The Orthomolecular Times

2024.12.23 分子栄養学と免疫の栄養素「ビタミン・ミネラル補給と冬の感染症・免疫対策」

身体の仕組み

多くの日本人を悩ます花粉症と栄養素②

暖かな春の到来は、多くの日本人にとって悩ましい花粉症の季節でもあり、前回(※多くの日本人を悩ます花粉症と栄養素①)から2回シリーズで花粉症と栄養素についてお伝えしています。前回は、花粉症における免疫のメカニズム、免疫とビタミンDの関係などについてお伝えしました。今回は花粉症についての第2回目、粘膜をつくる栄養素、腸内環境などについてです。

アレルギーと粘膜バリアとビタミンD

花粉症は、花粉に対して起こるアレルギー疾患のことです。アレルギーとは、本来なら有害なものから自分を守ってくれるはずの免疫(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)が、無害なもの(花粉、食べ物など)に対して過剰な免疫反応が起こり、それによって自分の身体まで傷つけてしまう反応のことをいいます。アレルギー疾患を考える際、免疫のバランス(※多くの日本人を悩ます花粉症と栄養素①)のほか、皮膚や粘膜による生体防御の第一のバリア(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)が壊れてしまうこと(破綻)がアレルギー疾患に関わるのではないかとする説があります。皮膚や粘膜は、外とつながっているヒトの身体の部分をすき間なく覆い、身体を守る第一のバリアになっています。

その第一のバリアを細胞単位で見てみると、上皮細胞という細胞でできた1枚の薄いシートのようになっています。例えば粘膜がバリアの役割を果たすには、粘膜上皮細胞と粘膜上皮細胞のすき間を、必要な少しの物質以外、異物などが自由に行き来できないようにお隣の細胞同士がぴったりとくっついていることが必要です。細胞同士を一番上の方でぴったりとくっつけてバリアの役割をしているのが「タイトジャンクション(tight junction、密着結合)」という構造です。身体でいちばん大きな免疫器官である腸の粘膜(※分子栄養学における免疫と栄養素の基本対策①)では、腸がバリアとしての役割を果たすことが感染や炎症(※感染と免疫の仕組みを知ろう「感染と免疫の基本」)を防ぐことにもつながるため、タイトジャンクションを司るタンパク質などについて積極的に研究が進められています。腸の粘膜上皮細胞と粘膜上皮細胞の間にすき間ができることでバリア機能が落ち、本来なら通らないものまで通ってしまい、炎症を起こしたりしてしまう状態のことをリーキーガット症候群(※年末年始に向けた正しい身体づくり「脂肪肝対策②」)と呼びます。腸粘膜では、ビタミンDや腸内細菌※4が健全な腸粘膜バリア作りに関与することが報告されています。

アトピー性皮膚炎では皮膚のタイトジャンクション機能の障害、喘息※5、家ダニが抗原となるアレルギー性鼻炎※6などの患者さんでは、それぞれ気管支と鼻粘膜のタイトジャンクション機能の破綻が観察されているとの報告があります。鼻の粘膜上皮細胞においても、鼻粘膜バリア機能を健全に保つことの重要さが考えられ、湿度などを含め、タイトジャンクションなどをいかに健康に保つかということが研究のターゲットとなりつつあります。

粘膜バリアのための栄養素

分子栄養学(※分子栄養学とは①)では、私たちの身体の中に正常にあるべき分子(※分子栄養学とは②,※分子栄養学とは③)を至適濃度に保つ十分量の栄養素を摂取することによって、粘膜細胞が理想のスピードで新しい細胞に生まれ変わり続けることが重要なのではないかと考えています。そしてその1つひとつの細胞が十二分に機能を果たせる分子レベルでの環境を常に整え、それによってタイトジャンクションなどの機能を常に健康的に維持することを考えています。粘膜バリアのための栄養素として、ビタミンA、グルタミン、タンパク質、鉄、亜鉛※7が挙げられます(※分子栄養学における免疫と栄養素の基本対策①※分子栄養学における免疫と栄養素の基本対策② )。

また、炎症の被害から健全な新しい細胞や組織を守るためのビタミンCをはじめとする抗酸化栄養素、また、粘膜細胞を作る、免疫細胞が働くためのエネルギーをつくるために必要なビタミンB群も一緒に摂ることを重要視しています(※分子栄養学における免疫と栄養素の基本対策①)。花粉症で関わる鼻の粘膜上皮細胞は、コラーゲンなどでできた基底膜という膜を土台としてその形や働きを保っています(※分子栄養学における免疫と栄養素の基本対策②)。その基底膜はコラーゲンなどでできており、効率的な線毛運動で花粉を外に出してもらうためにも、ビタミンCや鉄(※エンジオール基は世界を救う「ビタミンCの底力」)でしっかりしたコラーゲンを作ることの重要性を考えています。

腸内環境と花粉症と免疫

腸の常在細菌の存在が腸の免疫組織の正常な発達に関わっていることが明らかになっています。腸管には全身の6~7割の免疫細胞が存在しており、腸を整えることは免疫を正常化、調整する可能性に繋がります。また、腸内の有用菌の作った短鎖脂肪酸(酪酸)(※子供の栄養「腸は全身をコントロールする第2の脳」)は、腸粘膜を整え、腸のバリア機能をしっかり作ることにもつながることが報告されています※8。有用菌は腸粘膜細胞と一緒に腸のバリアとしても機能しているため、自分に合ったストレス対策とともに、自分の腸に合ったプレバイオティクス(オリゴ糖、水溶性食物繊維など)、プロバイオティクス(乳酸菌や酪酸菌など)を一緒に摂ることをお勧めしています。腸内環境を整えることにより、ビタミンB群も作られ(※ビタミン(総論))、他の栄養素の吸収率もアップします。

花粉症と花粉-食物アレルギー症候群

花粉症を発症している人に、特定の原因食品を食べると、口や喉に腫れや痛み、目の痒みなどを起こす花粉-食物アレルギー症候群を起こすことがあります。アレルゲンとなるタンパク質が、その花粉とその食品で似たような形をしていることで、同じIgE抗体(※多くの日本人を悩ます花粉症と栄養素①※免疫を司る白血球「白血球の仲間たちの基礎」)に反応してしまい症状が起こります。原因食品として、トマトや生の果物(リンゴ、モモ、キウイなど)などがありますが、反応する花粉の種類によって原因となる食品が異なります。ひどいとアナフィラキシーショックを起こすこともあります。花粉症のある方で、そういった食材がある場合には、加熱すると抗原となるタンパク質の形が変化するため、食べられるようになることがあります。ドクターと一緒に対処していきましょう。

まとめ

分子栄養学では、花粉症対策として、腸内環境を整え、ストレスケア、早寝早起き、良い睡眠、適正な食習慣(※食事の基本)などの規則正しい生活にした上で、最適な血液濃度によるビタミンD(※血液検査の意義①,※血液検査の意義②,※血液検査の意義③,※血液検査の意義④)により適正な免疫バランス調整の可能性を考えています。また、粘膜のための至適量(最適な量)(※ビタミン(総論))の栄養素によって、粘膜のバリア機能を常に最適な形で保ち、アレルゲン(花粉や黄砂、ホコリなど)を簡単に身体の中に入れないような粘膜バリア作りを目指します。

花粉症の方は、栄養対策とあわせて極力花粉を避け、花粉の付きにくい服装選びなどで十分な対策をしていきましょう。花粉が飛んでいる時期は、なるべく花粉と接触しないようにするのがいちばんです。外出したら足元も含めて服についた花粉を払ってから家の中に入る、洗濯の外干しはしないこともお勧めです。メガネやマスクをすることでも大幅に花粉を吸い込む量を減らせることがわかっています。乾燥は鼻粘膜の線毛運動の効率が落ちてしまいます(※分子栄養学における免疫と栄養素の基本対策②)。適度な加湿をし、暴飲暴食、喫煙、飲酒、ストレス対策、まずはご自分の生活習慣を見直して生活習慣が乱れないように意識していくことで、免疫のバランスを整えていきましょう。

※4
Kelly C. J.,et al. Crosstalk between Microbiota-Derived Short-Chain Fatty Acids and Intestinal Epithelial HIF Augments Tissue Barrier Function. Cell Host Microbe, 17(5) :662-671.(2015)

※5
Xiao C.,et al. Defective epithelial barrier function in asthma. Journal of Allergy and Clinical Immunology,128(3): 549-556.e1-12.(2011)

※6
Steelant B.,et al. Impaired barrier function in patients with house dust mite-induced allergic rhinitis is accompanied by decreased occludin and zonula occludens-1 expression. Journal of Allergy and Clinical Immunology, 137(4):1043-1053.e5.(2016)

※7
Miyoshi Y.,et al. Cellular zinc is required for intestinal epithelial barrier maintenance via the regulation of claudin-3 and occludin expression. American Journal of Physiology - Gastrointestinal and Liver Physiology, 311(1):G105-116.(2016)

※8 
Kelly C. J.,et al. Crosstalk between Microbiota-Derived Short-Chain Fatty Acids and Intestinal Epithelial HIF Augments Tissue Barrier Function. Cell Host Microbe, 17(5) :662-671.(2015)

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