The Orthomolecular Times

2025.1.20 分子栄養学と免疫の栄養素「亜鉛欠乏で免疫が低下!?」

身体の仕組み

分子栄養学と免疫の栄養素「亜鉛欠乏で免疫が低下!?」

ミネラルのひとつ「亜鉛」が免疫に関わる可能性をご存じですか。

今回は、免疫(自然免疫、獲得免疫)と亜鉛の関係について一緒に学びましょう。

微量栄養素(ビタミン・ミネラル)と免疫

寒い冬、インフルエンザ流行シーズン、新型コロナウイルス感染症の患者数が増える傾向にあることが厚生労働省によって報告されています※1。楽しい毎日を過ごすために基本となるのが感染症対策です。

感染症対策としての『「手洗い」「マスクの着用を含む咳(せき)エチケット」「換気」』※1のほか、分子栄養学では
・良い生活習慣(食事、運動、睡眠、休養)
・医師による血液検査・腸内環境検査などを通した至適量の栄養素による免疫対策
を提唱しています。

感染症を防ぎ身体を守る力(免疫)を調整するために、食事から摂る栄養素が大切な役割を果たしていることが数々の報告によって示されています。

例えば、微量栄養素(ビタミン・ミネラル)
・ビタミン(A、C、D、E、B6、B12、葉酸)
・ミネラル(亜鉛、鉄、銅、セレン)
は、ある文献の中で「身体の中で互いに協力し合いながら免疫に関わる」との報告がある栄養素です※2。(※ビタミン・ミネラル補給と冬の感染症・免疫対策

また2024年、日本人に関する研究において「亜鉛の欠乏」と新型コロナウイルス感染症重症化の関係があることが発表されています※3

今回は免疫に関わる栄養素のうち、亜鉛と免疫(自然免疫・獲得免疫)の一部について一緒に学んでいきましょう。

亜鉛と自然免疫・獲得免疫(適応免疫)

私たちの身体には「免疫システム」という、病気から身体を守る仕組みがあります。

免疫は次の3段階のシステムで身体を守ります。

・第1のバリア(身体の表面を覆う粘膜・皮ふ)
・第2のバリア(マクロファージ、樹状細胞、好中球、NK細胞など)
・第3のバリア(B細胞、T細胞など)

このうち、第1・第2のバリアを「自然免疫」、第3のバリアを「獲得免疫(適応免疫)」といいます。亜鉛はこの第1・第2・第3のバリアすべて、免疫システム全体にとって重要なミネラルであると考えられています※4、※5、※6

例として第2のバリア(自然免疫)と亜鉛の関係の一部について見てみましょう。体内に細菌やウイルスが侵入したとき、最初に対応するのが自然免疫の白血球(マクロファージ、樹状細胞、好中球、NK細胞など)です。(※免疫を司る白血球「白血球の仲間たちの基礎」

好中球は敵がいる場所まで素早く移動し(血管外遊走)、ばくばく食べて飲み込み退治する働き(貪食作用)があります。(※自然免疫:好中球の働きとビタミンC

亜鉛が足りないと、好中球の血管外遊走する力と貪食作用が低下することが試験管内試験によって示されています※7、※8、※9。またマクロファージが適切に働く過程にも亜鉛が必要であることが示唆されています※6、※7
※自然免疫:好中球の働きとビタミンC

次に、第3のバリア獲得免疫(適応免疫)についてです。これは、T細胞やB細胞などの白血球が中心となって働く仕組みです。(※免疫を司る白血球「白血球の仲間たちの基礎」

亜鉛が欠乏すると、胸腺(きょうせん。免疫細胞を育てる臓器)が萎縮してT細胞の数が減ることが動物実験で示されています※5、※6。また抗体を作るために重要な未熟B細胞など※10の数も減少するため、亜鉛欠乏では身体を防御する力が弱くなる可能性が考えられています※7、※11

「亜鉛欠乏がコロナ重症化と関連?」日本人に関する研究

日本人に関する研究、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の入院患者さんにおいて、
・血清亜鉛濃度が低いほど、新型コロナウイルス感染症の重症度が高い
ことが2024年に報告されています※3

順天堂大学の研究グループによるこの研究は、2020年4月~2021年8月の期間に実施されました。新型コロナウイルス感染症で入院した467名(18歳以上)を対象に、入院時の「血清亜鉛濃度」を測定したものです。

その結果、患者さんの40%近くが血清亜鉛欠乏状態にあったことが報告されています※12

またこちらの論文では、亜鉛欠乏の背景には栄養失調が存在する可能性についても言及しています。新型コロナウイルス感染症の治療において、血清亜鉛濃度だけではない全体的な栄養状態を考慮することの重要性が考察されています※3

人体は亜鉛を貯めることができない:亜鉛は毎日の適量補給が必須!

人の身体は亜鉛を貯蓄するようにできていないため、不適切な食事によって欠乏症が急に起こる可能性が指摘されています※13、※14

人間の身体では、軽度の亜鉛欠乏が免疫機能に悪影響を及ぼす可能性を示す論文があります※15、※16、※17。重度の亜鉛欠乏症はまれと言われますが、軽度から中程度の不足は先進国でも比較的よく見られるとする文献もあります※7

亜鉛は体内に大きな貯蔵場所がないため、日々の食事からの摂取が大切です※14。適切な亜鉛を含んだ食品を毎日しっかり摂取しましょう。(※亜鉛を多く含む食品

サプリメントでの亜鉛の補給は、医師による血液検査で確認する必要性

亜鉛は私たちの免疫システムの様々な場面で重要な働きをしており、健康な免疫機能を維持するために欠かせないと考えられている栄養素です。

摂取する亜鉛の量に免疫としての役割を期待する場合には、食事のほかに栄養補助食品(ダイエタリー・サプリメント)での補給を勧める論文があります※18

しかしミネラルの過剰摂取には危険性が伴うため、医学的に規定される血清亜鉛濃度を守る必要性を訴えた文献が存在します※4

分子栄養学では、血液検査で医師が血清亜鉛濃度を評価

分子栄養学では健康維持増進の手段として、医師による詳細な問診や血液検査を用います。そしてその時その時の「個体差」を医師が科学的な手段をもって読み解きます。(※分子栄養学とは⑥

重要なのは、例えばある文献ではビタミン・ミネラルの明らかな欠乏だけでなく、わずかな不足でも感染リスクが高まる可能性が指摘されていることです※2。適切な免疫には、タンパク質や良質な脂質も必須であると考えられています※19

分子栄養学実践医師による詳細な問診と血液検査・腸内環境検査の解析のもと、至適量の亜鉛を含めた微量ミネラルやタンパク質、脂質(オメガ3:オメガ6脂肪酸比)など免疫に関わる栄養素の至適量補給を目指します。

医師による科学的な視点を交え、毎日の食事で賢く良質な食品を選び、免疫への栄養アプローチをさらに効果的なものにしていきましょう。

※1 出典:「感染症情報」(厚生労働省)
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/index.html)(2024年1月8日に利用)

※2 Gombart, AF.,et al. (2020). A review of micronutrients and the immune system–working in harmony to reduce the risk of infection. Nutrients, 12(1), 236.

※3 Matsumoto, N.,et al. (2024). Association Between Serum Zinc Concentration Levels And Severity Of Coronavirus Disease 2019 (Covid-19) In Japanese Inpatients. International Journal of General Medicine, 17, 4745–4753.

※4 Weyh, C.,et al. (2022). The Role of Minerals in the Optimal Functioning of the Immune System. Nutrients, 14(3), 644.

※5 Read, SA.,et al. (2019). Ahlenstiel C., Ahlenstiel G. The Role of Zinc in Antiviral Immunity. Advances in Nutrition, 10, 696–710. 

※6 Shankar, AH.,et al.(1998). Zinc and immune function: the biological basis of altered resistance to infection. American Journal of Clinical Nutrition, 68(2 Suppl), 447S–463S.

※7 Gammoh, NZ.,et al. (2017). Zinc in Infection and Inflammation. Nutrients, 9, 624.

※8 DeCoursey, TE.,et al. (2003). The voltage dependence of NADPH oxidase reveals why phagocytes need proton channels. Nature, 422, 531–534. 

※9 Hasegawa, H.,et al. (2000). Effects of zinc on the reactive oxygen species generating capacity of human neutrophils and on the serum opsonic activity in vitro. Luminescence, 15, 321–327.

※10 未熟B細胞とは、成熟したB細胞になる前の細胞のことです。

※11 Haase, H., et al. (2014). Zinc signals and immune function. BioFactors, 40(1), 27–40.

※12 今回の研究では、血清亜鉛濃度について60μg/dL未満を欠乏、≧60~<80μg/dLを境界欠乏、80μg/dL以上を正常としています。

※13 Skrajnowska, D.,et al. (2019). Role of Zinc in Immune System and Anti-Cancer Defense. Nutrients, 11(10), 2273. 

※14 Knoell, DL., et al. (2009). Zinc deficiency increases organ damage and mortality in a murine model of polymicrobial sepsis. Critical Care Medicine, 37, 1380–1388.

※15 Prasad, AS. (2008). Zinc in Human Health: Effect of Zinc on Immune Cells. Molecular Medicine, 14, 353–357.

※16 Prasad, AS., et al. (1988). Serum thymulin in human zinc deficiency. Journal of Clinical Investigation, 82, 1202–1210. 

※17 Prasad, AS., et al. (1997). Zinc deficiency: Changes in cytokine production and T-cell subpopulations in patients with head and neck cancer and in noncancer subjects. Proceedings of the Association of American Physicians, 109, 68–77.

※18 Calder, PC. (2020). Nutrition, immunity and COVID-19. BMJ Nutrition, Prevention and Health, 3(1), 74–92.

※19 Iddir, M.,et al. (2020). Strengthening the Immune System and Reducing Inflammation and Oxidative Stress through Diet and Nutrition: Considerations during the COVID-19 Crisis. Nutrients, 12(6), 1562.

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