年末年始に向けた正しい身体づくり「脂肪肝対策①」

美味しい食事、美味しいお酒を食べたり飲んだりする機会の多くなる年末年始。
運動不足や糖質・脂質過剰摂取で起こり得る内臓脂肪・脂肪肝について2回に分けてお届けします。
今回は、
・体脂肪の役割や種類
・脂肪肝の仕組み
などについてお届けします。一緒に見ていきましょう。
体脂肪の役割
「脂肪」というと、ダイエットという悪いイメージが浮かぶ方も多いかもしれません。
しかし、脂肪は、生きていく上で欠かせない大切な働きをしてくれています。まずはその働きを見直しましょう。
・飢餓に備えたエネルギー源としての役割
・衝撃から身体を守るクッションとしての役割
・温まった体温を保つ
・ホルモンバランスを調節する
などの大切な役割を担っています。そのため、間違った減量などで体重や脂肪が減りすぎると、逆にさまざまな病気の誘発につながります。
適度な脂肪を維持することは、健康維持のためにとても大切です。

肥満がなくても注意が必要:異所性脂肪
身体の健康にとって必須の役割を果たす脂肪。しかし増えすぎや、どこに蓄積されるかによって健康のリスクとなり得ます。
身体に蓄えられた脂肪を体脂肪といい、それが過剰に蓄積された状態を肥満といいます。
過剰に蓄積された脂肪は、身体に悪影響を及ぼすことがわかっています。日本人は欧米人に比べ、少し太っただけで脂質異常症、2型糖尿病、心筋梗塞などの発症率が高くなると考えられており、その理由として、近年、異所性脂肪(いしょせいしぼう)の蓄積が問題視されています。
運動不足、食生活の乱れ、ストレス増はすべて肥満のリスクとなります。肥満がなくても、内臓脂肪、異所性脂肪の蓄積は注意が必要です。
体脂肪の種類:皮下脂肪、内臓脂肪、異所性脂肪
体脂肪は、身体のどこにたまるかによって、大きく3つに分けて考えられています。皮下脂肪、内臓脂肪、異所性脂肪です。異所性脂肪は第3の脂肪と呼ばれています。
●皮下脂肪
皮下脂肪は、皮膚の下に存在する脂肪組織(脂肪細胞という、脂肪をエネルギー源として蓄える袋をもった細胞の集まり)のことで、お尻や腰まわり、太ももなどにつきやすい脂肪です。皮下脂肪がたまりすぎると、関節痛、睡眠時無呼吸症候群、女性の月経異常のリスクが高まるといわれています。
●内臓脂肪
内臓脂肪は、腹腔内に溜まる脂肪のことで、おなかの中で腸を包んで固定してくれている腸間膜(ちょうかんまく)に存在する脂肪組織に蓄積することが多い脂肪です。
特に内臓脂肪が過剰にたまってしまうと、そこから分泌されるアディポサイトカインという生理活性物質※1のバランスが崩れます。身体に悪影響を与える悪玉アディポサイトカインが増え、善玉アディポサイトカインが減ってしまいます。
善玉アディポサイトカインはインスリン※2の働きを高め、血管修復したり、食欲を抑えてくれたりします。一方、悪玉アディポサイトカインはインスリンの働きを悪くしたり、血圧を上げたり、血栓を作り動脈硬化を促進させたりして生活習慣病につながることが知られています。

●異所性脂肪
異所性脂肪とは、脂肪組織以外の、本来ならたまるはずのない場所に蓄積する脂肪のことです。肝臓にたまった病態が脂肪肝と呼ばれ、そのうち脂肪肝炎(NASH)は肝がんにも進む可能性のある怖いものです。
筋肉や膵臓に脂肪がたまるとどちらも糖尿病のリスクとなり、また心臓にたまることで動脈硬化症などのリスクが高まることが明らかになってきています。
順天堂大学の研究グループが正常体型の人々を調べたところ、非肥満者では、内臓脂肪がなくても脂肪肝があると脂肪と筋肉のインスリン抵抗性※3が高く、逆に内臓脂肪があっても脂肪肝がなければインスリン抵抗性が低いという報告がされています。肥満でなくても、脂肪肝があることで、糖尿病などのリスクが高まることが懸念されています※4。

脂肪肝発症のメカニズム
ではここで、脂肪肝が起こる一般的な仕組みを見てみましょう。
通常、食べた糖質や脂質は小腸で吸収された後、まず肝臓に運ばれます。そしてそこで中性脂肪に変換された後、タンパク質のトラックに乗せられて血液中に放出され、運ばれた先の筋肉や臓器で消費されます。
食べたものと消費されるバランスが順調であれば脂肪肝にはなりませんが、糖質や脂質の食べ過ぎ・運動不足などで摂取する糖質・脂質が多く、肝臓からの放出が間に合わなくなると、肝臓の細胞に中性脂肪がたまっていきます。これが脂肪肝です。
やせているのに脂肪肝?
しかし、とてもスリムで食べ過ぎもないのに脂肪肝、ということがあります。
これについてはさまざまな分子レベルでのメカニズムが解明されている最中ですが、原因としてタンパク質の不足が挙げられています※5。
このほか、腸内環境の悪化でも脂肪肝になることがわかってきています。またアルコール性脂肪肝、薬剤由来の脂肪肝などもあります。
※年末年始に向けた正しい身体づくり「脂肪肝対策②」では、分子栄養学の視点から考えられる内臓脂肪・脂肪肝対策を一緒に考えます。ぜひご参照ください。

※1生理活性物質とは 生理活性物質とは、呼吸したり、体温を適温に維持したり、血圧を保ったり、眠ったりする、こういった基本的な生体の“生きる”というところの働きや仕組み、現象の維持・調節に、ほんの少しの量で影響を与える化学物質の総称です。生理活性物質には、ホルモン、サイトカインという名前のものなどがあります。 ※2インスリンとは 生体内で血糖値を下げることができる唯一のホルモンです。 ※3インスリン抵抗性とは 血糖値のコントロールに必要なインスリンはあっても、それが十分に働けない状態を指します。 ※4参考文献 Kadowaki S., et al. Fatty Liver Has Stronger Association With Insulin Resistance Than Visceral Fat Accumulation in Nonobese Japanese Men. Journal of the Endocrine Society, 3(7):1409-1416.(2019) ※5参考文献 豊島 由香 他.タンパク質栄養状態悪化による肝脂肪蓄積の機構. Journal of Japanese Biochemical Society ,93(1): 35-42. (2021)