, 10(1): a029314.(2018) ※5 Luissint AC.,et al. Inflammation and the Intestinal Barrier: Leukocyte–Epithelial Cell Interactions, Cell Junction Remodeling, and Mucosal Repair. Gastroenterology,151(4): 616–632.(2016) ※6 Cani D.P.,et al. Metabolic endotoxemia initiates obesity and insulin resistance. Diabetes, 56(7):1761–1772.(2007) ※7 Tilg H.,et al. The intestinal microbiota fuelling metabolic inflammation. Nature Reviews Immunology,20:40–54. (2020) ※8 Ait-Belgnaoui A.,et al.Prevention of gut leakiness by a probiotic treatment leads to attenuated HPA response to an acute psychological stress in rats. Psychoneuroendocrinology,37(11): 1885-1895.(2012) ※9 Caio G.,et al. Celiac disease: a comprehensive current review. BMC Medicine,17:142. (2019) ※10 Fasano A. ,et al. Zonulin, a newly discovered modulator of intestinal permeability, and its expression in coeliac disease. The Lancet, 355(9214):1518-1519.(2000) ※11 Mary Ellen Sanders E.M.,et al. Probiotics and prebiotics in intestinal health and disease: from biology to the clinic. Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology, 16(10):605-616. (2019) ※12 de Oliveira G.L.V. ,et al. Intestinal dysbiosis and probiotic applications in autoimmune diseases. Immunology,152(1): 1–12.(2017) ※13 Nakajima M.,et al. Oral Administration of P. gingivalis Induces Dysbiosis of Gut Microbiota and Impaired Barrier Function Leading to Dissemination of Enterobacteria to the Liver. PloS One,10(7): e0134234. (2015) ※14 Buffie G.C. ,et al. Microbiota-mediated colonization resistance against intestinal pathogens. Nature Reviews Immunology,13:790–801. (2013)