エネルギーをつくるための必須栄養素「マグネシウム、ビタミンB群、CoQ10、鉄」

私たちが生きていくために必須のエネルギー(ATP)を、どこでどのように得ているか、ご存じですか?
・エネルギーの乾電池 ATPとは
・3つのエネルギー代謝経路(解糖系・クエン酸回路・電子伝達系)とは
・エネルギー産生に必要な栄養素(マグネシウム、ビタミンB群、α-リポ酸、CoQ10、鉄)と赤血球の関係
について基礎から詳しく解説いたします。
今回のポイント
赤血球の運ぶ酸素があるとき、効率的なエネルギー(ATP)産生がひとつひとつの細胞とその中にある小さなエネルギーの発電所「ミトコンドリア」でせっせと行われます。
・解糖系ではマグネシウム、ナイアシン
・クエン酸回路ではビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、α-リポ酸、パントテン酸
・電子伝達系では CoQ10、鉄
の栄養素の力を借り、この3つの代謝経路で1分子のグルコースからたくさんのATP(合計最大38個)が効率よく産生されます。

エネルギー産生は細胞の中で行われる
エネルギーを作ることをエネルギー産生といいます。
エネルギー産生は身体を構成する数十兆個の細胞それぞれの中で行われ、そこで得られたATPによって細胞の活動が行われます。
ATP作り(ATP産生)は、私たちの身体、細胞を支える最も重要な分子レベルの基礎となります。
エネルギーの乾電池、ATP
私たちは毎日食事をします。
「何のため?」
・・そうです、日々入れ替わる身体の新しい材料やエネルギーを確保するためです。
エネルギーは、起きて食事をする、考える、動く、分子レベルで身体を新しく作り替える、あらゆる活動に使われています。エネルギーなくしては、私たちの生存はありえません。
このエネルギーの代表が、
・ATP(アデノシン三リン酸、adenosine triphosphate)
と呼ばれる乾電池のような分子です。私たちは、この中に貯めこんだエネルギーを使って生き、活動しています。

ATPは3つのエネルギー代謝経路で作られる
私たちが生命を維持するための「エネルギー」を作り出すことをエネルギー代謝といいます。
そのエネルギー代謝は、
・解糖系
・クエン酸回路
・電子伝達系
という連続する3つの代謝経路(※分子栄養学とは⑤)で構成されます。
食べものの中のエネルギー産生栄養素(3大栄養素:糖質、脂質、タンパク質)は、これらの経路を通ることでATPに変換され、私たちを生かすためのエネルギーとして使われます。

これらの経路は、補酵素・補因子となる栄養素とともにたくさんの種類の酵素に支えられています。
(※分子栄養学とは⑦-1)(※分子栄養学とは⑦-2)(※分子栄養学とは⑦-3)
エネルギー代謝経路の全体としては、下の図のような関係になっています。

次に、3つそれぞれの経路でどんな栄養素が関わっているかを順番に見てみましょう。
①解糖系(glycolytic pathway):マグネシウム、ナイアシン
解糖系とは、1分子のグルコース(ブドウ糖)が代謝されて2分子のピルビン酸となり、次のクエン酸回路に入るための経路です。
グルコースは、食べた糖質が消化された一番小さな単位分子のことです。タンパク質の一部(糖原性アミノ酸)はビタミンB6の力を借りてグルコースになることもできます(糖新生)。
解糖系は、酸素を使わない経路です。1分子のグルコースから10種類の酵素の力を借り、2つのATPが作られます。この経路で活躍するのが、
・マグネシウム(ホスホフルクトキナーゼ、ピルビン酸キナーゼの補因子など)
・ナイアシン(NAD※1)
です。激しい運動などで酸素が足りなくなった時や、ミトコンドリアをもたない赤血球では、この代謝経路がメインとなってATPを作り出します。(※スポーツの秋にも!エネルギーのための必須栄養素「解糖系と乳酸とナイアシン」)

②クエン酸回路(citric acid cycle):ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、α-リポ酸、パントテン酸
解糖系を通って作られたピルビン酸が最後の経路「電子伝達系」に行くために通るのがクエン酸回路です。
・ミトコンドリア
という細胞の中の小さなエネルギー発電所の中で行われます。
クエン酸回路は、イメージ的にはぐるぐる回る観覧車のようなコースです。クエン酸回路はTCA回路(トリカルボン酸回路)、クレブス回路とも呼ばれます。クエン酸回路は、酸素があるときにのみ使われる回路です。

解糖系でできたピルビン酸はミトコンドリアに入った後、まず最初に違う物質(アセチルCoA)に代謝されます。
ここで必要となるのが、3つの酵素と5つの補酵素でできた複合体(PDH complex(PDC):ピルビン酸脱水素酵素(ピルビン酸デヒドロゲナーゼ)複合体)です。この5つの補酵素として関わる栄養素が、
・ビタミンB1(TPP※1)
・ビタミンB2(FAD※1)
・ナイアシン(NAD※1)
・α-リポ酸
・パントテン酸(CoA-SH※1)
です※2。これら5つの栄養素に支えられることで、やっと次のぐるぐるコース(クエン酸回路)に入ることができます。

アセチルCoAがクエン酸回路に入るときに1種類、入った後は8種類の酵素が反応に関わり、反応が進みます。アセチルCoAは脂質(脂肪酸)、タンパク質(アミノ酸)からも作られます。
クエン酸回路では栄養素として
・ビタミンB2(FAD※1)
・ナイアシン(NAD※1)
が必要です。FADとNADは、ここで水素を受け取ります。クエン酸回路では2つのATPが合成されます※5。

③電子伝達系:CoQ10、鉄
電子伝達系では、
・解糖系でできたNADH(NADが水素(H)を受け取ったもの)
・クエン酸回路で作られたFADH2(FADが水素(H)を受け取ったもの)とNADH
を使ってたくさんのATPを効率的に作ります。電子伝達系は、赤血球が運んだ酸素があるときにのみ使われる経路です。
そして電子伝達系で活躍する栄養素が、
・CoQ10と鉄(チトクロームcの構成要素)
です。
私たちが呼吸で吸っている酸素はここで使われます。呼吸が止まると生きていけないのは、ATPを作れなくなってしまうからです。電子伝達系では、最大34個のATPが作られます※6。
まとめ:エネルギーを作る栄養素:赤血球の栄養素も一緒に
エネルギーを作るには、さまざまな栄養素が関わります。
・ビタミンB群(B1、B2、ナイアシン、パントテン酸、B6)、マグネシウム、CoQ10、鉄
そして酵素は
・タンパク質
でできています。この中のどの栄養素が欠けても効率的なエネルギー作りは滞ってしまいます。
さらに電子伝達系で用いる酸素を赤血球が届けるため、健全な赤血球を造るための栄養素
・鉄、亜鉛、ビタミンA、ビタミンB群(B6、B12、葉酸)など
も必要です。酸素が足りないだけでエネルギー作りが滞ることから、貧血、潜在性鉄欠乏症を治すことは重要な要素です。(※貧血:赤血球・ヘモグロビン不足はATP・エネルギー産生不足を招く重大問題)
ビタミンB群は水溶性のため、毎日適量を摂りましょう。

CoQ10は加齢とともに体内で作られる量が減る
電子伝達系で必要とされるCoQ10。
CoQ10は体内で合成されますが、加齢によってその合成量が減ってしまうことが報告されています※3、※4。
分子栄養学では医師とともに行う詳細な血液検査などのモニタリングにより、個体差に合った至適量の栄養素で効率的にエネルギーを作り、毎日を健康に楽しむ身体づくりを目指します。(※分子栄養学とは⑥)

エネルギーを作る栄養素を多く含む食品
エネルギー代謝経路に必要な栄養素が含まれる食品はこちらです。
エネルギーをしっかり作るため、エネルギーのもとになる3大栄養素(糖質、脂質、タンパク質)を適量摂ることも大事です。微量栄養素の力を借りて心と身体を健康に保つエネルギーを作りましょう。

※1 補酵素型を示しています。 ※2 大塚譲,他.『新スタンダード栄養・食物シリーズ2 生化学』.東京化学同人.p95.(2014) ※3 菅野直之.「ミニレビュー コエンザイム Q10」.日歯周誌, 59(2):63-67.(2017) ※4 Kalén A.,et al. Age-related changes in the lipid compositions of rat and human tissues. Lipids ,24:579-584.(1989) ※5 最初にGTPが産生され、その後ATPに変換されます。:三上貴浩.『コアカリ準拠 Dr.ミカミの動画で学ぶ基礎医学-生命科学編』.医学書院.p221-222. (2021) ※6 三上貴浩.『コアカリ準拠 Dr.ミカミの動画で学ぶ基礎医学-生命科学編』.医学書院.p221-226. (2021)